【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
通勤中、評議会の定例に向かう副司令に
暗いし重いし暑いしで大変なのを『知って』るから。
なので内心、少しクサクサしながら話を聞いていた。
はいはい、議会はMAGIが動かしてるんですよね。『知って』ます。
まぁ『天才の頭脳のコピー』だから合理的ですよね。
本当は「人類のため」じゃなくて「人類滅亡のため」の組織なんですけどねネルフって。
なんて、口には出さないけどね。
それに、別に「人類のため」なんて思ってネルフに入ったわけじゃないし。
でも、あの子たちと出会えたわけだし結果的には自分にとって良いこと尽くめよね。
……できるかな、ハッピーエンド。
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「……使徒って、何なんだろうね。神の使い。天使の名を持つ僕らの敵。なんで戦うんだろう」
「さぁね。何にしたって降りかかる火の粉は払うしかないじゃない。それより、まだ着かないの? 道案内できるっていうから任せたのに」
「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ」
「……暗くてよく見えないって素直に言いなさいよ」
「……人間って特別な生き物だから使徒は攻めてくるって言いたいんじゃないかな」
「あぁ、そっち? ……そういや、マヤ姉も生存競争がどうとか呟いてたっけ」
「……ここを開けば近いわ」
「……これは、手じゃ開けられないよ」
「……仕方ないわ。ダクトを破壊してそこから進みましょう」
「うえぇ、ホコリまみれって事? ……シンジ、アンタ先頭行きなさいよ。腕力で頼りにならなかったんだからホコリ取りの代わりくらいやりなさい!」
「ぇえ! そんなぁ……」
「だいたい! アンタ後ろにしたら、見られちゃうかも知れないじゃない!」
「し、しないよ!」
「うっさい! 先頭、決定!」
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紆余曲折あったものの、なんとかマニュアルで発進完了。
みんな最近は何だかんだ言って仲良くできてるおかげか、アスカちゃんが突出する事も互いに衝突しすぎる事もなく(しょっちゅう日常バトルはしてるけど)少なくとも戦闘に支障をきたすような場面はない。
マトリエルが打たれ弱かった事もあって、電池もギリギリという事にはならず殲滅に成功した。
……『史実』と違ってライフルを落とさず、タイミングを見計らっての斉射だけで倒せたから、アスカちゃんも「弱っ!?」って驚いてたわ。
変則的な事態だったけど、さほど苦戦もなく終わって安堵が広がる、
……はずだった。
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それは、地上に出た保安部隊員からの無線連絡から始まった。
所属不明機の接近。
不測の事態に、エヴァは待機モードに移行させ、指示を待たせた。
副司令は言う。
「恐らく、この停電と無関係ではあるまい。……仕掛けてくる気かも知れん。念のため第一種警戒体制は維持。保安部には侵入者への警戒を指示しろ。最悪の場合、対人戦闘になるぞ」
発令所に緊張が走る。
そんな……まだ全ての使徒を倒してもいないのに、何故!?
私の脳裏に、人類補完計画直前のネルフ本部制圧戦の光景が蘇った。
「わ、私、鉄砲なんて撃てません……」
思わず、声が震える。
「……訓練で、何度もやってるだろ……」
不安気にではあるが、青葉さんが『あの時』と同じ事を言った。
「でもその時は人なんていなかったんですよ!」
「落ち着いてマヤちゃん。まだ、そうなると決まったわけじゃないわ」
葛城さんが不安を解きほぐすように声をかけてくれた。
けど、その表情は硬かった。
現状まだ電力は回復せず、エヴァは電池頼み。
司令が口を開く。
「施設部に電力の復旧を急がせろ。赤木博士、MAGIへハッキングの動きは」
「今のところ何もありません。ですがファイアウォール等の準備にかかります」
「頼んだ」
シンジ君が問いかけてきた。
〈マヤ、さん。どうなってるの?〉
「……対人戦になるかも知れないわ」
〈……人を、撃てっていうの?〉
「……まだ、わからないわ」
アスカちゃんが言った。
〈……降りかかる火の粉は払うしかないって言ったじゃない。人だろうと同じよ。覚悟決めなさい〉
〈……そ、そんな……〉
〈……碇君、無理する事ないわ。私が撃つから〉
〈ぼ、僕は、綾波にだって、撃ってほしくないよ……〉
〈そんな事言って、死ぬよかマシでしょ!〉
「みんな落ち着いて。まだ、決まったわけじゃないわ」
その時、保安部からの連絡。
使徒のいた縦坑付近で所属不明機が停止したという。
〈所属不明機、外部スピーカーから呼びかけあり〉
通信越しに、その内容が聞こえてきた。
〈『碇ゲンドウ! 私と、勝負しろぉぉ!!』〉
……………………は ?
〈所属不明機、ライトを明滅させ……恐らくモールス信号です。あ、いや、これは……〉
葛城さんが思わずという感じで呟く。
「モールスって……いつの時代よ」
それに対して私は、
「いや、こちらが停電だと理解しているからではないでしょうか」と答えた。
何故か言い淀む隊員に副司令が命じた。
「モールスで何だと? はっきり答えろ」
〈……よろしいので?〉
「いいから言え!」
〈内容は『ヒゲ、デテコイ』繰り返します。『ヒゲ、デテコイ』です〉
第一発令所に、先ほどとは違う緊張が走った!!
つまり皆、『笑いをこらえている』のだ。
〈不明機、外見からジェットアローンと推測されます〉
葛城さんなんか『初めてラミエルの攻撃力を目の当たりにした時』のように顔が
……あ、先輩が口元を押さえながら退出した。
〈……えーと、マヤ、さん?〉
〈…………〉
〈どーいうことよ〉
「……たぶん、大丈夫じゃないかな」
葛城さんが司令に訊ねる。
「司令、如何なさいますか」
……とはいえ、まともに相手する必要ないだろう。
「…………いいだろう、相手してやれ」
「「「「はぁ!?」」」」
え、え、何言ってるんですか? 司令。
恐らく、その場の全員が同じように思っていると、補足するように副司令が語り始めた。
「相手が何者かは不明だが、その目的は推測できる。
すなわち『エヴァンゲリオンが敗北した』という既成事実を欲しているのだろう。
それが例え、『電池切れ』によるものだとしても、だ。
今回の停電は、エヴァの電力を断ち、本部機能を麻痺させる事によって情報収集能力を低下させるのが目的だったと思われる。
今頃、地上では『既成事実』形成のため、一方的な情報収集をしようと監視体制を敷いていると考えるべきだ。
自分たちの情報は与えず、また、後々もし我々が表立って抗議したとしても『停電で麻痺していたお前たちの訴えには信憑性が欠けている』と、勝ち逃げするつもりなのだろう。
だが、これはあくまで『エヴァが敗北した場合』の話だ。
通常であれば我々が勝った場合、奴らは我々が情報を揃えた上で抗議してくると考え、自分たちのプライドを守るため行動する。つまり、より事態が拗れるという事だ。
だが今は停電中だ。奴らが勝ち逃げするための口実は、逆に負けた時、シラを切るための逃げ道にもなる。
そして勿論、人類を守るための組織であるネルフとしては、あまり人間相手に戦った事で有名になどなりたくはない。抗議するとしても水面下の話になるだろう。
勝ってはマズイ理由はなく、無視すれば相手が『不戦勝』を喧伝するだろう。
だからこそ、正面から打破するしかない。
……そういう事だな? 碇」
「……………………………………………………そうだ」
……碇司令? 今の『間』は何ですか?
まさか『ただ喧嘩売られたから買っただけ』なんて言いませんよね?
暑さで脳をやられましたか?
それはそうと、私は気になった事を副司令に聞いた。
「あのぅ、全機で、ですか? あと、確かジェットアローンの動力は……」
「……確かに『絵面』が悪いな。そして動力は原子炉だ。破壊できるのは手足のみ。できるなら胴体も落下は避けるべきだろう……今現在、最も内部電源に余裕のある機体は?」
「零号機です」
それを聞き、司令が命じた。
「……レイ、直ちにジェットアローンを破壊しろ。ただし、胴体への衝撃は極力避けろ。いいな」
「……了解」
…でも、大丈夫かしら。
一対一、電池は残り1分12秒、胴体を傷つけてはならず、しかもジェットアローンの腕関節は人間のものと違い
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秒殺だったわ。
零号機は縦坑を瞬く間によじ登り、飛び出すとジェットアローンの背後に着地。
腕に関節技をかけようとするも、やはり勝手が違い、直ちに作戦変更。
零号機は相手の腕を掴んでルチャリブレよろしく飛び回りながらひねり上げ、わずか数秒でジェットアローンの両腕をちぎり飛ばした。
ジェットアローンは後退を試みるが零号機に胴体を掴まれ逃げられず、零号機はジェットアローンの足に自らの足を絡ませ、次々ねじり切った。
最後にダルマ状態となったジェットアローンをそっと地に寝かせ、零号機は電池切れで膝をついたが、その姿さえ黙祷を捧げているように見えるほど見事な勝利だった。
〈『そ、そんな、私のジェットアローンが……話が違うぞぉ!?』操縦者と思われる人物を発見! 時田シロウ博士のように見え、あ! 黒いバンに拉致されました! 間に合いません!〉
やはり黒幕がいたようね。
利用されていただけ、と考えると哀れではあるけど、無事を祈る他ないわね。
ともかく、こうしてネルフのいちばん長い……というより『濃い』一日は幕を下ろしたのだった。
ちなみに縦坑から顔を出して様子を見ていたアスカちゃん(弐号機)は帰ってきてから『何こいつヤベェ』って感じの引き気味な表情でレイちゃんを見ていた。
逆にシンジ君は『へぇー! すごいや綾波!』という感じでレイちゃんを見ていた。
かわいかった。
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《ネルフ本部 司令室》
「下手人の特定は済んだかね」
「日本政府の息がかかった連中です。消しますか」
「放っておきたまえ。どのみち今回の失敗で内部の影響力を失う連中だろう。戦自からの隔意も減じている。下手に刺激する事もあるまい」
「彼女の影響ですか」
「伊吹二尉……彼女の存在が国連軍や戦自から我々への圧を弱めているのは確かだ。ゼーレからは相変わらずだがね」
「危険では?」
「……野心があれば、な。あれはそういう人間ではない」
「そうだな。彼女は周りに絆され、流され、自分の考えを諦めるタイプのように見える。我々の障害にはなるまい」
「わかりました。では、失礼します」
「………………………………ふっ、例え影響力を強めようと、今さら我々を止める事はできん」
「まぁ職員としては優秀だ。むしろ風避けとして必要だろう。……だが、あの件は本当に良かったのか? 同居を許した影響がなければ良いが。……一度くらい話をしてやれば良かったではないか。自分の息子だろう」
「……言ったはずだ。何も問題ない」
「……そうかね」