【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
マヤさんの過去、捏造設定トラウマ解説回です。
「明日はアスカちゃんの誕生日ね! みんなでお祝いしましょ!」
おそらく3ヶ月くらいは何も起こらない今の時期は、とても貴重な時間だ。
停電の日以降、日常生活を重視していた。
例えばみんなでどこかに出かけるなんて、近場に日帰りだろうと今時期しか余裕はないはずだから。
「い、いいわよそんな! 子供じゃあるまいし」
「ダーメ! ……生まれた日があったから私はアスカちゃんと出会えたんだから、余裕がある時はお祝いしないと」
「マヤ姉……そ、そういう照れくさい事言わないでよ!」
「ふふ、だって本心だもの。……本当だったらシンジ君やレイちゃんもお祝いしたかったけど、今年のは過ぎちゃってたもんね。来年かぁ……」
……本当は、そんな余裕なんてないだろう事は『知って』るけど、お祝いしたいな……
「……そういえば、マヤ姉さんの誕生日まだ聞いてないや」
「はぁ!? アンタ何だかんだ言って一番の古株でしょ!? ぶっ飛ばすわよ!?」
いやいやアスカちゃん、みんなケガした後とかだったし仕方ないわよ……
「そ、それは……い、今まで誕生日を祝うなんて感覚なかったから……」
「……あー、まぁ、それもそうか……で、マヤ姉の誕生日って、いつ?」
「え、えっと……7月11日よ? で、でも色々あって立て込んでたし! 私のなんて気にしないで?」
「それこそダメに決まってるでしょ!……マ、マヤ姉が生まれてきてくれたから、今があるんじゃない」
「ぼ、僕もお祝いしたいよ。大切な家族の誕生日だもん。あの時は機会を逃してゴメン」
「……誕生日。その人が始まった日……マヤお姉ちゃんに出会ってから、私、心がポカポカするの。大事な日だわ」
「み、みんな……」
思ってもみなかった暖かい言葉に、心が……
「そうだわ! まだ『今年』なんだから、マヤ姉の誕生日もお祝いしちゃう?」
「あ、いいね! 料理、腕が鳴るよ」
「なによ? アタシだけだったら違うっての!?」
「そ、そういう意味じゃないよ!」
「……私も、賛成。やりましょう」
「マヤ姉に『生まれてきてくれて、ありがとう』ってね!」
アスカちゃんの言葉がトドメになった。
あぁ……そんな事言われたら……これダメだ、無理、泣く、泣く……
「……み、んな、う、ありが、と……ぅう、っく、うぅ」
「マ、マヤ姉! そんな泣かなくても」
「だって、私、そんな……ぁあ、あああああああ!!」
押し留めるなんて、できなかった。
だって『生まれてきてくれて、ありがとう』なんて、思ってくれる人は今まで誰もいなかったんだもの。
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母は、私を身籠り産んだ事で、心を病んでしまったらしい。ケアが十全でなかったのだとか。
だから、私が知っているのは『壊れた母』だけだった。
妄想から、理不尽に私を叱りつけてばかりだった。
そんな母に、父は愛想を尽かしていたし、面倒がって私を庇う事はなかった。
壊れた母、無関心な父、居場所がない私。
それが私の『家族』だった。
それでも子供の頃は、友達がいた分まだよかった。
思春期に差し掛かり、状況が変わった。
父が私に優しくするようになった。
最初は嬉しくて、素直に喜んでいた。
けれど、いつしか気付いてしまった。
父は、私を『母の代用品』にしたがっているのだと。
最初は肩や背中に触れる程度だったのが、やがて胸やお尻にまで手を伸ばし始めた。
それなら離婚して出ていけばいいのにと私は思ったが、若くして大企業で重役を務める父は世間体を気にして、私や母を捨てようとはしなかった。
会社のパーティーに『お人形さん』として見せびらかすため連れていかれる事もあったから、わかっていた。
そういう時、決まって『母が好みそうな服』を着せられるのが、とても嫌だった。
だから私は結局、父からも心の距離を置くようになり、外に居場所を求めた。
初恋もしたが、それは告白なんてする前に終わっていた。
その人が仲間内で、友人が持ち込んだ雑誌を一緒になって盛り上がっているのを見て、『結局は父と同じなんだ』と幻滅した。
女友達をつくろうともしたが、二言目には恋愛の話、見た目の話。
『誰かと仲良くする暖かみ』が、『話を合わせる疲労やストレス』を上回る事はなかった。
『同性同士で』なんて話も、冗談でしか扱われなかったし。
成長するにつれ父の視線が余計に気になるようになり、そのうち『取り返しのつかない事』までされるのではないかと恐怖した私は、一刻も早く家を出たかった。
こんな事になるなら産まないでほしかったし、大人になんてなりたくなかった。
父も母も本心では『お前さえ生まれなければ』と思っていたに違いない。
父の私に対する扱いも、逆恨みからの『復讐』なんて面もあったのではないかと思っている。
どこにも居場所がない私は、家を出るため勉強に打ち込んだ。
父の収入は良く、学費の心配だけはなかった。
『引き換え』のように触られはしたが、口答えすると怒鳴られた。
大学に入っても、やはり居場所なんてなかった。
私を縛り付けておきたい父は、学費以上には出してくれなかったし、それを求めると家に呼び戻されるのは目に見えていた。
だからバイトもしたが、折り悪く不況で給料は少なかった。
とはいえ父から逃げたかったのに、他の子がやるような『お小遣い稼ぎ』なんて『不潔』で本末転倒な事をしたくはなかった。
ゲームとかを買う時も、新品ではなく一昔前の安い中古品。
勉強、バイト、辛うじて空いた時間はゲームで現実逃避という殺伐とした毎日。
そして、ある日、母は死んだ。
誤って薬を多量に飲んだからだと父は言うが、本当かどうかはわからない。
それ以来、父は私に家へ顔を出すよう催促してくるようになった。
もし、それで『何か』あっても警察は「家族の事だから」と取り合わないのではないか。
いよいよもって身の危険を感じ始めた時、私は先輩に出会ったのだ。
「あなたには才能がある。私のところで働かないか」と誘われ、私はネルフの職員となった。
国連所属の機密性が高い非公開組織。
最高だった。
これで私は、完全に父から逃げられる!
その状況を与えてくれた先輩に、私は心酔した。
それまでは『人除け』の意味もあって気にしなかった身形も、先輩に気に入られたくて清潔感のある装いを心掛けた。
私にとって先輩は『救世主』だったのだ。
あの日、全てを知るまでは。
悪い夢だと思いたかったが、そう言うには情報量が多すぎた。
初号機の残虐さに感じた吐き気どころか、部分的には他人の記憶さえ自分の中にあったのだから。
『憧れ』の喪失は、私が最初から『空っぽ』だったという現実を突き付けてきた。
寂しかった。
誰かにいてほしかった。
だけど『不潔』なのは嫌だった。
だからレイちゃんに近づいた。
でも『そんなのは父と同じではないか』と怖くなった。
父と同じになりたくなくて、
シンジ君に対する周りの態度に嫌悪感を感じて、
彼を引き取った。
使命感? 強迫観念?
どちらにせよエゴに違いなかった。
なのに、あの子たちは私との日々に「嬉しい」と答えてくれた。
あの子たちの中に『幸せ』を見つけたのだ。
だからだろう。
今度は、アスカちゃんにも幸せになってほしかった。
少し私と似た境遇の彼女が『史実』ではほとんど浮かべる事がなかった『幸せからくる笑顔』を見せてほしかった。
そんな、ある意味初めて打算抜きに迎え入れたかった彼女に、親にも言われた事がない、言われたかった『ありがとう』をもらったのだ。
耐えられるわけがなかった。
子供のように……いや、子供の頃でさえ、こんなに大泣きした事はなかったと思う。
涙。だけど全然嫌じゃない。
思い切り嬉し泣きする事が、こんなに気持ちがいいものだと、初めて知った。
この子たちは、私の『大切な宝物』なんだ。
もう、何も怖くない!
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sideアスカ
「さっきは急に泣き出したりしてゴメンね? ……本当に、ありがとう。おやすみなさい」
きっと泣き疲れたのだろう。いつもとは逆に今日はマヤ姉を見送る形でおやすみを交わした。
さっきは本当に『てんやわんや』だった。
レイが抱きつき、アタシが
「……マヤお姉ちゃん、泣いてたわね」
「明日は目一杯お祝いしよう」
二人の会話は聞こえていたけど、アタシの頭には半分ほどさえ入ってこなかった。
嗚咽の中に切れ切れに、聞き取りずらく断片的で、全体像は見えなかったけど、アタシは『わかってしまった』
「生まれ……ありが……なんて」
「親にも」
「寂しかっ」
何が『ほしい言葉をくれる』よ、わかって当然じゃない!!
……マヤ姉は『アタシ』だったんだ……
それなのに、何も考えず、ただ無邪気に甘えて、もらってばかりで、何が『一人で生きていける』よ。
完全にガキじゃない!!
寂しかったのに、一体、何を返してあげられた?
わがままを聞いてもらってただけでしょ?
口先ばっかり!!!
歓喜、悲しみ、自分の不甲斐なさへの憤怒、何もかもが心の中でマグマのように煮え滾って叫び出してしまいそうだった。
……だからマヤ姉、約束するわ。
絶対、一人になんてしないから。
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《ネルフ本部 リツコの研究室》
「……ところで、本当にいいのね? これは全く未知の領域よ。もし本当に使ったとして、どんな危険が」
「先輩」
「……」
「もう、見てるだけなんて嫌なんです。あの子たちのためなら、私は……」
「……そう」
再び、形を変えて襲いくる脅威。
ただでさえ難しい任務の陰に潜む『恐ろしい可能性』に、マヤは果たして…
第弐拾六話「受け止めるのは諦めよう」
この次も、サービス、サービスぅ♪