【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
ついに、この時が来た。
「目標は微速で進行中。毎時2.5キロ」
「遅いわよ」
「ごめん、どうなってんの? 富士の電波観測所は?」
色々な布石は順調だ。
「探知してません、直上にいきなり現れました」
みんなのメンタルと、それに比例するシンクロ成績。
S2機関も、もしかしたら何とかなるかも知れない。
一方、ダミープラグの開発は少し遅れている。
「パターンオレンジ、A.T.フィールド反応無し!」
ゼルエル対策にネルフ本部の防備、アラエル対策に攻撃衛星の準備。
バルディエルには資材等への汚染防除マニュアル。
アルミサエルにはロンギヌスの槍を使えるだろう。
「どういうこと?」
「新種の使徒?」
葛城さんの精神的な空回りも、一回へし折って加持さんの『セラピー』によって多少はマシな大人になった、はず。
きっと、いい保護者になってくれる。
「MAGIは判断を保留しています」
「もー、こんな時に碇司令はいないのよねー」
例え、私に何かあっても、きっと大丈夫。
「葛城さん」
「何? マヤちゃん」
「相手の情報が少なすぎます。ダミーバルーンで様子を見て、反応がなければ無人自走砲に攻撃させてみるべきかと思います」
「確かに、下手に触るのは危険よね。それで行きましょ」
まずは、これでいい。
「ダミーバルーン、反応ありませんね……」
「……自走砲、射撃位置へ」
「了解」
エヴァを接近させる事が危険と知られれば、あとは……
「発射!」
「着弾せず! 貫通しました!」
「消えた!?」
「パターン青、使徒発見! 自走砲の真下です!」
みんな、ゴメンね。
「……先輩」
「何?」
「アレを使いましょう」
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「無期限待機って、どういう事よミサト」
「今、開発部を中心に対策を検討中なの。その間パイロットは待機よ」
「……そんなに? どんなヤツよ。マヤ姉だって散々対策用意してきたってのに」
「まとも物理攻撃が効かないのよ。だから今はガマンして」
「……そうだ、無期限待機ってんなら、コーヒーの差し入れくらいだったらいいでしょ? ちょっと顔見てく」
「い、今は忙しいから邪魔しないの!」
「?……わかったわよ」
「悪いわね。それじゃ」
「………………………………ね、ちょっとトイレ行ってくるから」
「え? あぁ、うん。わかった」
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sideアスカ
ミサトの態度に僅かな違和感を感じた。
何だか、なんとなく、不安……マヤ姉に会いたくなった。
そして人の集まってそうな場所を
物に触ってひっくり返さないように慎重に進む。
だが、聞こえてきた言葉に足が止まった。
「コハク、マヤのバイタルは正常?」
「はい……赤木博士、マヤちゃん先輩、帰ってきますよね?」
「……確率は、ゼロではないわ」
え? 何? 何を言ってるの?
何だろう、息が苦しい。
心臓が、早い。
少しずつ、静かに部屋の奥へと進む。
開けた場所が見えたきた。
そこに、巨大な水槽のような装置があった。
LCLだろうか、液体で満たされた内部にはエントリープラグを
……マヤ姉?
「……どういう、こと?」
アタシの声にリツコが振り返った。
「アスカ!?」
震えだしそうな体を抑え込むような気持ちで、拳を握りしめながらリツコに聞いた。
「……何、これ、どういう…………マヤ姉なの?
…………………………何をしてるのよ!!」
「……あのモニターを見てちょうだい」
指された先に、使徒らしき姿と、その影を追いかける奇妙な機械が映っていた。
ラジコンの戦車みたいなキャタピラの上に、機械の『目玉』が乗ってる。
「あれは通称『アイボール』、そのままの名前だけどね。ここにある水槽と合わせ、エヴァのシステムを応用した精神同調装置『マインドダイブシステム』よ」
「……精神……同調?」
「こちらから『ダイバー』のパルスを送信、同時に対象の観測結果をフィードバックする事で、疑似的な精神対話を可能とするものよ。……砲撃時の映像を出して」
「了解」
モニターの一つに使徒と自走砲が映った。
自走砲が砲撃、着弾した様子はなく、使徒が突然消え自走砲の真上に。
自走砲は影の中に飲み込まれていく。
「このように、今回の使徒は物理攻撃が通用しない。エヴァ3機のATフィールドで干渉し、現存する全てのN2、992個を投入したとしても成功するかどうか」
「……」
「それどころか、最悪エヴァやパイロットを失いかねない。今、世界中からN2をかき集めてはいるけど、使徒も依然として移動中。間に合うかは不透明よ。場合によっては本部の自爆さえ検討せざるを得ない」
「……」
「だから、この方法しか、なかったの。今、マヤは夢を見ている状態。夢の中で使徒と対峙し、相手の思考を論理破綻に追い込み、自滅させる計画よ」
「……危険は、ないの?」
「正直なところ、わからないとしか言えないわ」
「……マヤ姉は、帰ってくるのよね?」
「実験動物でなら問題はなかったけれど、相手は使徒。未知数の部分が多すぎる。『非適合者によるエヴァ起動実験』よりは多少マシだと思いたいわね」
『ママー ! ママ ! 私、選ばれたの ! 人類を守る、エリートパイロットなのよ ! 世界一なのよ !』
『誰にも秘密なの ! でも、ママにだけ教えるわね !』
『いろんな人が親切にしてくれるわ ! だから、寂しくなんかないの !』
『だから、パパがいなくっても大丈夫 ! さみしくなんかないわ !』
『だから見て ! 私を見て !』
『ねぇ、ママ !』
『……ママ ?』
気がつけば、アタシはリツコの胸倉に掴みかかっていた。
「…………………………もし、マヤ姉が、帰ってこなかったら…………
「……善処はするわ」
「……チッ!」
アタシはリツコを突き飛ばすように放し、来た時とは逆に、邪魔な物があれば無造作に蹴り飛ばしながら部屋を出て、走り出した。
走る。
走る。
すれ違う職員を無視して、時に突き飛ばして、走った。
パイロットの待機室が見え、
ドアを開け、
二人を無視し、
その先、
鏡、
の中のアタシを、
ぶん殴った。
飛び散るガラス。
めっちゃ痛い。
けど、そのくらいしなきゃ、止まれない気がして
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「…………どう、したのさ、アスカ」
「……何が、あったの?」
二人の声を聞いて、力なく、その場にへたり込んだ。
……あぁ、自分が思ってるより、こいつらの事、嫌いじゃないんだわ、アタシ。
「…………作戦は、もう、始まってたのよ」
「……え? だって、僕らは」
「……物理攻撃が効かない、アタシたちじゃ、何もできない、から……マヤ姉の精神を送り込んで、倒すって……マヤ姉が一人で戦ってるのよ」
「……え」
シンジが駆け出そうとする気配。
今さら行ったところで変わらないわよ。
……気持ちは、わかるけどね。
ドアの開く音。
「ミサトさん!」
シンジの声に、首だけで振り返るとミサトが。
こちらの様子を見て、頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたたちがどう思うか、わかっていたから言わなかったの」
「……頭上げなさいよ。今さら謝られたって、何も変わらないじゃない」
自分でも
色々な感情がグチャグチャで、どんな顔をしていいのかわからない。
「ねぇ、リツコは世界中のN2を投下しても倒せるかわからないとか、本部自爆とか言ってたけど、他に方法ないの? 作戦部長でしょ?」
「……これ、マヤちゃんから聞いた話だけど、みんなには絶対に言わないでほしいって……けど、さっきの事もあるし、話すわ」
「……」
「使徒の目的を考えれば、あの使徒は取り込んだ対象を調べようとするのかも知れない。それがどんな方法かは不明だけど……だから、
だから、言わなかったのね。
マヤ姉らしいっていうか、何ていうか。
……ほんと、バカなんだから。
「やるわ」
「え?」
「もし、万が一、億が一、マヤ姉が帰ってこなかったら、アタシが行くわ。泣き寝入りなんて、御免だもの」
使徒を、殺す。
で、帰ってきたら、リツコも殺す。
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ここ、どこ?
私は真っ暗な場所に立っていた。
確か、私は……
突然、目の前にスポットライトが当たる。
そこにいたのは、『私』だった。
14歳くらいの頃だろうか。
仮面を貼り付けたような、感情の見えない薄ら笑いを浮かべている。
何より不愉快なのは服装だ。
パーティードレス。
光沢のある深い紫、オフショルダーのマーメイド。
母が好み、父が私に着せた服。
そうやって揺さぶりをかけるのね。
おかげで目的を思い出したわ。
相手を論理破綻に追い込む。
まずは『私』の口車に乗せられないよう、冷静に糸口を見つけないと。
そう思っていると早速『私』が問いかけてきた。
「あなたは、何故ここにいるの?」
それを皮切りに『私』は、私を否定するかの如く不快な言葉を重ねてくる。
「自分のエゴが原因なのに」
「今までずっとそうだった」
「お母さんは病気だったんだもの」
「お父さんの人形でいればよかったのに」
「本当に汚いのは私」
「私がお母さんを見殺しにした」
「私がお母さんを殺したの」
「勝手に先輩に縋って、勝手に失望した」
「今度はレイちゃんに縋った」
「急に自分が怖くなった」
「シンジ君は口実」
それらに対して、冷静を努める。
当たり
そうよ、最初はエゴだった。
仕方ないじゃない、逃げ場なんてなかった。
でも今は
「アスカちゃんは代償行為」
「幸せにしたかった? 違う」
「自分が幸せになったように感じたかっただけでしょ?」
「……ぃ」
待って。ダメ。
「どうしてここにいるの? 何の意味もないのに」
「……さい」
冷静に。糸口を掴ん
「私は死ぬわ。意味もなくここで死ぬわ」
「うるさい」
落ち着いて。乗せられては
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい、五月蝿い!! あなたに何がわかるの!? 人形だった『私』に! 何が!? 見つけたのよ! やっと! 『空っぽ』だった私が! やっと!! 自分を傷つけるだけの過去なんかいらない!! 約束された未来なんて必要ない!! 無意味? 意味ならあるわ! 私は! あの子たちと生きるためなら、死んだって構わないわよ!!!」
しくじった。つい顔を下に背ける。
思ってもみなかった、いや『本当は脳裏を過ったけれど考えたくなかった事』を突かれて、抑えが利かなかった。
違う。私は本当に、
どうする。何て言ってくるのか。何て返せば。
『私』に、目を向ける、と、
そこにあったのは、先程までの薄ら笑いではなく、『虚無』だった。
「何を、言っているの? どういう事? 嘘? 違う。誤魔化してもいない。本心? 意味がわからない。
それは、何?
それは、何?
それは、何?
何?
何?
何?
何?
何?
なに?
なに?
なに?
な
な
な
な
な
な
な
な
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sideリツコ
それは突然だった。
コハクが報告の声を挙げた。
「使徒に反応! ATフィールドに揺らぎが起きています!」
いけない!
「すぐ帰還信号を送信!」
「了解!」
「ATフィールド、反転します!」
その声が聞こえると同時、使徒は急激に縮小、黒い球となった。
「何? 縮退した」
次の瞬間、閃光を放ったかと思うとモニターがホワイトアウトする。
「……周辺の全てのセンサーがやられましたが、地震計が大きな振動を検知。爆発?」
「……倒した?……マヤは!?」
「パルス正常に戻ります! 意識『浮上』! 良かった!!」
「……まだ気を弛めないで。『中にいる』のがマヤとは限らないわ。すぐ検査の準備を。後、念のため武装した警備を」
……とはいえマヤであってほしいわね。アスカに刺されたくなんかないもの。
絶望視された作戦から生還したマヤ。
しかし、ミサトやリツコは、言い知れぬ違和感を彼女に感じていた。
彼女は、本当にマヤなのか。
第参拾話「諦めよ」