【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
sideミサト
《NERV中央総合病院》
「あ、マヤちゃんおはよー」
「おはようございます葛城さん」
あの戦いの後、リツコから『マヤ本人である』とお墨付きをもらったマヤちゃんだけど、念のため検査入院をしていた。
退院という事で、あの子たちも本当なら出迎えたかったろうけど、今日は学校の日だから私だけで。
この後、家まで送ってあげるんだけど…
「ね、マヤちゃん、ちょっち寄り道しない? ドライブよ」
「え? まぁ、いいですけど」
「あの時の続きも聞きたいし」
「……そうですね。わかりました」
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《ネルフ本部 通路 『ダイブ』1時間前》
「マヤちゃん、本当にいいの?」
「はい。決めた事ですから。それと、あの子たちにはギリギリまで黙っていてくれませんか」
「……わかった」
「……もし。もしも、ですけど。私が失敗した時は」
「やめて。必ず帰って来なさい。あの子たちのために」
「……保険くらいかけさせてくれてもいいじゃないですか」
「……ごめんなさい、何もできないクセに偉そうな事言って……他に方法があれば……」
「……本当なら、無くはないんですけどね」
「え!?」
「けど、私がイヤなんです。あの子たちに、わざと死地に飛び込めなんて言えません」
「飛び込む、て、まさか」
「内側からなら食い破れるかも知れません。使徒の目的を考えれば、取り込んだ対象を調べようとするはず」
「目的? マヤちゃん、あなた何を知って」
「死を前に、口が軽くなってるのかも。先輩についてずっと機密の最前線にいたんですから、薄々でも気づく事ってあるんですよ……私がダメで、先輩の案もダメになったら、それしかなくなります。でも、その時が来るまでは絶対に言わないで下さい。すみません、そろそろ時間なので、行ってきます」
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「……あの時は、まさか生きて帰るとは思っていなかったので、しゃべりすぎましたね」
街を見下ろす高台に車を停め、話を聞く事にした。
「ごめんね、退院したばかりなのに。首突っ込むのは危険だってわかってるけど、知りたいのよ。自分がしてる事が、何なのか。教えてくれる?」
「……いいですよ。でも、あの時とは意味合いが違いますけど」
「どういう事?」
「あの時の私は、単なるネルフのオペレーターでしたから」
そう語る彼女の超然とした雰囲気は、私の知っている彼女のものではなかった。
不意に、リツコから聞いた話を思い出した。
けど、まさか。
彼女はマヤ本人と確認したはず。
それでも、私は懐の銃を意識した。
『あの時の私は』?
……なら、今は?
「なら、今は何なのかしら」
「……『私』は、あの時の私ではないんですよ」
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sideリツコ
《リツコの研究室》
「最初に検査はしたし、昨日退院したわけだけど、調子はどう? 大丈夫なら、情報の精度を上げるために、今日も聞き取りをしたいんだけど」
「はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」
「むしろ謝るのは私の方だと思うけどね。ロクな案も出せず、あなたを危険にさらしたんだもの」
「私が言い出した事ですから……ところで、司令の留守に前代未聞な作戦をしてしまったわけですけど、ゼーレからは何か……」
「心配しないで? 報告は私の方から済んでいるし、今のところ何もないわ」
その報告も『新型の電磁波兵器によるもの』と誤魔化したものだけどね。
確実にゼーレから突っ込みが入る内容だからと、司令からも許可を受けて箝口令を敷いているし、事実を知っているのはミサト含む作戦部の一部と、私が信用してる部下のみ。
しばらくは大丈夫でしょう。
おかげで『それらしい適当な新型兵器』をわざわざ設計するはめにはなったけどね。
「……そうですか、よかった。私からも先輩に話しておきたい事があったので、落ち着いて話してられるのはありがたいです」
「話しておきたい事? 何かしら」
「あのシステムの改良について」
「マヤ。あれはもう使わない方がいいわ」
「そうはいかないでしょう。今後も必要になる場面はあるはずです」
「言いたい事はわかるけど」
「それに、計画を阻止するためにも」
……え?
「……マヤ? 何を言って」
目の前にいるのは、マヤのはず。
検査でも、異常は見つからなかった。
けれど、今の彼女の様子を、私は見た事がなかった。
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さぁ! ここからよぉぉ!!!!!!
と、いけない。変なテンションになってた。
いやー、葛城さんに続いて2回目だけど、やっぱり言いたいけど言えなかった秘密をカミングアウトするのってドキドキするっていうからワクワクするっていうか……
今までずっと『知識』の事で『一人秘密を抱えて』っていうのがホント重かったから『誰かに言ってしまいたいぃぃ』って思ってたところに、あんなトンでも作戦から生還して『あれ……記録装置とかもないし、この体験を理由にしたらバラしても信じてもらえるんじゃ?』って、少なくとも『フローリングワイパー』よりは信じてもらえそうだと気づいてからは、例え極少数とはいえ肩の荷を下ろしたくて『もう秘密とか諦めよ♪さっさと諦めよ♪』ってばかり考えてたんだもの、少しくらい
いやいや 落 ち 着 こ う 。
前回、葛城さんの時の失敗を忘れてはいけない。
あの時も、より信じてもらえるようにと少しばかり調子に乗ってシリアスな雰囲気を出しすぎたものだから……
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「……あの、葛城さん、顎の下に何か当」
「あなた誰? マヤちゃんを返しなさい!!」
「ちょ、待って、葛城さん、それ、銃、あの、私です、ホントに『カチャリ』かつらぎさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
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結果、シリアスどころか半ベソかきながら話すはめになったのよね。
拳銃なんて突き付けられたら泣くに決まってるじゃないですか葛城さん。……危うく漏
ぅん、んんっ!! ともかく!!!
ただ肩の荷を下ろしたいだけじゃなくて、味方になってほしくて話すんだから、真面目に、マジメに。
……それに、かつてのような憧れはなくても、やっぱり先輩には生きていてほしいから。
とは言っても先輩相手なら葛城さんの時みたいな事にはならな
……待って、先輩って確か拳銃隠し持ってなかった?
ヤ バ い ! さっさと話を進めないと!!
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sideリツコ
「まずは場所を変えませんか?」
そう言って彼女は、まるで何でもない事のように、引き出しに隠していたリモコンを手に取った。
……普段は鍵をかけているし、カモフラージュとして『本当に普段使う物』を入れていた。今まで荒らされた形跡は一度だってないのに、どうして。
「さぁ、ついて来て下さい」
何も言えずついて行くと、道順も、パスコードも、さも当たり前に知っているかのように、迷いなく進んで行った。
そして、とうとう、たどり着いてほしくないと思っていた『レイたちの水槽』まで来てしまった。
「……私がダイブ中に交わした言葉については、以前お話しした通り、ですが、『どこで』会話をしていたかは、まだ話していませんでしたね」
「……どういう、事?」
「……対話の間、ずっと、見ていたんです。早回しで、世界の全てを」
「な、ん、ですって」
「さすがは空間さえ操る『神の使い』と思える体験でした。もっとも、目で追うというよりは、頭に直接、情報を流し込まれるような感覚でしたね」
「……」
「そして、見たんですよ。人類補完計画の末路を……先輩の最期を」
「……」
「先輩は……碇司令に撃ち殺されます」
どうして、とは思えなかった。
どこかで、わかってはいたのよ。
本当の意味では愛されていない事に。
「人は、自分の思い描く『像』を他者として見ています。ATフィールド越しに相手を見ている。
『誰かが思うその人』なんて、この世のどこにも存在しないのに、
その壁を無理やり無くして全てを一つにしたら、逃げ場もなく『その人の本当の姿』を突き付けられる事になります。
それに耐えきれなくなった意識は、やがて摩りきれ消えるでしょう。
そこには理想郷などなく、ただ『人が人である事』を捨てた自然淘汰の世界があるだけです。そんな事に、何の意味があるんですか」
そうかも知れない。
人間は、本当は何も見ていない。
私のように。
「気づいて下さいよ先輩! ……本当にこのままでいいんですか?
ゼーレの考えも、過去も、未来も、誰かとの関係性も、全て人間が自分で勝手に作り出したものじゃないですか。
人間が作ったもので、人間に壊せないものなんてありませんよ!
いくら懸命に尽くしたって、それじゃ先輩の価値を決めるのは司令じゃないですか!
自分の価値を、誰かに決められていいんですか!?
そんなの……人形と変わらないじゃないですか!!」
人形という言葉に、水槽のレイ達に意識が向く。
ここにいるのは、ただの器。
一方、『綾波レイ』はどう?
彼女と関わって、今では人間のよう。
さっきまでの淡々とした雰囲気とは打って代わり、必死で私に訴えかけるマヤ。
自分の事で、これほど誰かに強い感情を向けられたのは、いつ以来だったろうか。
「自分の価値くらい、自分勝手に決めて下さいよ……
私は、先輩に『生きて』ほしい!!」
……下らない事を考えてしまった。
今の彼女の、ほんの10%程でも、あの人が私に感情を向けてくれるとしたら、どんな場面だろう、と。
でも、ダメね。
想像する事すらできなかった。
……私も、変われるのだろうか。
「だから……お願いします。この子たちを、楽にしてやって下さい」
そう言って、マヤは持っていたリモコンを私に差し出した。
私それを見ながら、彼女に問う。
「計画を阻止すると、言ったわね。できるの?」
「やります」
『できる』ではなく『やる』か。
ふふっ、やっぱり熱血ね。笑ってしまったじゃない。
……私は、リモコンを受け取った。
「マヤ、行きなさい。あなたは、ここには来なかった。私が癇癪を起こしただけ。いいわね?」
操作を完了すると、水槽の中のレイ達が崩れ始める。
「先輩」
「何?」
「まだ先輩は、彼らにとって必要な人材です。そう簡単には殺されません。だから……諦めたりしないで下さいね」
「……最初からそんな気ないわ。あの人が吠え面かくのを見るまで死ねないもの」
「……ありがとうございます」
それだけ言うと、マヤは去っていった。
私は、懐からタバコを取り出し、火を付けた。
ロクな死に方はしないと思っていたけど、『生きて』ほしい、か……
私は科学者だから、霊魂なんて、言葉通りの意味には信じない。それでも、
天国には行けそうもないけれど、あの世の事は死んでから考えればいい、そんな風に思った。
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「おい、コハク」
「なんだよ」
「さっき、会員の一人からマインドダイブの話を聞いたんだが、お前バラしたか?」
「……逆に聞きたいんだけどさ、マヤちゃん先輩が入院したんだぞ? 検査入院とはいえ。……ウチの会員どもが欺瞞情報ごときで黙ってると思うのかよ?」
「………………つまり、そういう事か」
「つまり、そういう事だよ……まぁ、外部とか上の耳にさえ入らなきゃ別にいいだろ」
「……それもそうだな」
過去と決別するリツコ、未来と対峙するミサト。
マヤ、リツコ、ミサトの三人は、絶望を回避するべく計画を立て始める。
そんな中、失うかも知れなかった大切なものへ、アスカは思いを募らせる。
第参拾壱話「かわいいし諦めよう」
さぁ! 次回もサービス、サービスぅ♪