【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
「で、4人目を選ぶ、と」
「マルドゥック機関、すっかり騙されてたよ。まさか『そもそも存在しない』とはな」
「人間は責任をとる事を嫌うものよ。イヤな仕事なら尚更ね」
「やれやれ……それにしても、せっかく久しぶりに3人で飲むってのにキナ臭い話ばかりで、何とも……」
「あらあら、自分から好き好んでヤバい橋渡ろうとするクセによく言うわねー。アタシが止めてやんなかったら、そのうち眉間に風穴開いてたかもよ?」
「マヤちゃんか…命の恩人だし今度ディナーにでも」
「アタシの前で声に出すとか い い 度 胸 し て る じゃない」
「夫婦喧嘩はやめなさいよ」
「リツコ!」
「ところでリッちゃん、計画を阻止するって話『先輩』としてはどう見る? 勝算あるのかい」
「かわいい後輩が『やる』と言ってるんだから、とりあえず信じてあげる事にしたわ」
「……リッちゃん変わった?」
「さ、どうかしらね」
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「……そういうわけで、近々アメリカから参号機が到着するの」
私は家で参号機やパイロットの事をみんなに話していた。
後々のチームワークとか考えれば、こういう事は事前に知っておくべきよね。
……とはいえ、マルドゥック機関やらの『秘密』については、メンタルを考慮して全てが終わるまで黙ってるつもり。
それに参号機は、本当は戦力化が目的では……ないわけではない、けど主目的ではない。
ただ、その事を話してしまうと必然的に色々な『秘密』に気づかれてしまいそうで……いや、本当は言い訳かも知れない。
いくらこの子たちのためとはいえ、裏で色々と黙って画策して、たくさんの人を見殺しにして、正直、後ろめたい。
だから、自分が言いたくないだけかも知れない。
せめて、この子たちに私が必要なくなるその時までは、『家族』でいさせてほしいから。
「フン! 事故ったからって勝手よね。だいたい、今のメンバーでも……この前のは、アレだったけど……そ、それにしたって1体増えても変わらないじゃない」
「この前の使徒は例外的だと思うし、1体増えれば戦術の幅は広がるわ。それに、あの時のシステムは色々と問題があるから簡単には使えな」
「当たり前じゃない!? マヤ姉にそうホイホイ危険な事してほしくないわ!」
「……あの時はゴメンね。もうあんな無茶はしないから」
ゴメン、嘘ついてる。
しばらくはみんなに頑張ってもらうけど、最後の戦いだけは、ね。
「……てか、最近なんか元気なさげだけど、大丈夫?」
ヤバ、アスカちゃんがジト目だ。
顔に出てた?
「……アメリカの事故でたくさん人が亡くなったから、ちょっとね」
「そんなの……優しすぎよバカ姉」
「まぁまぁ、マヤ姉さんじゃ仕方ないよアスカ」
「……悲しみ。優しさの証。悪い事なの?」
「そりゃ悪いとは、言わないけど……」
……この子たちが傷つけ合わずにいる『今』は、私にとって少しは誇り、かもね。
「……そうそう、それで参号機のパイロットが決まったの」
「へぇ」「早」「……誰?」
「トウジ君よ」
「え」「ハァ!? あのジャージがぁ!?」
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《松代 ネルフ第2実験場》
「お、マヤさんやないですか」
「おはようトウジ君。調子はどう? 大丈夫?」
「ちょいと緊張しとりますけど、問題あらしません。兄貴としての頑張り見せたらんと」
「学費、だったかしら」
「サクラにはワシやカネの事なんか気にせんで、えぇ大学入ってもらいたいですから」
「メンタルの安定は大事だから、気を楽にして臨んでね? それじゃ、参号機の点検してくるわ」
「よろしくお願いします」
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いよいよ、ね。
見つけ次第、まずは洗浄剤を試してみよう。
報告は後回し。
誰かに邪魔されるわけにはいかないから。
叱られるのは覚悟の上よ。
大丈夫、感染系の使徒処理は2回目。
きっとやれるわ。
おそらく、わずかに付着してる程度だから、とりあえず中の様子を確かめないと。
私は、闇に閉ざされたエントリープラグ挿入口の奥をライトで照らした。
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sideサラサ
私は、いつにも増して気を引き締め、参号機の起動実験に際し、各部署との確認や調整に動いていた。
当然だ。今日の実験にはマヤさんも参加している。万一にも手抜かりがあってはいけない。
と、そんな大事な時に、通路で気に食わない奴に会ってしまった。
「お前まで参加してたのかコハク」
「そらこっちのセリフだわ。マヤちゃん先輩がいるのに本部なんて希望するかよ」
「フン! まぁ、それはそうだろうがな。……ところで参号機はケチの付いた機体だと聞いているが、大丈夫なのか?」
「なぁに、曰く付きの機関は載っけてねーし、ただの『エヴァ』だ。問題ねーだろ」
と、その時。
───ぁぁぁぁぁぁぁあ…………
微かに、絹を裂くような悲鳴。
「おい! 今の」
「マヤちゃん先輩の!」
「今どこに!」
「確か参号機の点検に」
「クソ! 何が問題ないだ!!」
二人、ケージへと通路を駆けた。
到着してみれば参号機のエントリープラグ挿入口の前に、後ろへ崩れ落ちるような姿のマヤさんがいた。
すぐに駆け寄り安否を確かめる。
「マヤさん! 一体何が」
すると、マヤさんは震える手で挿入口を指し、
「さ、参号機が……『不潔』なんです!!!」
………………はぁ?
近くに落ちていたライトで、中を照らして覗き込むと……
…ウジュル…ウジュル…
…ブチュル…チュバ…ベチョ…
…クパァ…
どう見ても粘菌です本当にありがとうございま
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sideコハク
マヤちゃん先輩の悲鳴で駆け付けてみたら参号機の中に粘菌みてーなの繁殖してるしサラサが「……ふ、ふふふ、そうか、そういう事か……マヤさん、少し待っていて下さい。私が何とかします」とか言ってどこかに走ってくし、ワケわかんね……って、あ、帰ってき
「ぅオイ!? ちょ、サラサそれ」
「ふふふ、マヤさんを泣かせる汚物め、下等生物め、死ね、絶滅しろ」
火 炎 放 射 器 や ん 。
サラサは挿入口に容赦なく炎を吹き込んだ。
「なななな何やって、待てよオイ参号機ぶっ壊れるだろ!?」
アタシが止めるも聞く耳持たず「汚物は消毒だー!!」もう知らねーからな!!
ってマヤちゃん先輩なんで吐いてんの!?
火炎放射器ぶっ放すサラサ、吐くマヤちゃん先輩、介抱するアタシ。
参号機周りはカオスになった。
……もう、こうなったら……
「マヤちゃん先輩、大丈夫ですかぁ?」
介抱する、フリしてマヤちゃん先輩の様子を脳内フォルダに焼き付けよう。
あぁ、カメラ持ってくりゃよかった。
……なんて、邪な考えに天罰でも下ったのか
ズ ド ン
という爆発音に目を向けるとサラサがアタシの方へと吹っ飛ん
ゲフゥ
いってぇ、て、いやちょっと待て今なんか炎の形が十字に
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戻ってきたサラサさんが火炎放射器で何度も火を放つ様子を見て
『女性職員を焼く戦自隊員』
を思い出して、思わずキラキラ(自主規制)をリバースしてしまった。
と、爆発……サラサさんが!?
「サ、ラサ、さん、大丈、夫?」
「ったた……はい、大丈夫です。伊達に鍛えてませんから」
よかった……むしろ私よりピンピンしてる。
そんなヨロヨロな私の端末が突如鳴動する。
表示を見ると先輩からだ。
「……はい、うぅ、マヤです、先輩」
〈マヤ! 今どこに、って大丈夫なの!?〉
返事をしようとするも吐き気が治まらない。
様子を見かねたコハクちゃんが私から端末を引ったくる。
「赤木博士ですか? 今、参号機が爆発して、マヤちゃん先輩が吐いてて」
コハクちゃん最後のはいらないと思うの……
「はい、わかりました。……マヤちゃん先輩、もう大丈夫ですよぉ? すぐ医療班が来ますからぁ」
ありがとうコハクちゃん。でも医療班は大袈裟だと思うの。
などと思っていたら『完全装備の医療班』が到着して、あれよあれよという間に『密閉カバー付きのストレッチャー』で運ばれる私。
……あぁ、感染を疑われたのね。
違うんです先輩、そうじゃないんですよー!!
家族の暖かい時間。
しかし、それが少しずつ形を変え始めた事に、気付かない本人たち。
アスカの抱く気持ちの重さに気付かないマヤ。
マヤの悲壮な覚悟に気付かない子供たち。
家族を待ち受ける未来とは……
第参拾参話「蛇足、もしくは、時には諦めるのも優しさ」
さぁ! 次回もサービス、サービスぅ♪