【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
アスカちゃんの腕には問題ないと検査の結果が出た。
入院の必要もないらしい。
「だから泣かなくたっていいじゃないのよマヤ姉……」
そう、私は今アスカちゃんの左腕を撫でながらボロ泣きしていた。
「だっで、うで、きれちゃっ、うぅ、しんばいだっだがら……(グシグシ)……もっと早く接続カットできれば……痛い思いもしなかったのに」
「充分早かったじゃない。あれより早かったら人間技じゃないわ」
呆れ顔のアスカちゃん。だって……
気持ちの持って行き場がなくて、つい抱きしめた。
「ぅわぷっ! ……もう、しょうがないわね」
……なんだろ……これじゃどっちが『姉』かわからないわ……
「……ぅぅ」
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私の気持ちなど置き去りにする早さで、弐号機やジオフロントの修復が進む。
これまでの戦いをトータルで見れば『史実』よりもエヴァの損耗が少ない分、予算には余裕がある。
これから来るだろう使徒も『知って』いるから、もう本当は必要ないとわかっているので先輩と示し合わせてLHCの修復は後回し(という名の放置)にする事が決まっている。
むしろ、例の実験と宇宙での狙撃を考えないと。
……打算的な考えで言えば、参号機か……
積み重なる自己嫌悪に、いつか押し潰されるのかも知れない。
……罪の精算は、最後の戦いで必ず……
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《格納庫》
「はぁ、つまりサプリメントみたいなもんですか?」
トウジ君の質問に答える。
「そのような理解でいいわ。一応エヴァは『人造人間』だから」
「そんなんで活動時間が伸びるもんなんですか」
「それを確かめるための実験よ」
ベルトでグルグル巻きにケージへ固定されている参号機。
顎の拘束具だけ外してある。
その口の中には、小さな赤い球体。
回収されたガギエルのサンプルから複製されたコアだ。
時間はかかったが、全部で4つ用意している。
「それじゃあ搭乗して? 先輩、始めましょう」
司令たちには『単なる内部電源の改修作業』として許可を受けた。
完全にアウトだが、やってしまえば黙認するだろう。
今後ケーブルは
摂取実験開始。
噛み砕き、飲み込んでもらう。
「どう? トウジ君」
今のところ暴走の傾向はない。
ただ、妙にシンクロ率が高くなったので念のためプラグ深度を上げた。
〈なんちゅうか、石ころ飲み込んだような……?〉
「マヤ、今はケーブルからの供給のみで内部電源は空よね?」
「はい。……切ってみますか?」
「……そうね、お願い」
「了解。……トウジ君、試しに一度ケーブルからの電力を切ってみるわ。もし実験が失敗で真っ暗になっても、すぐ再接続するから安心して?」
〈了解です〉
外部供給をカット。
エヴァの活動は、停止しなかった。
「……実験……成功です」
「……終了よ。プラグ排出」
「了解」
あと3機。
攻撃衛星の開発も中止して、宇宙用狙撃装備に転用する事が内々で決まった。
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「頭に乗ってるとしか思えん」
「左様。シナリオの度重なる変更、挙げ句、我々の許可なく『槍』を使うなど」
「しかも伊吹マヤの暗殺は未だ機会を得られていない。恐らく碇が裏から手を回しているのだろう」
「……諸君、碇ゲンドウ、並びに冬月コウゾウの
「「「「「「……」」」」」」
「……全会一致の賛成と見なす。碇からは権限を
「後釜は」
「予定より早いが、アレを送り込む」
「副司令には」
「あの男を当てよう。『鈴』としては役に立たなかったが『生け贄』には使えよう」
「危険ではないか?」
「奴が危険なのは自由を与えているからだ。ならば『枠』に
「
「では、次の議題へ移ろう」
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《いつもの居酒屋》
「……で、マヤちゃんは『彼』の事知ってるの?」
突然の二大トップ更迭という驚愕の展開に葛城さん、先輩、私の三人は緊急会議をしていた。
……居酒屋だけど。
「はい、『知って』ますよ。ただ、このタイミングで、というのは……まぁ、『世界線』によって行動や態度が違っても、カギとなっているのは……一度その辺りを確認したいので、会ってみようと思います」
「大丈夫? 露骨に『送り込まれた手先』っぽいけど」
「大丈夫ですよ。まだ全ての使徒を倒していない段階、本部内で短絡的な行動はしないはずです」
「マヤがそう判断するなら任せましょう。彼もいる事だし大丈夫でしょう」
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《翌日、司令室》
「伊吹マヤ一尉です。失礼します」
入ると、司令の椅子に『彼』はいた。
「やぁ、よく来たね伊吹一尉」
本心は知らないがフレンドリーな様子で、『渚』司令は迎えてくれた。
「本日は司令にお伺いしたい事があり参りました」
「あぁ、いいとも。君の資料は読ませてもらった。それで僕としても噂の『勝利の女神』とは話してみたいと思っていたんだ」
……………………『勝利の女神』?
「…………え、あの、その『勝利の女神』というのは?」
「ネルフ内部はもとより、各国の軍人たちは君の事をそう呼んでいるよ。知らなかったのかい?」
……え、は ? なぜ……
「……え、あの……加持さん?」
私は思わず彼の横にいた加持さんに助けを求めた。
「伊吹一尉、今の俺は『副司令』だよ」
「あ、し、失礼しました!」
「はっはっはっ、冗談だよ、冗談。堅苦しいのは苦手だ。……さっきの事について言えば事実だよ。ヤシマ作戦以降のマヤちゃんの活躍が評価された結果さ」
……すみません、正直、意味がわかりません。
「僕も堅苦しいのは苦手かな。……リョーちゃんも仕事以外の時くらい僕の事はカヲルって呼んでよ」
「まだお預けです」
……両者共に『目は笑っていない』
腹の探り合いなのだろう。
何気に加持さんの『凄腕スパイらしい姿』を初めて見たかも知れない。
『知って』はいたけど。
渚司令が私に視線を戻す。
「……で、マヤちゃん。聞きたい事ってなんだい?」
私は、加持さんに目線を送った。
彼はやや
「……司令もお忙しい。5分ほどで良ければ」
「悪いね」と渚司令。
加持さんは退室した。とはいっても、恐らく扉の外で様子を
「……改めて聞こうか。何を知りたいんだい?」
「……『この世界での』あなたの目的を」
相変わらず
「……ふぅん。なるほどね。『言葉にしなければ伝わらない』か。いいよ。それなら君の流儀に合わせようじゃないか」
?
「君の質問への答えをわかりやすく返そう。少なくとも『今回で15532回目』だよ」
oh……人間だったら発狂してるわね。
え、というより
「もしかして、『私がどういう状態』か知ってるんですか?」
「あぁ、老人たちは気付いていないから安心して?」
ホッ……
「それで? 僕にそれを聞くという事は、僕の目的に協力してくれるという事かな」
「はい。私にも協力してくれるなら」
それだけ繰り返しているという事は、目的は『アレ』で間違いないだろう。
「ふむ、悪くない話だね」
「ところで気になったんですが」
「何かな」
「あなたの『願い』は何なのですか?」
「おかしな事を聞くね。それもわざわざ言わなくちゃいけないのかい? 君が知っている通り……」
「いえ、『目的』ではなくて『願い』です」
だって、そうではないか。
「誰かの幸せを願う」というのは『自分に理由があるから』願うのだ。
……不本意ではあるけど、私もレリエルにそれを突き付けられた。
だけど『代償』だったら何だと言うのだろう。
いいじゃない。アスカちゃんが幸せになって、私も幸せになれるなら、何も問題なんてない。
ともかく、だから「生と死は等価値だ」と言って死を選びさえしてしまう彼にも理由が……と思って聞いてみたけど、何故かポカンとされてしまった。
と、彼は一転して
「……プッ、はははは! 何だ、そういう事だったのか! どうりで上手くいかないわけだ! そんな事さえ気付かなかったのか僕は!」
「……えぇと、?」
「つまり僕があまりにも一面的すぎたという事なんだね? さすがは『彼岸に立つ者』、とても参考になったよ」
……うん、何を言ってるのかサッパリわからない。
「……えぇ、はい……」と適当に合わせる。
とはいえ、何か納得してくれてるんだから問題ないはずだ。
交渉事なんだから。
「うん、いいよ。人類補完計画を阻止する。協力しよう」
「え! 本当に!?」
「あぁ、『僕の願いを』叶えようじゃないか」
「ありがとうございます!」
そして、丁度いいタイミングで加持さんは戻ってきた。
「そろそろ時間ですが、よろしいでしょうか」
「あぁ、話は済んだよ」
私は加持さんに親指を立てて見せた。
すると加持さんは驚いた様子で
「……本当に? 大丈夫なのか」
「はい、協力してもらえる事になりました」
「……驚いたな。一体どんな話をしたんだい」
……気がついたら協力してもらえる事になってたなんて言えない。
「……秘密です」
「……それもそうか。女性の秘密を聞こうだなんて野暮、俺らしくなかったな」
変な言い方をしないで下さい!
マヤにネルフの新たな総司令を紹介される子供たち。
その会話の中、アスカは自身の『本当の思い』に気付く。
アスカは、思い描く未来を掴めるのか。
第参拾六話「覚醒」
さぁ! 次回もサービス、サービスぅ♪