【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
「あきらめるのも、時には悪くない──決してあきらめることのできぬ何かを守るためならば」
───霧間 誠一
「前回の使徒が倒されてから、未だ行動を起こさないのは、どういう事だ」
「君たちはいつも
「我らを裏切ったというのか!?」
「裏切る? 君たちが思い違いをしていただけじゃないか。僕は彼女に協力するよ。計画は阻止させてもらう」
「貴様までも取り込んだというのか……全てあの女の意思だと? 一体、何者なのだ……たかが一人、ただのオペレーターにすぎぬというのに……ただの人間とは思えん」
「なんだ、わかってるじゃないか」
「……貴様らの意思がどうあろうと、実力を以て計画を実行させてもらう」
「彼女は諦めていない。人間は前に進むべきだよ」
「これは必要な通過儀式なのだ。
「滅びの宿命は新生の喜びでもある」
「神も人も全ての生命が死を以てやがて一つになる為に」
「死は何も生まないよ」
「……死は君達に与えよう」
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
8月15日、ゼーレ動く。
渚司令より第一種 警戒態勢発令。
想定される敵は『世界』
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
sideリツコ
「全ての外部端末からデータ侵入。MAGIへのハッキングを目指しています!」
青葉君からの報告。始まったわね。
あちらはマヤ自身に任せ、私は
「敵はMAGIか……」
リョウちゃんが
青葉君からの報告に、やれやれ盛大な事、と
「やはりな……侵入者は松代のMAGI2号か?」
この規模、それだけじゃないわリョウちゃん。
「いえ、少なくともMAGIタイプ5。ドイツと中国、アメリカからの侵入が確認できます!」
そうでしょうね。
「総力を挙げているな……兵力差は1対5……分が悪いぞ」
けど、そろそろよ。
「?……松代からの進攻停止!」
「何? ……リッちゃん何かした?」
「えぇ、母さんが遺した裏コードがないと解除できないウイルスよ。
感染すると他の支部をウチと
名前は『イロウル』
使徒と戦った事がない支部の連中には、いい
「……エグいなぁ」
「けど、最初の親株は一度シャットダウンして再起動しないと動かないの。そこは私じゃないわ」
しっかり仕事してくれたわね、ゲンドウさん。
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
《対ネルフ侵攻作戦 前線部隊》
「……時間だ」
「そうだな」
「……動かんな」
「……誰も動くわけないだろ。見てみろ、静かなもんだ。キャリア組はさておき、上は様子見を決め込んでる。出撃だってポーズのためだろ。戦自史上、こんなに消極的な状況は初めてだ」
「……それもそうだ。人類補完委員会とかいう連中は信用してないが、ネルフ本部は、まだ話はできる」
〈……聞こ……ますか〉
「ん、何だ?」
〈聞こえますか? 守るために戦う、全ての人たち〉
「電波ジャック?」
〈私はネルフのオペレーターです。伊吹マヤといいます〉
「おい! これって」
〈私には政治とか、未来の事はよくわかりません……でも……でも……聞いてもらわなくちゃならないことがあるんです〉
「全部のチャンネルが同じだ。スゲーな」
「まずは聞いてみよう。どうせ報告するまでもなく上官連中も気付いてる」
〈 私たちは今まで、人類補完委員会の指導の下、人類のためと戦ってきました 〉
〈 ですが、委員会には別の
〈 人類補完計画。人類を強制的に進化させ、閉塞した古い人類を一掃する計画です。証拠となる資料も手元にあります 〉
〈 閉塞? 未来がない? そんなの誰が決めたっていうんですか!〉
〈 進化とか、理想とか、そんな事わかりません。
でも、これだけはわかります。
守りたい人がいるから戦ってきたんです。
今、生きているんです。
明日も笑顔でいてほしいんです。
それを、勝手に終わらせないで!!〉
〈 これから私たちネルフ本部は委員会の、ゼーレの排除を求めて国連管理下から無期限に離脱致します 〉
〈 恐らく、量産型エヴァンゲリオンによる総攻撃を受ける事になるでしょう 〉
〈 これを聞いてくれている全ての方々、手を貸してほしいなんて言いません 〉
〈 ただ、どうか見守っていて下さい。私たちの最後の戦いを 〉
〈 信じて! 私たち〉
「……切られたな……どうする?」
「上が決める事だ。ただ……今でさえ様子見だ。これ聞いて制圧に動きたい奴はいないだろ。むしろ『海』の奴ら、援護射撃の準備でもするんじゃないか?」
┄┄┄┄┄┄┄┄(BGM:Komm, süsser Tod)
「国連軍太平洋艦隊が
「マヤちゃんの言葉は効いたようだね。録音してもらっておいて正解だったよ」
「こっちに『教えてくれてる』という事ね。直ちに迎撃態勢! 撃ち落として! エヴァ全機、発進準備!」
「了解!」
┄┄sideアスカ┄┄
いよいよ、ね。
来るなら来いよ。
けどシンジは
〈……ホントに、エヴァが敵なの?〉
「弱腰になってんじゃないわよ。聞いたでしょ? 敵は『ゼーレ』よ。それに量産機は全てダミープラグ。無人機なんだから」
〈 わ、わかってるよ!〉
割り込むように通信が入った。
〈……シンジ〉〈 父さん!?〉
何故か、通信の背後に銃声や
〈 シンジ、お前は、お前自身のために戦え。そして、必ず勝て。……それと……すまなかったな、シンジ 〉
その言葉を最後に、通信は途切れた。
〈……父さん……〉
〈……シンジ君、やりましょう 〉
〈 せや。アホな計画なんぞ潰したらなアカンねや。サクラのためにもワシはやるで!〉
「間違って背中撃たないでよ?」
〈 ぬかせや!〉
言ってる間にも迎撃設備がミサイルを打ち上げ始める。
これで終わってくれるとは思わない。
上空で次々と着弾、爆散。
爆煙の中から白い何かが落ち……翼を開いた!
それらは輪を描くように旋回を始める。
「来るわよ!」
初号機はマゴロクソード、アタシはビゼンオサフネ、参号機はポジトロンライフル、零号機はロンギヌスを装備。
どこの軍の介入もないと判断されたため、欺瞞のためのケーブルをパージする。
「コアを潰すわよ? 見えないけど恐らく胸の辺り。痛手を与えても油断は禁物!」
旋回していた量産機たちは、
参号機の射撃が先頭に命中、片翼を焼いて落とすが、健在だろう。
剣を振り下ろす2機目を
左肩から首は落としたがコアは外した気がする。
零号機が槍を投げて地面に
止めを刺しに行こうとする零号機を援護しに立ち回る。
次々降下する量産機を斬り、
参号機が
いける。
が、最初に斬って捨てた奴が首もないまま右手だけで剣を
フィールドで止め、
剣が槍に変わった。
ロンギヌス!? マズい!
フィールドをスルリと抜けた槍がアタシを
前に、横から初号機が斬り払った。
「ナイス、シンジ!」
〈 油断大敵、でしょ?〉
「言うじゃない!」
それからも乱戦は続くが、量産機は複数でカバーし合い、なかなか止めを刺せない。
ましてや先程の『槍への変化』を皮切りに、量産機は剣を槍に変えて突いてきたりもする。
その間に仕止め
エネルギー切れはない、けど相手と違い精神的な疲労が貯まる。
初号機が後ろを取られた。
カバーに入り、斬り付けるが左腕を
間合いが近い。
返す刀は間に合わない。
初号機は組み付かれていて動けない。
零号機は初号機の向こう、あちらのフォローに。
参号機は、
量産機が、槍を振り上げニィッと笑う。
そして、その槍を
自身の胸に突き立てた。
〈……間に合った〉
頭上を、異形の戦闘機が飛び去った。
両側にエンジン部、
旋回した時、胴体下に見えた妖精のノーズアート。
問題は、そこじゃない。
本来あるべき機首がゴッソリ存在せず、代わり、左右のエンジン部に守られるように存在する大きな『機械の目玉』がグリグリと動く。
忘れもしない、あの時の……
「……マヤ姉?」
〈 全員、聞いてちょうだい 〉
リツコからだ。
〈 近くを飛行してるのはXAP-16、ティンカーベル。マヤとMAGIが操作する無人機よ。敵を
やっぱり……
〈 だけど可能な限りマヤにはダイブさせないでちょうだい。できる限り支援射撃のみ頼りにして。
この戦術は脳に多大な負荷がかかるわ。1機倒す
〈 先輩! それは言わないって 〉
┄┄sideリツコ┄┄
『脳に負荷』とは、我ながら言い得て
確かに負荷はかかるわ。
だけど、それはシステム上の問題ではなく、マヤ自身の精神構造に原因がある。
でも、それを言うわけにはいかないものね。
ましてや本人が知ったら本当に自殺しかねないもの。
あの『ダイブ』後、マヤの
パーソナルデータ、普段の言動、作戦時の『会話』
……結果は『エラー』
理由を聞けば「入力データに問題」
見直しても入力ミスはなかった。
私がMAGIに「問題ありと判断する
年齢という部分に違和感を感じた私は「年齢が問題であると判断した理由を
返答は「サンプルから推測される人物像は14歳か99歳以上の高齢者である」
最近の行動から気付いたわ。
MAGIは『自殺を考える思春期の少女』か『老衰間近の老婆』だと言いたいのだろう、と。
彼女は心のどこかで死にたがっている、と。
人は基本、快楽原則か現実原則で生きている。
快楽原則は子供ほど強く、リビドー(生の欲動)を生み出すが、反転してデストルドーをも呼ぶ。
現実原則は快楽の不足に耐性を持たせ、デストルドーへの反転を
だけど彼女は、もう一つの原則で生きている。
死と静寂、不変を以て魂の安息を求めるこの働きは、強いデストルドーを生み出す。
だから、彼女の精神にシステムで同調した相手はデストルドーに
けれど、いわば快楽原則の対極でもあるのでしょう。
彼女の場合、『あの子たちのため』というファクターによって反転し、リビドーに変えていたんだわ。
だけど、それはつまり……
全てが終われば、マヤは死ぬわ。
あの時からシステムは改良された。
MAGIが彼女の右脳と左脳をエミュレート、本物の左脳と右脳にそれぞれリンクする事で彼女に『二つの脳』を持たせる事に成功した。
片方で『ダイブ』、もう片方で操縦を。
万が一、相手の精神的自死に巻き込まれても、死ぬのは片方の脳で済み、バーチャル脳からのリンクで即時復活する。
確かに即死は免れる。
でも脳に負担がかかるのも事実。
私が変わる切っ掛けをくれて、諦めないでって言ったのは、マヤ、あなたよ?
簡単に死ねると思わない事ね。
┄┄┄┄┄┄┄┄(BGM:YOASOBI『群青』)
〈……ほんと、バカなんだから……上等よ! バカ姉の好きにはさせないわ!! アンタたち、気合い入れなさい!!〉
みんな、火が付いたように向かってゆく。
だけど量産機も槍で向かってくる。
「無理しないで! 受け持つわ!」
あの槍をは戦局をひっくり返しかねない。
乱戦に私も飛び込む。
前方に見える量産機へ直進加速、『捕捉』を常に維持しながら135°のロール、相手の周りをターンする。
次第に量産機の動きが鈍る。
〈 マヤ姉は援護だけしてよ! 機関砲あるんでしょ!〉
私を
「アスカちゃん邪魔しないで! あの槍は危険なの!」
この子に『あんな末路』を迎えさせるわけにはいかない。
〈 なんで危険なダイブなんてするのよ!? 死んだらどうすんの!?〉
この戦いさえ終わってしまえば、長生きする必要なんて私にはないのよ。
「だって、私、たくさん人を犠牲にして、みんなを
みんなの未来のためとはいえ、本当の事を隠して、『命の実』を食べさせて……
こんな『汚い』私なんて!!
「一緒に生きる資格なんてないよ!!」
〈…………あのさぁ…………マヤ姉が何を気にしてんのか知らないけど……〉
怒りを抑えてか、震える声でアスカちゃんは言う。
〈アタシの未来まで勝手に決めてんじゃないわよ!!〉
え、それって、どういう
〈アタシの明日には〉
眼前の量産機の胸にビゼンオサフネを突き刺し、槍を奪い取り、
〈マヤ姉がいなきゃ、イヤだってぇのよ!!!〉
振り向き様に投擲する。
あっという間に2機を
モニター越しにアスカちゃんが私を見つめる。
〈もう諦めなさいよ。
マヤ姉には、アタシの横で生きててもらう。
今日も、
明日も、
ずーっと、ね!!〉
通信越しに私を射抜く、
勝ち誇ったような群青の、
大好きなその瞳に、
私は『敗北』を受け入れた。
「………………アスカ、ちゃん……残り5機、援護する!!」
〈 最初っからそうしなさいよ!〉
弐号機を後ろから狙う量産機が、光に焼かれて腹から上を失った。
〈 ワシの事忘れとったら蒲焼きにしたるぞ白ウナギ!! 関西風でエェな!?〉
〈 レイ! 僕が抑えるから 〉
〈 今度こそ仕止めるわ 〉
零号機が槍を投げ、手前の量産機を初号機が抑え、横を駆け抜けた零号機が止めを刺し、槍を奪って
〈 シンジ君!〉
今マゴロクを折られた初号機に投げ、初号機は見もせず
そんな初号機の背後に敵の槍が飛ぶ。
即座に反転、加速。75㎜を3連射。
ただの3バーストではない。
MAGIに加速された半バーチャル脳は1射目の弾道から瞬時に
槍はATフィールドを抜けるが、槍そのものを守るフィールドは持っていない。
槍先に75㎜弾を撃ち込まれ地面に刺さる。
ティンカーベルを邪魔に思ったか、こちらに迫る量産機。
だけど捕まらない。
右にスライド、
急加速、
急減速、
小さくインメルマンターン、
頭上を取って重機関砲を連射、
近くにいる弐号機がフィールドを中和してくれて弾が通る。
頭を蜂の巣にしたら急角度のズーム上昇で離脱。
人間には不可能な機動を、
AIには不可能なパフォーマンスで、
右へ左へ、ティンカーベルは空を舞う。
機械仕掛けの妖精に、翻弄された量産機は
〈背中がガラ空きよ!!!〉
回収した槍で弐号機は量産機を背後から串刺し、プラグ、コアを一直線に破壊した。
最後の1機、槍を投げるでもなく走ってくる。
まさか自爆!?
「させない!!」
私は機関砲を量産機、ではなく、その足元に撃ち尽くすつもりで連射。
地面をグズグズにされた量産機はバランスを
〈 ぅらあぁぁぁぁっ!!!〉引き抜いた槍を投げ放った。
胸のド真ん中を貫かれ、最後の1機は崩れ落ちる。
全機、撃滅。
セフィロトの樹を描く事もなく、自爆さえ阻止され、ここに、ゼーレの
全ての戦いが終わり、早数年。
ある一組の夫婦が過去を振り返り、未来へと思いを馳せる。
完全なる救済という夢を捨て、それでも前に進むヒトの意思へと。
最終話「それでも、明日はやってくる」
さぁ! 最後までサービス、サービスぅ♪