【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
だいぶ塩漬けにしてた話が完成しました←遅い
《エヴァ解体予定日の数日前》
青い空、青い海。
白い砂浜に、さざ波が静かに寄せては返す。
ここはエヴァ初号機の中……いえ、碇ユイさんの精神世界と言った方が良いかしら。
あの戦いの後、停戦合意やネルフの組織改編が終わり、残るは『エヴァの扱いをどうするか』だけになった。
解体する事は最初から決めていた。
何故なら『母親の死と子供を利用する非人道性』ダミープラグだって『クローンの脳』だし殺戮兵器にしか使えない。
そして何より……S2機関を取り込む事で疑似的な神になったエヴァ、その『一部』となったチルドレンがシンクロによって干渉を受け発症する『いわゆるエヴァの呪縛』チルドレン症候群と名付けたコレを解消するには、エヴァからの干渉を無くすために解体するしかない。
いまだ補完計画による救済を信じて抵抗する『ゼーレ派』の残党だって、流石に量産型エヴァを建造する余力はないと見られてるし、どうしても人型兵器が必要なら時田氏(なんと生きてた!!)の協力を得られるから。
ジェットアローンの改良型を設計中らしい。
……とはいえ、死者の意識パターンではなく生きてる本人を取り込んだ初号機と弐号機は、解体する前に『最後のサルベージ実験』を行うべきだろう、と。
救助できれば良し、できなくても『心の整理』として。
それで今回、私がティンカーベルを介してダイブする事に。
最初はアスカちゃん始めとして『反対!!』の大合唱だったけど、先輩が「今のマヤなら大丈夫」と(……どういう意味かしら)太鼓判を押してくれたから何とか実現。
結果、今ここにいる。
私の視線の先、穏やかな日差しの下で一人の女性が椅子に座り、静かに本を読んでいる。
彼女が、シンジ君のお母さん……
「あなたが、伊吹マヤさんね。待っていたわ。息子が大変お世話になったようで、感謝しています」
「初めまして。……待っていた、という事は、私が来た理由は」
「えぇ、初号機を通して」
「では」
「お断りします」
「……」
……本題に入る前から断られてしまった。
私が『何故?』と声にする前に、ユイさんは語り始めた。
「私は確信していた。人類の終わりを、種としての成長限界を。あなたも『見た』はず。
人間の認知機能、コミュニケーション能力は多くの場合、自身が思っている以上に
文明の発達と共に、コミュニケーション手段も発展を
使徒との生存競争でさえ、私からすればゼーレを動かすための建前に過ぎなかった。
脳機能の限界から滅びるであろう人類文明……それでも、これまでに築き上げた文化や愛という概念は残したかった。
そして何より……私は、あの子を愛している。
だからこそ、全て一つに溶け合えば分かってくれるだろうと、あの人も裏切ってまで人類補完計画を進めさせたのに、あなたはそれさえも『根性なしだ』と切って捨て、実際に『ただの一人の人間として』世界を動かしてしまった。
もう言っても遅い事だけれど……本当に『できる』と思っているの?」
「やります。でなければ、ヒトは先に進めません。ユイさん、あなたの方法では『ホルマリン漬け』を作るようなものではありませんか。生命に意義があるとするなら、それは『前に進んでこそ』です。『完成した』と言って足を止めるなら、無機物と何が違うんですか?」
ユイさんは一つ小さな溜め息を吐き、
「……そう言われるであろうとも思っていたわ。私は過去を永遠のものにしたいと思い、あなたは未来を信じたかった。意見の相違ばかりは仕方ないわけで、既に現実世界での決着が着いている以上、それまでよね」
そこまで言ってから、やや自嘲気味な表情を浮かべたユイさんは
「つまり結局のところ、私が帰りたくないのは……今さら合わせる顔が無いって事よ」
そう言われるであろうとは思っていた。
だから私はキッパリと言う。
「それでも、あなたを待ってるご家族がいます。罪悪感というなら、真意を墓まで背負って行くというのも、悪くないのではありませんか?」
するとユイさん、海の方を眺めつつ
「……必要、あるかしら。あなたがいるのに?」
「私は……『姉』でしかありませんよ。母親の代わりになれる人なんて、他にはいません」
もう『母』の事で感情的になる気はなかった。
だから冷静に、ただ思った通りに返した。
……自分の事も含めて。
ユイさんは少し間を置き、視線を落として言った。
「……ごめんなさい。今のは意地悪だったわね。ちょっとだけ、ヤキモチ
『ヤキモチ』の所で、お茶目っぽく少しだけ笑ってくれた。
固い空気が終わったなら良かった。
「いえ。今は前ほど『母』というものにコンプレックスを抱いてませんので。何と言うか……あの子たちのおかげで、吹っ切れたと言いますか……お世話になったのは、私の方かも知れません。だから、シンジ君にもお礼したいのですが?」
私も最後にお茶目っぽくお願いすると、ユイさんは、いかにも困った風に肩を落として応えてくれた。
「………………分かりました。では、私は『単なる事故の被害者』として帰りましょう」
「ありがとうございます!」
帰還してみたら思った以上に時間が経過していてビックリした。
どうやら『楽しい時は早く過ぎ、苦しい時間は長く感じる』という事だったらしく、ユイさんとの交渉は結構な重圧に感じてたみたい。
アスカちゃんに泣かれて大変だった。
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アスカちゃん、かなり葛藤してたみたいだけど最終的に「マヤ姉に何かあるよりマシよ! だから行かないで!!」と引き止めてきたのを、何とか説得して、今は弐号機の中。
まぁ、初号機の時だってシンジ君も葛藤してくれてたけど……私が『救出するべき』と主張する以上に、なんと生きてた元・司令が泣きながら五体投地で……いや、うん、忘れよう。
ともかく、そういうわけで再び私の前に広がる景色。
青い空、青い海。
白い砂浜に、さざ波が静かに寄せては返す。
……ちょっと待って? なんか暑くない?
私の視線の先、鮮やかな赤と白のビーチパラソルの下、真紅の水着に身を包みサマーベッドに寝そべる女性……というか、私より少し年下っぽい女の子が一人。
サイドテーブルにはトロピカルジュース。
………………えっと、すごいエンジョイしてる?
近付くと、その子が気付いたのかサングラスをズラしてこちらを見た。
「ん……あ! マヤちゃんじゃん!! おハロー!!!」
……超フレンドリーに手を振られた。テンションの高さに面食らってしまう。
「あ、えっと、はじめまし、て」
「ノン、ノン! はじめましてじゃないし他人行儀なのはヤ!!」
「……え?はじめまして、じゃ、ない?」
「呼んでくれたじゃん!! 二人で弐号機に乗った時! あれで覚醒したんだから!」
『ああああ神様仏様惣流・キョウコ・ツェッペリン様どうかアスカちゃんをお助け下さいぃぃぃぃぃぃ!!』
「あの時!? ……ぁ、という事は、やっぱりキョウコ博士、で良いんでしょうか……? 何か見た目というか、年齢というか、その……」
私が確認すると、彼女はキョトンとした顔をしてから、わざとらしく考え込むようなフリをしながら応えた。
「うーんむ、それは中々難しい質問ね。そうとも言えるし、違うとも言えるし……」
「……え? ど、どういう事でしょう」
「マヤちゃん、『私』のカルテ見た?」
「はい……肉体のサルベージは成功したものの、精神は戻って来なかった、らしい、と」
「チッチッチッ、半分正解ってとこかしら!」
「……半分、ですか?」
「そ! 精神も『半分は』戻ってたの。で……」
一度言葉を切って立ち上がると、
「残り半分が
……何か派手な効果音でも聞こえてきそう。
実際には波の音がザザァッと鳴っただけ……
だけど疑問に思った。
「え、『半分』にしては、何と言うか、すごく精神的に安定してそうな、気が……?」
それを聞いて彼女は、人差し指を立てて教師役のように言った。
「うん、『基に』って言ったじゃん? 弐号機の中で育ったのよ。というか……」
急にニヤリと笑い、
「育てられた、というべきかにゃー。言わば………………アスカちゃんとマヤちゃんの『愛の結晶』!!」
わざとらしく両手で顔を抑え『にゃはー!!』などと恥ずかしがってみせた。
「あ、あ、あ、あ、愛の結晶だなんて変な言い方しないで下さい! つまり再構築ですよね精神の! わざとからかってるんでしょう!?」
「おんやぁ? なにムキになってるのかにゃ? いいじゃん、まんざらでもないクセにー。うり、うりうりっ」
「ちょ、違、違いますって!」
再構築されたはずなのにノリが昭和のオッサン!?
なのに頭の良さはキョウコ博士って、面倒くさ!!
そんな彼女……なんて呼ぶべきか……は、またも『わざとらしい感じ』で
「あー、二人の事は何て呼ぶべきかにゃー。うーん……よし! アスカちゃんの事は『姫』と呼ぼう! で、マヤちゃんの事は……」
「……ママー!!」抱き着いてきながら言った。
「ぅキャアッッ、何やってんですか!? いや、だから私は」
「よいではないかよいではないか」
あ゛ーも゛ー!?
「本題! 本題入りましょう!! 弐号機越しに見てたんですよね!? あんまり時間かけるとアスカちゃんが
「それもそうね。ごめんなさい」
……はぁぁぁ」
……冷静になってくると、『照れくささ』より『二人の間の子がコレ』という、言いしれぬ落胆の方がツラい気がしてきた。
うん、忘れよう。
彼女を引き剥がしながら、ゲッソリした感じで語りかける。
「……と、ともかく、帰還して頂きたいんですが。というか、キョウコ博士って事で本当に良いんでしょうか……」
「うーん……姫に『娘』って気持ちがないわけじゃないし、ユイさんにはまた会いたいし、ゲンドウ君には一発ぶちかましてやりたいけど、『キョウコ』に未練はないのよねー……帰ってからテキトーに名前考えて良い?」
「あっはい……ぇ、というか、戻ってくれるんですか!?」
「え? うん。最初からそのつもり」
なんか、余計な徒労感が……
そして、帰ってからのドタバタを見て『これは本当に連れ帰るべき存在だったのだろうか』なんて失礼な事を思ってしまう私を、
とりあえず元・司令への一発はイイトコに入った。
以上、旧エヴァ準拠世界でマリが発生した裏話でした。
『楽しい時は早く過ぎ、苦しい時間は長く感じる』
相剋渦動励振原理……
平成アニメの空気感を思い出したくなってカラオケで『Dearest』とか『YOU GET TO BURNING』とか歌いながら書いてました(何故ナデシコ)