【完結】マヤさんは諦めた(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
「どうかした?」
なにやらシンジ君が不思議そうにキョロキョロしているので聞いてみた。
「あ、いえ、部屋の中きれいだなって。片付け大変だったなんて言ってたから不思議に思ったんです」
「……ぁー、掃除とかって意味じゃなくて、なかなか捨てるに捨てられないもので一部屋埋まってたから。シンジ君の部屋用に空けないと、って」
「え! あの、すみません……本当によかったんですか?」
余計な事を言ってしまった!!
そうよね性格的に気にするよね考えればわかる事じゃないただでさえ緊張してるだろうに気を使わせ
「だ、大丈夫! 機会を逃してただけで、いつかは処分しようと思ってた物ばかりだから!」
「……そう、なんですか?」
ヤバい、何か言うたびシンジ君が一回り小さくなっていってる気が……話題を変えよう!
「うん、それに全部捨てたわけじゃないし、ゲーム類は結構残してて、そうだ、シンジ君ってゲームとかする? 古いソフトばっかりだけど、よかったら後でやってみない? 夕食後とか」
「あ、はい。どんなゲームあるか、ちょっと興味あります」
誰かと家でゲームとか初めてだから実は楽しみだったのよね。受験とか技能とか資格の勉強ばかりで友達付き合いなんてなかったし、両親……
……いや……
そう言えば買い出し……グダグダじゃない私。
食材なくはないけど、今から買って来て料理すると遅くなりそうだし……とりあえず聞いてみるか。
「そう言えばシンジ君、今日の夕食は何が食べたい?」
「えっ……」
「遠慮しないで言ってみて? 腕に自信はあるから」
食材、ないのがあったらMAGIに代用レシピとか聞……ダメか。
おとなしくソレだけ買って来よう……
「……じ、じゃあ、ハンバーグ、とか」
「うん、いいよ! 任せて?」
よかった全部ある! ありがとうシンジ君!
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当然の如く手伝いを申し出てくれたけど、初日からっていうのは申し訳ないし、時間が空くから先にお風呂どうぞ?という感じで調理を済ませ、なんとか無事に夕食。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです! マヤさん料理も上手なんですね」
「お粗末さまでした。ふふっ、ありがと! 最近はよく作ってるから上達したかも。そうだ、今はまだ入院してるけど、レイちゃんが退院したら一緒に食べる事になるから、よろしくね?」
「レイ、さん? っていうと……」
「あ、そっか。まだちゃんと紹介してなかったね。綾波レイちゃん。隣に住んでて、シンジ君と同じパイロットで……ほら、この前の包帯姿の」
「あぁ! ……えっと、その後具合は……」
「うん大丈夫。シンジ君のお見舞い行った時に様子みたけど経過は良好で、もうすぐ退院できると思うよ」
「そうですか……よかった……一緒に食事って、実は親戚とか……?」
「ううん、私が勝手に世話焼いてるだけ。放っとくとすぐサプリメントとかで済ませちゃうから」
「(サプリメント?)そ、そうなんですか」
「まだ話した事ないだろうから先に言っておくね? あの子、取っつきにくい喋り方だけど口下手っていうか、自分の気持ちを言葉にするの苦手なだけで、悪気はないの。仲良くして上げて?」
「はぁ、そうなんですね。わかりました」
「ところで! この後ゲーム何する? ギルティトレーンみたいな格ゲーもあるけど、オススメはカルネージソウルかな。ロボットのプログラム組んで戦うやつ! 私やり込んでるから強いよー?」
「えっ、は、はぁ」
あ、ヤバ。つい目をキラキラさせて食い気味に話しちゃった。引いてる……
「あ、ゴメンゴメン。誰かとゲームするとか初めてだから、ついワクワクしちゃって」
「え、そうなんですか? なんか意外です……」
「え? 意外?」
「だってマヤさん、優しいし、料理も得意で家の中もこんなキレイだし、それに、その……あ、いや、てっきり友達とかも多くて、人気なのかなって」
「ぁー……資格とか技能とか身に付けるのに勉強ばかりしてたし、それに、同世代の友達付き合いって、何かというと恋愛とか見た目とか、すぐそういう話するのイヤだから……正直、男の人って苦手なの、私」
「え、それじゃ、あの、僕」
「あ、違う違う! シンジ君は、あの、なんていうか、あんまり露骨な事しなさそうっていうか、言ったらわかってくれそうっていうか、いや、私が苦手なのは、職場でもたまにいるけど、雑誌の写真とか見て鼻の下伸ばしてるとか、やらしい目で見てくる人とか、それにほら、ほ、保護者として引き取ったわけで、んん、子供がそんな心配しないの!」
「え、あ、え……は、はぁ」
……つい、まくし立ててしまった。
「そ、そんなわけで一人で過ごす事の方が多かったっていうか、し、シンジ君はどうだったの? こっちに来る前とか、あ」
聞かれた瞬間、少し身を固くしたように見えた。
……何聞いてるのよ。聞かれたくないに決まってるじゃない。うかつ過ぎよ。
居場所がない中での孤独なんて、私が一番知ってる事じゃない!
「ご、ゴメン! 無理に聞く気はないの。だから、その」
何か言わなきゃ。この子には居場所が必要なのに……
……居場所。
そうだ、なら……伝えてない事がある。
「あのね、シンジ君」
やや俯き気味の彼に合わせて、横にしゃがみ込んだ。
「私ね? パイロットだからとか、戦ってくれてるからとかじゃなくて、あなたの本当の家族になりたくて、ここに来てもらったの」
彼の視線が、こちらを向く。
「あなたはこれからも戦う事になる。それでね? もし、本当にイヤになったら、エヴァを降りてもいいんだからね?」
「ぇ?」
「もし、あなたがパイロットじゃなくなっても、それで『帰れ』なんて私は言わないから。私から先輩とかに掛け合って、ここに置かせてもらえるようお願いしてみる」
「……」
「『絶対に大丈夫』って約束してあげられないのは苦しいとこだけど、私は、そうしたいの!」
「……ぅ」
「……だから、あなたはここにいていいのよ?」
そっと、手を握る。
「だって、家族ってそういうものでしょ?」
届いてほしいと、祈りを込めて握りしめた。
「……ぅ、ぅう、ぁ、あり、がと、ござ、ま、ぅう……」
何かを抑え込むような泣き方だった。
ここが『居場所』だと、思ってもらえただろうか。
頭を、その小さな背を撫でてやりながら、時計を見上げて、ふと思った。
……ゲームは、また今度にしよ。
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《第八話 ゲームするのを諦めた後の蛇足》
「おやすみ、シンジ君」
新しい『自分の部屋』で安心しきった様子で眠る顔を見ながら、小声で告げる。
……ふふっ、つい頭を撫でてしまう。
「……」口元が僅かに動いた。寝言?
……いやダメよね聞いたりしちゃ。
でも気になる。
けど、うーん……
出来心から結局は耳を近づけてしまう。
ゴメンねシンジく
「マヤ……おねぇちゃん……」
私のハートにロンギヌスの槍が突き刺さった。
何、この気持ち……嬉しいの? 私。
LCLになっちゃうぅ!
おねぇちゃん? お姉ちゃん? 私が、お姉ちゃん……家族補完計画……
ダメよ! エゴだわ! 私の勝手な押し付けじゃない!
シンジ君に、レイちゃんに、これから来るアスカちゃんに、お姉ちゃんなんて呼ば、れ……
し、幸せぇぇぇ!!
これが、私が求めていた『理想の家族』……
そうよ、ど、どうせ後2年くらいで世界が赤に沈むんだから、せめてその間だけでも幸せな時間を……
……ま、まずはシンジ君に「お姉ちゃん」って呼ばせてみる事から始めてみよう。
家族として受け入れられ、マヤの温もりに触れたシンジ。
戦う事に怯えながらも、彼は、自分の意思によって前に進む事を決意する。
次回 第九話「sideシンジ 心の居場所」
さぁ! この次もサービス、サービスぅ♪
…というわけで今回は文字数の関係から二話分をまとめました。
この二つなら違和感ないかな、と。