神との約束を果たす為生きるのは間違っているだろうか 作:猫咲己
己という個を自覚したのはいつのことだったか。
産まれた時?否、捨てられ死にかけた瞬間?否
ある男の舞を偶然みたときであった。
◇ ◇ ◇
あの時の俺は他人から見れば汚い浮浪児だったろう。
泥にまみれ髪はぼさぼさ、布切れという名の服。だがそれもまた俺の中での普通だった。
この世に生まれ落ちたから生きた。生きる理由など無かった。ずっと何かが足りない、だがそれも分からない。
まるで同じ動作を繰り返す絡繰りと代わらぬ存在だった。
決死の思いで手に入れた食料を奪う者からは、そうなったこの世を恨めと言われた。介抱してきた女には捨てた親を恨めと言われた。
恨んで何になる?ただ無為に死ぬだけなのに。
◇ ◇ ◇
ほんの少しの全てを失った雷が鳴り響く豪雨の日
俺は運命に出会った
寝床すらも奪われ、普段なら絶対に近づくことのない社に歩みを進める。ここに浮浪者達は来ない。空気が違うのだ、居てはいけないと感じる場所。
そんな社に先客がいた、男だ、白い麻布だろうか動きやすさに特化した衣を纏っている。
男は舞っていた。美しいと思った、そんなもの知らないのに。
そして見えてしまった、彼を科追い込み攻撃する男達の幻影が。あまりの出来事に目を見開き、前のめりになる。
その時、ざりっと音が立ち男はゆっくりとこちらを振り返る。己の中に湧いた思いに戸惑っていれば、目の前には先ほどの男が。
「…子供か。なあ、お前には何が見えた?」
不思議と声が出ていた
「沢山の敵が見えた、あれは……」
男は快闊な笑顔を浮かべると嬉しそうに言う。
「そうか!見えたか!……お前だ、俺はずっっとお前を待っていたんだ。」
◇ ◇ ◇
突然の言葉に頭が真っ白になる
「これは運命だ、坊主!お前、名は?」
名、言われてみればそんなもの持っていない
無言で首を横に振る。
「そうか名無し子か、…どれ俺が名をやろう………天界になあ、面白いやつがいたんだ…陸奥
ってやつでな引き分けたことがある。坊主、お前も「陸奥」になれ、お前の可能性の全てを見せてくれ!俺はお前に全てをかけよう!見せてみろ!陸奥 式!」
一拍遅れて自分の名だと理解したのか彼は口の中で呟く
「…陸奥 式、それが俺の名。……?じゃあ誰だよお前、名知らないぞ」
「おう、すまんかった!はしゃぎ過ぎたな…んんっ、俺はスサノオ!お前の家族であり、友となる!よろしく頼むぞ息子よ!」
「家族?どうやってなるのさそんなもの」
「そうかお前は知らんか
夕暮れ、社の縁側に並んで座り語らう姿は見れば皆、こう言うだろう。
「どう見たって、父と子にしか見えない。」と。