【完結】「不死身(物理)なら尾形を愛せるのでは」という仮説とその検証について   作:捕まえようとした蝶

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11話 良い音は聞けない

 動かなくなった二瓶から、視線を外す。

 背後から足音が聞こえていた。

 

「タマ!」

「タマさんッ」

 

 どこかで合流したのかたまたま行き会ったのか、ゴールデントリオがまとめてこちらに駆け寄ってくる。

 待ってろと言ったはずの人間が、なぜか先んじて二瓶とエンカウントしていた状況に、その表情には三者三様の困惑が浮かんでいた。そりゃそうじゃ。

 

「どうして……」

「……アシㇼパが心配で。ごめんなさい」

「え、てかその顔の怪我、」

「二瓶鉄造の邪魔をしたら殴られた。でもそれだけ」

「やだ〜相変わらずキレてるぅ……」

 

 なぜかドン引き白石。とっさに二瓶を撃ち殺そうとしてましたって言ったらもっと引くかな。

 

「タマ……」

 

 アシㇼパも気遣わしげに呼びかけてくる。別に気にしなくていいんだけど、

 

「二瓶鉄造を殺すつもりだったのか?」

 

 おっと。

 やっべ、こっちにはバレてんじゃん。

 もしかして見てました?

 

「……、必死だったから」

「…………」

 

 我ながらテキトーな誤魔化し。彼女はまだ何か言いたげにしていたが、レタㇻの隣に寄り添う雌狼の姿に視線を移す。

 

「もしかしてあの夜……レタㇻを呼んだのは、」

 

 そこで、レタㇻたちのそれとはまた違う、甲高い遠吠えが雪原に響き渡った。アシㇼパがはっとした顔になる。

 

「別の遠吠えだ! しかもこれは、」

 

 声がした方角──リュウほどの小さな毛の塊が、ひとつふたつみっつ、よっつ。3頭は“彼女”と同じ灰褐色、残りの1頭はレタㇻによく似た美しい白銀の毛並みだった。

 

「……レタㇻ……お前、家族が……」

 

 アシㇼパが、澄んだ瞳に綺麗な涙を浮かべる。──ひとりぼっちだと思っていた狼の子が、同じ仲間を見つけて、家族を作った。それがどれほど尊く、喜ばしいことか。

 

「………………」

 

 涙を拭うアイヌの少女から、エゾオオカミの親子が連れ立って遠ざかっていく。

 アシㇼパは今度こそ追わず、嘆くこともなかった。ただ、それを泣き濡れた優しい微笑みで見送った。

 ……でも、俺は到底、その美しい光景に心打たれる気分にはなれなかった。

 

「アシㇼパ」

 

 “本来守られるはずだった”アイヌの少女に、慎重に呼びかける。

 

「どうして、レタㇻは……」

「…………」

 

 ──若干、不可解な顔。

 ああ。お前も、疑問に思っていたのか。

 良くない確信を得て、身震いする。そんな俺の前で、アシㇼパは怪訝そうな顔のまま、

 

「……私が……誰でもいい、とにかくタマを助けてほしいと願ったから……」

「…………」

 

 だから、レタㇻはアシㇼパの意を汲んで、命の危険を冒してまで俺を助けに来た。

 ──本当に、そんなことが有り得るのか?

 俺は、嫌な予感を覚えざるを得なかった。

 嫌な予感。それは、どう足掻こうが変わらぬ事象もあるのではないか、という懸念。

 俺が強引にアシㇼパを逃しても、結局は何も変わらなかった。レタㇻとそのつがいが二瓶を襲撃し、彼は首を噛み切られて死んだ。

 ならば──尾形百之助は、?

 

「…………いや、」

 

 ──考えるのはよそう。

 試してみなければわからないということには変わりない。躊躇する理由にはならない。

 とにかく、今はそういうことにした。

 そこで。地に臥していた谷垣がふらつきながら立ち上がったことで、全員の意識がそちらに向く。

 谷垣はまさに這々の体といったふうで二瓶に歩み寄り、その傍らに膝をついて。

 

「……コレヨリノチノ、ヨニウマレテ……ヨイオトキケ」

 

 阿仁マタギの唱え言。谷垣源次郎は、一匹の山に生きた獣として二瓶鉄造を見送った。

 ……けれど、俺の脳裏をよぎっていたのは、その慣習を知った当時に考えたこと。

 

 ──動物を、人間の都合で殺したことに対する罪悪感。

 

 それゆえに祈り、赦しを請う。恨みつらみを抱かぬように。呪いを齎さぬように。

 ああ、またか。

 

「罪悪感」

「……なに?」

「いや?」

 

 垂れてきた鼻血を、手の甲で拭う。

 当時の俺は、阿仁マタギの気持ちを理解できなかった。今もまだ、谷垣源次郎の気持ちは理解できそうにない。……永遠に?

 

「…………」

「……タマ、白石、この男とアイヌ犬をコタンまで運ぶ。担架を作るから手伝え」

「ええッ」

 

 びっくり仰天シライシ。やめとけよ、とでも言い出すのかと思ったが、

 

「杉元は?」

 

 そっちかよ。できる限り楽をしようとすな。

 

「俺は二瓶の皮を剥いでくる」

「ちぇ。というか、マジで連れてくのかよ」

 

 今さら。むしろ主題はそこだろ。

 

「死にかけてるのに置いていけない。アイヌ犬だって、ほっとけばいつまでもあそこにいる」

 

 取り付く島もないアシㇼパ。白石は助けを求めるように佇む杉元を見たが、冷めた目で谷垣を見下ろしていた彼は淡々と、

 

「アシㇼパさんがそうするっていうなら俺は止めないよ。……それに、」

 

 意味深に言葉を止めて、俺に流し目をくれてくる。言いたいことは何となくわかった。

 

「こいつが第七師団なら……なおさら聞きたいこともある」

 

 尾形百之助のこと。──そして俺は、花沢幸次郎と、その息子である勇作のことを。

 

「……うん」

 

 頷く。待ち人は、いまだ来らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 (故)二瓶鉄造と組んでレタㇻの毛皮を剥ごうとしてました、という情報を伏せられてコタンに迎え入れられた谷垣は、それなりに手厚い看病を受けているようだった。

 

「ユㇰオハウ、うまいか?」

「…………」

 

 ……まあ、第一の被害者であるアシㇼパからしてこんな感じなので、別にそれが判明していたところで問題なさそうな気もする。

 しかしマタギ云々以前に、私利私欲で本来捕まえるべき刺青囚人と手を組んで小さい子が大切にしている絶滅危惧種を銃で追い回すとか普通にゲロカスムーブだと思うのだが、意外と好感度って何とかなるもんだな。

 まあ、犯した罪の重さが好感度とか信頼度に直結する世界じゃないしねゴールデンカムイ。

 大体みんな犯罪者だから禊という概念が存在しない。治安悪っ。

 

 

「──カムイチェㇷ゚ アン クスケライ アオカイ シㇰヌアン ペ ネ──」

 

 夜も更けてきて。鮭のルイペをいただきながら、フチのウパㇱクマを聞く。

 アシㇼパの通訳を挟みながらだが、……これ鮭というよりは、砂金の話だな。アイヌの埋蔵金にまつわる話だ。

 

 ──鮭は神の魚とも呼ばれ、アイヌにとって重要な食べ物だった。

 ──しかし、北海道のあちこちで砂金が採られるようになったせいで、水が汚れて鮭が川をのぼってこなくなった。

 ──それが何年か続いたせいで、鮭が獲れず生活が苦しくなったため、話し合って砂金を採るのをやめた。

 ──集められた砂金は隠され、やがて時が経ち、その居場所を知るのはこの村の年寄り1人になった。

 

「……その年寄りものっぺらぼうに殺された」

 

 杉元が低く呟いて、フチの代わりにそのウパㇱクマを締め括る。

 

「え、」

 

 慌てたのは白石だった。

 

「いやいや……ちょっと待て、それが例の埋蔵金ってことか? 北海道各地から何年もかけて集められたって?」

「……このウパㇱクマは私も初めて聞いた、」

 

 声が微かに震えている。アシㇼパにもこの展開は予想できていなかったようだ。

 じゃあ。白石が再び口を開く。

 

「ばあちゃんの言い伝えが本当なら、俺たちが聞かされていた20貫より……もっとたくさんあるんじゃねえのか?」

 

 ──2万貫。現代の数値に直せば、75トン。

 

「……桁が違う、」

 

 そこでようやく、今までだんまりだった死にかけの谷垣が口を挟んでくる。……今さらだけどさ、こいつがいる中でこんな話して良かったんです?

 

「そのばあさんの言うように、埋蔵金の話はあちこちのアイヌの間で密かに伝わっている。……俺たちを率いている中尉は“情報将校”で、情報収集や分析能力に長けている」

 

 杉元が、ほんの一瞬息を呑んだ。

 

「鶴見中尉か」

「ああ……中尉の推測では……囚人が聞かされていた量の1000倍はある、と」

 

 今度は白石が面食らう番だった。

 ……面食らったというか、文字通りひっくり返っていた。なぜか隣に座っていた俺目掛けて。

 

「いって」「ごみんタマちゃん」

 

 いやなんでこっちに倒れてきた?

 

 

 

 

 ──刺青人皮の暗号は、地図になっているのではないか。

 

 早々にその推測に辿り着いた彼らが、人ん家の炉端に今まで集めた死体の一部を広げて、ああでもないこうでもないと話し合っているのを、少し離れたところで見守る。

 具体的に言うと、部屋の隅で伏せっている谷垣の近くで。

 この少し前に「ていうかタマさん金塊の話知ってたのか」「私が教えた」「なんで勝手に教えるのぉ?」というアシㇼパ杉元のやりとりがあったが、瑣末事である。

 

「──津山を捕まえるのに、我々は3人犠牲にした。最後は鶴見中尉がやつを仕留めた」

 

 今は、残りの刺青囚人の話をしている。

 そろそろか、と思ったところで白石が、

 

「……鶴見ってやつもかなりの曲者だな?」

 

 旭川の第七師団本隊を乗っ取るとか。

 それでどうするんだ、東京に攻め込んでクーデターか。

 

「…………」

 

 いかにも未従軍者らしい、ざっくりとした意見である。他ならぬ俺もそんな感じのことしか思い浮かばないからわかる。

 

「金塊がそんなにたんまりあるんならよお……お仲間と山分けして遊んで暮らそうって発想にならんのか? なんだって第七師団を乗っ取ろうなんて物騒なことを……」

 

 白石は純粋に不思議そうだった。

 

「なにがあった?」

「……旅順攻囲戦だろう」

 

 またもやだんまりの谷垣の代わりに、杉元が重々しく呟く。

 旅順攻囲戦。203高地。俺はミリオタでも歴オタでもなかったので、今までは教科書に載っている程度のことしか知らなかった。

 

「……情報将校だった鶴見中尉は、203高地攻略に否定的だったが、命令に従うしかなかった……」

 

 目を伏せた谷垣が、やたら流暢かつ丁寧に旅順攻囲戦における鶴見中尉の話を始める。まだ良い感じに劇場ってますなあ。

 

「勝利はしたが、旅順攻囲戦に投入された第七師団1万の将兵は、203高地を陥落させた頃までには……半分以下になっていた」

 

 目を伏せて、その時を待つ。

 

「この作戦の参謀長でもあった、元第七師団長、花沢幸次郎中将は……手柄を立てようと正面突破に固執し、多数の将兵を戦死させたとまで揶揄され──」

 

 ……いや、ここまで来てしまったらもう、何も変わらないか。

 

「──帰国後、自責の念から割腹して亡くなった」

 

 死んだ。花沢幸次郎は自害した。

 原作通りに。少なくとも、死因はそうだ。

 ……驚きも、悲しみもなかった。

 思い入れ云々以前に、幸次郎が満州鉄道の件で鶴見中尉に煙たがられていたことは知っていた。尾形の思惑がなくとも、花沢幸次郎の死は避けられなかった。少なくとも俺はそう解釈していた。

 

「政府部内では、花沢中将が自刃したのは部下たちの落ち度とし……勲章や報奨金はおろか、陸軍の中での我々第七師団は格下げ扱いされ、冷遇された、」

「……花沢中将は死んだのか?」

 

 話が一区切りついたタイミングを見計らって。囲炉裏の灯りが揺らめく壁を見つめたまま、言葉を放り投げてみる。

 

「息子の花沢勇作は? ……父が自刃したとなると、こちらもやはり戦死したか?」

「……!」

 

 わかりやすく息を呑んだ音がした。

 それは、こんな何だかよくわからない女が花沢中将の息子に覚えがあるという根本的な不可思議さについてか──あるいは。

 

「どうせ第七師団に入れたんだろう。あいつの読み通り」

 

 そこで、ようやく谷垣が途切れ途切れながら意味のある言葉を口にする。

 

「…………なんで、……あんたがそんなこと知っている?」

 

 壁から視線を離して、谷垣を横目で見遣る。揺れる瞳を見下ろして、その疑問に対する“答え”を与えてやる。

 

「私の名前は尾形タマ。尾形家の養子だった女だ」

「おが、…………!!」

 

 途端、谷垣が目を剥いた。酸素が足りない魚のように忙しなく口を開閉させて、けれど言葉にはならず、見るからに気が動転している。

 ──案の定というべきか、尾形は俺の存在を(少なくとも谷垣あたりの)周囲には明かしていなかったらしい。

 

「尾形百之助上等兵の──厳密に言えば、義理の叔母ということになるな。……生きてるのか? あいつは」

「っ、…………」

 

 生きているのか、とは聞いたものの、谷垣は同行していた造反組がヒグマに殺されて以降、小隊には戻っていないはず。こいつが得ている情報は『尾形上等兵は未だ意識不明の重体』止まりだろう。

 やはり、この時点で無事を確かめるのは不可能か。夕張で尾形本人に会わなくては。

 で、谷垣は何を言うのかと思えば、

 

「……尾形上等兵からあんたみたいな女の話を聞いたことはない……真実だという保証がない、」

「あ? なんだテメー」

 

 なぜか俺より先に杉元がぷちギレているが、やはり疑ってくるか。面倒くせえ、尾形が秘密主義なせいで。

 

「一兵卒の身内を騙って何の得があるのかというのは置いておいて……お前が信じる必要はない。嘘だと思うならそれでいい」

 

 どうせ、揃っての再会は釧路だ。手負いの谷垣源次郎が、ここで俺に対する疑念を募らせていようが何の問題もない。

 

「冷てえ男なんだな、尾形百之助」

 

 フォローのつもりか、炉端に頬杖をついて寝そべっていた白石が会話に参戦してくる。

 

「百之助は昔からそう。小さい頃からマジで本当に可愛くないクソガキで……」

「ボロクソ言うじゃん」

 

 しかし、よく考えると、客観的に見て俺と尾形の関係を証明できるようなものは何もないんだな。

 尾形が夕張で「こんなやつ知らん」とか言い出したらどうしよう。その場合、自分のことを尾形の家族だと思い込んでいる異常成人女性が爆誕してしまう。

 ヤバいな、ちょっと尾形からのなつき度を高く見積りすぎていた? でもあいつのなつき度って既存の概念だと計れないじゃん。

 

「……私のことなんか、もう忘れちゃっているのかも」

 

 まあ、記憶力が良いからそれはないと思うが、忘れるつもりでいたというのはじゅうぶん有り得る。

 思わずこぼした呟きに。

 

「…………」

「…………」

 

 湿度高めな沈黙が落ちる。やべ、なんかさらに尾形の好感度下がった予感する。俺またなんかやっちゃいました?

 湿っぽい空気を変えたくて、一番気まずそうな顔で沈黙を貫いている谷垣の枕元に手をついて、顔を寄せる。

 

「な、」

「そもそも信じていないようだから、こんな忠告は意味がないかもしれないが……」

 

 囁く。これは、保険だ。

 

「もし今後、尾形百之助に会うことがあっても私のことは口にするな。どうせ信じないだろうし、間違いなく面倒なことになる」

 

 谷垣は、近いうちにこのコタンで尾形(with二階堂)に再会し、尾形の勘違いゆえに戦闘にもつれ込む。その時に余計なことを言わないための、あらかじめの口止めだ。

 夕張で会うまでにまだまだタイムラグがあるのに、余計な情報を尾形に与えたくない。

 

「いいな」

 

 念押しすると、谷垣はなぜか青ざめた顔に引き攣った笑みを浮かべて。

 

「……その目……尾形上等兵にそっくりだ」

 

 うん? 拾った命が惜しくないのか?

 

「……血は繋がってない」

「ぅふッ」

 

 まだムチムチ度が足りない胸板をぺん、と軽く裏拳で叩いて、枕元から離れる。というか信じてねーんじゃなかったのかよ。

 膝を使って元いた席に戻る。すると、そのやり取りを聞いていたらしいアシㇼパが、澄んだ眼で

 

「百之助とタマは似てるのか?」

「……さあ? 似ていると思ったことはないけど」

 

 な、谷垣一等卒。

 ニコッと微笑みかけると、なぜか目を逸らされた。おい。お前がふっかけたんだろ。

 谷垣がとっさに信じなかったあたり、顔の作りは別に似ていなさそうだが。だから血が繋がってないんだって。

 はあ。杉元がため息をつく。

 

「尾形百之助……俺のこと恨んでるかな?」

「恨んでるだろうね。あの子は記憶力がいいし、かなり根に持つ性質だから」

「ヤダぁ……」

 

 俺は根に持つ性格じゃねえ(大嘘)。

 実際接してみて思ったことだが、対人関係では本当に引くほど記憶力がいい。俺が何気なくこぼした一言なんかを、冗談抜きで永遠に覚えている。俺は逆にそっちはあまり頭が働かないから、相性が悪いんだよな。

 

「また会ったら仲良くしてやって」

「無理じゃん?」

 

 本編で通算3、4回くらい尾形に本気の殺意を向けてきた男に、微笑む。

 というか、肝心な勇作殿の生死は聞きそびれたな。聞いて素直に教えてくれそうな雰囲気でもないか。

 まあ、結局のところ、実際に知りたいのはそこではない。それは幸次郎もだ。“何故”死んだか。……あるいは、“誰が”殺したか、だ。

 

 ──嫌な予感。

 ──どう足掻こうが、変わらぬ事象もあるのでは?

 

「──────、」

 

 昼間に考えたことがふっと意識を占有して、思考が止まる。──いや、少なくとも尾形の身内に関しては明確な反証がある、

 

「……トメは殺鼠剤で死んだ訳じゃない」

「……んぇ? タマちゃんなんか言った?」

「…………」

 

 拳を強く握り込む。

 目先の結末に怯えるな。

 結果として齎された事象そのものが変わらなくても、その過程が変わることに意味があるはずだ。

 トメは結局死んだ。

 しかし、尾形百之助に殺された訳じゃない。

 幸次郎の死も──勇作の死も。

 

「……ああ、」

 

 鶴見中尉の謀略、尾形百之助の執着。

 その向こう側の景色を見に行こう。

 

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