【完結】「不死身(物理)なら尾形を愛せるのでは」という仮説とその検証について   作:捕まえようとした蝶

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15話 我ら不死トモ

 ぎし、と木製ベッドが軋む音を、眠りという膜に包まれた意識の外側で聞く。

 ゆっくりと、浮上する。

 ……もう朝? いや違う。

 眠る直前に留めていた思考が、アドレナリンに変換されて脳味噌を叩き起こす。

 これは、

 

「…………っ、」

 

 瞼を開ける。

 ランタン片手に、隣に横たわるアシㇼパを覗き込もうとする細身の人影。

 ──家永カノ!

 

「……!」

 

 俺の覚醒に気づいた家永が身構えるより。

 俺が、枕元に備えていた銃を掴むほうが早かった。

 その横っ面に、渾身の力で振りかぶった銃床がクリーンヒット。それでベッドから転げ落ちる家永──と思いきや、やつはその直前に、俺の着物の袖を掴んでいた。

 

「ぐえ」

 

 2人揃って床に落下。

 え、俺には言い訳さえしてこない感じ? 勝てると思われたか。

 一手早く動いた家永が、無言でのしかかってくる。何とか掴んだままだった銃で応戦しようとしたが、今度は俺が遅かった。首筋に走る鋭い痛み。

 

「っ、!」

 

 視界の端に、細い指先に押し込まれる注射器のブランジャーが見えた。

 ──打たれた。何を?

 クソ、

 

「家──」

 

 その瞬間。

 ドパァン。

 ビンタを100倍強烈にしたような、何とも形容しがたい打撃音が鳴り響いて。

 次の瞬間には、家永が目の前から消えていた。代わりに視界を縦断する、ロングブーツに包まれた長い足。

 

「てめえ……何してんだ?」

 

 ──さすがにこの騒ぎで目覚めたらしい杉元が、静かな怒りを滲ませて、たった今蹴り飛ばした家永を見据えていた。

 それから足元にいる俺を横目で見て、庇うようにやや前に出る。優しい。

 慌てたのは家永のほうだった。銃持ってるとはいえ俺だけならともかく、杉元相手ではさすがに勝ち目がない。正面から突破するのは不可能と見たか、鼻血と涙を美しい顔に垂れ流しながら、

 

「っ、い、いいえっ、私はただ……先ほどホテルに戻られた時、お子様の具合が悪そうだったので、様子を見に来ただけなんですうっ」

 

 今さら言い訳。そしてどの口。俺のことは完全に殺しに来てたろうが。

 ただ、当の杉元の敵対メーターは既に振り切れてしまっているらしく。瞳孔の開ききった瞳で彼を睨みつつ、淡々と問うてみせる。

 

「おい……どうやってこの部屋に入った?」

「……え?」

 

 予想外の質問だったらしい家永が、目を瞬いた。いつもの癖か、あるいは何か策があってのことかは知らないが、こいつは隠し通路からこの部屋に入ってきたのだろう。

 俺のほうもそれがどうした、と思ったところで。

 

「つっかえ棒してあったのに──どこから入ってきた、って聞いてんだよ」

 

 家永が扉に目をやって。その怪訝そうな表情が、一瞬でわかりやすく凍りつく。

 俺もつられて視線を向ける。──先端を床板の隙間に噛ませる形で戸に立てかけられた、杉元の銃剣。よく見ないまま、扉の前で何をやっているのかと思っていたが、ちゃんと仕事していたのか。

 杉元が家永の気を引いてくれている隙に、立ち上がって銃を構える。その瞬間、扉が激しく軋んだ。誰かが、外側から強く叩いている。

 

「杉元! タマちゃん!」

 

 白石の呼ぶ声。場慣れしていない俺はとっさに振り返ってしまったが、杉元は家永から目を離さない。

 

「入れてくれッ、このホテルはヤバい! 地下の拷問部屋に死体があった!」

 

 曰く、女将は刺青囚人であり。

 以前話していた、『同物同治』の思想の下に患者を監禁してその肉を食らっていたという元医者の囚人だと思われること。そして、このホテルは彼の見初めた“獲物”を捕らえるための罠そのものであるということ。

 

「……こいつのことか……同物同治だかってのを信じて、人を殺しまくったジジイ……」

 

 で、別に入れてはやらない杉元。この状況で銃剣取って扉開けて〜だと隙生まれちゃうからね、しょうがないね。

 

「俺たちの肉も食うつもりだったのか?」

 

 杉元の詰りに、家永が微笑を漏らす。小鳥のさえずり、澄んだ鈴の音。誰もが聴き惚れる可憐な──他人から奪ったその響きで、彼が囁く。

 

「若さ、強さ、美しさ──充実した生への渇望……結局、ひとは無いものねだり。欲深い生き物なのです」

 

 でも、見てください。

 

「私は正しい、」

 

 恍惚と胸を張る家永に、今度は杉元が笑みをこぼす番だった。

 

「同物同治だなんて、そんな都合のいい話があるかよ……自己暗示だろ?」

 

 でも、人体におけるプラセボ効果って馬鹿にならないみたいですね。

 ただそんな現代知識はさすがにない煽り耐性ゼロ家永、こめかみに青筋を立てる。入念に塗りたくられた白粉にヒビが入ったのが見えた……ような気がした。

 

「だが……確かに人間ってのは欲深い生き物だぜ。俺はてめえの刺青を引き剥がして、持ち去るつもりなんだからよ」

「…………」

 

 家永の瞳から光が消え、

 

「あッ!」

 

 躊躇なく、アシㇼパ目掛けて放られる2本の注射器──いや、思い出した、これは杉元が防ぐ、ならば今の俺がやるべきことは。

 引き鉄を引く。

 

「ゔっ」「危っぶ」

 

 俺が放った銃弾は、絵画の裏に入り込もうとしていた家永の肩口を掠め。ほぼ同時に、彼が続けて投げていた注射器が、俺の首筋を掠めていった。

 ぎりぎりの攻防に俺が気を取られているうちに、いつの間にか家永は完全に姿を消していた。逃げられた。せめて、腕でもなんでも直撃さえしていれば時間稼ぎにはなったかもしれない。

 そのやり取りで俺がトチったことが悟られたか、立ち上がった杉元が振り返らないまま、

 

「白石! 女将が逃げたぞッ」

「えええ?」

 

 ばたばたと、扉の向こうの足音が遠ざかっていく。同室のキロランケを起こしに行ったらしい。

 そこでようやく余裕ができたのか、注射器をベッドに投げ捨てた杉元がこちらに呼びかけてくる。

 

「タマさん、大丈夫か」

「うん……」

 

 とっさに首筋へ手をやろうとして、やめた。代わりにただ頷いておく。何を打たれたのかはよくわからないけれど、今のところ、体に異変はない。

 だから、大丈夫。

 大丈夫──ということにしておいた。

 杉元こそ指は平気なのかよ。普通に血が出ているみたいですけど。

 で、ちょっとほっとした顔の杉元、今度はこの騒ぎでも眠ったままのアシㇼパに視線を移して、心配そうな顔に逆戻り。

 

「アシㇼパさん、」

「息はある。もしかしたら、薬……ガスか何かで眠らされているのかも」

「ガス?」

 

 不運な夫婦の旅行客も言っていたが、甘い匂いの正体はそれだろう。

 

「俺たちは目が覚めたが……」

「アシㇼパはまだ子どもだから、効き目を弱くしていたのかもね」

 

 家永の独白を適当にぼやかして伝える。

 彼はそうか、と相槌を打って、

 

「とにかく、女将を追わねえとだな」

 

 それに異論はないのだが、この複雑怪奇な殺人ホテルの構造なんて、原作を読んでいたってわかりっこない。現状、俺は白石より役に立たないおそれがあるという訳だ。

 

「あの人……どこから来て、どこに行ったんだろう?」

「あいつ、つっかえ棒してたのに部屋に入って来やがった。もしかしたら、やつしか知らない抜け道みたいなものがあるのかもな……厄介だ」

 

 きっちり役目を果たした銃剣を床から引っこ抜きながら、杉元がぼやく。よく研がれたその刀身を眺めながら、

 

「……タマさんはここにいて、アシㇼパさんの目が覚めるまで守ってやってくれ。俺はあいつの刺青を、」

 

 ドォン。

 突如、鳴り響いた轟音。同時に部屋全体が激しく振動する。

 

「うわ」

「キロランケの手投げ弾か!?」

 

 開けた扉から顔を出した杉元が吼える。確かこれは、キロランケの荷物から手投げ弾を拝借した白石の犯行だった気もする。

 俺も廊下の様子を窺う。煙臭い。奥のほうから白煙が漂ってきている。

 ──その靄の中から飛び出してくる、この時代では珍しい黒のドレス姿。

 

「……!」

「……向こうから来た、」

 

 隣の男が獰猛に笑んだ。

 その前に悠々と立ち塞がる杉元。直後、家永の背後の壁を突き破って、スーツ姿の巨漢が現れた。牛山だ。

 前門の虎、後門の狼。わかりやすく追い詰められた家永は、虎と狼を競わせて、漁夫の利と決め込むことを選んだらしく。

 背後に迫る牛山を示して、

 

「──こちらのお客様も刺青の囚人でございますよおおお!!」

 

 そう、高らかに叫んだ。

 

「“不敗の牛山”様ですッ」

 

 で、瞬きした次の瞬間には。

 どんがらがっしゃん。

 

「えええ」

 

 家永そっちのけで取っ組み合いを始めた2人が、当然のように壁をぶち壊して隣の部屋に転がり込んだのが見えた。何ここ、壁の薄さレオパレス並み?

 

「…………」

 

 ……え、この状況で俺はどうしたらいい?

 

「……とりあえず……白石たちと合流、」

 

 はい。

 もはやできることは何もない。

 まだ目覚める気配のないアシㇼパを抱えて部屋を出ようかとも思ったが、俺では逆に危険だ。とにかく、一番力のあるキロランケに彼女を回収してもらって、ホテルを脱出する準備をしなければ。

 

「白石! キロランケ、っ」

 

 いや、部屋どこだっけ!?

 兎にも角にも、廊下を回り込んだところで。

 数歩先の壁をまたもや襖か何かのように軽々突き破って、もつれ合う男2人が目の前に転がり出てきた。

 

「──は、!?」

 

 杉元と牛山!

 なんてタイミングの悪い。

 驚愕に立ち尽くす俺の目の前で、

 

「この野郎ッ」

 

 牛山の剛腕で天井、壁と交互に叩きつけられる杉元。取っ組み合いでそんななることある?

 ……で、その背中が床板にめり込んだはいいが、いや良くないが。

 

「えっ!?」

 

 隠し通路を塞いでいた部分だったようで、薄い板一枚を突き破った杉元は、そのまま階下へと真っ逆様。危ない、わりと俺のすぐ足元まで穴が空いたぞ。

 

「おわ〜〜〜……」

 

 ドップラー効果で音を引きずって遠ざかる断末魔(ではない)に、牛山は心底落胆した様子で、

 

「くそッこれからだったのに…………ん?」

 

 あっやべっ。

 牛山と、目が合った。頭の中で戦闘!ポケモントレーナーのBGMが鳴り響く。

 紳士牛山、明らかなクソザコナメクジを見逃してくれそうな雰囲気では…………無い!!

 

「…………」

 

 杉元との戦いが中途半端に終わったせいか、まだまだ戦闘モードでこちらに向き直る牛山に、仕方なく銃を構えてみる。

 ……え、俺、ここで不敗の牛山とタイマン勝負しなきゃいけないの? 銃一丁で?

 あんまりな状況に目眩がする。

 ──いや、目眩?

 

「あっ」

 

 単なる比喩に止まらなかったそれに、視界が歪む。平衡感覚が狂う。

 とっさにたたらを踏め──なかった。

 爪先が空を切り。

 

「嬢ちゃんッ」

 

 杉元はともかくただの女の俺が2階から地下に落ちれば死ぬと見たか、牛山が腕を伸ばしてくれる。

 けれど、銃を持っていた俺は、当然その手を掴むことは叶わなかった。

 

 

 

 

「うわ〜〜〜……」

 

 危険な浮遊感。

 ヤバい死ぬ、と思った、が。

 

「ぉぶぇ」「あああ悪いっ杉元っ」

 

 先んじて落下していた杉元の上に、ケツから堂々と着地することで難を逃れられた。いや、本当に申し訳ない。

 

「すまん本当に、怪我してないか、」

「あ、ああ……タマさんも、牛山から逃げてきたのか?」

「逃げてきたというか……」

 

 どういう質問?

 杉元をクッションにすること前提で穴に飛び込むの、ちょっと畜生すぎると思うんだけどそういうことすると思われている?

 

「アルコール臭いな……」

 

 あの高さから人間が落ちてきたらまず無事では済まないと思うのだが、さすがというべきか、杉元はピンピンしているようだった。危なげなく立ち上がる。

 ──問題があるのは、むしろ安全に着地できたはずの俺のほうだった。

 

「っ、…………」

 

 目眩と吐き気が治まらない。

 全力疾走でもしたみたいに心臓がばくばく脈打って、熱くもないのに嫌な汗が滲む。

 とっさに立ち上がれない。

 ……まずいな、これ。

 

「……タマさん?」

 

 俺の異変に気づいてしまったらしい杉元が、振り返って、鋭く呼びかけてくる。まずい、既にもう「単純に疑問を持っている」というような生温い響きではない。

 

「大丈夫か」「……うん」

 

 何とか、頷いた。

 頷いたけれど──同時に、これは駄目かもしれないな、と思った。

 原因は既にはっきりしている。家永が俺に打ち込んだ注射器の中身。攻撃手段として用いてきたので案の定というべきか、単なる麻酔薬の類ではなかったらしい。

 しかし今になって、このタイミングで効果が表れるなんて。ついてない。毒……神経毒、ヘビ毒か? 何にせよ、毒物ならば成人の致死量は優に超えていた可能性が高い。

 解毒は当然、不可能。

 何というか、辺見和雄の時も思ったが、主要人物補正が働いてない状態で主要人物っぽいことをするとこうやって普通に死ぬんだな。理解した。

 病院で同じように注射を打たれた月島軍曹は2時間動けなくなるだけで済んだが(動いてたけど)、おそらく俺は助からないだろう。うんと言いつつ動く気配のない俺に、杉元が核心をついてくる。

 

「あいつに何かされたのか」

「…………」

 

 ここで即座に酔いがうんたらとか言えたなら良かったのかもしれないが、一瞬流れた気まずい沈黙が全てを物語ってしまった。

 クソ、家永め(責任転嫁)。

 

「……すこし、疲れただけ……休めば大丈夫だから、」

 

 仕方ない。作戦変更だ。

 このまま待っても俺の体調が改善することはないだろう。そもそも時間がないのだ。

 何とか、早急に彼をこの場から離脱させなくては。──俺を見捨てさせてでも。

 空間全体が揺れている。

 

「先に行け、」

 

 俺はここで中毒死しようが焼死しようが圧死しようが生き返るが、杉元は無事では済まないかもしれない。ここは地下だ、地上部分が崩落してしまえば脱出するのにも手間がかかる。

 ……それに、彼が行方不明となれば、アシㇼパはとても心配するだろう。

 何かが爆ぜる音が背後で聞こえた。アルコールに引火する。炎が立ち上がる音がする。

 

「必ず、後で追いつくから……」

 

 別に嘘ではない。死亡フラグの建設と約束の履行を同時に行う高度なテクニックです。

 熱気が肌を舐めていく。時間がない。

 だから、もう行ってくれ。

 死ぬところを見られても困る。

 そんな思いを込めて、掴まれたままの手首をぐっと引き戻す。が、

 

「駄目だ」

 

 満身創痍関係なく俺よりも遥かに力のある彼は、微動だにしない仁王立ちのまま、そう言い放った。続けて、

 

「置いていけない。引きずってでも連れて行く」

 

 いや、引きずるのは勘弁してください。

 首を横に振るのすら億劫だった。

 引っ張られたってついていけない。だって、

 

「杉元、…………」

 

 もう、足が動かないんだ。

 目の前が霞む。うまく息ができない。

 項垂れたまま動かない俺を、杉元は黙って観察していたようだったが。

 

「ぁ……?」

 

 伸びてきた手が、背負ったライフルのスリングを慎重に肩から下ろす。そのまま、

 

「ぅわ」

 

 急激な浮遊感。密着した右半身から高い体温を感じる。顔が近い。彼に抱きかかえられている、とそこで気づいた。

 背中には銃があるせいか、横抱きだ。でもこれでは両手が塞がってしまう。アシㇼパは最悪、キロランケが運べばいい。けれど、成人女性とかいう邪魔なんてもんじゃない余計な荷物を持った状態で、原作通り脱出できるのか?

 不安と、後悔と、反省が自由にならない体の内側で渦巻いていく、

 

「むりだ、」

「無理じゃない。俺を誰だと思ってるんだ」

 

 食い気味に否定される。眩い晴天の瞳が得意げに俺を見下ろしている。

 ああ、こんなところで死ぬ訳がない。

 何故なら彼は、

 

「……ふじみの、すぎもと……」

 

 蚊の鳴くような響きだったが、彼の耳にはしっかり届いたらしい。晴れやかに笑んで、

 

「ああ!」

 

 優しいが過ぎるだろ。

 俺が本物の女だったら普通に好きになってたかもしれない。顔も良いし。

 助ける以前に自ら毒を盛って俺をブチ殺したどこぞのクソガキとは大違いですわ。

 

「ここから脱出するぞッ!」

 

 あそこまで言われたら仕方ない、不死身の杉元に身を委ねるしかない。薄れゆく意識に抗わず、瞼を閉じる。

 

「………………」

 

 ……あと、お願いだから腕の中の俺が死んでることには気づかないでくれよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 倒壊したホテル跡地にて。

 

「もうそんなに動いて大丈夫なのか?」

 

 ──結局、あの後。杉元たちがホテルを脱出し、安全な場所に腰を落ち着けた頃には、俺は既に息を吹き返していたようだ。とはいえ、目覚めたのは翌朝だった訳だが。

 折れた木材を持ち上げる背中に届いた少女の優しさに、微笑みで返す。

 

「うん。心配してくれてありがとう、アシㇼパ」

 

 諸々が死んでリセットされたおかげか、むしろ元気。

 しかし、アシㇼパは杉元に姫抱きされた俺をばっちり見たはずだが、特にそれについてはコメント無し。普通に心配されている。あれ、もしかして俺って杉元たちに女と思われてない?

 3人で瓦礫を漁る中、キロランケが戻ってくる。死傷者はまだ見つかっていないらしい。地下室にあるのかも、と言う彼に杉元は、

 

「──爆発の直前まで、家永も牛山も俺たちと同じ2階にいた、と白石が言っていた。地下に埋もれたとは思えん」

「2人とも、無事に避難できたかもしれないな……」

「そのハンペン捨てなさいよ?」

 

 ホテルの前で拾ったらしい、ちょっと焦げたハンペンを意味深に見つめるアシㇼパ。当然のようににべもない杉元。

 それを少し離れたところで眺める俺は──昨日の夜のことを考えていた。

 

 ──杉元佐一は、尾形タマに危険が及んだ場合、自らの身の安全は度外視で助けようとしてしまうのだな。

 

 アシㇼパにその傾向があることは何となく把握していたが、まさか杉元もとは。

 若干、予想外だった。信頼ゆえなのか、アシㇼパのことを考えてか、あるいは彼の良心に基づいてか。まあとにかく。

 

 ──もう少し、身の振り方を考えるべきか。

 

 俺の死に戻りに、残機1の彼らを巻き込んでしまっては元も子もない。死ぬならもっと見えないところで。そういうことだ。

 会話の主題はいつの間にか、姿の見えない白石由竹に移っていた。

 

「そういえばシライシあいつ……どこ行った?」

「ススキノだろ。あのエロ坊主……」

 

 杉元の悪態に呼応するように、

 

「だが、そのススキノで俺は、囚人の情報を掴んできたぜッ」

 

 ぴこっと瓦礫の山から生えてくるタコ坊主。ススキノに行ってたことは否定しないんかい。

 

「網走の計画だって上手くいく保証はないんだからよう、」

 

 お前がそれを言っていいのか脱獄王。

 

「道すがら囚人の情報が手に入れば、そこへ向かってみるべきだと思うんだよな!」

 

 白石の神出鬼没のクズっぷりには慣れっこらしい杉元、顔色を変えずに、

 

「……で? その囚人はどこにいる」

「日高だ」

 

 ちなみに札幌から日高への道のり、約100キロあるそうですよ。

 

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