【完結】「不死身(物理)なら尾形を愛せるのでは」という仮説とその検証について 作:捕まえようとした蝶
「痛あッ」
藪の中から、白石由竹の悲鳴。
手近にいた俺、アシㇼパ、杉元がそちらを見遣る。離れた場所にいる尾形が、ワンテンポ遅れて一瞬だけ横目をくれてきた。
呼びかけてみる。
「どうした白石」
「オソマをしようとして肛門に小枝でも刺さったのか?」
「いや、金玉を笹で切ったんじゃないか?」
杉元、絶妙に痛そうな例えやめろ。既に無い玉がヒュンしそうになった。あ、
「……タマだけに?」
「タマさんは相変わらず自分の名前を下ネタに接続することに一切の抵抗がないなあ」
「楽しそうだな、タマ!」
ちなみに、あれからだいぶ歩いてこの辺りはもうほとんど平地。ナキウサギはとっくに獲れなくなって、空気が夏の森特有のぬめった生温さを含んでいる。
「いや、」
白石が、ようやく藪から這い出してきた。青褪めて、汗の滲んだ顔。しかも、坊主頭から流血までしている。
何事だと思ったところで、左手をこちらに掲げてみせる。その指先につままれた何か細長いもの、
「転んでヘビに頭噛まれた」
「ヘビ!?」
真っ先に反応したのはアシㇼパだった。見たことのない憤怒(?)の表情で、錆びついた金切り声を上げる。
その瞬間、頭の中で原作知識と既存の生物知識とが混じり合い。弾き出されたのは。
「それ……マムシ?」
「毒ヘビじゃねえか!」
「そのマムシは死んでるのか!? 死んでるのかッ!?」
特徴的な三角頭と、斑模様。
一瞬で杉元の背中に隠れたアシㇼパが、威嚇する猫みたいな勢いで白石に対して捲し立てる──のを、真横で見る。
「……あれ、タマさん?」
「ヘビは嫌いだ」
同じように背中にしがみつく俺に気づいたのか、杉元が振り返って怪訝な顔をしてきたが、嫌なもんは嫌。トカゲもウナギも平気だが、ヘビだけはなんか……生理的に無理。
別に女になったからじゃない。ヘビは前世から大嫌いだった。いやそもそもこれが単なる感情由来のものであると判断することがそもそも誤りなのでは、これはおそらく一種の情動反応と考えていい、ヘビに対する恐怖心は人間以外の動物にも先天的に存在しているという米国での実験結果もあり、
「ダイジョーブ、死んでるよ……石でぶっ叩いてやったわ」
「おい馬鹿そこら辺に捨てるなまだ生きてたらどうする」
「タマさんッいきなり全体重掛けられるとさすがに重いんだけど!?」
とっさに体を地面から離したいあまり、首だけを支えにぶら下がる形になり、杉元がさすがに苦悶の声を上げてきた。
ああ、とうとう来てしまったか、マムシのエピソード。勘弁してくれという感情が強い。
杉元と同じように苦しげな呻きを上げた白石が、目の前で地面に倒れ伏す。
「咬まれたとこすげえ痛くなってきた……毒で死ぬかも、アシㇼパちゃん吸い出してくれ!」
かざした手の下、患部が腫れ出している。それを見てまたゾワッ。ヘビほどではないが、毒のある生物全般がそもそも不気味で苦手である。
「色々と気持ち悪いから嫌だ!! マムシの毒では滅多に死なないから我慢しろ」
薬草を探してくる、と言い残し、脱兎の如くその場から走り去るアシㇼパ。そこに、騒ぎを聞きつけた尾形が入れ替わりのようにやって来る。
「何やっとるんだ」
「ちょ、尾形、助けろ、首絞まってる!」
「白石の馬鹿が自分を咬んだマムシをその辺に投げ捨てた、どこにいる!?」
「え? 馬鹿?」
三者三様阿鼻叫喚な大混乱の中、顔を顰めた尾形は最終的に、杉元の背で子泣き爺と化したままの俺を見て。
「……、いいからこっちに来い」
手を伸ばしてきた。
普段なら、杉元より体格に劣る尾形に体重を預けるなんて危険な真似は躊躇うところだが、今はそうも言っていられない。──飛び移る勢いでしがみついたが、尾形は存外、危なげなく受け止めてきた。
横抱きというよりは、腕に座るような姿勢になる。俺が軽いのか思った以上に尾形の腕力があるのか、涼しい顔をしている。宥めるように背中を軽く叩かれた。
「“ヘビ嫌い”は相変わらずか」
「…………」
「ええ、そんなにムリなのぉ?」
自然豊かな実家の周辺では、ヘビもよく出た。前世ではそれなりの都市住まいだった俺は野生のヘビなど1、2回見たことがあるかないか──というレベルだったので、今世で悠々と畑にのたくるヤツを見た時は心底面食らったものだ。そのたび尾形に泣きついていたので、当然ながら彼はそれを知っている。
「だから石でぶっ叩いたってぇ」
「死んだと言ってるぞ」
「白石の言うことなんか信用ならないッ」
「さっきからめちゃくちゃ辛辣じゃない?」
単なるヘビならまだしも(それもじゅうぶん嫌だが)、マムシは毒ヘビだぞ!?
こいつらがなぜ平然としていられるかのほうがわからない。理解不能だ。有り得ない。人間じゃない。
「いや、そんな話よりマムシの毒だって! ねえ、タマちゃあん!」
「…………」
白石が泣きついているが、この状況ではもはや知ったことではない。顔を背けて、尾形の外套に鼻先をうずめる。わかりやすい拒否の態度に、杉元が軽い笑い声を上げた。
「お前がマムシをそこらに捨てたせいでご機嫌斜めみたいだな」
そんなあ、と嘆く白石。このことが無かったら毒を吸い出してやった──だろうか?
いや、こんなことでうっかり死にでもしたら洒落にならんな。やっぱりいいや。
「じゃあもうお前らでいいや、毒を吸い出してくれよぉ、チュッチュと!」
「…………、滅多に死なねえってよ」
“キショい”の一点詰めではなく、理詰めで処置を拒否する杉元。でも純粋にオノマトペがキモい。
「まれに死んだのがみんな頭を咬まれた奴だったらどうすんだよ! 網走監獄を知り尽くしていて潜入できるのは俺だけだぞ、俺が死んだら困るだろ!? だからホラッ、尾形ちゃん、吸ってくれよぉ」
原作通り要求を振られた尾形、この状況で何を言うのかと思えば。
「こいつがしがみついて……離れないから」
うーん、百理ある。
宣言した通り、アシㇼパは日が暮れる前に大量の草っ葉を抱えて戻ってきた。
「私たちが“ノヤ”と呼んでるヨモギと、ショウブを採ってきた」
既に熾していた焚き火に、容赦なくそれらをぶち込んで。時を経て冗談みたいな形に腫れ上がった白石の頭頂部を、そこに近づけさせる。絵面だけ見ると焼き土下座の強要。
「これらを火に焼べた煙をヘビに咬まれたところに当てると、傷が良くなる」
「もぐさのお灸みたいなもんか」
冷静な豆知識が交わされるその間で、燻されて盛大に咳き込む白石。
「苦しいッ、頭は無理でしょコレ」
「白石の燻製ができる」
「タマ、シライシの肉は不味いぞ」
食ってきたかのように言うじゃん。
アシㇼパはヨモギの香りを嗅いで昔のことを思い出したのか。懐かしそうな顔で思い出話を語ってくれたが、やがてはっとして、
「杉元! さっきのマムシの頭にヨモギの茎を刺してくれたか?」
「ああ。やっといたけど、あれどういう意味があるの?」
「悪さをしたマムシはああすれば生き返らないとフチが話してくれた」
「そうなんだ……タマさんは頭を捩じ切ってチタタプにしろとか言ってたけど……」
「…………」
アイヌの伝承を否定するつもりはないが、生命科学に基づいて考えれば、脊椎動物は全身を微塵切りにすれば確実に死ぬ。
俺は皆のためにもより安全な策を選択しようとしただけだ。何も、おかしくない。
「フ……」
おい、何ワロてんねん尾形。
アシㇼパがヨモギ汁の湿布を体積が3倍くらいに増えた患部に貼ってやるのを視界の端に捉えつつ、隣の尾形を睨んでおく。
「あとはこうして湿布しておけば、必ず良くなる」
「ほんと? 良かった……」
それで、とりあえずマムシ騒動に一区切りついたかと思えば。いきなり顔に妙な影を落としたアシㇼパが、でも、と口を開いた。
「……咬みついたのがただのマムシじゃなく、“サㇰソモアイェㇷ゚”だったら……白石は助かっちゃいないんだろうなあ……」
「なんだい? それは」
アシㇼパ曰く。
サㇰソモアイェㇷ゚──夏に言われぬもの──とは、胴体が丸太のように太く、その姿を見たものは悪臭で髪が抜け落ち、全身が腫れ上がるという恐るべき妖蛇のこと。
“ヘビ”と口にすると出てきてしまうので、便宜上“夏に言われぬもの”と呼ばれているらしい。北海道のヴォルデモートかよ。
この辺り、ちゃんと読んだはずなのにあまり覚えていないのは、嫌い故に記憶から意図的に抹消していたのかもしれない。
で、こんな話を聞くだけでも俺はぞっとするのだが、不死身と脱獄王は平気な顔で、
「夜に口笛を吹くとヘビが来る、みたいな話だね」「ぴー♪」
「わぁああ! やめろッ」
「…………」
「タマ、苦しい。外套の中に頭を入れてこようとするな」
当然、取り乱すアシㇼパ。俺は……俺は、別に取り乱してなんかいない。大人だから。
「アシㇼパちゃんでもここまで苦手な生き物がいたとはなぁ。ぴっぴっ♪」
「やめろ!!」
「あ、ほら、タマちゃんも。ぴー♪」
「殺すぞ」
「え?」
クソ坊主が。呪われろ。
思わず本気の舌打ちも漏れる。こいつが敵だったら今ごろ三十年式で蜂の巣にしているところなのに。竦み上がる白石を不憫に思ってか、巻き添えを食うのを恐れてか、尾形が珍しくも助け船を出してくる。
「……あまりこいつをヘビの話でからかうな、顔面に良いのを一発もらうハメになるぞ」
「もらったことあるのぉ? 尾形ちゃん」
ありましたねそんなことも。
あの尾形百之助と言えども、一応は普通の悪ガキとしての側面も持ち合わせていたらしく、一度だけ生きたヘビを使ったドッキリのようなものを仕掛けられたことがあった。結果は……まあ前述の通りである。
「昔の話だろ……」
「あるのかよ」
……というか、そろそろ件の大蛇が登場してくるところなんじゃ──と思ったところで。
尻餅をついた杉元と白石の背後で、ゆらりと立ち上がる黒い影。夜目の利く俺は、暗闇の中でもそいつとばっちり目が合って、
「ぎゃーッ」
「サㇰソモアイェㇷ゚だ!!」
「……!!」
カエルの如く竦み上がってしまった俺を、半ば引きずるようにして撤退を手伝ってくれる義弟。サンキューオガタァ!
「アマニュウだ。樺太ではこの草をヘビが嫌うと言われているので、帯や襟に挟んだり、手に擦りつけたりする。……タマも使え」
「ありがとう……」
命からがら、サㇰソモアイェㇷ゚から逃げ出して。アシㇼパが慌てて掻き集めてきたヘビ除けの薬草のおこぼれを頂戴する。
アマニュウ。聞いたことのあるような、ないような名前だが、見た目は典型的なセリ科だ。匂いも大体そんな感じ。
はああ。寿命が縮んだ。
ヒグマも第七師団も不死身の杉元も、ヘビに比べれば全く怖くない。サㇰソモアイェㇷ゚を見た後では、はっきりそう思う。
「百之助ぇ、ヒグマでも何でも私が倒してやるから、ヘビだけは……頼んだぞ……」
「昔からそうしてやってるだろ」
「うん……」
「だからもうその変な草を俺の服に入れるのをやめろ」
俺がせっかくもらったアマニュウをお裾分けしているのに、詰めた端からポイ捨てしていく尾形。ニオイが気に食わないらしい。
「変な草じゃない、アマニュウだ」
「……何でもかんでもあの娘の言うことを鵜呑みにするな」
呆れたご様子。良いだろ別に、こういうのに縋りたくなるくらい嫌いなんだって!
「この土地で毒のあるヘビはマムシだけだから、その主かもしれないな……ウエペケㇾでは、マムシは盗賊が死んだ魂の成れの果てと言われている。嫌われているんだ」
アオダイショウは良い守り神だけど。
アシㇼパはそう付け加えたが、俺はアオダイショウも普通に大嫌いですね。
翌日、釧路湿原にて。
仕掛けた罠を見て回る、というアシㇼパ杉元に、普通に置き去りにされた俺たち3人は。ただ、野原に並んで座って時間を潰していた。
尾形は当然喋らず、俺も別に話題を提供しようという気にもならず。静寂だけが流れる。ただ、俺は特に尾形との無言の時間には慣れているし、構わないのだけれど。
「……おなかすいたね」
口から産まれたような男だけあってか、ただ1人この沈黙に耐えられなかったらしい白石が話しかけてくる。で、
「…………」
尾形百之助、迫真のシカト。
真隣にいるのにマジで一瞬たりとも視線を寄越さないあたり、プロ黙殺師の風格が窺える。明確にいないもの扱いである。
白石がそんな尾形を飛び越してクゥーンみたいな目線を向けてくるが、見えていた地雷に突っ込んだだけだ。だから仲良くなれないって言ったじゃん?
まあ、このクソ不味い空気を放置しておくのも何なので、
「ここは何が獲れるんだろうね」
「……水鳥の類だろうな」
ボールが返ってきた。白石のことは自然に無視するのに、俺とは会話するのか。
それは白石も思ったらしく、やっぱりクゥーン顔で尾形を見ている。うーん、なつき度の問題かな?
「あ! 良かった、帰ってきた」
タンチョウヅルを抱える杉元と、その隣のアシㇼパの姿に、あからさまにほっとした顔をしてみせる白石。もはや俺が気まずい。
一応、フォローしておくか。昨日のことは別に許してないけど。許してないけど。
「白石」
「え……ナニ?」
「大丈夫。私も最初の8年くらいはずっと無視されてたし」
「いや俺そんなに長く尾形ちゃんといるつもりないけど」
特別天然記念物(予定)の大湿原のど真ん中で、即席の囲炉裏を囲む。
現代だったらSNSが炎上では済まないSDGsに中指立てる大凶行だが、明治時代なので無問題。オラ、ワクワクしてきたぞ!
いざ、獲ってきた鶴の汁を実食。
……と、なったはいいが、
「う〜ん……」
「泥臭いような、むっとする変な匂いがするだろ?」
「なんでタンチョウヅルなんか獲ったんだ!」
「百之助おいしい?」
「不味い」
黙々と食べているので気に入ったのかと思ったが、普通に不味いらしい。
うーむ。そうだな。
何というか。魚の味ならともかく、獣からすると本気で傷んでんじゃないか、と疑いたくなるような、ぬめっとした風味である。
好んで食べるようなものではないな。
「私も普段は獲らないけど、杉元とタマが『北海道の珍味を食べ尽くしたい』といつも言っていたから……」
「え?」
「言ってねえだろ、俺はそんな目的で北海道を旅してるんじゃないんだよ!」
なぜか当然のように巻き込まれて反応が遅れた。隙……見せちまったな……
「……、杉元は……どうして金塊が欲しいんだ?」
真面目な顔になったアシㇼパが、控えめに問うてみせる。……杉元が小樽で姿を消した時にそんな話をした覚えがあるが、結局あれから尋ねていなかったのか。
あれ、まだ言ってなかったっけ。
微妙な乙女心を解さない杉元、至って軽い調子で話し始める。
「戦争で死んだ親友の嫁さんをアメリカに連れて行って──目の治療を受けさせてやりたいんだ、」
は。──おもむろに。尾形百之助の嘲笑が、その呟きの語尾を食い散らした。
「“惚れた女のため”……ってのは、その未亡人のことか?」
「…………」
「え? そうなの?」
シライシ空気読め!
またもや俺には修復不可能な微妙な空気が流れてしまったが(だいたい尾形のせい)、それをブチ壊したのは他でもない、
「フン! トリ! フンチカㇷ゚!」
上衣の裾をひっくり返してつまみ、翼のようになったそれをばたつかせながら舞うアシㇼパ。
「あ……アシㇼパさん、どうしたの?」
「サロルンリㇺセ。釧路に伝わる踊り」
その動作──ホパラタについての豆知識が入るが、明らかに杉元たちの関心はその踊りの内容ではなく理由に向いている。
「へえ……どうして急に踊ったのぉ?」
「別に……鶴食べたから」
あからさまなアシㇼパと杉元のやり取りに、厄介カプ厨おじさんみたいな笑みを浮かべる尾形──が、それを途中でキャンセルして。
「こっちに誰か来るぞ」
そう、低く呟いた。
──駆け足でやってきたのは、再会は勇払ぶりな占い師インカㇻマッと。そもそもはじめましてなアイヌの少年、チカパシ。
しかし、それまで彼らを引率していたはずのドジスケベマタギの姿が見えない。
まあ、俺はその原因については既に知っているのだけど。
「遠くからアシㇼパが踊ってるのみえた、やっ、っと見つけた!」
額に汗を滲ませるチカパシの発言には妙なタメがあった。小樽から相当苦労してここまでやってきたらしい。
「私を探していたのか?」
「谷垣ニㇱパと小樽から探しにきた!」
「谷垣?」
「…………」
隣の尾形が無言でうつむく。影の落ちたその横顔。ああ、まだ小樽での造反組殺しの誤解が解けていないんだっけ?
俺が尾形の顔色を窺っている間にも、チカパシは迫真の表情で、
「でも……谷垣ニㇱパが大変なことに!」
「一体、何があったんだ?」
「私たちを巻き込みたくないと言って……はぐれてしまいました、昨日から追われているんです」
追われている。──インカㇻマッ曰く、地元のアイヌたちに。
谷垣は、近ごろ現れる家畜や野生の鹿を惨殺して粗末に扱う“カムイ穢し”の犯人だと誤解され、憤る彼らに今も追い回されているらしい。
うん、なるほどね。
出、出〜!! 姉畑支遁奴〜!!
「そいつ……詐欺師の鈴川聖弘が言ってた刺青囚人かも」
俺は当然として、姉畑の哀れな被害獣たる鹿を見かけたアシㇼパ杉元にも、真犯人についての心当たりがあった。……当時は深く考えなかったが、わざわざ雄鹿ってよりヤバくない? 鳥じゃないんだからさあ。
「……アシㇼパさん。俺たちで犯人を取っ捕まえて、阿仁マタギを助けに行こう」
そういうことになったのはまあ、いいのだが。背後を振り返る。あれ。
「……百之助がいない」
「え?」
いつの間に。
インカㇻマッの話に気を取られていた。さすが、腐っても手練れの狙撃手。適当に流して、手でも繋いで捕まえておけば良かったか。
──谷垣源次郎のところに行ったのだろうな。
追いかけたほうがいい。
しばらく出番の無かった三十年式を構え直す。俺に探し出せるだろうか。
「ついでに白石もいないぞ」
「それはまあ……いいや」
「いいんだ?」