【完結】「不死身(物理)なら尾形を愛せるのでは」という仮説とその検証について   作:捕まえようとした蝶

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1907年
7話 うちのヒャク知りませんか?


「寒い」

 

 ──背後から聞こえた、蚊の鳴くような呟きに、思わず歩みが止まった。

 若い女の声だった。

 聞き覚えのある。

 

「…………」

 

 一瞬止めた足を、再び進める。さくさくと、軍靴で積雪を踏みしだく音が木立に響く。

 

「一面、真っ白だ」

 

 ……声が、気配が、ついてくる。

 けれど、聞こえる足音はひとつだけ。聞こえないふりで歩みを早める。白い吐息が純白の世界に広がる。

 その瞬間、

 

「っ、」

 

 深い黒鳶色をした、癖のない長髪が視界の端を流れていった。──追い抜かれた。

 気づいてぎょっとしたが。“それ”は至って平然とした様子で、こちらの前に立ちはだかるようにして、鉛色の空を仰いでいる。息ひとつ、髪のひと房も乱れていない、完成し尽くされた立ち姿。

 

「茨城はあまり雪が降らないから良かった」

 

 華奢な体だ。朦朧と思う。ほっそりとした手足に透き通る肌の白さが相まって、実に儚げな印象を受ける。まるで硝子細工が人間の形をしているかのようだ。

 けれどその背には、繊細な容姿に似つかわしくない物騒な火器がごく自然に担がれている。

 

 ──スペンサーM1860。

 

 初めて手にした銃の名前を、陸軍に入隊してようやく知った。

 そう。この小銃はもともと祖父の物で、それを自分が持ち出しただけだ。記憶の中で銃と“それ”がどうしても結びつかない。撃っているところを見たことがあっただろうか。思い出せない。

 しばらく考えて、実家に残した唯一の痕跡だからだ、と思うようにしていた。入隊する際に私物はあらかた処分したが、この銃だけは捨てられなかった。

 

 ──常にそうであったように惜しんだり、悲しんでいるような様子はなかったけれど。

 あれから、いなくなったきり便りも返さない男を想って、あのスペンサーM1860を撃ってみたりもしたのだろうか。

 

「……尾形、」

 

 “それ”は、無言でこちらを眺めていたようだったが。不意に呼びかけられて、少しどきりとする。

 

 ──意識を向けすぎたか。

 

「チッ……」

 

 心を開いてはいけない。存在を認識してはいけない。話を聞いてはいけない。──でないと、取り込まれる。

 明らかにこの世のものではないのだから。寒さには慣れたはずの体に、悪寒のようなものが走る。

 “それ”が視え始めたのは、いつ頃だっただろうか。少なくとも、第七師団に入ってからだったように思う。

 最初は、視界の端に映る程度だった。軍服姿の坊主ばかりの兵営で、戦場で、若い女の姿は目立つ。けれども、最初は見間違いだと思った。思おうとしたのだ。

 それが今は、こんな近くに。

 

「…………」

 

 うつむいたまま、“それ”の脇を通り抜ける。目を合わせないように。目指す場所は、もう少し先だった。

 吐く息が白い。──この辺りでいい。銃剣を鞘から抜いて、手頃な木の幹へ突き刺す。

 

 ──死んだのか?

 

 ……何故そう思う?

 定期的に届いていた手紙はいつの間にか送られてこなくなっていた。昨日の晩、全て燃やそうとして、できなかった。結局、数枚の便箋は小さく折り畳まれて軍服のポケットに入っている。

 そうだ、手紙がぱったり止んで。その辺りからはっきり視えるようになったのだ。だから、こんな馬鹿げたことを。

 鴨鍋を作る華奢な後ろ姿が、あんこう鍋を作る母のそれと重なって、ぐちゃぐちゃになる。愛した男の好んだ料理を作り続ける女。それで、最後には。

 脳裏で、細い何かが不規則に揺れている。足だった。白い両足が、ぶらぶらと、

 

 ──いや、あいつが死ぬ訳がない、

 

 だって、あの女は。

 畳の上で握った手の温度を、着物の膝に染み込む血の匂いを、布団に散らばる髪の香りを、今も思い出せる。──ああ、

 

「尾形」

 

 また呼ばれる。

 お前も尾形だろう、と愉快な気持ちになることはできなかった。

 そんな呼び方をされたことが今までにあったか? 明らかに不自然だ。ほんの小さい時分から共にいた者を、「尾形」などとそっけなく呼びつけるものだろうか?

 そもそもだ、自身も同じ苗字であるはずなのに。事実、思い出せる限りでは「百之助」と呼ばれていた。そのはずだ。

 尾形──妙に突き放すような、一歩引いてその様を眺めているような、いやに達観した響きが込められている。そんな気がするだけかもしれない。

 

「俺のこと無視するなよ、」

 

 淡々と、荒っぽい喋り方。

 これには身に覚えがある。幼い頃は大体いつもこんなふうで、昔は女というものは成長してから“なる”ものだと思っていた。実際、大きくなってからは、田舎の小娘なりに淑女らしい振る舞いを見せたりもしていたのだ。

 軍に入って、大抵の少女はそうではない、ということを姉妹のいる同胞から聞いて、少し驚いたものだ。

 

 ──……今となってはどうでもいい、

 

 内心で独り言ちる。

 もう、“本物”に会う機会などないのだ。二度と帰らないと決めた以上、かつてのあれも、これも、確かめる術を失った。だから、思い出す必要もない──はず、

 

「…………」

 

 銃剣を支えに小銃を構える。表尺越しに、360メートル先の標的を見やる。

 特徴的な刺青をした上裸の男──と、焚き火を挟んでその背を眺める軍服の男、アイヌの少女。

 刺青の頭に照準を合わせ、引き鉄を、

 

「殺すのか?」

「ッ、」

 

 顔のすぐ近くで声がした。

 気配を感じる。覗き込まれている。鳥肌が立つ。やめろ。声を聞くな、目を合わせるな、

 

「……悪霊め、」

 

 そうだ。悪霊なのだ。

 俺を取り殺そうとしている、

 

「尾形」

 

 どこかで聞いたような声音に、冷たい脂汗がこめかみに滲んだ。やかましい、黙れ。

 白い指が、頬を撫でる。

 ぬるついた感触。鉄の匂い。……これは、血? あの時腹に突き立てた、いや違う、錯覚だ、こんなものは有り得ない!

 何もかもが悪い夢で、幻、

 

「お前のことが心配なんだ」

 

 ──は。呼吸が、止まった気がした。

 確かに、聞いた覚えのある囁きだった。

 ……何故?

 “それ”はただ、黙って微笑んでいる。その気配がする。脂汗が、頬を伝って落ちた。

 ああ。

 

「…………タマ、……」

 

 絞り出すように呟いたその名は──三十年式歩兵銃の鈍い銃声に掻き消されて、彼自身の耳にさえ届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……」

 

 ──何だか、妙な夢を見ていた気がする。

 

「…………?」

 

 夢の内容に気を取られたせいか、今まで自分がどこで、何をしていたのかを一瞬思い出せなかった。ああ、頭がぼんやりする。

 ええと、俺は確か、茨城から北海道まで渡ってきて──小樽までは来たのだったか。

 それで、小樽の森の中で……中で?

 

「あっ! 目を覚ましたぞ、杉元!」

 

 ……スギモト?

 溌剌とした少女の声で紡がれた覚えのある名前に、思わず瞼を持ち上げる。

 間近で、声の主と目が合った。透き通った綺麗な瞳が瞬く。緑が僅かに散った、深い青の虹彩。あれ、これ、どこかで見たような、

 

「…………あ、?」

 

 艶やかな黒髪を覆う、複雑な紋様が描かれたマタンプㇱ。豊かな白い耳たぶで揺れる銀の耳輪。父から受け継いだテタラペ。

 伝統的なアイヌの衣装に身を包んだその少女の名を、俺は聞くまでもなく覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……え、茨城からひとりで?」

 

 椀からくゆる湯気の向こうで、顔に大きな傷跡のある男が小さく目を瞠った。

 雪に埋もれて行き倒れていた俺を見つけた少女の代わりに、その身をわざわざ掘り出してコタンまで運んでくれたという彼もまた、俺は名前を知っている。その来歴も、今から待ち受ける未来さえ。

 ──杉元佐一。不死身の杉元。

 軍人でもない女単独の遭難者とあって、今は警戒している様子はないが、敵に回したくはない人間の1人だろう。

 でもまさか、小樽に来て早々に出会えるなんて。──そう。俺は北海道に来てまず、この2人を探していたのだ。

 尾形は第七師団所属だが、脱走兵になることを考えると師団は頼れない。すると、多少手間はかかるが、一度は仲間になるアシㇼパ杉元経由で接触を試みたほうがいい。

 いや、他にも色々とパターンは考えられるが、これが一番平和かなって……

 

「うん。……この鍋おいしい」

「鹿肉で作ったユㇰオハウだ。元気が出るようプクサとプクサキナも入れた。たくさん食べろ」

「ありがとう」

 

 俺の隣でニコニコしているのは、言うまでもなくアシㇼパ。こちらも警戒心ゼロ。若い女が1人で銃担いでるのに。

 まあ、とりあえず出された食事は有り難くいただいておく。鹿肉かあ。前世ではジビエ趣味などなかったので初めて食べる気もするが、普通に牛肉っぽい感じ。ヒンナです。

 

「……茨城なんてあんまり雪も降らないだろうに、怖くなかったのか?」

 

 杉元が、また控えめに口を挟んでくる。ちょっと待て、肉噛みきれない。

 

「確かに……この時期にひとりで山に入るなんて、無茶苦茶なシサㇺだ」

「関東から女の人が単身でこっちまで渡って来られてる時点ですごいけどな……」

 

 鹿肉の筋に苦戦している間に、2人はどんどん話を進めてしまう。最終的に半ば無理矢理飲み込んで、

 

「ん、……銃がある」

「そういう問題でもないぞ。……雪に埋もれて動けなくなっていたし。たまたま私たちが見つけたから良かったものの」

「…………」

 

 汁を啜りながら思う。

 ──たぶん、既に“良くなかった”のだろう。山中を当て所なく歩いていたら急に吹雪いてきたのは思い出せたが、そこからの記憶がない。きっと、また死んだ。

 でも、息を吹き返したタイミングでたまたま2人に発見された。不幸中の幸いだ。

 死体がヒグマに食われなくてヨカッター。

 

「……何か、事情があるんだろう?」

 

 うむ。聞かれてもないのに自分からべらべら喋るのもなー、と思って最低限の情報だけを小出しにしていたのだが、普通にアシㇼパに気を遣われてしまった。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。私たちに手伝えそうなことなら話してくれ。力になりたい」

 

 良い人すぎる。

 こんな、怪しくないところを探すほうが難しい和人の女に協力してくれるなんて。これは高潔ポイント高いですよ。

 うーん、ここまでされて変に濁すほうが怪しいよなあ。アシㇼパはともかく杉元からは疑われたくないんだよなあ。

 

「……たぶん、手伝えるようなことはない。私にも明確な解決法がある訳じゃないから」

 

 一応、ワンクッションは入れておく。“たぶん北海道にいる”という情報だけを頼りに人探しで北海道を彷徨い歩く女、明治時代というデバフを取り除いても狂人だからな。

 アシㇼパは眉を下げ、杉元は若干怪訝な顔をした。やべ、心臓に悪いのでやめろください。

 

「でも、命の恩人に隠すことでもないし、話しておくよ」

 

 これは、半分本当。

 何度でも生き返るからといって、行き倒れを拾って飯まで与えてくれた有り難みが薄れる訳ではない。アシㇼパと杉元は重要なキャラクターであり、俺の恩人だ。恩人になった。

 

「会いたい人がいる」

「……アイヌか?」

 

 アシㇼパが即座に問うてくる。

 なぜアイヌ、と思ったが、この辺りは街中でも何でもなく、人間がいる場所といえばコタンくらいなもの。だから、和人ではなくそちらに用があると思ったのかもしれない。

 なるほどなあと思いつつ、首を横に振る。

 

「いや。……軍人……少なくとも、その時期があったはず。今もそうなのかは知らないけれど」

 

 誤魔化しの利かない箇所なので素直に口にしてみたが、当然、杉元の雰囲気が若干変わった。物腰柔らかな好青年から、帰還兵のそれへ。軍帽の下の瞳が鋭く尖る。

 あっ、これキロランケの登場回で見たやつだ!

 

「……第七師団か」

 

 ひー。

 やべえマジで、勘弁してください。

 ……とはさすがに言えないので、ブルっちゃっているのはおくびにも出さず、杉元の軍帽と、小銃を指差して尋ねる。

 

「その格好、あなたも軍の人?」

「いや……俺は満期除隊した」

 

 その辺りは教えてくれるんだ。

 いや、尾形にも教えていたか?

 というか、この時点の杉元は既に「この状況で不死身の杉元は手に負えん、片腕だけに(激ウマギャグ)」な尾形を崖から突き落として顎をカチ割っているのだろうか。アシㇼパのコタンにいるあたりその可能性は高い。

 

「あなたと同じくらいの歳だった。……だから、もう任期が明けていてもおかしくはないはずなのだけど」

 

 今も昔も陸軍のシステムについて特別詳しい訳ではないが、階級と任期くらいは知っていた。そして、公式で明記はされていないものの、尾形と杉元は大体同じくらいの年齢だったはずだ。

 

「日露戦での戦死公報は届かなかった。でもいくら手紙を送っても返信が来ない。今はどこで何をしているのやら」

 

 これも……本当。

 手紙書くって言っちゃったしなあ、と何度か送ってみたものの、案の定返信なんか来やしない。そのうち飽きてやめた。

 

「……その……わざわざ北海道まで来るなんて、将来を誓い合った仲だったのか?」

 

 軍人から置き去りにされた娘、というあたりで何か自分の来歴に重ねて思うところでもあったのか、杉元がやや雰囲気を緩めて尋ねてくる。うーん、当の尾形が聞いたら白目を剥きそうなセリフ。

 

「フフ……そこまでしておきながら便りのひとつも寄越さない男なんて、放っておいて新しいのを見つけたほうがいいかも」

「…………フフッ」

 

 おっと、杉元の顔が引き攣った。ジョークを効かせた返答のつもりが、数少ない彼の地雷(梅ちゃん)を踏み抜いてしまったようだ。これだからコミュ障はダメ。

 

「……私が勝手に来たの。心配だから」

 

 さりげなく話を元に戻す。

 

「除隊しても、ここで何かやりたいことがあるならそれでいいし。今も軍人なら、戦争が終わった今でも何かの弾みで死ぬようなことがあったとしてもおかしくはない」

「とにかく、今どうしているかだけでも知りたい。……私はもう、地元には戻らないつもりでここに来た。どちらにせよ、この地に骨を埋める覚悟がある」

 

 ふん。杉元が小さく鼻を鳴らした。何か考え込むような素振りを見せてから、

 

「……名前は?」

「尾形百之助」

「聞いたことはねえな」

 

 まあ杉元、確か第一師団だよね。

 別師団の一兵卒の名前なんぞいちいち覚えていないだろう。キロランケのことも知らなかったようだし。

 あなたがちょっと前に片腕へし折って崖から突き落とした兵士(おそらく)ですよ、とはまさか言えないので、ちょっとしょんぼりした雰囲気を出して場を濁す。

 

「そう……ものすごく銃の扱いが上手い子だったから、きっと戦争でも活躍したはず」

「ふうん……?」

 

 ピンと来ていない様子。というか、まだ記憶を探ってくれているのか。顔と名前が一致していないだけですぐ近くにあるんだけどね。

 

「──そうだ、あんたは?」

 

 ようやく一万人の兵士の中から尾形百之助を探すのを諦めてくれたらしい杉元が、おもむろに尋ねてくる。若干心を開いてくれたっぽいところでさらなる爆弾を落とすのは気が引けるが、やむを得ない。

 

「……タマ。尾形タマ」

 

 いくらこの時代の女とはいえ、初対面で苗字まで名乗らないのはやや不自然だろう。

 当然、杉元がわかりやすく目を瞠る。

 

「尾形?」

「養子だよ。しかも百之助の祖父母のほうの。血の繋がりはない」

 

 一応、アピールしておく。

 家族であるということは今後、良いほうにも悪いほうにも働き得る。

 

「あちらも私を姉や叔母と思ったことはないだろうね」

「…………」

「…………」

 

 本当のことを言っただけなのだが、なんか微妙な空気になってしまった。

 というか、なんか普通に2人の尾形への好感度下がってないか? 参ったな、家族扱いされてなくて手紙も返してこない、今何してるかも教えてくれない、って事実を言っただけなのに。

 

「……タマは銃が上手いのか?」

 

 沈黙を破ったのはアシㇼパだった。妙に明るい声音で呼びかけられる。

 

「百之助ほどじゃないけれど」

「そうか、」

 

 ふむ。小さく唸ってから、

 

「しばらくここにいるといい。今の時期、シサㇺが1人でこの辺を歩き回るのはどちらにせよ危険だ。その代わり、その銃で私の……私たちの狩りを手伝ってくれ。フチには私から言っておくから」

 

 びしっと俺を指差して、そう言い放った。建設的かつ、有り難い申し出に一も二もなく頷く。

 

「うん……働かざるもの食うべからずってことか。いいよ」

 

 この2人と行動をともにしていれば、自動的に尾形に会える。そういう打算がなくても、雪と寒さを凌げる場所を貸してもらえるというのは非常に嬉しい話だった。

 明治2月の北海道、マジでありえんくらい寒い。こんなんヒートテック重ねた上にダウン着ないと生きていけない。でも明治にユニクロはない。本当に、寒いんです北海道。

 俺の即決に、アシㇼパはニコッと満足そうに微笑んで、小さな手を差し出してくる。これ杉元にやったやつじゃん。俺なんかがしてもらっていいんです?

 

「私はアシㇼパだ。こっちは杉元。汁物にうんこを入れて食う」

「なんで勝手に教えるのぉ?」

 

 入れねーし、とぷりぷり怒る杉元を横目に、アシㇼパの手をそっと握る。温い手だった。

 

「よろしく、アシㇼパ……杉元、」

 

 握りしめて、握り返されて。彼女の温もりが微かに残った右手を、杉元にも差し出してみる。彼は少し驚いたようだったが、

 

「……ああ。よろしく、タマさん」

 

 やがて、無骨な手に力強く握りしめられた。ごつごつと骨張って、やはり温かい手。

 その熱を心地良く感じると同時に、……彼のことを思い出した。

 

 ──尾形。

 

 あの時。最期に触れた彼の手はひどく温かく感じたけれど。……きっと、初めと変わらず冷たいままだったのだろう。

 彼は今もこの寒い北海道で、冷え切った指で小銃の引き鉄を引いているのだろうか。

 そんな益体もないことを、少しだけ考えた。

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