追放決闘者だけどミラダンテが美少女化したので、もうダメかもしれない 作:タク@DMP
デュエル・マスターズ。それは、クリーチャーと呪文と呼ばれるカードを操り、5枚のシールドを全て破壊し、トドメを刺したものが勝者となるカードゲーム。
その日──伝説は確かに生まれたのだ。
「──《時の法皇 ミラダンテⅩⅡ》のファイナル革命発動ッ!!」
その瞬間、全ての時間は停止する。
停止した時間の中で、全ての超獣は、そして呪いは動くことは敵わない。
そうして現れた奇跡の体現者を前に、対戦相手は成すすべなく無抵抗にシールドを叩き割られるしかない。
「──《聖霊龍騎 サンブレードNEX》で、ダイレクトアタックだ!!」
「ッ……んな、バカなァァァーッ!?」
「優勝したのは、大規模チーム『バーレイグ』!! フィニッシュを決めたのは白銀 蒼馬!! 天才デュエリストの白銀 蒼馬だ!!」
齢14歳の天才。
誰もがそう呼んだ。
まるで彗星のように現れ、劇的に彼は全国の強者を撃破し、そしてチームを頂点にまで連れていった。
「ロキっ!! リル、やったよ俺!!」
振り向き、仲間達に呼びかける。
チームの勝利を決した彼に、黒髪の少年とツインテールの少女が駆け寄る。
少年はチームのリーダー・黒部
そして、少女は狩矢リル。
共に、此処まで白銀と一緒に駆け抜けてきた仲間だった。
「ああ。君ならやってくれると思ったよ」
「そー君っ、サイコーだったよ! 大好きっ!」
「ちょっ、リル、こんな所で──っ」
感情が高ぶり、思わず飛びついて頬にキスまでしてくるリルに、白銀は照れながら目を逸らす。
その様を、ロキは呆れたように眺めているのだった。
「やれやれ、イチャイチャは後にしてくれよ、蒼馬」
「そういうわけじゃないって……リルも、此処だとちょっとアレだから」
「だって蒼馬が、蒼馬が決めてくれたんだよっ! ね、ロキもそう思うでしょ!?」
「まあ否定は出来ないね」
「ロキ、リル。それにチームの皆も……ありがとう。『バーレイグ』がこんなに大きくなって、俺達が優勝できたのは……俺の力だけじゃないよ」
「いいや、君の力無しじゃあ優勝出来なかったさ」
ロキは手を差し出すと──蒼馬もその手を固く握り返す。
そこに、リルも手を重ねる。
「今は祝おう! 僕達の優勝を!」
「ああ!」
「うんっ!」
──それから、二年の時が経った。
※※※
「白銀! しーろーがーねっ!」
「……何だ、門松か」
「
──陽気な4月の朝のことだった。
学校に来てから、ずっと居眠りしていた
県立夜鷹学園2-Bの教室はもうほとんどの生徒が揃いつつあった。
白銀も、その中の一人だった。
「何の用だよ? まだ寝てたいんだけど……つーか返せヘッドフォン」
「わ、悪い悪い、聞こえてねーと思ってな、たはは」
「返せ」
怒気の籠った声で威嚇しながら耳栓代わりのヘッドフォンをひったくり返すと、白銀はそれを耳に当てる。
年柄年中何処でも彼はこれを付けており、最早一種のトレードマークと化していた。
「なあなあ白銀よ! 今度のデュエル大会、ジブンと一緒に参加しねーか?」
「……悪いけど、他を当たってくれ」
その返答を聞いて、やっぱりだよ、と言わんばかりに明松のツレ達は肩を竦める。
時間の無駄だということを皆よく知っていた。この白銀 蒼馬という男の付き合いの悪さは筋金入りである。
絶対に誰ともつるまない。LINEを交換しても自分からは絶対に返信しない。
クラス1のお人好しである明松でさえも、彼の心のD2フィールドを崩すことは敵わない事は去年の時点で分かり切っていた。
それでも唯一人、明松だけが諦めずに彼に近付く理由は──
「俺以外にも強い奴はいっぱいいるだろ」
「何言ってんだ! ジブンは知ってんだからな! 白銀が日本で一番デュエリストになるところをよォー!」
──白銀がかつて、日本一のデュエリストであったことを知っているからである。
デュエル・マスターズというカードゲームは1年に1度、チームによる全国大会が開かれる。
2年前の大会で白銀は、持ち前の頭脳を存分にフル活用し、チームを全国優勝に導いた実績があるのである。
それを知る明松は、何が何でも白銀を己のチームに引き込まなければ気が済まなかった。
もう直に、デュエル・マスターズ インター・ハイ……高校生チームによる全国大会が開かれる。去年は一回戦オチしてしまった明松にとって、白銀は喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。
しかし、相手は生けるツンドラ・白銀蒼馬である。それが叶わないことを海道以外のメンバーは知っていたし、何より──
「やーめとけよー、滾ゥ、白銀なんざ誘ったってよ、絶対来やしねーんだから」
「大体そいつあんだけ絡んでるお前の名前覚えて無かったぞ……」
「名前なんざこれから覚えて貰えりゃいーんだよ!」
「そもそも明松……ズルしてチームを追放されたようなヤツ入れたら、俺達の評判にも関わるぜ?」
「……」
白銀は──否定しなかった。
彼は華々しい全国優勝を飾った1年後に、チームを追放されていた。
理由は、公式戦の途中で1枚しか入れられない殿堂カードを多くデッキに入れていたことが発覚したためである。
当時、何故彼ほどのプレイヤーが不正行為を、と話題になり、齢15歳のプレイヤーを多くの人間が追及した。
そして──異例なほどにネットは炎上した。
「……ウソだって言うなら、一言お前から弁明の一つでもしてみろや、ああ!?」
「おいやめろ! そんな態度──」
「……別に。お前がそう思うなら、それで構わない」
「なぁ!? 見たろ明松! こんなヤツチームに入れたって……」
そのまま弁明する間もなく白銀蒼馬は表舞台から姿を消した。
当時の事を、彼が語るはずもない。かと言って高校でも噂はクラス中に広がっており、いじめられこそしていないが「何を考えているか分からないヤツ」として白銀は浮いていた。
「あれは何かの間違いだぜ皆! ジブンが思うに、こんなにデュエルが強いヤツが不正なんかするはずがねぇ!」
「でも否定しねーじゃん」
「幾ら強くても、不正はねぇ……あの全国優勝もウソだったんじゃねーの?」
「うるせー!! ジブンのカンが言ってるんだよ! 白銀は、悪い奴じゃないって──って!」
「またカンかよ」
「ジブンのカンは、外れたことがねーからな! だろ?」
「カンなんて非・科学的だ」
「白銀からも否定されてんじゃねーか明松」
「なーんでだよぉー!! 人が折角庇ってやってんのによぉー白銀ぇぇぇー、出ようよぉぉぉー」
(悪い奴じゃないんだが……マジで鬱陶しいな……)
「おらー、席につけーお前らー……あー、クソ頭痛い」
パンパン、と教簿を叩き、眼鏡をかけた妙齢の女が教室に入ってくる。
担任の山吹は、今日も二日酔いのようだった。
「……うげ、山吹センセ、この分じゃまだ残ってんなアルコール……」
(酒くっさ……関わらんとこ)
白銀はげんなりしながら腕に顔を伏せる。
「よく聞け……この
「……」
「黙るんじゃあないよ……いっそ笑え……笑えよあたしの事を!!」
「あ、あはははははは──」
「誰が笑って良いっつったクソガキ共ァ!! 全員留年させんぞ!!」
(あまりにも理不尽すぎる……)
「良いかクソガキ共……顔で恋人選ぶのだけはやめとけよ……先生との約束だ……! 後バンドマンもやめとけ! 養ってやるとか思えるのは最初のうちだけだかんな! 楽器持っただけの、ただのダメンズだからな!」
「別れた彼氏はバンドマンか……」
「ダメンズ毎回引いてる時点で先生も見る目無いんだよ……」
「しゃらくせぇ!! もう酒しか勝たん!! あーもうやだぁ、また婚活頑張らなきゃいけないのぉぉぉ、びえええええん」
(めんどくせぇ……)
恐らくしこたま仕事の前日だというのに飲んできたのだろう。
よくもまあ青い顔のままで学校に来れたものである。
(いい加減学べばいいのにな、この先生……人間、何時裏切るか分かったもんじゃねーぜ。一人のが気楽なのに)
話しぶりからするに彼氏の浮気が破局の原因であることは明らかであった。
白銀には何度も騙されるような人間が理解出来ない。
「と言うわけで、今日は転校生を皆に紹介したいと思います、うっぷ──」
「ちょっエチケット袋ォォォォーッ!?」
誰かがすっとんで、ビニール袋をすかさず持ってくる。
山吹先生は教室でリバースした前科があるため、常に教卓にエチケット袋が常備されているのだ。
そして、ひとしきりゲロゲロと生徒達の前で吐いた後、
「バカヤロー!! 何が遠征ライブだ!! テメェ、あたしを放っておいて新しい女とニャンニャンしてたんだろがーッ!! 胸が無いのがそんなに悪いかよバカヤロー!!」
「先生ェェェーッ、俺は彼氏じゃないってーッ!?」
「あ? ほんとだ、いけねいけね」
と、その生徒に掴みかかるのだった。本人は二日酔いのつもりなんだろうが、絶対にまだ酔っている。酒が抜けていない。
もう見慣れた光景ではあるが、何度見ても地獄であった。
多分これ教室の外で転校生も見てるんだろうなあと思うと居たたまれない。
取り合えず十中八九アルコール依存症なので病院に行った方が良いんじゃないだろうか、と皆が思うが怖くて誰もそんな事は言えないのだった。
(マジでロクでもないなこの先生……)
「じゃ、じゃあ、転校生、入ってきて……先生は少し、休むから、自己紹介、適当によろしく……」
「大神 紅葉だよっ。デュエルが大好きなんだ! 皆っ、よろしくねっ!」
入って来た彼女に──誰もが言葉を失ったのが白銀には分かった。
短くまとめられた黒髪、ぱっちりとした目。
小柄だが、すらっとしたスタイル。
凡そ、読モとかそういったものに所属していてもおかしくない、どうやったらお近づきになれるかな、とクラスの男子たちはにやけ顔。
「なんていうか……騒がしくって面白いクラスだねっ! これからよろしくっ!」
「可愛くねえ? すげえなあの子……」
「あ、ああ……」
「何だかお人形さんみたいだよね……」
「じゃあ大神さん、白銀の隣で……先生保健室行ってくるわ」
「えっ」
「なんか空いてるから、後は若い衆でテキトーに頼むわー、うっぷ」
「はーいっ」
鈴の音を転がすような声で返事をすると、大神は白銀の隣にさも当たり前のように座る。
(うっげ、よりによって女子かよ……!)
「よろしくねっ、白銀君っ!」
「……案内は他のヤツに頼んでくれ、俺は絶対にやらん」
「えー? ……白銀君って冷たいなー」
(白銀、コロス……)
(オマエ、紅葉ちゃんをいきなり泣かせたらブッコロス……)
(そうじゃなくてもいずれはコロス……)
クラスの面々から向けられる殺意。
白銀蒼馬と言う男は、人から向けられる負の感情には人一倍敏感であった。
「……分かった、そこまで言うなら……」
(角が立ちそうだし、案内するけど……女と二人っきりっていつぶりだ?)
※※※
──その日の放課後。
学校をひとしきり案内した白銀は、大神に袖を引っ張られる形で屋上に連れて来られていた。
健全な男子高校生であれば、美少女転校生に連れて歩くなんてシチュエーションに燃えるところであるが──
「おっげぇえええ……げぼろろろろ」
──白銀はトイレでゲロを吐いていた。
それはそれはもう、たっぷりと吐いていた。
一頻り出すものを出し終えて、青い顔で出てきた彼を大神は心配そうな顔で迎えた。
「えーと、大丈夫……? なんか案内してる時も速足で気分悪そうだったのに、そんなにお腹痛かった?」
「……別に心配要らねーよ、うっぷ」
「ふぅん。でも、人嫌いそうなのに、ボクのことはちゃんと案内してくれるんだ」
「邪見にしたらクラスの連中から何言われるか分からないからだ……」
(ダメだ、女はやっぱり無理……教室で箱詰めになってりゃ少しはマシになるかと思ってたけど)
……白銀蒼馬と言う男は、筋金入りの女嫌い──というより女性恐怖症であった。
クラスの面々は、そこまで白銀に踏み入らないので人嫌いであることしか知らない。
しかし、病的な女性恐怖症は根深いものであり、彼の身体に直接悪影響が及ぶレベルである。
別に嫌悪感があるわけではない。しかし、生理的に受け付けないのである。
「とにかく俺はもう帰る、じゃあな」
「あっ待ってよ! 最後に屋上だけ案内して!」
「あぁ!?」
また吐かせる気か、と言おうとしたが、もう吐くものなんて無いのを思い出し、白銀は口を閉ざす。
大神は──何処か不安そうな顔だった。
「ボク、転校してから友達が出来るか不安だったんだよね。でも白銀君、人嫌いそうなのに、なんだかんだ言って案内してくれたから、嬉しくて」
それが、自分の境遇に重なる。
ああ、明るく振る舞っていたが、やはり彼女も孤独だったのだろう、と白銀は察する。
違う所は、進んで孤独を求める白銀に対して、彼女はそれを望んでいない点だった。
「……これで最後だぞ」
「ありがとっ、白銀君!」
結局、押しには弱い白銀なのだった。
※※※
「……ンだぁ……?」
明松は、ふと屋上を見上げる。
周囲には仲間達が居るが、彼らに構わず足を止めた。
すんすん、と鼻をひくつかせる。皆には分からないが、彼の琴線に触れるものがあったのだろう。
「……なーんか、嫌なニオイがするし。気の所為じゃ……ねぇよなぁ」
「おーい滾ゥ、どうしたんだよ! 早くカドショいこーぜ!」
「わり! ジブンちょっち出番出来ちまったわ! お前らだけで先に行ってて!」
「はぁーっ!?」
(こういう時のジブンのカンって、昔っからよく当たるんだよねーっ!!)
※※※
「ほらぁー、そこぉーっ!! 気合入ってねーぞ! 後3週!」
「ひぃーっ、ひぃーっ、山吹先生の鬼ーッ!! 悪魔ーッ!! 行き遅れーッ!!」
「誰が行き遅れだクソガキ!! ぴっちぴちの26歳だ!!」
「26歳はもうぴっちぴちじゃねーだろ!!」
「ぴっちぴちだわ!! まだ20代だわ!! オメー追加で5週な!!」
互いに口汚く罵り合っているが、これはいつもの陸上部の光景なので最早様式美であった。
顧問の山吹は、生徒達の後ろからペースメーカーをしながら共に走っている。
しかしそんな最中、学校に流れる妙な気配を彼女だけが感じ取っていた。
「……何だ? 誰か来たのか……こんな時に……?」
彼女は足を止めない。
しかし、その視線は屋上に向けられていた。
※※※
結果的に屋上に来てよかった、と白銀は思い直す。
夕方は涼しい風が吹いており、気持ちの悪かった身体を癒してくれるような気がした。
夕陽が既に沈みかけており、もうすぐ暗くなることが察せられる。
「……何で、人嫌いなの?」
「直球だな……あんたに教える理由なんてねーよ」
柵に寄りかかり、出来るだけ大神を見ないようにしながら、白銀はデッキを取り出す。
「……だけどな、気を付けた方がいいぜ、大神さん。人は裏切る。そーゆー生き物だ。最初っから期待なんかするからそうなるんだよ」
今までの過去を思い返せば、思い返す程にそうだ。
白銀は他者に何かを期待する事を諦め、そしてやめた。
誰かに求められることはしない。しかし、その代わりに求めない。
そんな生き方をしていれば、もう裏切られなくて済む。手に入れなければ、失わずに済む。
「恋人だの彼氏だの彼女だのって言ってるクラスの連中や山吹先生の気が知れねー、人間関係なんて一番脆いモンをどうして信用できるんだよ?」
「……」
「それに比べて、カードは……買い切りだ。一回買ってしまえば俺が手放さない限り、ずっと傍に居る」
「キミ、変わってるね……大分」
「自覚はある。中二病とも言われる。だけど、カードだけは絶対に俺を裏切らない。これだけは確かだ。俺がどん底に居る時、一緒に居てくれたのはこいつらだけだからな」
「人は裏切るけどカードは裏切らない、か……ボクもそう思う」
大神は、白銀と背中合わせになりながら答えた。
「……ボクも似た経験あるんだ。分かるよ」
「そうなのか?」
「ねえ、白銀君。キミは強いよ。誰かから裏切られても、それを誰かにやり返そうとはしない。だから、そういう生き方を選んだんでしょ?」
「……」
返答に詰まった。
言われてみればそうだったのかもしれない。
しかし、そんな殊勝な心掛けではないことは白銀自身が一番分かり切っていた。
(違う……俺はもう、気力が無いだけだ。やり返す気力も、立ち直る気力も……何も残ってないんだ)
「ボクにはそんなことできない。マネできないよ。ボクにはキミが……とてもキラキラして見える」
「
「あ?」
一瞬だった。
白銀の身体を、長得物が貫いたのは。
何の脈絡もなく、そして何の前ぶりもなく、死の瞬間は訪れた。
「か……はっ、何で……!?」
「……裏切るとか裏切らない以前に……キミ、騙されやすすぎ……いや、疑わなさ過ぎかな? かわいそーに」
下手人は──大神紅葉その人だった。