追放決闘者だけどミラダンテが美少女化したので、もうダメかもしれない 作:タク@DMP
「──んじゃあ、LINE入れたから後は陽キャが適当にやってくれるだろうから俺はこれで」
「私の事を心配するのは構いませんが、貴方はご自身の仲間を気にかけては?」
「仲間? たまたまつるんでるだけだ。仲間でも何でもない」
「貴方、意外と薄情な物言いをするんですね……でもレッドキャップとは無関係ではないので言っておきます」
「何だよ」
こほん、と取り直したように彼女は咳払いすると白銀に呆れたように肩を竦めた。
「貴方……大神紅葉の事については私に何も聞かないのですね」
「……? 何の事だよ」
「ああ。この分では、敢えて言ってなかったんですね、あの女」
では、私の方から話しておきます、と彼女は続ける。
「──大神紅葉。彼女はクリーチャーとの混血。通称・
「……ビー、スタード……!?」
※※※
「……ねえ、先生。今何て……?」
「お前はクリーチャーとの混血……
──同時刻、生徒指導室。結局、隠し続ける罪悪感に耐え切れなかった山吹は委員会の仕事で遅くなった大神を呼び出し、彼女の力の秘密を話すことにしたのだった。しかし、己の出自に関するものであったが故に、彼女は少なからず衝撃を受けているようだった。
「文字通り人間とクリーチャーのハーフ。お前はその子孫なんだよ」
「ねえ、先生。それって……本当?」
「本当だ」
やはりまだ話すべきではなかったか、と山吹は後悔する。思春期で難しい年頃なのは百も承知だ。しかし、いずれ走る事。そしてレッドキャップが獣印とは違う理由で彼女を狙っている可能性がある以上は知らねばならないことだった。
「……そんなの……」
彼女は顔を伏せる。そして──
「──ボク、マンガの主人公みたいじゃーん!!」
「大神ーっ!?」
──ぱぁっと顔を輝かせて山吹の方に向いたのだった。全くショックを受けている様子がない。そればかりか、喜んでいるようにさえ見える。思わず山吹は立ち上がり、怒鳴る。
「ちったぁ危機感を持て危機感をーッ!?」
「だってさだってさ、おかしいと思ったんだよ! あの二人が揃ってじゅーいんってのを持ってるのに、ボクだけ何にも無いなんてさ!」
「因果関係が逆だ! レッドキャップは最初から、獣印の持ち主の白銀と明松を狙っていた。そして、同族のお前を同胞に引き入れようとしている。だから殺さなかったんだ」
「同胞?」
「ああ。レッドキャップもデーモン・コマンドの
「……! だから、気を付けろってこと?」
「お前を仲間に引き込もうとしているかもしれん。そうでなくとも、この時点では誰もお前の力の事が分からない。当然、お前自身にも」
「……やっぱりボクってフツーじゃなかったんだ」
──山吹からの話が一通り終わった後、大神は腕を組みながら話の内容を思い出していた。思い当たる節が無かったわけではない。しかし、彼女は自身が普通の人間ではないことを意図的に目を逸らしていた。それを否が応でも直面しなければいけなくなった。
耳が良いことも、運動神経が良いことも、そして怖いもの知らずであることも普通ではないと昔から言われ続けていた。だが彼女はそれでも人の社会に溶け込んで生きてきた。
だが、この年になって自分が人擬きの人狼であることに気付いてしまったが故に、彼女のアイデンティティに揺らぎが生じつつあった。
「……ボクが何者かなんてボクにも分からないのに……これからどうすれば良いかなんて……分かんないよ──いでっ!!」
彼女はぶつけた鼻をさする。少し赤くなっていた。余所見をしていたからか、通路の角からやってきた誰かに気付かなかったのである。しかし、それが見知った顔であると──ぱっと表情を変えた。
「あ、明松君……!?」
「大神ちゃん大丈夫か!? 委員会にしちゃあ遅いな?」
「実は……山吹先生に呼び出されてて」
「マジ!? 何の話してたんだよ」
「……実は」
彼女はこれまでの出来事を話す。どの道山吹からは折を見ていずれは白銀達にも話せ、と言われていたことだ。怖くなる前に明松には打ち明けておきたかった。その間、明松は驚いたそぶりこそ見せるものの、最後まで真剣な面持ちで聞いていた。
「……すっごいでしょ!? ボク、まるでマンガの主人公みたいだよねーっ!」
「ええ……ショックとか受けてねーのか?」
「受けてないよっ」
「……そんな風には見えねーけどな」
「っ……え? 何でそう思うの」
「なんつーか……カン? 大神ちゃん、元気無さそうに見えるから」
「……いい加減なこと言わないでよ!」
軽率に自らの心の中に足を踏み入れられた気がして──大神は思わず声を荒げた。
いつもの彼女らしからぬ態度に、明松は身体を震わせる。
そして、自らの振る舞いが彼を驚かせてしまったことに気付き、彼女は「あっ、ごめん──」と喉を突くように言ったのだった。
「わり、ジブンこそデリカシー無かったわ」
「う、ううん、ボクも……明松君、心配してくれてんのに……本当にごめんっ! ボクもう帰るからっ」
そう言って、彼女は足早に駆け去っていく。
それを見ていた明松は肩を竦め、そして溜息を吐くのだった。
「大丈夫かよ……アレ……」
彼女が隠したつもりでも、明松はきちんと気付いていた。大神の顔が少し強張っていることに。彼女が自分にぶつかってくるはずがないことを明松は知っていた。どんな遠くでも音を聞き分けてしまうほどの聴力を持つのに。
「……お節介だったなぁ……」
※※※
「待てよ。じゃあ、お前が教会から派遣されてきた理由って」
「ええ。大獣印の持ち主である白銀蒼馬と、
「理解不能。混血と言ったけど、異種同士での生殖は成し得ない」
ミラダンテの言う通り、ライオンと虎のような近縁種でさえ子供が生殖能力を持たないことはザラだ。
人間とクリーチャーの間に子供が出来るわけが無い、という分析はある意味では正しい。しかし。
「まあエンジェル・コマンドにはピンと来ないでしょうね。子をなす必要がありませんから」
「ん」
「ですが人の姿を借り、
無論、淫魔に限らず、そのような伝承は世界の各地に存在する。ギリシャ神話では姿かたちを変えて相手に迫るゼウス、平安時代では玉藻の前、そしてその伝説と習合した妲己など……。人知を超えた存在が人と交わる為に人の姿を借りることはよくあることだという。
それらの伝説がクリーチャーと直接関係あるかと言えば、この世界に獣印が現れる前である以上は「無い」と断言せざるを得ないのであるが、エクレールの唱える超獣人間の存在に一定の説得力を与えているのも事実である。
「人間の姿を借りた仮の肉体。貴方の従えているミラダンテもそうでしょう?」
「情報収集……該当資料を閲覧、データベースに接続……合理的。だけど──外道の所業。闇文明の悪魔が考えそうなこと」
「300年ほど前は知らぬ間に悪魔の子を孕む女性が居てもおかしくない時代でした。そのために我ら【教会】が獣印によって召喚されたクリーチャーの討伐に乗り出したのです」
「恐ろしい奴らも居るもんだな……闇文明、か」
「しかも、普通は血が薄くなる毎にその力は薄れていくものですが、稀に先祖返りを起こす者がいるのです」
「それが──大神さんか」
エクレールは初めて大神を見た時驚愕した。その潜在能力は大獣印持ちの白銀と同レベルであった。むしろ、とっくに能力が目覚めているものかと考えていたほどである。
「呑気にはしていられないのです……こうしている間にも、レッドキャップは……獣印持ちを殺して自分のものにしているでしょうね……そして、大神紅葉に近付くチャンスを狙っている」
「……俺はどうすれば良い?」
「! ……喰いつきましたね。貴方、やっぱり自分で思っているほど薄情ではないのかもですよ?」
「ほっとけ。……俺は他人の事などミリも信用なんかしていない。だが……大神に傷ついてほしいと思っているわけでもない」
「素直じゃないんですね。しかし、現状貴方に出来るのは対処療法です。ですが、同時に貴方が最大の切札です」
「俺が切り札?」
「ええ。現状、【教会】の人間でもレッドキャップは倒せません。デュエルに勝てても、滅ぼすに至れない」
つまり、必要なものはデュエルタクティクスに加えてレッドキャップを倒すだけのマナであった。
現状、それを併せ持つ者は一人しかいない。
「──レッドキャップが現れた時。貴方が次は確実にヤツを倒しなさい。大獣印程の出力が無ければ、最早アレは滅ぼせません」
※※※
「ジャオウガ鬼つええ! このまま逆らう奴ら全員ぶっ殺していこうぜ!」
その夜。
ギャハハハハ、とせせら笑う少年たち。いずれも着崩した学ランに、刺青、そして咥えタバコと真っ当な学徒ではないことは明らかだった。
彼らの前には──頭を握り潰された肉塊が転がっていた。
数日前まで、彼らは只の一介の不良学生でしかなかった。
しかし、悪かったのは偶然カチ合った反グレ達との喧嘩の途中に獣印が顕現したこと、そして召喚されたクリーチャーは──
──鬼ヶ羅刹 ジャオウガ。
全身が怨みの炎に燃えた鬼のクリーチャーであり、その力を人に振るうことに躊躇など無い。元より秩序とは程遠い彼らにはうってつけのカードだった。
しかし怨みの化身は──
「ごぎゅっ」
一瞬のうちに首が撥ね飛ばされた。抵抗する間もなかった。あまりの出来事に、少年たちは何が起こったのか分からなかった。
「えっ──ジャオウガが──」
「幾らジャオウガと言えど抜け殻同然ではな……しかも召喚側のパワーがまるで追いついていない上に、目覚めて間もない獣印ときた──」
鬼の覇王は、肉塊となって爆散する。
少年たちはじりじりと退いた。そこにいたのは、槍を持った赤頭巾。
自らが頼りにしていたクリーチャーを殺され、彼らは散り散りに駆けだす。しかし。
「ころっ、殺されるっ──ぐぎっ」
「おらぁっ、空中旅行は初めてか──ッ!?」
「いっ、痛いっ、いてえよっ、やめてくれぇっ」
槍は肩に突き刺さったまま抜けない。
そのまま急上昇するレッドキャップは、近場のビルの高さから──槍を引き抜くと突き刺した少年を投げ飛ばした。
まるで弾丸の如き速度で飛んだ彼は、走る仲間の頭に激突。
脳漿がその場にぶちまけられ、間もなく血溜まりが出来た。
「クリーンヒットォーッ!! 気持ちいいなオイ!!」
「ひええっ!? 何か落ちてきた──!?」
「獣印があるのは……後2つか。貰っていくぞ!! 全部このレッドキャップ様のものだ!!」
「わああああ逃げ──ごぶっ」
1人。また1人。
槍で脳天を胴体に沈められ、心臓を貫かれ、殺されていく。
獣印を持つ1人だけではなく、その場にいた全員が血溜まりの中に沈められていった。
母を呼ぶ絶叫。許しを請う絶叫。取り乱して言葉にならない絶叫。
それらはしばらくして聞こえなくなった。
「……そう言えば、今日は満月か」
その場の命だったものを見下ろすと、レッドキャップの身体には新たな獣印が刻まれていた。
「良い眺めじゃねえか……キャハハハハハハッ!!」
※※※
(ボクってやっぱりフツーじゃないのかな……)
──寝床に入り込んだ後、大神はずっと考え込んでいた。自分の出生の秘密。家族の事。彼らも
目が冴えて眠れなかった。カーテンの奥が妙に明るく感じた。開けると、赤く見える程に明るい満月が空に輝いていた。思わず見入って言葉を失う。こんなに月がきれいだと思うのは初めてだった。
「そう言えば。今日は満月か……」
どくんっ!!
その時、彼女の心臓が強く脈打った。
「えっ、何……──」
魅入られるように彼女は月に噛り付いていた。
自分の中の何かが檻を破るかのような衝動。
「オ月……サマ……キ、レ、い──」