追放決闘者だけどミラダンテが美少女化したので、もうダメかもしれない   作:タク@DMP

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第12話:刃狼(ライカンスロープ)……とかなんとか

 ※※※

 

 

 

「……超獣人間(ビースタード)かあ」

 

 

 

 そう言われてもピンと来ない。人とまともに関われない白銀からすれば、誰にも屈託なく笑う大神の方がよっぽどまともに思える。そんな彼女の正体がクリーチャーの混血であることを未だに信じられないでいた。

 浴槽に浸かりながら天井を見上げる。見えるのはシミだけだ。しかし。頭の中には、彼女が自身の秘密を知ったときにどんな反応をするかが渦巻いていた。白銀でさえ未だに獣印の事を受け入れられていない。ミラダンテが居るから辛うじて立ち直れているだけだ。

 

(……くだらねえ。獣印も、超獣人間(ビースタード)も、何の役に立たないどころかとんだ厄ネタじゃねえか。俺達はフツーに生きてちゃいけねーのかよ……)

 

 裏切られ、追放され、多くの人間から後ろ指を指された過去。獣の印を負い、それを狙うものから追われる現在。教室がにぎやかに談笑する中、白銀は──襲撃者の不安にずっと晒されている。

 

指揮者(マスター)。きっと、遅かれ早かれモミジは自分の事を知ることになってたと思う。でも、モミジがモミジのままなら……きっと、大丈夫だと思う」

「だと良いけどなあ……デーモン・コマンド、か……不穏なんだよなあ」

「……懸念が無いわけじゃない。だけど……私は、モミジを信じてあげたい」

「お前、大概お人好しだよな──ん?」

 

 すっ、と白銀は浴室の入り口に目を向けて、そして目を逸らした。

 一糸纏わぬ姿のミラダンテが当然のように立っていた。

 

「待て待て待てッ!! しれっと会話してたけどさっ!! 何でお前風呂に入ってきてんだよッ!?」

「風呂に入るという人間の習慣を今一度この身で体験したい」

「お前風呂要らねえって自分で言ってたじゃねえか! その身体はマナで出来てるから髪もずっとサラサラだし傷も汚れもつかねえんだろ!」

「……指揮者(マスター)が毎日入っているのを見て、何のメリットがあるのか考えた。体温の上昇、血行の良好化、精神の安定化。でも、文面だけでは分からない」

 

 遠慮なく彼女は風呂場に押し入ってくる。そのまま、白銀の入っている浴槽にちゃぷん、と入って来た。

 

「待て待て、先に掛け湯してから身体と髪を洗うんだよ──!」

「っ? そっか。そういえばそうだった。ナイロンタオルと石鹸……シャンプーを確認。先ずはシャンプーから」

「くそったれ、俺は先に上が──あっ」

 

 ──白銀は気付いた。此処で自分が風呂から上がってしまうと、後から入ってくる母親にミラダンテを視られてしまう。ミラダンテの人間体は普通の人間にも見られてしまうのだ。

 そのため、母親が風呂場を見た時点で知らない少女が風呂に入っているという構図になってしまう。今までは自室でしか実体化させてなかったので、見られる心配は無かったのだが、今は風呂場。家の人間なら誰もが使う場所だ。

 

「良いかミラダンテ……お前、自室以外で実体化すんなって言っただろ──」

「……指揮者(マスター)だけズルい。それにカードの中は窮屈。体が痛くなる。見られそうになったらカードに戻れば良い」

「だとしてもなぁ……! お前の身体は今女なわけで、男女が風呂に入るのは……色々ダメなんだよ!」

「親密な関係の男女なら許される、と情報収集した。指揮者(マスター)は私の召喚者。私は指揮者(マスター)のクリーチャー。これ以上親密な関係は無い」

「そうなのか!?」

「何故なら、非召喚者にとって召喚者はその世界で唯一とも言える繋がりだから」

 

 何も反論が出来ないまま、ミラダンテはちゃぽん、と風呂に浸かってしまった。その真っ白な体が白銀に預けられる。

 

(こいつ、こうして近くで見ると本当に綺麗だな……髪もマジでずっとサラサラだし、顔も信じられないくらい整ってるし、瞳は金色だし……髪からは何にも匂わないし、人間じゃねーんだな……やっぱ)

 

 天衣無縫を体現するとはまさにこの事で、天女の衣に縫い目は無いとは言うが、まさに彼女の美貌には一点の綻びもない。

 思わず赤面して顔を逸らす。人為的に作られたアンドロイドと言っても誰もが信じるだろう。だがきっと、アンドロイドはこんなに柔らかくはない。その所為で白銀の頭はずっと混乱しっぱなしだった。

 

「代用血管の機能の向上を確認。体温の上昇を確認。やっぱり情報通り。指揮者(マスター)の血流も良好の模様」

 

(こいつはクリーチャーこいつはクリーチャーこいつはクリーチャー!! しかも中身はロボットのSF(スーパーフューチャー)だぞ!! 疚しい事なんて何も無い!! 無い!! 断じて!!)

 

 かつて彼女はいたが、異性と一緒に風呂に入る経験など無かった。風呂は一人で入るものだったので、その感覚自体が新鮮だ。その相手が美少女ともあらば、何も言えなくなるのは当然だった。

 ……本人が幾ら頭の中で言い聞かせようが関係ない。中身が無性別なクリーチャーだろうが、今そこにいるのは同年代の少女なのだから。

 

「それに……指揮者(マスター)と一緒だと、やっぱり安心する」

「お、俺は頭がどうにかなりそうだがな……お前、恥じらいとかねーの?」

「……? 私は光文明の次代執行者。誓って恥じる理由は何処にも無い」

「ソーデスカ……」

 

 いっそいつもみたいに気分が悪くなればいいのに、と思ったのに──ミラダンテ相手では幾ら二人っきりでも拒否反応が出ない。

 

(まあ、悪い気はしないけど。やっぱり俺、こいつに大分気を許してるな……)

 

 今思えば、自分のデュエル人生は殆ど「ミラダンテ」というカードで駆け抜けてきたようなものだった。

 特に《ミラダンテⅩⅡ》は殿堂前も殿堂後も愛用した小学生のころからの切札だ。

 だが、それ以上に──彼女の無垢さ、純粋さに惹かれつつあった。

 しかし、同時に彼は負い目も感じていた。命を助けてもらっているのに、自分からは彼女に何も返せていない、と。

 

「……指揮者(マスター)。私、この世界に来てよかった」

「え?」

「アケマツも、モミジも、ヤマブキも……皆良い人。勿論、指揮者(マスター)も。放っておけないくらいお人好し」

「……俺はお前が思ってるようなヤツじゃないよ」

「私の前ではウソなんて無意味。何でそんな事言うの?」

「……俺さ、昔友達から手酷く裏切られたことがあったんだ」

 

 ──思い出すのも忌々しい。それが今だに彼にとっては楔になっている。

 白銀は何故、同じチームのリーダーだったロキから裏切られたのか、未だに分からない。しかし、少なくとも彼は自分の事を好ましく思っていなかったのである。そればかりか、周囲は皆白銀の敵になった。あれだけ好きだった彼女も、ロキのものになった。

 それ以来、彼は他者から向けられる好意を信じられなくなった。受け付けられなくなった。人間不信に加え、女性恐怖症を併発し、誰とも喋らなくなった。視野は狭くなっていき、味方で居てくれた家族とも話さなくなった。

 

「……ハメられた所為で周りは全部俺の敵さ。それ以来俺は、人間を信じるのが……怖い。バカだよな、人間皆違うのだって分かってるさ。でもどんなに仲良くなったって……最後には裏切られるって思うと」

「なら、私を信じてくれればいい」

「え?」

 

 しかし、それさえも彼女は抱擁する。彼の深い心の楔も、引き抜かずに──抱き寄せる。

 

「もし、皆を信じられなくなったら──私の信じる彼らを信じればいい。私の前ではどんなウソも通用しないから」

「……そうか。無理しなくて良いんだな、俺」

「もし誰かが指揮者(マスター)に悪意を向けるなら。私はそれを邪悪として断罪するから」

 

 少しだけ──白銀は気が軽くなった。彼が信じれば良いものは今も昔も変わらない。自分を助けてくれた切札達だ。

 そして同時に彼は、「誰かが必ず裏切ると思い込まなければならない」呪いから──少しだけ、解放されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで指揮者(マスター)。私の臀部に硬いものが当たってる。これは──」

(あああああああ!! 邪悪なのは俺の方だった──ッ!!)

 

 

 

 そこで白銀は思考を止めた。

 そして再び、この異様な状況を再確認したのである。

 

「やっぱり……早よ出てけーッ!!」

「演算開始、理由を推測」

「するなッ!! やっぱ二人でお風呂は禁止!!」

「合理的説明を求める」

「却下!!」

 

 顔を真っ赤にした白銀はいっそ先に上がってしまおうかと考えたが、出来ない。出来るわけが無い。

 少女は自分に背中を預けたままそこを動かない。

 そうしている間に異常なほどに血流は駆け回る。

 

「頼む……そろそろマジで色々限界──」

「ッ……!!」

 

 ばしゃんっ、と急に彼女は立ち上がった。

 ミラダンテの纏う空気が変わる。いっぺんの情も感じない、まるで機械のような冷徹さを放っている。

 その視線は──風呂場の窓のその先。遠い場所で何かを感じ取ったようだった。

 

 

 

「強い、マナの反応……これは……デーモン・コマンド……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「────!!」

 

 

 

 それは夜の住宅街で甲高い咆哮を上げていた。窓ガラスは砕け散り、何事かと家主は外に出てくる。だが、その頃にはもうそれは居なくなっている。

 背には満月。全身が毛むくじゃらの人狼(ライカンロープ)が失踪していた。

 屋根を蹴った場所は剥がれ、砕け散る。月に向かって走り、走り、走り続けている。

 

「止まって」

 

 空を飛びながら現れたのは天使のような羽根を生やした少女形態のミラダンテ──と、彼女に抱っこ状態で連行される白銀であった。

 

「お前の言う通りだったな……! わざわざこんな真っ暗の中出てきた甲斐があったってもんだぜ……! ところでミラダンテさん? やっぱりこの態勢は色々──」

「見過ごせない。分かるでしょ? この気配」

「そうじゃなくて落ちたら死──」

「───ッ!? ……ガルルルルルルル……!!」

 

 人を見るなり──人狼は低く唸り始める。腰を低く構え、そのまますぅーっと息をいっぱいに胸に溜め込む。

 

「狼……!?」

「っ……アオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 咆哮と共に風と音波の波形が襲い掛かる。

 ミラダンテが白銀の身体を掴み、空中に急上昇。遅れて、屋根が捲れ、アンテナが吹き飛んで行く。

 まさにそれは生ける災害。ただ存在するだけで周囲に被害を齎す。

 

「なっ、何だこの威力は……ッ!? 音波だけで……ッ!?」

「直撃したら肉塊は避けられない──!」

「こんなんじゃ近付けないだろが!! どうすんだよ!?」

「真のデュエルで無力化する……!」

「グルルルルルルル……ッ!!」

 

 唸る人狼。その腕が一気に4本に増える。更に、その掌からは鋭利な刃がみちみちと生々しい音を立てて生えてくる。

 そして、その刃を一振りすると──後ろの電柱が真っ二つに斬れた。

 それを見て、白銀とミラダンテは戦力差というものを完全に理解したのであった。そもそもの馬力が違い過ぎる。

 

「前言撤回。指揮者(マスター)、この姿じゃ手に負えない」

「だと思った! 命の危険を感じるんだが!? こんなの人狼じゃねえ! 刃狼じゃねえかよ!」

 

(……そう言えば、戦国編でそんな名前のクリーチャー居たような……何だっけ……相手の種族を選んで、手札から落とすヤツ……えーと確か──)

 

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

「どわぁ!? 考えてる場合じゃねー!!」

 

 再び咆哮。

 屋根が抉れ、木々が吹き飛ぶ。

 まるでそれは嵐の如く。飛んでくる物を避けるだけで精いっぱいだ。しかし。

 

 

 

「ゴリラ!! ヤツを抑え込めッ!!」

「正義星帝ッ!!」

 

 

 

 その時だった。

 人狼の身体を何かが抑え込む。

 《正義星帝》に加え、ゴリラ型のビーストフォークにして暴れる拳のキングマスター《剛力羅王ゴリオ・ブゴリ》だ。

 そして、それを操るのはエクレール、そして山吹だった。

 

「先生に、エクレールまで!? 何で此処に!?」

「話は後だ!!」

 

 パワー自慢の2体のクリーチャーに抑え込まれ、流石の人狼も動けないと思われたが──

 

「白銀!! ミラダンテ!! クリーチャーの力でヤツを抑え込め!!」

「山吹先生!? エクレールも!?」

「ヤツの口を押えてる所為で、このままでは押し返されそうです!!」

「ミラダンテ時間を止めれば──」

「止められない」

「え」

「その力が行使できるのは当代ミラダンテだけ」

 

 白銀は目を点にする。しかしよくよく考えれば分かる事だった。ミラダンテSF。それは、当代の先の次代の未来のミラダンテ。彼女に時を止められる力は備わっていない。

 

(考えろ、考えろ──この場で出来る事──そうだ!)

 

「ミラダンテ、この呪文を唱えられるか!?」

「……やってみる」

 

 白銀の差し出した1枚のカード。

 それに掌を当てた彼女は──ピピピ、と機械音を立てた後、

 

「──雷光よ、縛れ──!!」

 

 稲光を放ったのだった。

 正義星帝とゴリオ・ブゴリを両腕で跳ね除けた人狼だったが、直後に脳天に雷光が直撃する。激痛、そしてショックによって咆哮してのたうち回った人狼だったが、再び正義星帝とゴリオ・ブゴリが抑え込んだことで、今度こそ動けなくなる。

 

「……《T・T・T》! そうかっ、ミラダンテSFの呪文を唱える力で動きを封じたのか!!」

「この姿でも使えたんだな、呪文……!」

「ん」

 

 クリーチャーが行使できる異能力はカードに沿ったものとなる。白銀はミラダンテSFのテキストから、デッキの呪文をそのまま具現化出来るのではないかと仮説を立てた。そしてそれは見事に的中したのである。

 T・T・Tの効果の一つは、相手クリーチャーを3体まとめてタップするというもの。それが人狼にも通用し、身体を鉛の如く重くする呪いとして現れたのだ。

 

「でも……長くは持たない……!!」

「心配要らねえ! エクレ、思いっきりブチ込んでやれ!!」

「──貴女に言われるまでもありません、シスター・ヤマブキ!!」

 

 エクレールが構えたのは──巨大なライフルだった。

 それを見て白銀の顔が真っ青になる。人狼の正体を、その場にいる全員が察していた。その上で彼女は銃口を向けようとしている。

 

「おいっ、エクレール──」

指揮者(マスター)、大丈夫」

「でも──ッ!」

「ご安心を。貴方がたを傷つけるのは──私としても本意ではありませんからッ!!」

 

 

 

 

 どすっ!!

 

 

 

 

 エクレールの構えたライフルから注射器が飛ぶ。

 それは人狼の肩に思いっきり突き刺さる。激痛から咆哮を上げようとする人狼。しかし、ゴリオ・ブゴリに口を抑えられており、もう喉で唸るしか出来なかった。

 そうしているうちに──徐々に大人しくなり、漸く──首をもたれ、人狼は瞼を閉じ、そのままイビキをかきはじめたのだった。

 

「【教会】特製の麻酔薬です。熊用のそれよりもキツイですよ。これでも足りない時があるんですけども」

「ところで麻酔銃って資格無いと持てないよな? エクレ」

「正義を成すための必要悪です、シスター・ヤマブキ」

 

 濃い毛皮は徐々に薄くなっていき、体も小さくなっていく。

 マズルのようだった鼻は短くなっていく。

 そうしていくうちに、人狼はよく知る少女の顔へと戻っていった。その名を白銀は思わず呼んだ。

 

「……大神さん……」

 

 変身時に服が破れたのか、一糸まとわぬ姿のままで寝息を立てる少女。

 人狼の正体は──大神紅葉であった。

 

「……早速恐れてた事態が起こっちまったか……それも、考えられる限り、最悪だ」

 

 ぽつり、と山吹がつぶやいたのが白銀にははっきりと聞こえていた。

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