追放決闘者だけどミラダンテが美少女化したので、もうダメかもしれない   作:タク@DMP

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第5話:敵の狙いは俺……かもしれない

 ※※※

 

 

 

 ──その日の朝。

 白銀は進路面談という体裁で山吹に呼び出されていた。

 最も、内容は昨日のことについてである。

 尚、最初は年上だが部屋で二人だと吐くのではないかと考えていた白銀であったが、いざ部屋に入っても何ともなかったことから一つの結論に辿り着く。

 

(正直教室で酔っ払ってゲロを吐くような人には恐怖心も何も感じない……年も離れてるし)

 

 なんとも酷い理由であったが。

 

「……で、大変だったな」

「ええまあ……そう言えば明松は」

「ああ、命に別状はない。多分、今日も来るだろ。てか、本人の強い希望で、だ。そうだろ? ──明松」

 

 

 

「すんませーん!! 遅れましたセンセー!!」

 

 

 

 

 後から部屋に入って来たのは──明松だった。

 首には包帯が巻かれていた。まだ痕が残っているのだろう。

 人数が揃った事を確認すると、山吹は鍵を閉める。

 

「明松……お前、大丈夫なのか」

「ははっ、気にすんな白銀! ジブンが勝手に突っ込んでいったのが原因だからな」

「こいつには昨日の時点で大体の話をしたんだ。誰かにバラしたら、今度は自分含めて他の誰かがレッドキャップの餌食になるかもな、という話も含めてな」

「こ、口外なんかしませんって!!」

「レッドキャップは……また大神紅葉の姿で学校に来るんでしょうか? 俺の席、あいつの隣なんですけど」

「安心しろ。大神はレッドキャップじゃない。眠らされて入れ替わっていただけだ」

 

 曰く、大神本人はただ変装に使われただけの被害者だったのだという。

 本人は何も覚えていないらしく、そしてレッドキャップに命を取られなかったのは幸いであった。

 

「何かが間違ってたら大神が殺されていた可能性も全然あるからな……しかし、人に興味がないと思ってたが、真っ先に明松の事を聞いたな?」

「別にそう言うわけではありません」

「ちょっ、そこは肯定してくれよ!?」

 

(正直……クラスメイトなんて、どうでも良いと思っていたけど、いざこんな事件が起こると……やっぱり二人が無事でよかったと思ってる自分が居る……)

 

 例え信用できなくとも、やはり悪い奴じゃない人間には死んでほしくは無いのだ、と彼は再実感した。

 しかし、それを山吹に悟られるのはシャクだったので、彼は切り出す。

 

「とにかく、先生が知ってることを教えてください」

「そうだな、結論から言おう──お前は獣印を持つ人間だったんだ、白銀」

「じゅー……いん?」

 

 聞き慣れない言葉に、思わず白銀はそれを反芻する。

 

「そうだ。獣の印、と書いて獣印だ。それが目覚めた時、人間は空間を超えてクリーチャーを呼びよせるだけの力を手に入れられる」

「……それが、俺の場合はミラダンテだったってわけですか」

「そう言う事。お前の場合は……背中か。ちょっとブレザーとカッターシャツ脱いでみ」

「え”」

「良いから。別にあたしに見られたってどうってことないだろ」

「……ふっつーに嫌なんですけど」

「そうそうセンセー、そういうのってセクハラって言うんだぜ」

「先に言っておくけど、白銀の身体、多分大変な事になってるぞ? 後で自分で気づいてビビりたくないだろが」

「……だってよ?」

「……」

 

 正直、妙齢の女とクラスメイトの前で脱ぐのはかなり屈辱であった。

 しかし、彼女の言葉が気にかかったので、仕方なく彼は半裸になる。

 そして手鏡で山吹は彼の背中を映し出した。

 明松は驚愕したように叫ぶ。白銀も血の気が引いた。

 

「いっ、マジかよ!? デカすぎねえ!?」

「う、うわぁ……ッ!? 気持ち悪っ、何だコレ」

「な? 言っただろ」

 

 少々無理な姿勢だったが、それでもはっきり分かるほどに──何かの刻印が背中一面びっしりと広がっていた。

 

「何だコレ……刺青みたいになってる」

「ああ確かにデカいな……普通の人間は大きくてもコイン大だ。部位はそれぞれだが、今は良い。問題は、お前の獣印の大きさは通常のそれを遥かに上回ることだ」

「デカいと何かマズいんですか……!?」

「単純に、お前が持ってる力がそれだけデカい事を示しているんだ」

「もしかして……もしかしなくても、だから俺は狙われた?」

「分かってるじゃないか。じゃなきゃ、ミラダンテなんてデカブツ、最初から召喚出来るわけないだろ」

 

 白銀は服を着直す。

 自らに刻まれた獣の印を隠すようにして。

 

「──お前を襲った【赤頭巾(レッドキャップ)】は獣印を集めているんだ。当然、人に獣印は1つしか顕現しない。だが奴は獣印を持つ人間からそれを剝ぎ取って殺している」

「……何でまた」

「さぁな。以前、こてんぱんに叩きのめしたんだが、逃げられてね。あいつはまだ諦めてなかったみたいだな……」

 

 何処か悲しそうに山吹は言った。

 このレッドキャップというバケモノはなかなかの凶悪犯のようであった。

 しかし、此処まで抜け目のないレッドキャップだが、白銀には一つ、思い残す点があった。

 

(ヤツは明松の命は狙っていたけど、大神さんの命までは奪わなかったのか……何でだ? 生かしておいたら、正体がバレるリスクが増えるだけなのに)

 

「ヤツは変装の名人だ。変装相手の行動をエミュート同然までにコピーしてくる。また近付いてくるだろうな」

「こ、こえーぜ……ジブン、転校して良いっすか?」

「あたしの目が届かなくなるからやめろ。お前の獣印はまだ目覚めていないからな」

「っ明松も獣印を持ってるんですか!?」

「おーよ! だから殺されかけたんだってよ! レッドキャップが貼った結界をブチ壊せたのは、俺の力らしいぜ?」

「胸を張って言うことじゃないんだが……」

 

 となると、次にレッドキャップに狙われるのは明松であることは明白だった。

 当初、巨大な獣印を追って学校にやって来たであろうレッドキャップであったが、次はまだ目覚めていない獣印を持つ明松を単独で狙いに行くかもしれない、と。

 

「おまけに殺し損ねているからな……レッドキャップの奴は早いうちに討伐しないといけないだろう」

「……山吹センセーはよぉ、最初っから俺達が獣印を持ってるって知ってたのかよー?」

「知ってるわきゃないでしょ。アレを嗅ぎつけられるのは、レッドキャップ特有の能力だ。あたしだって今の職に就いてから獣印を見るなんて初めてだわ」

「改めて、あいつは人外染みた敵、ってわけか」

「ひゅーっ、ジャンプ漫画みたいだぜ!」

 

 説得力はある。

 槍を振り回せる臍力、男子高校生を片手で締め上げられる怪力。

 そして、人間離れした跳躍力、頑強性。

 最後に──変装能力。

 全てにおいて、レッドキャップは怪物だ。

 

「でも……何で俺に、こんなデカい獣印が……!?」

「分かるかよクソガキ共。例えば身長、肌の色、後胸の大きさ……お前の獣印の強さは生まれつきデカかったで片付けるしかない。……やっぱり納得いかねーッ!」

「そんな所で取り乱すなよセンセー!?」

「っせぇ! お前もどうせ、胸がデカい方が好みなんだろ白銀ェ!!」

「知りませんがぁ!?」

 

 

 

 

 

「──ん。騒がしい……寝てたのに……」

 

 

 

 

 山吹が理不尽にキレて掴みかかったその時であった。

 カードが光り輝き──ミラダンテが実体化する。

 その姿に、思わず山吹と明松は見惚れてしまっていた。

 

「あ、え? こ、この子が例の?」

「きゃ、きゃんわいい……誰?」

「バカお前、何勝手に出て来てんだよ!」

「ん。……指揮者(マスター)が理不尽に怒鳴られてると思った」

「あー事実だな」

「やめろよ! ただのじゃれ合いだわ!」

「だけど……昨日、指揮者(マスター)を助けてくれた人だ。あの時は私もマナ切れで動けなかったから。ありがとう」

 

 表情は一切変えることはない。 

 しかし、人形のような少女に礼を言われたことで、山吹も悪い気はしなかった。

 それどころか、完全に心を掌握されつつあった。

 明松はと言えば、あんぐりと口を開けて指を差す。

 

「お、おお……てゆーか、え? この子がお前のクリーチャー? は? 可愛すぎんか?」

「ミラダンテです……こいつが」

「ミラダンテェ!? アレって女だったのかよォ!? いや、待てよ。エンコマに性別もへったくれもねーんだっけか?」

「人間の姿は省エネモードなんだと」

「省エネって何!?」

 

 明松はなんだかんだでデュエマの背景ストーリーに詳しいのか、完全に当惑しているようだった。

 少し考えていた山吹だったが、そのままミラダンテに目を向ける。

 金の長い髪に、白い肌。幸薄そうな顔。こいつがクラスに居たら男子連中で取り合いになるだろう、と山吹が断言できるほどの容貌だ。

 むしろ、完璧すぎて作り物なのではないか、とさえ思われる。

 しかし、そんな容姿に反して、恰好はTシャツ1枚。思わず山吹は疑念の目を白銀に向けた。

 

「で? 何でこの子シャツしか羽織ってないの? 性癖?」

「違います。実は人間体で現れたのが今朝で、持ち合わせがなくって……」

「ん。指揮者(マスター)はせめて服を着ろって言う。正直邪魔」

「それはマズいぜ、ミラちゃん! 色々見えちまうよ! じゃあその下は……何にも着せてねーのかよ!?」

 

 明松は目を逸らしながら赤面する。

 反応が完全に男子中学生のそれであった。

 

「邪魔でも人間は服を着るモンなんだよ。身体の保護、装飾。人間はクリーチャーほど頑強じゃない」

「分かってはいても実感は出来ない。だけど……理解はした。確かにこの身体は少し肌寒い」

「おお、素直な教え子は好きだぜ先生は」

 

 とはいえ、白銀の家には男物の服か母親の服しかない。

 母親の服を拝借するとすぐに数が減っているのがバレるだろうし、連鎖的にミラダンテのことが親に知られてしまう。

 そうなると──色々面倒であった。説明然り、世間への露見然り。

 

「……んじゃあ、女物の服と下着譲るわ。余ってるしねー」

「いや、流石にそれは……」

「バカ言ってんじゃないわよ、幾らクリーチャーと言えど女の子にシャツ1枚で過ごさせる気? 後で請求したりなんかしないから」

「そ、それは確かに……んじゃあ貰います」

「おーっ、良かったな白銀! ミラちゃん! 取り合えず、問題は一個解決、ってとこだな!」

 

 何かと自分のように喜んでくれる明松であった。

 とはいえ、これによって改めてミラダンテの倫理観が人間のそれを超越していることが分かってしまった。

 

「人間ならともかく中身はクリーチャー、か。光のクリーチャーって超然としてるところがあるし、人間とは倫理観も常識も違うからあたしからこれ以上どうこう言えないのよね」

「最低限の常識は身に着けさせるべき、ですよね……?」

「だと思うよー? 苦労すると思うよー? あたしもそうだったし」

「はぁ……」

 

 これからの事を考えると白銀は先が思いやられた。

 今後もきっと、それが障害になる場面はあるだろう。

 その度に根気よく教えてやらねばならないのだ。

 

「ま、良いんじゃね? ミラちゃん素直だし。どーにかなるっしょ」

「お前は……突き抜けてお気楽だな……」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 HR5分前を告げるチャイムが鳴る。

 山吹はぱっと立ち上がると、

 

「……時間か。続きは放課後だ。今日は部活の顧問は休みにしている。教室に行け」

「あ、はい。良いんですか? 部活は……」

「天秤にかけた時に、生徒の命がかかっている方が大事さ。部員もお前達も変わらず大事だけど、あたしの身体は一つしかないからね」

 

 そう言って、彼女は部屋の鍵を開けて出ていった。

 白銀も立ち上がりながら、今までロクデナシだと思っていた山吹の事を見直しつつあった。

 

(……意外と面倒見が良いんだな。だけど……)

 

 とはいえ白銀は彼女については、まだ知らない事の方が多い。

 何故そもそも山吹が獣印について、そしてレッドキャップについて知っているのか、だ。

 それを意図的に彼女は話さなかった。

 白銀は疑り深い。一度疑念を持ってしまうと、とことんまで疑ってしまう。

 

「なーに辛気臭い顔してんだよ、白銀!」

指揮者(マスター)、ちょっと元気がない」

「……別に。ミラダンテ、引っ込んでてくれ。俺今から授業だから」

「ん。了解した」

「しっかしよぉ、大変な事になっちまったな、白銀。ジブン達はもう、フツーの日常には戻れない、ってやつ?」

「おい明松。お前、仲間達にこの事を話したりしてないだろな?」

「話さねーよ! ジブンだって命の危険に晒されてんだから。あいつらを危ない目に遇わせたくねーしな。ちょっとは信用しろ!」

 

(どーだか、悪い奴じゃないんだが、お調子者だからな……姦計を立てられそうな頭は持って無さそうだけど、自爆しそうなんだよな……)

 

 隣で鼻歌を歌う明松の事を、未だに白銀は理解出来ないでいた。

 自分とはおよそ対極の性格の人間だ。

 悪いヤツではないことは確かだが、何かの拍子にこちらの意にそぐわない行動をとる可能性もある。

 

 

 

(これから、どうすりゃいいんだか……)

 

 

 

 ──とはいえ。

 その日は授業が全て終わるまでは全てがつつがなく進んでいた。

 異変は、帰りのHRに起こったのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その日、山吹は帰りのHRには向かわなかった。

 後で絶対上から怒られるであろうことは分かっていたが、座視できない気配を彼女は感じ取っていた。

 レッドキャップではない。むしろこの匂いは、古巣のそれであることを直感していた。

 視線の先には修道服に身を包んだ少女が立っている。

 

「……おや、お出迎えですか? ごきげんよう」

 

 恭しく少女は礼をし、優雅にスカートを持ち上げる。

 

「それで? 私にこの学園を案内してくれるのですか?」

「バカ言え、先ずは名を名乗れ。こちとら、今から帰りのHRなんだよ」

 

 山吹はデッキを取り出す。

 警戒心剥き出し。いつでも戦闘に入れるぞ、と威嚇する。

 

「【教会】のエクレールです。そちらは名乗っていただかなくて結構ですよ、シスター・ヤマブキ」

「昔の名前だ。とっくにクビになったよ。仕事中に酒飲んだって理由でな。……見ない顔だが、あたしの顔は知ってるんだな」

「ええ。貴女の事は、ちゃあんと聞いております」

「……何しに来た? 【教会】がうちの生徒に何の用だ?」

「全く話の通り血の気の多い……そうですね。()()()がどれだけ危険かは貴女にもお分かりですね?」

「分かってるつもりだ。その上であたしは、教師として……そいつを見守りたいと思ってる」

「貴方一人で出来ることなんてタカが知れています。【教会】でなら、彼らを世のため人のために献身する素晴らしい悪魔祓いに育てる事が出来ますよ」

「──やめろ」

 

 彼女は激昂した。

 その背後からは鎖に拳を包んだ金色の剛獣が現れる。

 古巣ではあるものの、山吹は【教会】の在り方や理念があまり好きではない。

 人間社会の平穏と安寧のためであるならば【教会】は手段を択ばない。

 山吹がそれを黙認するのは彼らが教え子に妙な干渉をしない場合に限って、である。

 

「大獣印を持つアイツを抗争の道具にするつもりだろが。生徒に手を出すなら許さん」

「そちらも勿論。邪魔をするのでしたら致し方ありません。力づくで排除させていただきます」

「生徒の道を決めるのは生徒自身。部外者が口を出すな、と上に言っておけ」

 

 微笑みを崩さないまま、彼女もデッキを取り出す。

 

 

 

「……情に絆され、牙を研ぐことを忘れた貴女では、私には勝てませんよ。……再教育してさしあげます」

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