追放決闘者だけどミラダンテが美少女化したので、もうダメかもしれない   作:タク@DMP

9 / 12
第9話:円満解決の未来もある……かもしれない

 ※※※

 

 

 

「──終わった」

 

 

 

 白銀は緊張が張り詰めてきたのか、へたっていた。

 しかし本来の目的は山吹の救出である。

 仰向けに倒れたエクレールに詰め寄ると、白銀は──顔をそむけた。

 

「……指揮者(マスター)?」

「わりぃ、今になってちょっと気分悪くなってきた」

「?」

「でも、先生の居場所聞き出さなきゃな……」

 

 此処まで来てこんな事を言っていられない。

 彼女を抱き起こそうとしたその時だった。

 

「す、すごい……! 勝っちゃった……! あのメタクリの数を押し切って……!」

「流石だぜぃ、白銀ェ!! ジブンの目は間違ってなかったぜーっ!」

 

 後ろから歓声が聞こえてくる。

 明松と大神が走ってくるのが見えた。

 特にはしゃいでいるのは、明松の方だった。

 

「褒めすぎだ。俺は当然のことをしただけで……」

「謙遜すんなよ! やっぱり全国優勝したお前の実力は本物だったんだぜ!」

「明松……」

「ジブンさ、白銀が悪く言われるのがずっとガマン出来なくってよ……! やっぱオメーは、最強のデュエリストなんだよ、白銀ぇ……!」

「ねえねえ、今度ボクともデュエルしてよーっ!」

「はしゃいでる場合か! まだ先生は助けられて無いんだぞ!」

「あっ、わりぃ白銀……」

「でもすごかったんだもん! クリーチャーがばーんっ! って実体化してバチバチに殴り合って、爆発して! 映画見てるみたいだった!」

「怖いとか思わなかったんだな……」

 

 大神の興味は完全に真のデュエルに向いてしまったようである。

 それを引き戻す為に、白銀は1つ質問をする。

 

「大神。先生の声……あと、音は何処かから聞こえるか?」

「え? 聞こえるかな──あっ、白銀君、後ろッ……!」

「後ろ──?」

 

 彼女の顔が恐怖に歪んだその瞬間だった。 

 大槌を振り上げたエクレールが、起き上がっていた。

 その表情は、少女のモノとは思えないほどに怒りで歪んでいた。

 否。目は白目を剝いており、既に正気を失っている。

 

「──認めない。私は認めない。こんな、ただの少年に負けるなんて──ッ!!」

「白銀君っ!」

「白銀──!」

「……指揮者(マスター)ッ!!」

 

 前に飛び出したのはミラダンテだった。

 彼女の貼った障壁が、白銀を守り切る。

 莫大な質量、そして重量の暴力を受けても尚、彼女の身体は1mmも動じはしない。

 

「退きなさいッ!! 私は……【教会】のシスターッ!! 私の居場所は此処にしかないのですッ!! その命令を忠実に執行するだけが私の正義ですッ!!」

「そんなもの……正義でも何でもないッ……! 指揮者(マスター)から離れてッ!!」

「黙りなさい! クリーチャー風情が……」

 

 

 

 どさっ

 

 

 

 

 そのまま、エクレールの身体から力が抜け、ぷつり、と糸が切れたように地面に倒れてしまったのだった。

 漸く力尽きたのだろうか。

 

 

 

「……こ、今度こそ終わった──」

「お前ら! 来てたのかッ!?」

 

 

 

 安心で力が抜けた矢先、大部屋の奥から山吹が現れる。

 衣服が乱れており、ケガもしている。

 しかし、見た所命に別状は無さそうだった。

 

「……先生!」

「全く、わざわざこんな所まであたしを探しに来たのか。大方あのメールを見てきたんだろ」

「よ、良かったぜーッ! 先生生きてたーッ!」

「大丈夫だった!? ケガしてない!? 先生!?」

「ばぁーったれ!! ガキが一丁前に大人の心配してんじゃないよ!!」

 

 びくっ、と明松と大神の肩が飛び跳ねる。

 完全に怒っているときの声だ。

 

「危ないと思わなかったのか!? 特に横二人!! 本当にレッドキャップだったら、殺されてたかもだぞ!? 白銀も分かってんのか!?」

「ス、スミマセン……」

「ボ、ボク、先生が心配で……」

「……って言いたいところだけど、まんまと捕まったあたしもあたしだからな。今回の所は、大目に見る」

 

 はぁ、と呆れたように言うと彼女は呆れたように教え子たちを見下ろす。

 

「でもすごかった! ズルいよ、皆! こんなすごいデュエルをナイショにしてるなんてさ!」

「……待て。見えたのか? 大神」

「うんっ、ばっちり!」

 

 山吹は一度眉間を摘まむと、また面倒事が増えたと言わんばかりに「今日の事は他言するなよ、後日私の所に来い」というのだった。

 大神は元々、獣印を持っていない一般人だ。それに獣印やクリーチャーの事を説明しなければならないのは、山吹にとって望むところではないのだろう。

 

「あー悔しー……もとはと言えば、あたしがこいつに負けなきゃ、こんな事になっちゃないんだ。腕が鈍ったな」

 

 エクレールを自らが拘束された時に使われた鎖をぐるぐるに彼女に巻きつけながら、悲観的に山吹は言う。 

 そのまま、米俵のようにエクレールは山吹に抱えられたのだった。

 それを見ながら、白銀は心配そうに言った。

 

「そのまま運ぶんですか? こいつ、また暴れたりしませんかね?」

「負けたのがよっぽど屈辱だったみたいだな。獣印の力だけで動き出した。【教会】のシスターの奥の手だ」

「結局、【教会】って何なんですか? 先生……」

「……()()()()()()()()()()()()()()を信仰し、それを悪用するものを討伐することを目的とした組織だ。そこに所属する者は厳しい修行を行って獣印の制御を行う」

 

 曰く。

 その役割はレッドキャップのように不和を齎す者の討伐。

 その役割は獣印を持つ者達を管理することによる表社会の秩序の安定化。

 その役割は獣印を研究することによる、その有用性と危険性の探求。

 少なくとも、世間に表沙汰にされるような組織ではない。

 

「……あたしも昔はこの組織に入っていた」

 

 そして、ぽろり、と山吹は言った。

 

「あたしはずっと、自分の持つ力のルーツが知りたくてね。一時的に入っていた時期がある。獣印の事をあたしが知っているのは、そのためだ」

「そうだったんですか……でも何で辞めたんですか?」

「……仕事中に酒飲んでるのがバレた。これだけは許されなかった」

「ええ……」

 

 何とも山吹らしい理由であった。

 やはりろくでなし教師は昔からろくでなしだったようである。

 

「まあしかし、【教会】でも獣印を持ってる連中は皆、食いっぱぐれた荒くれものばかりだ。それを教義とメシで制御してるんだ。言わば首輪さね」

「メシ……ってことは、マジで元はろくでなしが多いんですね」

「ちなみにあたしは既に教員免許取ってたぞ」

「教員免許取ってる人が副業してちゃダメでしょ……」

 

 そう言う所がろくでもないと言われる所以なのだった。

 

「一方で、獣印を持つ他の組織に対抗する戦力を欲しがっているみたいだがな。今なら筆頭は……やはりレッドキャップか」

「……じゃあ、【教会】と協力すれば、レッドキャップを倒せるかもしれねーってことか!? その方が楽じゃね!?」

「ああ、アマさんになりたいならすれば良いと思うぜ。あいつら獣印持ちには勧誘しつこいぞ」

 

 今回、何故エクレールが現れたのかを明松は改めて思い出す。

 少なくとも年頃の高校生にとっては相当禁欲的な場所であることは察せられた。

 そしてすぐに彼は萎んでしまい、

 

「……やっぱ遠慮しときます」

「分かったなら良い」

「ねえ先生。ボク、じゅーいんって何なのかよく分からないんだけど……」

「ああ、そこから教えなきゃだったな……すまん、明日教える。此処まで来たら、お前だけ仲間外れにはせんよ」

「本当!? 先生は良い人だなーっ! この二人、ボクをのけ者にしようとしたんだもんっ!」

「バカ野郎! お前がそんな調子だから、教えたかなかったんだろが、どう考えても……」

「ご、ごめんなさい……」

「つーわけで、今日はお前ら帰れ」

「先生はどうするんですか?」

 

 山吹は──笑みを浮かべながら、拳にメリケンサックを嵌めた。

 

 

 

「【教会】に殴り込みに行ってくるわ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その次の日。

 山吹は普通に学校にやって来た。

 そして──昼休みに白銀達を再び鍵付きの生徒指導室に案内したのだった。

 大神には今朝の時点で獣印の事を教えたらしいが、彼女が完全に状況を飲み込めるのはもう少し先になりそうである。

 なんせ彼女は漫画やアニメのような展開に心が躍ってしまっているらしく、危機感というものが全く感じられないのだとか。

 さて、残るは【教会】の今後の処遇。そして──

 

「……センセイ、ありがとう」

「あの、先生? これって新品じゃ──」

「うるせー何のことだ。ほれ、着替えるからお前達は出てけ」

 

 ──ミラダンテに渡す新しい服の数々だった。

 しかし、それは結構な量があり──しかもどれも新しい。

 何ならタグが付いているものもある。

 そしてサイズは見た所、彼女の身体にぴったりだった。

 

「……身に着け方が分からない」

「じゃあボクが教えてあげるっ! こっちに来て、ミラちゃんっ! ほらっ、男子は出ていった! ついでに先生も!」

「あたしは女にカウントされてないのかよ!?」

 

 ぽいぽい、と部屋の外に出される3人。

 外には誰も居らず、時間も余ってしまったので、白銀は山吹に斬り出した。

 

「それで、どうだったんですか?」

「とりあえずは交渉は通った。みっちり怒らせて貰ったよ。奴らとの情報共有の徹底を条件に付けた上で、直接妥協案を引き出した」

「妥協案って何だよ? センセー」

「一先ずは監視だってよ。お前達の動向を見張るって形で落ち着いたんだ。これについては大神にももう教えてる」

「大人しくしてくれりゃいーんだけどよぉー。困った連中だぜ」

 

 明松が頭を掻く。

 監視と言ってもどのような形で行うのか、白銀達には想像もできない。

 どれほどプライバシーに干渉してくるのか、彼らが襲ってこない保証はあるのかすら不明瞭だ。

 懸念が幾つも積み上がっていく。

 

「終わったよーっ!」

指揮者(マスター)、似合ってる?」

「っ……」

 

 部屋に入ると──彼女の姿に白銀は言葉を失った。

 制服姿のミラダンテがそこに立っていた。

 色素の薄い肌と金の髪と合わさり、そこはかとなく清楚さと儚さが際立っている。

 

「──かわいい」

「……ん。質問の返答になってない。私は似合っているかどうかを聞いた」

「すっごく似合ってるってこと! 白銀くぅん、ミラちゃんに惚れちゃったでしょ?」

 

 白銀はしばらく黙りこくっていた。

 女の子に見惚れるだなんて、何年ぶりか分からなかった。

 そうして穴が開くほど彼女のことを見つめていることに、気付いた時、ようやく白銀は目を逸らして言った。

 

「……別に! 惚れてねえし」

「? 頬の紅潮を確認。体温の上昇を感知。指揮者(マスター)、風邪でも引いた?」

「引いてねえよ! い、いや、風邪かもしれねー……」

「ぎゃっはははは、本人にバレバレじゃねーかよ、白銀! お前、結構顔に出やすいんだな!」

「うるせぇ、俺ァもう帰る」

「おいおーい、怒るなよーっ! 悪かったってーっ!」

「ちょっと! まだほかに服はあるんだからっ! 先生も早くーっ!」

「ったく、青春してんじゃねーぞ! 戻れ白銀ェ!」

「? 指揮者(マスター)、何で怒ってる?」

「やっぱヘンだわ! ぜってーおかしい!」

 

(もうダメかもしれねー、俺……こいつはクリーチャーなんだぞ!?)

 

 情緒はもう滅茶苦茶。

 女が苦手なはずなのに、ミラダンテにだけは拒否反応が出ない事を改めて実感する。

 その理由がクリーチャーだから、ではなく一目惚れだから、と認めてしまえば、自分の中の何かが壊れてしまいそうな気がした。

 

指揮者(マスター)? 何で逃げる?」

「うるせーっ! ほっとけ!」

 

 訳が分からなくなりながら、白銀は寄ってくるミラダンテから逃げ回るのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(ミドリ先生っ! ありがとなっ! 貰ったコレ、大事にするぜっ!)

(おう、二度と裸で歩き回るんじゃねーぞ)

 

(ヒィッ!! 怖い犬!!)

(おめー、パワー18000もあるのに犬が怖いのかよ)

(仕方ないじゃんかさあ! あいついっつもウーッ! って唸ってくるからさぁ! 助けてよ先生ェ!)

(泣くな泣くな、それでもガイア・コマンド・ドラゴンかよ……)

 

(先生との夏祭り、すっごく楽しかったぜ! またいこーなっ!)

(ああ。また行けりゃあいいな。あたしは【教会】と教職の板挟みだから……いつになるか分からないが)

(へへっ、いつまでも待つよっ! 先生の事、大好きだからなっ! ずぅっと楽しみにしておくぜ!)

 

 

 

「……あたしは……何やってんだろうな……()()()

 

 遠い日の事を思い出しながら、ぐびっと彼女はビールを呷る。

 隣には──誰も居ない。何も言わない。

 心の空白を埋めてくれるものは、何時になっても現れない。

 それでも、彼女には戦わなければいけない理由がある。

 

(戦え、戦うんだ山吹 碧……あたしが守るのは……生徒達だろ? なのに、シスターなんぞに負けて、どうするんだよ……!)

 

 机に突っ伏し、彼女は──今日の事を思い返す。

 昨日、【教会】から貰った書類。その中には、彼らが白銀と明松だけではなく、大神を狙った根拠もはっきりと書かれていた。

 しかし、それはとてもではないが、大神に直接話せるような内容ではなかった。

 

(大神には獣印の事、クリーチャーの事、教会の事、レッドキャップの事は話した。だけど……1つだけ伏せたことがある)

 

 彼女の手元には──【教会】からの報告書が置いてあった。

 

(獣印の持ち主でなければ、人間にクリーチャーが見えるはずがない。そうでないなら、()()()()()()()()()()、ただの人間ではないということになる)

 

 

 

 

 

”調査結果:大神紅葉──混血デーモン・コマンド”

 

 

 

 

(キッツ……本当に、キッツいわ)

 

 それは、大神紅葉という少女の出自を大きく覆すものであった。

 

 

 

 

「……教えてくれよ、ギャイ……先生はどうしたら良いと思う?」

 

 

 

 えぐっ、えぐっ、ひぐっ。

 

 

 

 すすり泣く声が部屋に響く。

 机の上には──遺影のように、ボロボロで穴だらけの《地封龍ギャイア》のカードが置かれていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。