○月□日
ハヤテがいなくなってから2週間くらい経った。六畳一間のボロアパートが何故かとても広く感じる。猫系配信者として一世を風靡した俺も、猫がいなければただのフリーターのおっさんだ。でも元々贅沢はしてなかったから彼らの稼いでくれた金で生涯は安泰。まったく、猫様々だよな。
〇月▽日
『新しい子をお迎えしないんですか?』とSNSでDMが届いた。正直ペットショップで猫を買うのは道具を補填してるみたいで嫌だ。『怪我したノラがいたら保護してお迎えするかもですねー』と適当に返しておいた。
□月▽日
バイト終わりの帰路で倒れている子猫を見つけた。見た感じ北欧系の品種だろうか。毛が多く丸っとしている。後ろ足から血を流していて、傷口は膿んでいた。急いで病院に連れて行って処置してもらった。命に別状は無いそうだ。とりあえず今日のところは病院に預け、明日受け取りに行く。
□月✕日
足の怪我もすっかり治って元気になった。ゴワゴワして触り心地最悪だった毛も入念な手入れの結果、天使の羽みたいにふわふわに生まれ変わった。彼女と共にユーチューバーに復帰することも考えたが、なんとなくこの美しい子猫の姿は自分だけで見守りたいと思ったため、猫系配信者としての復帰はしないことにした。今までは名前は視聴者に考えて貰っていたけど、今回は自分でつける。『ミーア』いい名前だと思う。代わりと言ってはなんだけど、配信者を目指そうと思う。女性配信者は結構いるけど男性配信者って出てきてもすぐ消えるから数が少ない。つまりこんな俺でも続ければ大御所になれるかもしれないのだ。うはー夢がひろがりんぐ!
▽月□日
記念すべき第1回を終えた。新しく作ったアカウントで同接90人、まずまずの成果ではなかろうか。とりあえず猫系配信者の方のアカウントの登録者数250万人を越えられるように頑張ろう。
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▽月□日
デビューから1年、登録者数は50万人に到達した。正直順調すぎて恐ろしいくらいだ。男性配信者が珍しいことや、登録者数の多い女性配信者の人とのコラボが効いたんだろう。
そういえばやたらオフコラボの打診があるけど、こんなボロアパートに女性を招くわけにもいかないし、まして女性の家に上がり込むなど言語道断なのでお断りさせてもらっている。ミーアの面倒も見ないとだし。
□月▽日
コンビニ行こうとしたら黒服の女にどこかに連れていかれそうになった。慌てて声を上げたら通りかかったオークの男の人が助けてくれた。
アンチかストーカーか分からないけど、めちゃくちゃ恐ろしかった。もっと気をつけなくちゃいけないな……。
〇月✕日
セキュリティのしっかりしたマンションに引っ越すことにした。ミーアも家が広くなって嬉しそうだ。あんな狭い場所に閉じ込めていた事に申し訳なさを感じる。引越し祝いにとお高いカリカリをあげたのだが、いつも食べているやつの方が好きなようで、あまり食べてくれなかった。ミーアには長生きして欲しいと思う。
□月□日
ミーアが偶然配信に映り込んでしまったが、何故かそれがめちゃくちゃバズった。やっぱみんな猫好きなんだな……登録者数は150万人になった。たった1週間で俺の配信者生活1年分の登録者を2倍上回ったことに思うところが無くはないけど、それ以上に家族が褒められるのは嬉しいものだ。
▽月✕日
ポストに奇妙な手紙が投函されていた。何でもミーアを捨てろというのだ。大方鬼バズりした俺に対する嫉妬や僻みだろう。ミーアを捨てる気はこれっぽっちもないが、確かにミーアの一件で得た登録者は自分本来の力で得たものでは無いから、手紙の内容も理解できなくは無い。謝罪動画というか、注意喚起の動画でも撮るとしよう。
▽月〇日
なんだっていうんだ!マンションのロビーの前に前に攫われかけた黒服が大量にいた。あと少しエレベーターの扉が閉まるのが遅かったらと思うとゾッとする。さすがにもうダメだ。もう少しで夢の250万人に到達できそうだけど、それ以上に身の危険を感じる。かつての男性配信者もこんな恐怖を味わったのだろうか。
▽月▽日
引っ越すことにした。田舎に家を買ってそこで猫に囲まれながら余生を送ることにした。配信者も引退して、逃げるように街を後にする。ミーアは俺を慰めてくれるかのように膝で丸くなっていた。
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□月▽日
最悪だ。家に帰るとあの黒服が扉の前に佇んでいるのが見えた。奴はしばらく家の周りをぐるぐると回ると、やがて俺がいないことを悟って帰って行った。
俺が何をしたっていうんだ。
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PCの明かりだけがぼんやりと明るくする部屋の中で、1人のサキュバスがエナドリ片手にマウスを縦横無尽に動かしていた。
やがてサキュバスの目がある配信のサムネイルを捉える。
「おおっ?YOSHI君引退したんじゃなかったんだ」
彼女がYOSHI君と呼んだのはとある男性配信者である。ゲーム実況や料理配信など、様々な活動を精力的に行っていた配信者だ。大抵の男性配信者はサキュバス他異種族にタゲられてオフコラボ→オフパコ→魔界招待コースで姿を消す。その例外が彼だ。インターネットを介した催眠に何故か引っかからず、コラボでいくら暗示をかけてもオフコラボの誘いに乗らない。いっその事住所特定してさらったろ!というスレをサキュバスが立ててそれを実行、現在に至るまで活動が続けられている。
まぁそんなんだからYOSHI君は引退宣言もなしにフェードアウトしてしまったのだが……
どんな配信をしているのだろう。サキュバスは興味本位でそのサムネイルをクリックした。
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「にゃっほー!YOSHIでーす!」
コメント
:は?誰だテメェ
:YOSHI君を出せ
:YOSHI君の女か?
:サキュバス民ついにやったか?
:YOSHI君に女とか認めないんだが?
コメントには罵詈雑言の嵐が書き込まれるが、カメラの前の少女は全く物怖じせず、むしろそのコメントを揶揄うように読み上げていく。
「今日はねー、皆が『私のYOSHI君』とか言ってるYOSHI君が誰のものなのかリスナーに分からせようと思いまーす!ぱちぱちぱちー!」
わざとらしい拍手の後に少女が体をずらす。部屋の奥には正真正銘YOSHI本人がぐったりと倒れていた。
コメント
:YOSHI君に何してんだてめぇ!
:これ普通にBANでは?
:YOSHI君下半身裸じゃね……?
:エッッッッッッッッ!!!!!?
:↑言ってる場合かよ
:ふざきんな!
「はぁー?ふざけんなはこっちのセリフなんだが?てめぇら発情臭撒き散らしてアタシのご主人様に近づきやがって。逃避行みたいでアタシは面白かったけど、ご主人様はめちゃくちゃ憔悴したんだぞ」
コメント
:半分くらいお前のせいやん
:楽しんでんじゃねぇよ
:コイツもしかしてYOSHI君の配信に映り込んでた畜生か?
:暗示効かなかったのはてめぇの仕業か
「おー、サキュバスの精液詰まった頭でもそこは理解できるんだ。ご明察、アタシがご主人様を守ってた。てめぇらみてぇなアバズレにご主人様渡すわけねぇだろ身の程を知れ」
コメント
:畜生がほざくんじゃねぇ
:BANはよ
:おめーさてはケットシーだな?
:にゃんカスBANされろ
「負け惜しみ乙!ってことでお前らはアタシとご主人様の愛の営みを聞きながらオナってな」
コメント
:おい画面暗くなったぞ?
:通報しますた
:やべーネットワークから魔法的に切り離されてるせいでブラバも通報も出来ねぇ
:強制寝盗られ鑑賞会……ってコト!?
:スタンディングマスターベーション不可避
:座ってろ
:脳がこわれる
:衣擦れの音が聞こえるんですがそれは
「み……ミーア、君なのか……?」
「そうだよご主人♡今からご主人はぁ、ミーアとエッチするの♡」
「まっ、待ってくれミーア……俺はっ……」
「でもご主人のご主人は苦しそうだよ?」
「……っ!」
コメント
:ふーん、エッチじゃん
:あああああああああ!YOSHI君が寝盗られてるぅぅぅぅぅ!!!!!?
:寝てから言え定期
:にゃんカスそこ変われ!
:例のスレ民だが、YOSHI君のお家周辺に九重結界が二重に張られてるぞ
:突破不可能やんけ!
「ほーら、ミーアのおててきもちーねぇ?♡」
「あっ……ぐぅっ……ミーアっ……それ……やばいっ……!」
「速くしてほしい?遅くしてほしい?好きにしていーよ♡」
「はっ……速く…………!」
「んー?聞こえなーい♡」
「はやく……、速くしてくれっ!いっ、イかせてくれっ!」
コメント
:水音がエッチすぎる
:にっちゅ♡にっちゅ♡
:これ普通に神配信では?
:でもこれにゃんカスの暗示にわたしたちも乗せられてんな
:突っ込んだ指これ以上はやく出来ないんですが
:生殺しやんけ……
「お前らはずっとそうしてろよ。ご主人は気持ちよくさせてあげるからね♡ほら、しゅっ♡しゅっ♡しゅっ♡」
「あ”っ!ひっ……ふぐっ……!」
「出しちゃえ出しちゃえっ♡飼い猫に擦られてご主人様汁ぶちまけろっ♡」
「あ”っ!ミーアっ!いっ……イクッ……っ!あああっ!!」
コメント
:音ここまで聞こえたで
:部屋ん中愛液の海なんですけど
:困ったことにドアが開かない、溜まったお汁の水圧だ
:ラ〇メーカーやめろ
:パンパンオブチンチン
:ご主人様汁ってなんだよ
「はー♡はー♡ご主人の匂いすっご……♡ねぇ、もういいよね?ミーアは準備万端だよ……♡」
「はぁ……はぁ……ミーア………」
「にゃはっ♡あんなに出したのにもうこんなになってる……♡ご主人♡ミーアとひとつになっちゃおうね♡」
「ミ、ミー─────
【この配信は利用規約に反しているため権利者から停止されました】
ご主人様:猫系配信者の大御所だった。基本的に猫を撮るだけのスタイルだったため男であることはバレずに活動できていた。ハヤテ(19歳♂)が亡くなって以降動画投稿から離れていた。ビックになるため猫に頼らず配信活動をしていくが、男であることがバレたため異種族から粘着を食らっていた。終いには飼い猫に犯された。現在は片田舎でミーアと共に猫に囲まれながら穏やかな余生を送っている。
ミーア(ケットシー):普通の猫に擬態してご主人様を狙ってたドスケベニャンコ。ご主人様が猫系配信者だった頃から彼が男性であることを見抜いていた。DM送ったのはコイツ。ご主人様が彼女を拾う一連の流れはコイツの自作自演。ご主人様との逃避行は楽しかったが、ご主人様がストレスで潰れてしまいそうだったため身の程を知らないリスナーに向けて分からせ配信を行った。これがクセになって月に一度はご主人様を催眠してハメ撮り配信をしている。ケットシーって二本足で立つ以外は普通に猫な種族だったが、人間君の需要に合わせて姿かたちを変えられるらしい。すごいね。
サキュバススレ民:フリーな人間くん以外勝率が芳しくない模様。ざーこざーこ♡
オークの男の人:誰かを助けるためなら女という恐ろしい存在にも立ち向かっていける漢の中の漢。この後腹いせに犯された。
男性配信者:人間側は男性配信者は人気が出ないという認識のためそもそもの参入人数が少ない。そのため少ない参入者を女性配信者(大抵異種族)が取り合うため、男性配信者が見つかるとすぐに囲われオフコラボ→オフパコ→魔界招待コースになる。男性はすぐ辞める=人気が出ない=参入者が少なくなる→隙間需要を狙って参入→オフコラボの無限ループが始まる。市場を大きくするという発想がないらしい。