俺は異種族が嫌いだ。いつの間にか生活の中にいて、当たり前のようにこの人間社会に溶け込んでいるのが気味悪い。そしてその違和感を時々手放しそうになるのが恐ろしい。
まぁそれは感覚的な話で、実際はもっと単純な話だ。ウチの組は代々お水と裏ビデオで細々やっていた。それが異種族の登場でめっきり客がつかなくなった。
そりゃ極上のオカズがその辺を歩いてたら風俗もAVもいらないって話だ。電器店に行けば冷蔵庫を買う感覚でアンドロイドが買える。
最近は暴対法の影響でシノギも限られてるってのに。
『悪いこたァ言わねぇ。アンタもさっさと足洗ってカタギに戻りな。極道がやってける時代は終わったんだよ』
ガチャンと時代遅れの固定電話が切れる音。その音とともに椅子にもたれ掛かる俺は、さながら糸の切れた人形のよう。
昔は肩で風切って歩いてた極道も、今じゃ猫背にヨレたスーツがのしかかる。極道になれば自由になれると思っていた理想は、今じゃはるか遠くに不法投棄してきてやった。
俺は型落ちのノートPCを開き、ブックマークから掲示板へ飛ぶ。最近の唯一の楽しみだ。
最近のお気に入りは『庭で拾ったアンドロイドをワイ好みのえちえちアンドロイドに改造するスレ』だ。かなりの長期スレなのとアンドロイドの知識がそれなりに付くのが面白い。
そうして俺は目的もなくネットサーフィンを続けるが、今日はいつもと雰囲気が違った。なんというか、スレタイがおかしい。『男日照りの吸血鬼さんおいでませww』とか、『空から人間さんが降ってきました』とか、人間中心の話題が多い。
「なんだこれ……なりきりスレ流行ってんのか……?」
スレを見てみるとやれ人間はえっちだの、こっちを誘ってるだの、妄想にしても酷いものだ。異種族が人間を相手にするわけが無いだろうに。
バカバカしくなってノートPCを閉じた俺は天井を仰ぎ見る。
確かに異種族は人間に興味無いだろうが、その逆は大いにある。それに人間は淫魔や吸血鬼に血液を、機械族には部品をといった具合に各種族が必要としているものを融通しているらしい。
ピンッと点と点がゆっくり繋がり始める。
こっちの世界に来る場合、異種族は今言った必需品は自費で賄うそうだ。つまり国を通して融通されたり物資を受け取れない。何かしらの対価を払ってこの世界で生活している。機械族の部品はともかく、血液や精液なんてものを個人に融通してくれる人間など恋人や配偶者以外にはないだろう。
もしかしたら、異種族の生活って結構難しいのかもしれない。暴対法でガチガチに固められてる俺たちと一緒で、こっちの世界で生活する異種族もかなり制限がつくらしいし。
もし、異種族の風俗店を作ることが出来たら?人間は性欲を、対価に金と従業員の必需品を要求すれば?ウィン・ウィンの関係ってやつじゃないのか?
アンドロイドは買ったら足がつく。しかし異種族を非正規に雇うのは、痕跡なんていくらでも消せる。出来れば何も知らなそうなやつ……天使から始めてみるか。
法には触れている。もちろんだ。だけども俺は極道。ハナからお日様の下では歩けない。このビジネスを逃す手はないんじゃなかろうか。
俺は震える指で金庫のダイヤルを回し、なけなしの500万を取り出す。
これで人生を変えてやるんだ。
◇◇◇◇
その意気や良し、言うが易しなんて言うように、世の中は上手くできてる。
俺は意気込み通り天使のスカウトから始めたが、奴らこっちの話をちっとも聞かない。『法を犯してはいけません。貴方に懺悔と祝福を差し上げますね』しか言わない。天使ってアンドロイドなんじゃないだろうか。
まぁそんな中でも話を聞いてくれた天使はいた。と言っても見た目小学生くらいのチビ天使だが。まぁこれはこれで需要あるかと思って採用した。
もちろん店は1人では回らないので次のスカウトに乗り出す。やはり水商売ならサキュバスだろう。というわけで暇してそうな淫魔に片っ端から声をかけたが、やはりこっちの話を聞かない。『どしたん話聞こうか?……あっちでね……♡』とラブホを指されるもんだから逃げるよな。俺童貞だし。
例に漏れず話を聞いてくれる娘はいるもので、やたらしっぽのでかいねーちゃんが話に乗ってくれた。
その後も俺は獣人族、吸血鬼、悪魔、機械族、とりあえず街で見かけた異種族片っ端から声をかけてスカウトした。その甲斐あって十分に従業員を確保出来た俺は、掲示板にスレを立てることにした。
────────────────
【朗報】異種族ソープはじめました♨️【開店】
1:名無しのキャッチ
お前ら待ってるで
http//:Ishizoki soap/893ch-.....
2:名無しのキャッチ
え?マジ?
3:名無しのキャッチ
えっっっちだ!!!!!
4:名無しのキャッチ
いや……すげぇ行きてぇけどこれ違法では?
5:名無しのキャッチ
客も違法になんの?
6:名無しのキャッチ
>>5
わかってて利用するならそりゃ違法よ
7:名無しのキャッチ
>>5
違法ダウンロードとおんなじようなもんやろ
8:名無しのキャッチ
こういう時はホストニキを呼ぶんやで
9:名無しのホスト
あー……これなぁ……誰か始めると思ってたわ……
10:名無しのキャッチ
>>9
いきわれ
11:名無しのキャッチ
>>10
毎日生存報告してる定期
12:名無しのキャッチ
>>9
実際どうなんよ?
13:名無しのホスト
グレーゾーンかな……。異種族に対して人間がそういうサービスを許可なくやるのは禁止(お水は問答無用でダメ)なんやけど、この場合異種族が人間に対してサービスを提供してるんよ。それだけでも結構法律の穴突いてんだけど、経営主が人間ってことはね、雇われる側も書類上『人間』として雇われることが法律で決まってんの。つまり法律上このソープって『人間』が人間に対してサービスを提供してるってことになんのね。元々彼女らの人権を保証すると同時に魔法とか能力による不正を規制するための法律なんだけど、今回みたいに応用されるケースもあるにはある。どっちにせよ監査はつけさせてもらおうかなぁ
14:名無しのキャッチ
はえー……
15:名無しのキャッチ
グレーゾーンかぁ……興味あるけど……
16:名無しのキャッチ
>>13
きちんと許可証も発行されてるし合法やで?
17:名無しのキャッチ
じゃあホワイトやないか
18:名無しのキャッチ
でもホスニキが言うにはな?監査がつくらしいねん
19:名無しのキャッチ
じゃあホワイトとちゃうか
20:名無しのホスト
イッチはビジネス起こすの初めて?多分違うやろ。ワイが思うに背中になんか背負ってるな?
21:名無しのキャッチ
>>20
何言ってっかわからん
22:名無しのキャッチ
ひょっとしてワイらバチバチの現場に巻き込まれてる?
23:名無しのキャッチ
ホストニキはあくまでも外交官でしょ
24:名無しのキャッチ
知らんのか?RedWave事件以降『対異種族特別執行官』に変わったんやぞ名前
25:名無しのキャッチ
え、知らんそんなの
26:名無しのホスト
外交官が特定の状況において警察権を行使できるってだけや
27:名無しのキャッチ
やっべ、ホストニキ偉いやん
28:名無しのキャッチ
でも警察権持ってる人に睨まれてる場所には行きたくないなぁ……
29:名無しのキャッチ
すまねぇイッチ、ワイは普通の風俗で満足するやで
30:名無しのキャッチ
ドンマイイッチ
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というわけで、意気揚々とスレを立てたはいいものの、界隈の有名人にマークされてしまった。そんな有様だ。客足は当然遠のき、月の収入も想定してた額の4分の1もいかない。
「はぁっ……はぁっ……はっ……はぁッ……!」
俺はネオンに彩られた夜の街を疾走する。
ドンッと肩に鈍い衝撃。誰かにぶつかったようだが、俺は一瞥もくれずに走る。
背後から重たい気配がじわじわと、背中を舐るように近づいてくる。
俺はたまらず路地裏に入り、入り組んだ道を右へ左へ駆け巡る。
──俺が甘かったんだ。人間ごときが異種族を御せるだろうと思い上がって、小さく、しかし大きな間違いに気づかなかった。
「はっ……はっ……はっ……っあ……」
フルスロットルで動かしていた足が止まる。行き止まりだ。
引き返そうと踵を返したが、背後に感じる重圧がそれを許さない。
誘い込まれていた。そう判断するのに時間はかからなかった。
「やぁっと、見つけましたぁ……♡」
脳を直接蕩かすような甘い声と同時に肩に手が置かれる。羽のように華奢な手が、しかし鉛のような重さを伴って。
「……っひ……」
それぞれの思い思いの場所へ、彼女らの手が俺の体を蹂躙する。
「あぁ〜っ♡久々の人間くんの感触ぅ……♡はーっ……♡はーっ……♡」
「ご主人様っ♡ご主人様♡逃がしませんからね♡」
数十人の女性に触られているのにもかかわらず、ガチガチにそそり立ったソレには誰も触れてくれない。
焦れって身体を動かすと、数十もの手がそれを窘めてくる。その度に軽い絶頂感が下半身を襲う。
「だぁめですよぉ……♡逃げたりなんかしちゃ♡私たちのお給料、足りない分はし〜っかり身体で払って貰わないとなんですから♡」
グチュグチュと淫靡な水音を奏でるしっぽが目の前に掲げられる。それはまるで獲物を前にした猛獣の口腔。その入口から吐き出されるピンク色の気体を吸い込むまいと息を止める。
「あぁー……ダメですよぉ?そんないじらしい努力見せつけられたら……何がなんでもぶっ壊したくなっちゃいます♡」
「んむぅっ!?」
ぐじゅ。と指が結ばれた唇を解き歯茎を撫でる。一つ一つ丁寧に、歯茎を愛撫される感覚になすがままにされ、次第に噛み合わせた歯に僅かな隙間ができる。
「んーっ!?んぐー!」
その隙を見逃してくれるはずもなく、複数の手が俺の口の中に侵入し、舌を引っ張り上げる。
当然俺は強制的に息を吸わされるわけで……
「あっ……あぁ〜♡あっ……♡」
あっけなく、その淫蕩に身を委ねてしまう。
「ツクモ……助け……て……♡」
それでも僅かに残った理性が傍観を決め込んでいた妖狐へと伸びる。
俺の必死の懇願に、妖狐は破顔した。見たこともないほど淫靡で、欲情した、相手を性的に嫐ることしか考えていない女の笑みだった。
「すまんのう、旦那様。妾もいい加減、そなたの子種が欲しくって欲しくって♡」
しゅる……しゅる……という衣擦れの音は、目の前の妖狐のものだけでは無い。ここにいる十数人の異種族全てが、1人の人間のオスをめちゃくちゃにレイプしてやろうと息を巻く。
「あ……はぁ……♡」
もはや逃げ場のない俺は、これから起きる惨事にただ体を震わせて恐怖するしかなかった。
ヤクザ:悪いこと企んでたけどもっと悪いこと企んでる娘達に抱き潰された。
ホスト:最近昇進した。
雇用契約書:よく読もう
従業員:色んな子がいる。智天使とか、グラトニーサキュバスとか、妖狐とかドラキュリアとか。
ソープ:1度入ったら出られない極上のサービスを提供しております。入る前に外の世界とバイバイしておきましょう。