百合物です。一応閲覧注意。
篠原千紗は同性愛者で
その芽吹きは早熟で、千紗が幼稚園に上がってからまもなく、彼女の両親は千紗の性的指向について疑念を抱いていた。
疑念が確信に変わったのは、小学校高学年の折であった。雪が降らないのが不思議な程に寒い日である。
その日の体育の授業の内容はバレーボールだった。小学校の体育館である。バレーボールのコートなど2つも3つも用意出来る訳もない。クラスを何チームかに分け、競技を行う2組以外は見学という形になったのは至極当然のことであった。
しかし屋内とはいえ(諸君らも経験があるだろうが)冬の体育館は冷える。それこそ1人でいれば肩を震わせ歯をガチガチと鳴らさざるを得ないまでにその日の寒さは骨身に滲みた。
そういうわけだから千紗はチームの女子たちと一塊になり、暖を取り合っていた。
千紗は一番の親友に後ろからしなだれ掛かり、彼女の右肩に顎を乗せた。頬の体温を交換するほど密着していながら、親友の女子は嫌がる素振りもなく、千紗を受け入れていた。
千紗はなぜだかそれを非常に嬉しく思った。ちらりと横を見れば、親友の吐く白い息がすぅと空気に解けていく。乾燥させないためであろう、リップクリームで少し艶やかに光る下唇が、千紗を釘付けにした。
悪戯心もあっただろう。子供ゆえの無邪気な愛情もあったであろう。ともすればそれは千紗にとっての親愛の証でもあったのかもしれない。
それでも、呼び掛けに右を向く親友の唇に、自らの唇を重ねたのは、その本質は明らかな欲情の証左であった。
唇が離れ、千紗の顔には薄い笑みが浮かんでいた。彼女はどんな顔をするだろうか。寒さで赤らんだ頬をさらに真っ赤に染めて恥ずかしがってくれるだろうか。それとも呆れたような笑みを浮かべて仕方ないなと許してくれるだろうか。それとも…………
親友の反応を夢想していた千紗は、次の瞬間には親友に突き飛ばされ、冷たい床に投げ出されていた。思わず突いた後ろ手に、氷のような床の冷気が突き刺さる。
自身が拒絶されたのだと気付いたのは、端正な顔をくしゃりと歪めた親友がポロポロと涙を零しながら上げる、悲鳴にも似た泣き声を聞いてからだった。
なにか決定的な間違いを犯してしまった。と、千紗は半ば無意識に親友へと手を伸ばす。
しかし弁明する間もなく、千紗と親友との間に泣き声を聞きつけた体育教師が割って入った。泣きじゃくる彼女に話は聞けないと判断したのか、体育教師は周りにいた女子たちから話を聞いて回っていた。時折自分に視線が刺さるのを感じながら、千紗は拒絶された事実に打ちのめされていた。
傍から見ればなんのことは無い、子供の悪戯に子供が過敏に反応したと言うだけのくだらない話である。千紗と親友は和解を済ませたし、周りもそれについてとやかく言うことはなかった。性差の認識が成熟していない段階で、同性愛と言う概念を受容できる者は当人の千紗を含めていなかったということだろう。
だがくだらない話でも生徒が生徒を泣かせたとなれば報告せざるを得ないのが大人である。千紗が友人にキスをし、相手を泣かせたという話は当日中に本人たちの両親の耳に入った。
相手方の両親は微笑ましい友達同士のじゃれ合いとして、実に朗らかな対応でもって千紗とその両親に接した。
千紗も親友も互いにごめんねと言い合い、仲直りに握手を交わした。普段であれば抱擁だったのが、こんなちっぽけな温もりに変わってしまったことに、千紗は落胆した。
全て取るに足らない子供たちの一幕だった。
その晩、千紗の両親は千紗を激しく叱責した。数年越しの疑惑が確信に変わってしまった混乱、小学生同士とはいえ娘が女に手を出したという事実、今ならまだ矯正が効くだろうという焦燥からの、甚だしい人格否定が幼い千紗に容赦なく叩きつけられた。
女が好きなのかと問われ、分からないと答えれば詰問される。普段見せない両親のあまりの剣幕に恐怖して頷けば、いかにそれが悪であるかを心に刻まれた。普通じゃない。普通にしろ。と、磔刑に処された大罪人に投げられる石のように、一言一句が千紗の心を抉り穿った。
何より恐ろしかったのは、母が父の腰に縋り付き、「千紗が、千紗が」と年甲斐もなく泣き喚く姿だった。大人は泣かぬものと思っていた千紗は、それがどれだけ異常な事態であるか嫌でも理解せざるを得なかった。もしかしたら自分は要らなくなって捨てられるのかもしれないと本気で思う程、その姿は幼い千紗の心からあらゆる弁明の言葉を奪い去っていった。
一通り叱責が終われば、両親は俯いた千紗を抱きしめながら、千紗に同情した。両親は、千紗を病気だと言った。だからこれから一緒に治していこう。頑張っていこうとより一層抱きしめる力を強めながら、両親は涙を流した。
千紗はおずおずと両親の肩に腕を回し、声を上げて泣いた。変わり切った両親が、元の優しい2人に戻ってくれたが故の、安堵の涙だった。
この叱責が、後々に至るまで千紗という少女を大きく歪めてしまったことは、最早言うまでもない。
◇◇◇
「………夢か」
カーテンの隙間から差し込む光が目元を照らす。千紗は光から逃げるように寝返りを打つと、しょぼついた目でベッドをまさぐり、指先に触れる硬く冷たい感触を頼りにスマホを探り当てた。
薄目でスマホの電源を入れれば、青白い液晶の光が千紗の寝ぼけ眼を焼く。
「……」
大学の講義はニ限から。起きるには少々早い時間だ。幼い頃の夢を見た最悪な目覚めも手伝って、千紗はベッドの中でモゾモゾと蠢いた後、収まりのいいポジションを見つけて再び瞼を閉じる。
再び微睡み始めた千紗の耳にポコン。といささか気の抜けた電子音が届く。チャットアプリの通知音に二度寝を邪魔された千紗は、仰向けになってスマホを掲げた。
何をせずとも明るくなった画面には、『“しょーま”さんからメッセージが届きました』という通知バナーが表示されている。
──誰だっけ。
見覚えのない送り主を怪訝に思いつつ、スマホのロックを解除してメッセージアプリを立ち上げる。
『おは!昨日嬉しすぎて眠れんかったわ笑』
トーク履歴もなく、送られてきたのはこの一文だけ。結局千紗は送り主のプロフィール画面を開き、それがようやく昨日告白を受け入れて付き合った自分の彼氏であることに気がついた。
(そういえば、彼氏作ってたんだった)
ぼんやりと画面を眺めて数秒、千紗はしまったと過去の自分の行いに眉根を寄せた。
このアプリは、メッセージを開いたことが相手にもわかる。送る側にとっては安心だろうが、受け取る側にとっては時に余計な機能だ。特に、送られて間もないメッセージを見てしまった時。既読をつけた瞬間、返事を急かされている気分になる――千紗は喉の奥で小さく音を鳴らした。
『おはよう』
そうして送った返信は呆れ返るほど淡白なものだったが、自分という人間は元々こういうキャラなので大丈夫だろうと千紗は思う。
送ったそばから既読がつき、すぐに返信が届いた。
『千紗は今日一限から?』
始まってしまった。
『ううん。二限から。眠たいから二度寝するね、おやすみ』
パタタタ、と指を画面に走らせて送信し、スマホをスリープに落とす。
ポコン。となった電子音を無視して、千紗はゆっくりと目を閉じた。
────
「これらを経て、原始機械族と豊永博士により
教鞭を振るう大学教授を尻目に、千紗は講義室の時計を見やる。退屈な二限はもう少しで終わろうとしていた。
昼どきともなれば講義室もどことなくソワソワした雰囲気が立ち込める。時折教授の声に重なって誰ぞ腹の虫がくうくうと鳴いているのが聞こえてきた。
平然としていればいいものを、目にかかるくらい長い前髪を垂らした自信のなさそうな女生徒が恥ずかしげに腹部を押さえているのを見て、千紗は口の端から息を漏らした。
シャープペンの先でノートを叩いた後、授業の残り時間から鑑みて板書はないだろうと踏んだ千紗は、筆記用具をケースに戻し、講義が終わり次第すぐ講堂を出られるよう整えた。千紗とて腹は減るのである。
「時間も近いので本日の『種間文明史』の講義を終わります。次回までに原始機械族、機械族、アンドロイドの搭載する情動核の類似点と相違点をそれぞれ500字程度でまとめてフォーラムに提出するように。質問もいつものようにフォーラムに投稿していただければ答えます。以上。お疲れ様でした」
マイクの電源を切る音を号砲に生徒たちが出口へと殺到する。この具合だと食堂はあっという間に人でごった返すことだろう。
千紗は暗鬱たる心持ちで緩慢にトートバッグを肩にかけた。三限にも講義を入れているから、昼飯を食いっぱぐれる訳にはいかなかった。
人の波に押し出されるようにして講義室を出た千紗のスカートの右ポケットが震える。メッセージアプリで特別に設定した通知音に、千紗はすぐさま反応した。
『食堂の席取っておきましたよ』というメッセージと、場所が分かるように撮られた自撮りを見て、千紗は思わず頬が緩んだ。
足取りも軽く食堂にたどり着けば、長蛇の列に並び、日替わり定食を注文する。トントントンと手際よくトレーに置かれていくおかずと、並に盛られた白米。今日の定食は当たりだなと、見事なきつね色のアジフライを前に千紗はほくそ笑んだ。
「ちさー、こっちです」
会計を済ませた千紗が写真の場所に向かえば、写真の主が朗らかな笑みを湛えてこちらに手招きしていた。
「エル〜!マジで助かった〜!ありがと〜!」
千紗は定食のトレーをおき、目の前の少女に手を合わせた。
「いえいえ。千紗、この前お昼ごはん食べ損ねてましたよね?他の方には悪いと思ったのですが、席取っちゃいました」
ペロリ、と舌を出した少女に対し、千紗は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
原木エルは天使である。背部を3対6枚の優美な羽が飾り、頭上には光輪を戴くその姿を見れば、それがなんの比喩でもないことが理解できるはずだ。
人口のおよそ3割を異種族が占める日本では、たとえ天使族であっても特段珍しいものではないが、それにしても埒外の美貌を持つエルが、瀟洒な都会ではなくてこんな鄙びた片田舎の大学にいるのか、千紗は不思議でならなかった。
他人の手作り弁当というのは、どうして妙な魔性が宿る。それが美しい女性ならばなおのこと惹かれてしまうものだ。
「千紗?そんなに見つめられると食べにくいのですが……」
「え?あぁ……ごめんね……。……お弁当!すごく美味しそうだと思ってさ」
「ふふっ。なんなら味見してみますか?はい、あーん」
スっと差し出された卵焼きに、千紗の口が自然に開く。
舌を攫うように甘い卵焼きだった。千紗の口から思わず感嘆が漏れる。
「美味ぁ……」
その味はアジフライの余韻を一瞬でかき消し、暴力的なほどに千紗の味覚へ刻みつけた。
「ふふっ、ただの卵焼きなのに、千紗は大袈裟ですね?」
「いやいや!マジで美味しいって。ほんと───」
目を奪われる美貌に、たおやかな物腰。そのうえ家庭的とさえなれば、確かに世の男たちは黙っていないだろう。
その想像が胸をかすめた途端、千紗は紙で指先を切ったような痛みを覚え、思わず顔を顰めた。
「……千紗?」
「んー、いや。なんでもないよ」
胸中に湧いた痛みごと飲み下すように、千紗は昼食を平らげて手を合わせる。昼休みもあと僅か。今から三限の講義室に向かえば、講師から離れた席を確保できるだろう。荷物を手繰り寄せて席を立とうとしたその時、ポコン。と件の間の抜けた電子音が千紗の耳に届いた。
メッセージの送り主は案の上、彼氏のショウマであった。メッセージの内容を見れば、今晩の食事……もとい、飲みの誘いだった。
千紗も人並みに酒を好むが、酒を飲む相手は人並み以上に選ぶ質だ。彼氏だとしても容易に自分の懐に入り込ませて良いものか、千紗はしばし考える。
「千紗?どうかしましたか?」
考え込む千紗の肩にエルが軽く触れ、肩口から千紗のスマホを覗き込む。
「んー、彼氏から。今晩飲み行こって言われてるんだけどねー……」
「……彼氏?」
薄紅の僅かに差した唇を小さく開けて、心做しか低い声でエルは呟いた。
「千紗、彼氏とはこの前別れたって言ってませんでしたか?」
「ん?あー、前の彼氏のこと?こっちは昨日できた彼氏」
「……なるほど」
表情が曇るエルに千紗は狼狽した。たとえ天使でなくとも、男を取っかえ引っ変えするような女とは一緒にいたいと思わないだろう。少なくとも千紗自身はそう考える。
「まぁ、大学生だし普通だよ、このくらい」
それはエルに向けて言った言葉か、それとも自分に向けた言葉か。
エルは魚の小骨を飲み込む時のような顔で「うーん」と唸った後、不意にひらりと笑顔に戻った。
「それで、彼氏さんとは飲みに行かれるんですか?」
千紗はメッセージを打っては消し、打っては消しを繰り返しながら自らのこめかみをスマートフォンの角で突いた。
「んー、今日はいいかなぁ……。断る理由も無いといえば無いんだけどね」
「でしたら!」と、小首を傾げながら、ぱん。と白磁のような手のひらを鳴らす。
「今日は私と飲みに行きませんか?」
「エルと?」
──願ってもない口実が転がり込んできた。
千紗は自分でも呆れるほど素早く頷いていた。
一も二もなく彼氏には断りのメッセージを入れ、週末の予定は空けておく旨を伝える。昨日できた彼氏より、長年の友人を優先することは間違いではないだろう。
何か背負っていた大きな荷をひとつ、しゅるりと下ろしたような心持ちになった。
「じゃあ、駅前のいつもの店に6時半でいい?」
「はい。楽しみにしてますね」
「あたしも」
千紗は食器を返却口に戻し、お椀をスポンジで擦る老女に「ご馳走様でした」と一声かけて食堂を出る。
時間的には三限に間に合うギリギリの時間。狙っていた席はもう埋まってしまっているだろうから、千紗は昼食直後の微睡みを、つまらない講義で上乗せされたその誘惑に前列の席で耐えなければならない。
それでも今夜のことを思えば、千紗の足取りは軽かった。
暮れなずむ駅前の空に、まだ橙の光が惜しむように残っていた。
雑居ビルの群れはその光を受けて輪郭をぼかし、帰路を急ぐ人々の影だけが長く地面に伸びている。
誰もが夕日を背にしながら、それぞれの夜へと歩き出していた。
車窓を流れる景色が緩やかになっていき、やがて広告看板の前で停止した。
目が覚めるような美人の意味ありげな微笑には、赤いリップが上品にも艶やかにその美貌を引き立てていた。
待ち合わせの駅でホームに降り立った千紗は、改札への階段を上がる。
人の流れに棹さして進む折、千紗は小さな安息を得る。並んで駅の改札を出る時、自分が大多数のうちのほんのちっぽけな、単なる一個人であることを実感できるからだ。
東口を出たところ、高架デッキで前髪の長い男が弾き語る姿を横目に、千紗は小さく息をついた。
男の周囲に人だかりはなく、疎らに人が立ち止まっては興味を失って去っていく。鳴らすコードは雑踏に溶けて、曖昧な愛を歌う歌詞は喧騒に掻き消されていく。ギターケースには申し訳程度の小銭が散らばり、一層みすぼらしさが際立った。
──止めればいいのに。と千紗は思う。
ああいう人間を見ると、胸のどこかがざらついた。
才能も特別さもない。
歩く速度や見る景色も、自分と変わらないはずのただの人間”の一部だ。
本来なら、大勢の流れに混じって、淡々と駅を出ていけばいいだけの存在だ。
なのに、どうしてわざわざ流れから外へ出て、
自分だけの声を、特別でもない歌を、
あたかも意味があるかのように響かせようとするのか。
名曲のカバーならまだ慰めにもなるだろうが、男が歌っていたのは明らかにオリジナルの曲だった。それがまた、千紗の精神を逆撫でする。
凡人なら凡人らしくしていればいいはずだ。
花の名残を追う葉桜のように、決して逸れてはいけない。
千紗は、歌い切り深々と頭を下げる男を眺めた。やがて千紗も他の大多数と同じように、男への興味を失い、立ち去ろうとした。その瞬間──
ぱちぱちぱち。軽快で柔らかい拍手が千紗の背後から男へと送られる。
拍手を受けて男がガバリと顔を上げると同時に、その顔が驚愕と歓喜が入り交じった笑みに変わった。ヒクヒクと口角を痙攣させる様は、まるでイタズラがバレた子供のようにも見えた。
男の尋常ならざる様相に、千紗も拍手の主を一目見ようと後ろを振り返る。そこに居たのはクリーム色のニットを着た、3対の翼を持つ天使、原木エルだった。
彼女は純粋な好意と感動に裏打ちされた掛け値なしの賞賛の拍手を、千紗が心中で貶し果てた男へと惜しみなく注いでいた。
硬直する千紗の脇を抜けて、エルは財布からお札を1枚抜き出して、ギターケースの中へと入れた。1円や10円が疎らに転がる中で、エルの千円札は燦然と輝いて見える。
「て、天使様!?こ、こんなに頂けませんよ!」
「素晴らしい演奏を聞かせてくださった貴方へ、気持ちばかりのお礼ですよ。どうぞ受け取ってくださいね?」
男は慌てふためいてギターケースから千円札を掴み取り、震える手でそれをエルへと突き返した。そんな男の手に、エルの白魚のような指がそっと慈しむように触れた。
「で、でも……」
エルは笑顔のまま、しかし有無を言わせない態度で沈黙した。
「うぐ……その、ありがとう、ございます……」
心苦しくて堪らないといった様子で、男は渋々引き下がった。
男とて分かっているのだ。自身の演奏にこれほどの価値はないことを。男の態度からそれに気が付けば、千紗は一層心の中がささくれ立つのを感じた。
エルは満足そうに頷くと、踵を返して千紗に向き直る。
「それじゃあ、行きましょうか」
エルの後を追おうと踵を返す千紗を、『あの!』と男の声が呼び止めた。
「貴女も、最後まで聞いてくださってありがとうございました」
「………」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、千紗は数瞬硬直した。どう答えようか悩んだ末、決まりの悪い愛想笑いを浮かべながら男へと軽く会釈をし、小走りでエルの後を追った。
「ビターレモネード、2つ」
席に着くなり伝票を持ってきた店員に最初の飲み物を告げ、千紗は加熱式タバコのスティックを差し込んだ。
この電子タバコは、三つ前の彼氏のお下がりである。
興味本位で一度吸い、彼氏と会うたびに吸っていくうち、やめどきを失ったまま惰性で吸い続けている。やめようと思えば止めることはできるのだろうが、女性の喫煙者など今日日珍しくもない。千紗の視線の先では、右手に生ビールの中ジョッキ、左手の人差し指と中指に火のついた紙タバコを挟んだOLが、何が面白いのか真っ赤な顔で大笑いしている。
ふと視線を戻せば、エルの視線がテーブルへと伏せられているのが見えた。
「どしたの」
お通しが口に合わなかったのだろうか。千紗は吸い終わったスティックを灰皿に捨てると、加熱機をバックへと放った。
「いえ……。そういえば千紗、秀和くんと別れた時、タバコは止めるって言ってませんでしたか?」
「う゛……まぁ、止めようと思えばいつでも止めれるから」
「陽稀くんと別れた時も同じこと言ってましたよね?」
四人目と五人目の元カレの名前を出されながらの糾弾に、千紗は空いた手で空を切る。
「翔真さんでしたっけ?新しい彼氏さん。タバコ吸わない人だったらまた別れちゃうんじゃないですか?」
「あー、アイツは吸うから別に。てか珍しいね、エルがこういう話題出すの」
隣の席でグラスがぶつかって、笑い声がひとつ跳ねた。
「だって千紗、陽稀くんと別れてから一週間もしないで新しい彼氏できたって言うんですもん。私、千紗が騙されてやしないか心配です」
「母親か……」
エルの世話焼きがついに自身の男女関係にまで向いたかと、千紗は半ば呆れつつ苦笑した。しかし心配されているのは嬉しいもので、千紗は気恥しさを誤魔化すために頬をかいた。
「ビターレモネード2つ、お待ちでーす」と、店員がグラスを2つ、テーブルに置くと、風に乗る綿毛のように次の席から席へ飲み物を渡していく。決して広くは無い店内だが、ひとりでホールを回すには負担だろうと、その背中を目で追いながら千紗は自分のグラスを引き寄せた。
「ま、とりま乾杯って感じで」
「はい、かんぱーい」
千紗が差し出したグラスに、エルのグラスが重なる。チン。と高い音を立て、次いで氷がカランと鳴った。
杯を呷れば、レモン由来だろう果実的な苦味と、ジンの苦味が見事に調和し、千紗の味蕾を駆け抜けた。
サワー系としてはいささか喉を焼く程に強い酒だが、千紗はこの味をいたく気に入っていた。
それはエルも同じで、瞬く間にエルのグラスの中身は半分ほどになっていた。
「どんな人なんですか、翔真さんって」
「……どんな、人ぉ?」
エルの質問に首をひねる。千紗自身、告白されたから受け入れたと言うだけで彼の人となりを語れるほどその人を知らない。今日の三限と四限が同じだったので、そこでようやくまともに話した程度だ。
「んん、まぁ普通だよ。どこにでもいる大学生って感じのやつ」
なので千紗はお決まりの文句で逃げることにした。
探るような視線に、そういえばエルは現代社会心理学の専攻だったと思い出す。
「普通……ですか」
「………うん。ふつー。でも一番いいじゃん?普通がさ」
千紗はグラスの中身を飲み干し、中に残った氷をカラカラと揺らしながら答えた。無論、千紗の中にも基準がある。だが極めて一般的で抽象的なそれは、まさに『普通』と呼ぶに間違いなかった。
「おねーさん、ビターレモネード、おかわり」
伝票に書き付けて笑顔で去っていく店員の背中を見送りながら、エルは「それにしても」と続けた。
「千紗は本当に普通が好きですね」
聞き分けのない子供を慈しむように放たれたエルの言葉に、千紗は一拍心臓が大きく跳ねたのを感じた。次いでこめかみの辺りがカッと熱くなり、叫び出しそうになる。
「………別に」
のたうち回りながら喉元へと駆け上がってくる言葉を飲み下そうと、千紗は手元の杯を呷った。カラカラと中の氷が揺れ、千紗の口元を冷やすだけ。僅かばかり残って溶けた氷に薄まった酒が、千紗の唇を濡らした。
「ビターレモネード、あと唐揚げと卵焼きお待ちでーす。空いてるグラスお下げしますねー」
「あ、ありがとうございます」
空のグラスと、酒がなみなみ入ったグラスを交換する。千紗はしばらく杯を見つめると、不意に大きくグラスを傾けた。
「……っ!?……ヒック!」
あまりに一気に冷たい液体を流し込んだからか、大きくしゃくり上げてしまう。
幸いどこかに零れるような粗相は避けられたが……千紗はハンカチで口元を拭った。
「ていうか、さっきも言ったけどさ、珍しいじゃん。エルがそこまで興味持つの。人間の恋愛観に関するレポートでも出たの?」
「いえ、そういう訳では無いのですが……」
歯切れの悪いエルを訝しみながら卵焼きを頬張る。出汁が見事に飲酒を煽る見事な出来だが、千紗は昼食べたエルの甘い卵焼きのことを思い出した。
「そうなの?まぁ言いづらいなら言わなくてもいいよ?」
千紗は唐揚げにレモンをかけ、そのひとつを取り皿に移した。
「千紗、『恋』とはなんでしょう?」
「……んぐッ!?」
危うく唐揚げが詰まりかけた千紗は急いでグラスに口をつけ、中身を一気に飲み干した。ぶはー。と乙女らしからぬ息をつき、狼狽を落ち着けるために一呼吸置いた。
「え、なに?好きな人でもできたん?」
「うーん?好きな人ができた……というか、いる……と言いますか……?」
「んー?ハッキリしないなー。飲め飲め!飲んで言ってみ!」
千紗はエルを煽り、それに答えてエルはグラスを空にした。エルが見た目に反してかなりのザルなのは、彼女を知る人間にとってポピュラーな意外性だ。
「千紗、『恋愛』という言葉がありますよね?」
「うん」
「調べたんです。結構、真面目に」
エルはそう言って照れ隠しのように笑い、指先でグラスの縁をくるりと撫でた。
「恋は、昔は『恋ひ』って書いたそうですね。焦がれるって意味で、会えない相手を思って胸の内が燃える感じ。愛は、それより少し後に広まった言葉で……もっと静かなもの。時間をかけて、相手を思いやる感情……なんだそうです」
千紗は思わずまばたきをした。
愛だ恋だと意味もなく聞き慣れているはずなのに、今ここで聞くそれは、まるで自分が知らない学問の講義のようだった。
「英語でも、似てると思いました。like があって、loveがあって、in loveがあるでしょう?どれも好きなんですけど、同じじゃなくて。一語変わっただけなのに、急に世界の重力が変わるみたいに扱われるんです」
エルは首を傾げた。
「でも、わたしが知ってる“好き”は、多分――違う」
グラスの氷が、かすかに鳴った。
「わたしは、傷ついた人を見ると手当てしたくなるし、泣いている人の隣にいれば、泣き止んでほしいと思います。元気なら嬉しいし、笑ってくれたらそれで十分なんです」
「そして頑張っているなら、助けてあげたい」
千紗の脳裏に先程のストリートミュージシャンの顔が過ぎる。帰路を急ぐ人の流れの中で、彼だけが流れに逆らって必死だった。
天使のエルらしい優しさだと千紗は思う。種族の性であり、それがエルにとっての普通でもあると千紗は知っている。
彼女は今までそうやって世界と人間を見てきたのだろう。
「でも、それはみんなに対してなんです」
エルは指を一本立てた。
「天使の愛は、人を選ばない。最も原始的である故に、誰にでも向けられるように出来ている。だから──」
一瞬、言葉が止まり、視線が千紗にだけ向いた。
「誰かひとりだけを、特別に大切にしたい気持ちに、名前が必要になった時、
それはなんなのかと思ったんです」
千紗の喉が、思いがけずひくりと鳴った。
エルは続ける。
「いろいろ読みました。論文も、コラムも、辞書も。恋は排他的だとか、恋は人を盲目にするとか。恋を知って初めて、本当の愛に至るとか。でも、どれもそうらしいというだけで──」
そこで、エルは困ったように微笑む。
「実感が、ないんです。わたし、自分の中のこれは特別であるべきなのに、それの名前を知らない」
グラスを置き、少し身を乗り出す。
「だから、千紗に聞きたくて。千紗は、恋って、どういうものだと思いますか?ただ好きなだけとは、どこが違うんでしょう」
「……どう、って」
千紗は笑おうとした。そんなの簡単だよ──そう続けるはずの声は、喉の奥で呆気なく崩れた。
普通なら、答えられるはずの質問。
大学生にありがちな、少し痛い恋愛観についての問答。酒と一緒に笑って流してしまえるはずのそれ。
なのに今は、胸の奥にぽっかり空いた穴の輪郭を、指でなぞられているようだった。
エルは優しいまま、しかし逃げを許さないあの態度で、静かに言った。
「本で読むより、千紗の言葉で知りたいんです。生きている人の恋の話を」
────
ラストオーダーを固辞して店を出た千紗は、撓垂れ掛かるエルの華奢な体を支えながら、すっかり夜の帳を下ろした帰路についていた。
エルの質問にどう答えたのか、酔って遠く霞がかった記憶は何も教えてはくれない。ただ酒の勢いを借りてあることないこと捲し立てたことだけは覚えている。それがエルの好奇心を満たしたかどうかは、エルが途中で酔い潰れてしまった為に聞けず終いだった。
駅前ならば来たる聖夜のために飾られたイルミネーションが煌々と夜を照らしていたが、少し離れれば色気のない街灯の頼りない光が薄ぼんやりと歩道に落ちているのみだ。
エルは千紗の肩に顎を乗せ、時折謎の言葉を呟いては微睡みの中へと帰ってしまう。
寒い夜、千紗は決まって幼い頃起きたあの事件を思い出す。自分を拒絶した女の子の顔と、叱責する両親の顔が思い浮かぶ。
だが今は、寄りかかるエルの体温が冷たい夜を溶かしてくれている。故意にか無意識か、エルの片翼が千紗を包み込むように回されているため、風を受けずに済むのだ。
街灯の頼りない光の下で吐いた息は、呆気ないほど白くほどけて闇に溶けた。
エルは千紗の肩に体重を預けたまま、ふにゃりと笑っている。瞼は落ちかけ、けれど口元だけが幸せそうに緩んでいて、思わず釘付けにされてしまいそうな魅力を振り切って、千紗は前を向いた。
「んふ……ちさ……あったかい……」
「はいはい。あったかいね」
返事をしながら、千紗はエルの腰に回した腕に少し力を入れる。体格差を差っ引いても、酔い潰れた人間(正確には天使だが)はこうも重い。ふらりと傾くたび、骨の芯までひやりとする。千紗は一層慎重になった。
通り過ぎる人々は相変わらず、こちらを見もしなかった。
酔った相方と、それを介抱して歩く人。珍しくもない、普通の光景故に。千紗はなんだか救われた気分になった。
背後に遠く繁華街の方角で、ビル風に揺れるイルミネーションの光がちらついている。風に乗って聞こえる笑い声も、いつもよりやけに高い。
クリスマスが近い。
それだけの理由で、この季節の夜は人を容易に甘やかす。
すれ違うのは、やけに寄り添う二人連れが多かった。
コートの袖の中で指を絡め、肩を寄せ合って、寒さを理由に距離を詰める。いや、寒さのせいにしているだけだろう。そういう薄っぺらい口実が、恋人たちの睦み合いの免罪符になる。羨ましいとか妬ましいとか、そういう感情すら抱く気にもならないほど、千紗はそれを別世界の行事として見ていた。千紗にも正真正銘の彼氏が存在するが、どうも今見たカップル達の姿が自分と翔真に置き換わらない。それは幾度となく経験した、千紗自身のズレである。
その中に、ふと、同性のカップルも混じっていることに気づく。
女同士。男同士。手を繋いでいるだけなら友達にも見えるのに、視線の置き方とか、距離感とか、言葉の少なさの中にある体温で、それがそういう関係なのだと分かってしまう。
――あ、いるんだ。普通に。
胸がざわついた。
驚きというより、むしろ現実に対する戸惑いに近い。千紗にとって同性同士の恋人なんて、この世に存在してはいけない怪物みたいなものなのだから。
いないわけがないのに。いるに決まっているのに。
千紗は、無意識に視線で彼女たちを追ってしまう。見てはいけないものを見ているような気持ちと、見なければ確かめられないという焦燥が、同じ胃のあたりでぐちゃぐちゃに混ざる。
エルが肩で小さく寝息を立てた。
その柔らかな吐息が、千紗の耳をくすぐる。
「……エル」
呼んでも返事はない。天使は眠っている。天使は、無垢だ。無垢であることが許されている。
千紗はその事実に、ちくりとした痛みを覚えた。
その時だった。
向こうから、やけに目を引く二人組が歩いてくる。
女同士。いや、片方は異種族だ。
背中に小さな翼……ではない。蝙蝠のような膜翼が、コートの背を押し上げている。肌は人間よりわずかに艶があり、髪は夜を溶かしたように黒い。角は帽子の下に隠しているのか見えないが、あの目元の妖しさと唇の色だけで、何の種族か察せられた。
サキュバスだ。
千紗は思わず、視線を逸らせなかった。
異種族と人間の恋人は珍しくない。この国では当たり前だ。だが――サキュバスと人間の女性、しかも恋人同士となると話は変わる。偏見だと笑われても仕方ないが、どうしても『そっち』のイメージが先に立ってしまうのがサキュバス、淫魔という種族だからだ。
人間の女性は、サキュバスの腕に絡みついて歩いている。
絡みついている、という表現が妙にしっくり来るのは、その女性が纏っている空気が甘ったるいからだ。頬は赤く、唇は艶めいていて、寒さで紅潮しているだけではない熱が、夜気の中で立ち上っている。
サキュバスはそれを当然のように受け止め、どこか気怠げな目で周囲を流している。
その視線が一瞬だけ千紗を掠め、千紗の背筋がぞくりと粟立った。
見られた。覗き見がバレた。そんな幼稚な罪悪感に、千紗は喉の奥をきゅっと締められる。
果たして千紗の狼狽も杞憂に終わり、二人はそのまますれ違っていった。
香水の甘さに混じって、ほんのりと煙草か、それとも酒か、夜の匂いが鼻腔をくすぐる。
千紗は、なぜだか――振り返っていた。
自分でも理由が分からない。ただ、目が勝手に追ってしまった。あの二人の背中を、羽の形を、肩の寄せ方を。
そして。
人間の女性が、歩みを止めた。
サキュバスの腕を引き、くるりと回って向かい合う。その目は怒っているようにも、拗ねているようにも見えた。
次の瞬間、女性が爪先立ちになったかと思うと――
ちゅ、と。軽く、しかし迷いのない動きで、サキュバスの唇にキスを落とした。
世界が、一瞬止まった。街灯の明かりも、遠くのイルミネーションも、通り過ぎる足音も、ぜんぶ遠ざかったような感覚。真っ黒な世界の中で、あの恋人たちだけが鮮やかに色付いていた。
キスだ。女が、女に。思わず小学生みたいな感想が出た。
しかもそれは、酔った勢いの悪戯でもなければ、笑い話にできる子供の過ちでもない。
あまりにも自然で、あまりにも堂々としていて――まるで『普通』と言って憚らんばかりの丁寧な愛情表現。
サキュバスは驚いたように目を見開き、次いで少し困ったように笑う。
それから指先で女性の頬を撫で、言葉にならない何かを囁いた。女性が嬉しそうに笑い、また腕を絡める。二人は何事もなかったように歩き出す。
千紗は、動けなかった。
胃の底が冷える。
同時に、胸の奥が絞まる。
網膜を焼き焦がし、視神経を通って運ばれてきた情報が、脳漿を強かに打ち付けた。
──いいのか。そんなこと、して。
誰が禁じた?
誰が決めた?
頭の中に、幼い頃の体育館の冷気が蘇る。
突き飛ばされた衝撃。氷のような床。泣き声。叱責。母の泣き顔。父の怒声。
「普通じゃない」「普通にしろ」と言葉の石礫が飛んでくる記憶。
世界はあの日千紗を否定した。
なのに、今、目の前の世界は――女同士のキスを、ただの光景として流していた。
千紗の喉が、かすかに鳴る。吐き気ではない。叫びでもない。ただ、呼吸の仕方が分からなくなった音だった。
「……ちさぁ……」
その時、肩に寄りかかっていたエルが、むにゃりと身じろぎした。
千紗の首筋に髪が触れ、ひどくくすぐったい。
「……ん、どうしたんですか……?止まって……」
眠そうな声。けれど、千紗は返事ができない。何か言う前に、きっと身体が動いてしまう。
千紗はただ、ぎこちなく歩き出す。足が自分のものじゃないみたいに重く、地面の感触が遠い。まるで数本糸が切れた人形のように、その足取りは覚束無い。
ただ一生懸命に、恐怖した敗残兵のように、その場から離れるために歩き続けた。
……さっきの二人の背中はもう見えない。角を曲がった先、闇の中に消えてしまった。
それでも、千紗の脳裏には焼き付いたままだ。唇が触れる瞬間。ためらいのなさ。許されているという事実。笑い合う二人。
千紗は、笑いそうになった。いや、泣きそうになった。
この世界は、こんなにも普通に見逃してくれるのに。どうして、あたしだけが。どうして、あたしだけが、まだ檻の中にいる。
エルの翼がふわりと揺れ、千紗を包む。その温度が、余計に残酷だった。
──もし。
もし、今。この肩に寄りかかっている子が、目を覚まして。自分が何を見て、何に怯えて、何を望んでしまったのか、暴かれてしまったら。
エルにはそれができるだろう。
千紗は、息を呑んだ。
怖い。怖いのに。
胸の奥に、さっきのキスの光景が、麻酔のように広がっていく。
あれは千紗にとって衝撃だった。嫉妬した。不平不満を世界に叫びそうだった。しかし同時に救いでもあった。
あの二人は、幸せそうだった。
千紗は、暗い夜道でひとりだけ、唇を噛んだ。血の味がするほど強く。
そして、喉の奥で小さく呟いた。
「……あたし、何やってんだろ」
その呟きを聞いてかエルがふにゃりと笑う。
「んー……ちさ……だいじょぶ……」
……大丈夫じゃない。
その言葉を飲み込みながら、千紗はただ、エルの体温を支えて歩いた。
帰るべき家路へ。
逃げ込むべき日常へ。
けれど千紗の心臓は、さっき見た許された光景に、まだ追いつけずにいた。
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