綾小路清隆にラッキースケベは難しい?   作:雅みやび

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検証。最高傑作はトンデモ展開にも柔軟に対応できるのか【前編】

自室に帰宅して、俺はそのままベッドに身を預けた。

今日は何故か、いつもより疲労感が強かった。

変な時間に外なんかで寝てしまったからだろうか。

 

「修学旅行まで一週間。やはり、本格的に仕掛けてきたということか」

 

俺が、帰宅して一番初めに取り掛かった思考労働は、修学旅行に関してでも、恵に関してでもない。

 

カバンの奥に仕舞われた、今朝並木道で拾った綺麗な石を手に取る。

改めて、その石を隅々まで観察する。

質量、触り心地、傷の有無.......

色々調べてみたが、どうみても材質は何の変哲もない石に思える。

ただ自然の石にしては、傷が一切なく、何より職人によって研がれたかのように綺麗な8面体をしている点があまりにも不自然。

不明な点が多いが、俺を退学させるためにホワイトルームが開発したという線が最も有力だ。

開発にいくらかけたかは知らないが、俺でも原理が推測できないということは世界の最先端の中でもさらに最先端の技術が使われているということなので、軽く億単位が使われていそうだ。

しかも、それだけかけた兵器ですら、俺を直接的に退学に追い込むものでなく、何か間接的な目的を達成するためのもの。

そして、仕掛けてきたタイミングが、修学旅行の一週間前。

修学旅行、俺が校外に姿を現す、奴らにとっては絶好のチャンス。

 

ここまでお膳立てされれば嫌でも察してしまう。

修学旅行で、俺を退学に追い込む過去最大のトラップを用意している可能性が高い。

以前月城が言っていた事を思い出す。

これまで月城やホワイトルーム生の刺客を退けてきたが、あの男にしては生ぬるい方法だと思っていた。

恐らく、これまでの全ては、本命のトラップに引っ掛けるために少しでも俺の精神を削っておくためのものだったということだろう。

俺は一瞬強い苛立ちを覚えるが、すぐに処理する。

理想の未来のために、今最善の行動をとり続ける。

人間にできることは、常にそれしかない。

 

まずは喉が渇いた。

俺はお湯を沸かすため、台所に向かう。

最近一層冷えてきたので、温かい飲み物が飲みたくなーーーーーーー

 

 

 

『ああ、キサマは座っていろ。コーヒーでいいか?』

 

 

 

「っっ!?」

 

 

突如全身に、感じたことのない悪寒が走る。

台所に、見知らぬ少女が立っていたのだ。

長い黒髪に幼いながらも凛とした顔立ち.....真っ白の白装束を身に纏い、服の白と一瞬見分けがつかないほど透き通った白い肌。

俺は台所への歩行動作を緊急停止して、後方に1メートルほど跳ぶ。

これ以上の後退は狭い屋内ではむしろ逆効果。

少女?誰だ?どうやって入った?目的は?

いや、それよりもーーー

 

何故、俺はコイツの存在に気付かなかった?

 

同じ室内で、それも堂々とお湯を沸かそうとしている人間の存在に、帰宅から10分弱気付かなかった。

そんなことはまず、あり得ない。

どんな手練れでも、狭い屋内でしかもこの距離で気取られないなんて不可能だ。

それは技術や経験以前の問題。

なのにも関わらず、俺は声をかけられるまでその存在に気づけなかった。

それに、その存在を認識した今も、視覚と聴覚以外でそれを感じることができない。

そこにいるようで、そこにいない。

こんなのは初めてだ。

人生で一番の鳥肌を、俺は経験する。

 

『むむ...このポットとやら、なかなか難しい構造をしておる。あ、開いた。......おい、何を黙っておる。コーヒーでいいのかと聞いたんじゃ』

 

その少女は、確かにそう言った。

そういった、はずだが。

明らかに口が動いていなかった。

耳元......いや、脳に直接彼女の声が響いたような気がした。

もはや少女のような容姿であることも、老人のような口調なのもどうだっていい。

その少女は、今も目一杯背伸びをしながらポットに水道水を入れようと試みている。

身長がちょうど台所の高さと同じくらいなので、蛇口をひねるのにも苦労している様子だった。

シンクに水が流れる音だけが、部屋を支配した。

 

「.........お前は、なんなんだ?」

 

『......ほう、第一声がっ、その質問とはっ、やはりなかなかっ、ゆーしゅうなっ、奴じゃなっっ.......う゛ぅぅ〜〜〜とどかないぃぃぃぃ〜〜〜〜』

 

やっぱり、口は動いていない。

ポットに水を入れることに成功するも、電気ポットを電源プレートにセットすることにかなり苦戦していた。

電源プレートは何かの拍子で落ちないように奥側に設置しているので、取ることはできても水が入っているポットをセットするのはその身長では無理がある。

 

『おいキサマ、いつまでもそこで見ていないで、手伝わんか』

 

そう言って、俺に向かって電気ポットを突き出す少女。

ついさっきまで自分一人でやる空気を出していたのに、できそうにないと察すると、諦めて臨戦体制の俺に協力を求めてくる。

 

「その前に質問に答えてくれ」

 

『質問?...ああ、『お前は何なんだ』だったか?まったく、頭脳は明晰じゃが小心者じゃな。先が思いやられるぞ』

 

ポットを片手にやれやれと両手を広げる少女。

先、とは何を指しているんだろうか。

 

「この状況でお前に近づくのは勇気ではなく蛮勇というんだ」

 

こんな得体の知れない少女においそれと近づくようなやつは、危機感が欠落しているとしか言いようがない。

たとえここにいるのが俺でなくあの龍園でも、この段階で少女に近づくことはしないだろう。

 

少女は、一つため息をついた。

 

警戒をとかない俺に対して、薄く笑い、電気ポットを床に置く。

質問に答えてやる。

そう目で言っている気がした。

相手は、小学校低学年か、せいぜいそれより一つ上程度の体格の少女。

なのに、彼女の一挙手一投足に注意しろと、俺の脳が警鐘が鳴らす。

 

 

全身の神経が冴え渡る。

 

 

11月の下旬だというのに、全身から汗が止まらない。

 

 

まさか、本当にいるのか。

 

 

それは、小説や昔話、映画や地方の伝承などで度々登場する恐怖の象徴。

 

 

思えば、少女の服装も”それ”を連想させるものの一つだ。

 

 

 

白装束の少女は、真横に腕を伸ばした。

 

 

 

そこには、壁があるはずだった。

 

 

 

よくできたマジック、人間の認知能力の穴をついた錯覚。

 

 

 

その線も、消しきれない。

 

 

 

なのに、俺の本能が"それ"を否定する。

 

 

 

きっと、誰に言っても信じてもらえないだろう。

 

 

 

そう、忘れもしない11月22日木曜日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、幽霊に出会った。

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