綾小路清隆にラッキースケベは難しい?   作:雅みやび

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遅くなりました!
前半は説明回、後半は......。実質2話分です。


検証。最高傑作はトンデモ展開にも柔軟に対応できるのか【後編】

『ふう、やっと落ち着けるな。.....この学校はアレじゃな、(わらわ)の知っている学校よりも規模がでかいんじゃな。学生一人一人にこんな立派な部屋を分け与えるなんて、小僧どもには贅沢すぎる』

 

「......」

 

『おーい、この部屋には妾一人しかおらんのかー』

 

お前を一人として数えるのか。

両手に青いマグカップをもった幽霊少女がそう言った。

いや、相変わらず口が動いてないから"言った"という表現は正しくないのか。

幽霊少女と対峙して20分程が経過した現在。

淡い夕日が差し込む部屋で、俺と幽霊少女はお互い正座で丸テーブルを挟んでいた。

幽霊少女は俺に話があるようだし、俺自身もいつまでも警戒していては埒があかないと判断したので、とりあえずお互い腰を据えて話をしようということになったのだ。

幽霊と意思疏通をするのはこれが初めてだが、今のところ普通の人間と話すときとの違いは感じられない。

口調はやや特徴的だが、そこは突っ込まないでおこう。

 

「......ああすまない。改めて、この状況の異常さを再確認していた。..........あー......もう一度確認するが、お前は本当に幽霊なのか?」

 

『はぁ、お主も頑固な奴じゃな。ほれ、これで信じるか』

 

そう言って幽霊少女は、目の前のテーブルに手のひらを貫通させてみせた。

このテーブルは完全に俺の所有物であり、購入して以降この部屋の外に置いたことは一度もない。

つまり、予めテーブルに細工をするのは不可能だ。

この距離で見間違うこともありえないので、その線も消していい。

導き出された結論に頭痛がしてくる。

長い黒髪、白装束、少女。

これだけ聞くと映画によく出てくる典型的な女の幽霊を連想しそうだが、俺の受けている印象は全く異なる。

まず、幽霊というには外見に恐怖を全く感じない。

整った顔立ちで顔色も良く、透き通った肌。

みたところ少女は健康そのものだった。

ピンと伸びた立ち姿は活力を感じさせ、今の正座姿勢も実に見事で気品すら感じる。ついでにお茶を飲む所作まで完璧だ。ただ言葉遣いや仕草からは傲慢で我儘な印象を受ける。まるでどこかの良家の娘のようだ。

 

「分かった。確認したいことは山ほどあるが、とりあえずお前が幽霊であることを認める」

 

『まったく、ようやく認めたか。人間が妾を幽霊だと認めるまでにかかった時間ランキングで暫定ぶっちぎりの一位じゃぞお主』

 

「そうなのか?人間がそんな簡単に幽霊を信じるとは思えないが」

 

『妾が出会ってきた人間は皆即効で信じたぞ。非日常展開キター!だのソウルソなんちゃらへ連れていけだの訳の分からんことを言ってはいたが』

 

「ずいぶん片寄った奴ばかりと出会ってきたんだな...」

 

『......日も落ちてきた。雑談はこの辺にして、そろそろ話を前に進めようぞ。さて、じゃあそろそろ恒例の幽霊質問コーナーを始めるとするかの。妾が飽きるまでいくらでも質問して良いぞ。幽霊に質問できるなんてまたとない機会じゃ、存分に質問するといい』

 

そういって幽霊少女は薄気味悪い笑みを浮かべる。

どうやら俺を試しているようだ。

幽霊少女の気分次第でこの質問コーナー?はいつ終わるかわからない。

つまり必然、一つ目の質問に最も重要性の高いものを持ってくる必要があるだろう。

 

「確かに聞きたいことは無数にあるが.........まずは"コレ"について教えてもらおう」

 

そう言って、俺はベッドの上に手を伸ばす。

”ソレ”を取ろうとするが、幽霊少女が立ち上がり先に手に取った。

少女はそのまま俺のベッドに腰掛け、足を組む。

ここからだと白装束の内側がギリギリ見え........いや、何考えてんだ俺。

ここでキッパリ断っておくが、俺の守備範囲に年端も行かぬ少女は含まれていない。

 

『カカカ、お主の質問は的確で効率的なものばかりで、逆に可愛げがのぅなってきたわ。”この石ころ”が事の発端だということにも気づいておるようじゃしの』

 

「気付いたというより、そう考えるのが自然だろう。そう解釈すれば今日一日に起きた疑問が全て解消される。相変わらず原理は分からないままだが、この場合原理なんてどうでもいいだろう」

 

幽霊。

それは常識を超越した存在。

誰もいないはずの部屋から物音がする、ある場所に行った人がきまって体調不良を訴える、そのDVDを再生した人が全員、数週間以内に命を落としている。

元来このような”原因が分からない事象”に無理やり原因をつけようとするとき、人々は幽霊や妖怪などの人知を超えた存在を勝手に持ち出し、とりあえずの問題解決をはかろうとする。

言ってしまえば思考停止だが、実際に幽霊の存在が確定したのなら話は別。

この石が原因でこの状況が生まれたと考えるのが妥当だ。

 

『原理なんてどうでもいい、か.......カカカ、お主、幽霊というものを分かっておるではないか。正解じゃよ、その石が事の発端。その石はまあ......分かりやすく言えば、妾が一時的に憑けるようにとある霊能力者が加工した石じゃ』

 

「色々ぶっ飛んだ話だが、今はスルーしておく」

 

霊能力者というのが存在することにも驚きだが、今はその辺の話はどうだっていい。

ひとまず、真っ先に確認したいことは確認できた。

少女のその言葉を聞いて、俺は安心する。

つまり、この謎の石はホワイトルーム側が仕掛けた罠でもなんでもなかったということ。

修学旅行で一切仕掛けてこないという事はないだろうが、数十億をかけた大掛かりな罠を張って待ち構えているというわけでもなさそうだ。

これは素直に朗報といえる。

 

『うむ。それでな、妾はその石ころからお主にとり憑いたんじゃ』

 

幽霊少女は、あっけらかんとそう言った。

 

「......とり憑いた?俺はとり憑かれたのか?」

 

『うむ。妾がお主に取り憑いたんじゃ』

 

突如飛び出した”とり憑く”というワード。

てっきり俺はこの石の光を浴びることで幽霊がみえるようになるとかそういう感じだと思っていたが、どうやら俺はこの幽霊少女にとり憑かれたということらしい。

俺は幽霊にとり憑かれたのか。

その情報だけではなんともいえないが、少なくともプラスに働くことはなさそうだ。

 

「何が目的なんだ?」

 

『幽霊が人にとり憑くのに目的などない。幽霊はただ幽霊としての行いをするだけ。幽霊とは元来そういうものじゃ』

 

「よく分からないな」

 

『それで良い。幽霊は常に人間の理解を超えた存在でなければならんからな。だがまあ安心せえよ。とり憑いたといっても、妾は悪霊の類じゃないからの、お主に不利益があるとしても精々、いつもよりちょっと疲れやすくなるくらいじゃ』

 

確かに、言われてみれば今日は少し疲労感が強いように感じる。

だが特に気にするほどの違いでもない。

憑依によるマイナス要素がこれだけなら、確かに問題にはならないか。

本当にこれだけなら、の話だが。

 

「ちなみに、お前の言う悪霊に憑かれたらどうなるんだ?」

 

『精力を搾り取られて死ぬな。強力な悪霊なら半日、弱い悪霊でも一週間かからず衰弱死に追い込める』

 

マジか。

確かに歴史的には謎の変異死をとげた事例がいくつかある。

もしかしたら、ソレらの犯人はその悪霊たちなのかもしれない。

幽霊に取り憑かれはしたが、悪霊でないだけ不幸中の幸いだった......と言えるのか。

 

「物騒な話だな。ちなみに悪霊に取り憑かれた場合の対処法はあるのか?」

 

『まあ悪霊自体が稀な存在じゃし、自分から悪霊のいそうな心霊スポットに行くような阿呆でもなければまず憑かれることはないからそこまで心配はいらん。もし自分や身近な人間が悪霊に憑かれたら、最寄りの神社へ行って除霊を頼め。それも極力寂れた、今にも潰れそうなぼろっぼろの神社がおすすめじゃ。最近の大手の神社は商売に偏りすぎて、除霊技術がまともに継承されとらんから腕が悪い』

 

「なるほど」

 

幽霊から悪霊の対処法を教わった。

ぶっ飛んだ話だが妙に説得力がある。すごく役立つ話をきいた気がする。

 

『話が脱線したな。さあ、まだ質問を受け付けてやるからどんどん聞け』

 

最初は乗り気じゃなさそうだったのに、意外とノリノリで教えてくれるんだな。

幽霊というのは悪霊を除けば案外優しい奴らなのかもしれない。

 

「幽霊が人に取り憑くのに理由がないと言うのは理解した。それでも"俺が"取り憑かれたのは腑に落ちない。俺が選ばれたのは偶然なのか?」

 

さっき幽霊に理由を求めるなと言われたが、だとしても腑に落ちない。

取り憑かれるトリガーとなったあの石は、朝夕多くの人が利用する並木道にあった。

つまり、俺以外の誰かがあの光に当てられて取り憑かれていた可能性だってある。

まあ偶然と言われればそれまでだが。

 

『否、偶然ではない。妾に憑かれるのは、自分の人生により強い不満をもっている人間じゃ。ちなみに、これまで妾が憑いてきた人間たちは10代半ばで彼女も友達もろくにいない根暗ばかりじゃった』

 

なるほど、一応そういう傾向があるわけか。

 

『うーん、しかしやはり分からんな。今日一日お主を見ていたが、あんなに可愛らしい彼女もおって、別段友達がいないようにも見えんかった。一見かなり充実した生活を送っておる様に見える。しかし妾がとり憑いたということは、自分の人生に相当大きな不満をもっておるということ。一体どんな不満をもっとるんじゃ?過去にトラウマがあるとか、将来についてとかそっち系か?』

 

幽霊少女が俺を凝視して聞いてくる。

どうやら俺は、これまで憑いてきた人間とはタイプが違うらしい。

真剣に考察する少女をよそに、その少女の言葉を聞いて俺は一人確信した。

俺がコイツにとり憑かれた本当の原因。

それはきっと、ホワイトルームに関する俺の卒業後の問題が深く関係しているだろう。

この学校を出た後、後ろ盾がなくなった俺はホワイトルームに戻ることになる。それは確定事項で、争う術はない。俺自身その問題に関しては諦めがついたと思っていたのに、心の奥底ではまだ希望を捨てきれていなかったみたいだ。

惨めなもんだな。

とりあえず、少女にこれを打ち明ける必要はないだろう。

適当に話をはぐらかそう。

 

「悪いが心当たりがない。......ていうかやっぱり、今日一日俺を観察していたのか」

 

『ほう、その言い方だと気付いておったようじゃの。暇だったから何度かちょっかいをかけてみたからかの、まあ勘のいい奴なら気づくか。...カカカ!思い出しただけでも笑えてくるな!あの可愛らしい女子(おなご)はお主の彼女なんじゃろ?あれは傑作じゃったな!』

 

おそらく、今日の体育の時間のことを言っているんだろう。

幽霊少女は今日だけで2度、俺に対してアクションを起こしてきた。

一回目は、茶柱先生と星ノ宮との会話中に二人の足を刈って俺を転倒させるように誘導した。

そして二つ目は、体育の卓球トーナメント決勝の時。

恐らくだが、高円寺のスマッシュの時に高円寺の手元をくるわせて俺と松下のいる方向に打たせたんだろう。結果、俺と松下が抱き合うような形になり恵を怒らせてしまった。本当に謝るべきは松下でなくこの少女だったというわけだ。

高円寺がイージーミスをしたというのも腑に落ちないし、そもそも卓球の試合で球が直線に飛んでくることは普通起きないから気になっていたが、少女と対峙したことで犯人が明らかになった。

 

「これ以上のちょっかいはやめてもらいたい」

 

『カカカ、そう怒るな。今まで憑いてきた人間はああいう目に遭わされるとむしろ喜んでおったぞ?』

 

「本当に勘弁してくれ。憑かれている間毎日あんな目に遭わされたら心が休まらない」

 

『そこまで言われたら自重してやらなくもないが、多少は多めに見ておくれ。幽霊というのはただでさえ娯楽が少ないんじゃ。憑依先の人間を揶揄って遊ぶのは妾の唯一の生きがい......いや、この場合は死にがいか』

 

「意味がわからない.....」

 

どうやらやめる気はゼロみたいだ。

本当に先が思いやられるな。

先、か。

そういえば、まだ確認していないことがあった。

 

「それで、お前はこれからどうするんだ?」

 

俺の問いに対し、少女は当たり前のように言う。

 

『もう忘れたか?妾はお主に憑依したんじゃぞ?当然、これからしばらくはお主と共に過ごすことになる』

 

「...は?おい、そんなの聞いてないぞ」

 

『別に良いではないか。ただ毎日少しずつお主の精力を吸収して、お主と生活を共にして、たまに話し相手になってもらうだけじゃ。それにお主以外には妾は見えんし声も聞こえん。ほらな?別に何も困らんじゃろ?』

 

「すごく困る。今すぐ出ていってくれ」

 

『そう言われても、一度とり憑いてしまったら妾の意志で離れることはできん』

 

「まじか」

 

『まじじゃ。まあそう落ち込むな。流石にトイレや風呂の時に除いたりはせん。ただ離れすぎると精力を吸収できなくなるから極力近くにいるがの。お前が部屋にいるときは基本妾も居ることになるし、学校にいくなら妾もついていくことになる』

 

いや、そういう問題じゃないが......

プライベートが侵食されるのは精神衛生上良くない。

 

『お主はマイナス面ばかり気にしておるようじゃが、妾に憑かれるのはそう悪いことばかりでもないぞ?』

 

「そうなのか?聞いた限りでは、メリットなんて一つもないように思えるが」

 

『視野が狭いのう。例えば、学校のテストで妾を使ってカンニングするのはどうじゃ?100点間違いなしじゃぞ?』

 

「そういうのは間に合ってる......」

 

『なんじゃ、学業は優秀なのか。では意中の相手と結ばせてやろうか?......って、彼女いるんじゃったなそういえば......むむう、いつもの文句が通用せんなお主......』

 

どうやらこの少女は、憑依した相手を毎回このように唆していたようだ。

確かにほとんどの学生にとっては、この幽霊は利用価値があるものなのかもしれない。

憑依した人間以外には知覚できない上に、自分だけが意思疎通可能で、物体をすり抜けたり逆に動かしたりできるというのは反則級に使える力だからな。

実際、この学校の特別試験でもこの幽霊少女の力を使えば楽に突破できる場面も多いだろう。

しかし正直いって、俺がこの幽霊の力を借りるほど追い込まれる事があるとは思えない。

それに、俺はまだこいつを信用できない。

俺に嘘をつくメリットはないように見えるが、幽霊についての情報がないためそこも不確定だ。

自分でもよく分からない道具を頼るほど、俺は落ちぶれてない。

つまり.......

 

「俺にとってメリットは今のところ皆無だな」

 

『まじかお主。妾を使うのを躊躇った人間はこれまでも何人かいたが、必要ないと断言した人間は初めてじゃぞ......』

 

そんなことを言われても、本当のことだから仕方がない。

 

「そういえば、具体的にはどれくらい俺にとり憑いているんだ?まさか一生なんてことはないよな?」

 

『妾がとり憑いた原因は、お主が現状に不満をもっておるからじゃ。逆に言えば、お主の今感じている不満が解消されれば妾は自然と離れて、また別の憑依先のところへ行く。だからどれくらいかと聞かれれば、お主が不満を解消するまで、ということになるな。どんな不満をもっておるかは知らんが、妾と一緒が嫌なら精々頑張って人生をエンジョイすることじゃ』

 

つまり、ホワイトルームに関する問題が解消されれば幽霊少女は消えてくれるらしい。

 

「..........これは本当に一生の可能性がでてきたな(ボソッ」

 

『ん?何か言ったか?』

 

「いや、なんでもない」

 

『ふう、とりあえず話はこれで終わりじゃな。おい貴様、この部屋に茶菓子はないのか』

 

「ないな。インスタントの飲み物ならたくさんあるが、お菓子の類は普段買わない」

 

『これからは買っておくことじゃな。さすれば妾の機嫌が良くなる』

 

機嫌をとって何になるというのか。

 

「欲しいなら素直に頼んだほうがいいぞ。というか、幽霊に消化器官があるのか?」

 

『ショウカキカン?なんだそれは。難しい言葉を使うのはやめよ』

 

幽霊少女のマグカップを見ると、入っていたお茶は消えていた。

つまり消化器官はあるんだな。

食べたものがどこにいっているのか非常に気になるところだが.....

 

「いやしかし、幽霊だから質量になるものはないはずだが...というかそもそも質量がないとしたらどうやって立ったり座ったりしているんだ?質量がないなら重力がかからないから歩行もままならないはずだ、いやそれ以前に...」

 

『何を言っておるんじゃお主......』

 

訝しな視線を送ってくる幽霊。

その辺に関しては考えても無駄、ということか。

 

「そう言えば、お前って名前とかあるのか?」

 

『ん?まあ一応ある。祥子(しょうこ)じゃ。まあ好きに呼べ』

 

「祥子?なんだか人間味のある名前だな。というか幽霊に名前をつける奴がいるのか?」

 

『?生前に母から授かった名じゃが』

 

「生前?人間だった時代があるのか?」

 

『当たり前じゃろ、幽霊は死人の姿じゃぞ』

 

確かに。

 

「いや、すまない。幽霊が元は人間だということを完全に失念していた。お前にも人間だった時代があったんだな」

 

『当然じゃ。ま、もう1000年は昔の話じゃから、自分が人間だった頃の記憶などほとんどないが』

 

少女は平然とそう言った。

1000年という数字を聞いて一瞬思考が止まる。

そんなに長くこの世に留まっているなら、生前の記憶が失われても無理はない。

1000年前といえば、日本はちょうど平安時代の中頃か。

都である京都を政治の中心として390年ほど続いた、ちょうど古代と中世の境にあった時代。

思えば彼女のお茶を飲む作法は実に綺麗だった。

もしかしたらこの少女は本当にどこかの良家の娘だったのかもしれない。

 

「真似できないスケールの話だな。幽霊ってのはそんなに長く幽霊してるものなのか?」

 

『いや、妾が特別長いだけじゃ。そもそも、生前に大きな後悔がなければ幽霊にはならな......って、妾の話はええんじゃ。お主の話を聞かせよ。お主は確か.....綾小路とか清隆とか呼ばれておったな?』

 

自分の話はしたくないのか、無理やり話題を変えてきた。

少し気になるが、無理に聞くことでもないか。

 

「ああ。それで合ってる。綾小路清隆だ」

 

『綾小路、どこかで聞いた姓じゃな...それも生前に...』

 

「昔からある苗字だからな、聞いたことがあってもおかしくない」

 

確か京都府京都市が発祥の姓だったか。

京都は平安時代の都で当時と変わらない地名の場所も多く残っているので、十分あり得ることだ。

 

 

 

ピンポーン。

 

 

 

ちょうど幽霊との初対談もひと段落ついたところで、チャイム音が部屋に響く。

すぐに玄関に向かいたいところだが、幽霊少女がいるので少し躊躇う。

 

『妾のことは気にせんでいいぞ。妾の姿や声はお主しか知覚できん』

 

「そういえばそうだったな」

 

問題ないとのことだったので、訪問者を出迎えに玄関へ。

ドアを開けると、そこには()()()()の人物が立っていた。

 

「恵か」

 

「.........」

 

訪問者は、俺の彼女の軽井沢恵だった。

制服姿で片手に買い物の袋らしきものを持っていた。

恐らくは佐藤と放課後買い物に行って、そのまま俺の部屋に直接きたんだろう。

 

「上がらないのか?」

 

「............」

 

恵は一言も言わず目も伏せたまま、俺の横を通り部屋にあがっていった。

まだ不機嫌は継続中らしい。

がしかし、それでも俺の部屋に来たということは、そういうことだろう。

向こうも仲直りを望んでいる。

そのチャンスを俺に与えてくれたということだ。

一週間後には修学旅行も控えていることだし、こんな状態で旅行を迎えたくないからな。

恵もそう考えて俺の部屋に来たんだろう。

恵の後を追うように部屋に戻ると、既に恵は荷物を置いて上着を脱ぎ、ベッドに腰をかけていた。

 

「いつものココアでいいか?」

 

「.............」

 

沈黙を続ける恵。

怒っているというよりも、俺の謝罪を待っている、もっと正確にいうなら仲直りのとっかかりを求めている、といったところか。

俺も恵と付き合ってもうすぐ一年なので、恋愛の読み合いもかなり上達してきた。殊恵の扱いに関しては自信がある。

ひとまず、沈黙を肯定と受け取りココアを用意しにキッチンへ。さっきお湯を沸かしたばかりなので、時間はかからない。

 

『カカカ、愛いやつじゃのう此奴め〜。わざわざお前の部屋に来たというのも、なんともわかりやすい奴じゃて笑』

 

その頃幽霊少女の祥子はというと、座っている恵の周りをぐるぐると回ってニヤニヤしながら観察していた。

祥子は見た目は9歳くらいの少女だが実際には1000年以上この世にいる、いわば人生の大先輩。

やはり恋愛方面に関しては俺たち恋愛盛りの高校生よりも強いんだろうか。

二人の距離は数十センチにも満たないが、恵が祥子に気付いた様子はない。

祥子が恵を真正面からまじまじ見る。

どうやら祥子は恵を気に入ったらしい。

 

ココアを入れて部屋に行くと、恵はベッドに横になり丸くなっていた。

そっぽを向いて、俺の枕に抱きついている。

 

『さあさあどうするんじゃ彼氏様よ。なんと言って口説く気じゃ?笑』

 

すごく楽しそうに俺たちを見守る少女。

拳を握りしめ、物理的にも精神的にも浮き足立っていた。

1000年もこの世にいる割にはこんな小さなことで盛り上がれるんだな。

多少感情が死んでてもおかしくないと思うが。

俺を全力で茶化す祥子を無視して、俺はベッドに腰をかける。

 

「恵、今日のことは俺が悪かったと思う。反省してるから、そろそろ喋ってくれないか?」

 

とりあえず口を開いてもらわない事には始まらないので、壁と向き合ったままの恵に話しかける。

 

「.........何に対して....」

 

「ん?」

 

「それは何に対しての反省なの?」

 

確かにそこは重要なポイントだな。

言い回しを誤れば話が拗れる場面。

俺は今まで培った恋愛の経験値をフルに活かして最適解を導き出す。

 

「恵以外の女子と過剰にスキンシップをとってしまったことに対して、だ」

 

「...うん、それで、反省してこれからはどうするの?」

 

『カカカカカカ!面倒じゃっ!この上なく面倒な彼女じゃっ!笑笑』

 

そう言って腹部を抱えて笑い転げる幽霊少女。

いや、今は無視だ。

とにかく今は、恵の問いに対する最適解を考えなくては。。。

 

「これからは、他の女子が言い寄ってきたらちゃんと明確に否定の意を示すようにする」

 

「........」

 

恵は起き上がり、無言で俺の横に座る。

さて、反応やいかに.........

 

「これからは、松下さんが言い寄ってきても、絶対相手にしちゃだめだからね?」

 

「ああ、分かった」

 

「ある程度は特別試験のこともあるから仕方ないけど、他の子でももちろんだめだからね?」

 

「気を付ける」

 

「2度目は無しだからね?ましてや浮気なんてしたら絶対許さないから」

 

「ああ、2度としないし、浮気も絶対しない」

 

「......じゃあ、はいっ」

 

そう言って恵は、両腕を広げた。

まるで俺を迎え入れるように。

仲直りの印というやつだろうか。

 

「許してくれるのか?」

 

「うん、まあ........70点」

 

なかなか厳しめのジャッジだな。

それでもなんとか恵から許しをもらえたようだ。

俺は恵に促されるままにハグをした。

恵の温もりが鮮明に伝わってくる。

 

「恵、泣いてるのか?」

 

ちょうど、恵が顔を埋めている胸あたりから湿った感触が伝わった。

それに恵の体も少し震えている。

 

「うんっ、ごめんちょっと少し......不安だったからっ」

 

「そうか」

 

不安、か。

もしこのまま俺との関係が戻らず微妙なまま長引いて、最終的に破局なんて事になったら。

きっとそういった不安を感じたんだろう。

 

「だからもう少し.......このままでいて」

 

「ああ」

 

最近精神面が強くなったといっても、恵は恋愛や友達作りの経験は非常に浅い。

築いてきた人間関係が崩れる経験に関しては皆無と言っていいだろう。

普通はそういった構成と破局を繰り返して、大人になるにつれてそういう事柄に慣れていく。

恵にはその積み重ねがないため、もし俺や佐藤との関係が崩れたら、きっとすぐには立ち直れないだろう。

きっとたくさん泣いて、たくさん考えて、たくさん苦しむはずだ。

そして最後には、必ず立ち直る。

その頃には、以前よりもさらに強固な人間性を手に入れていることだろう。

これは、そのためのプロセスだ。

俺は恋愛を学ぶことができ、恵は一人で歩いていけるメンタルを得る。

成功すれば向こうにも理がある一石二鳥のプロジェクト。

まあ仮に失敗したとしても、俺にマイナスはないので問題ない。

 

それから時間にして4、5分抱き合った後、恵は泣き止んだのかようやく離れる。

俺はテッシュをとって恵に差し出す。

 

「落ち着いたか?」

 

「ありがと...もう大丈夫」

 

「悪かったな。俺のせいで恵を不安にさせてしまった」

 

「......私も、今回はちょっと怒りすぎたっていうか......そこは、私も反省してるから......その............ごめん」

 

驚いた、まさか恵が謝るなんて。

不器用ではあったが、確かに恵の成長を感じた。

 

「じゃあ、仲直りだな」

 

「うんっ、仲直り」

 

恵は今日初めての笑顔でそう言った。

無事仲直りができたところで、俺は時計をみる。

すでに7時を回っていた。

電気をつけていなかったので、部屋はそれなりに暗かった。

 

「さて、じゃあ恵。これから夕飯にするが、何か食べたいものはーーーーーー」

 

夕飯にはいい時間になったので、冷蔵庫の中を確かめに行こうとしたその時。

恵が、俺の服の袖を掴んでいた。

恵は俯いていて部屋も暗いので顔が見えないが、心なしか耳が赤くなっているように見える。

 

「どうした?」

 

「............ん。」

 

恵は両腕を広げて、俺に2度目のハグを求めるようにする。

ただハグにしては、恵がやけに緊張しているというか、顔を真っ赤にして俺と視線を合わせようとしないのが不自然だ。

もしかして.........

 

「恵、したいのか?」

 

『..............へ?』

 

「なっ!!!せっかく遠回しに伝えたのにそれ言ったら台無しじゃない!」

 

何故か別方向から変な声が聞こえた気がしたが、気のせいか。

 

「いや、俺も直接的には言ってないから。......って、やっぱりそういう意味だったのか」

 

「あ、いや、ちがうから!こ、こういう喧嘩の後ってさ、仲直りしたっていう証があった方がいいでしょ?喧嘩の後仲直りはしても前より不仲になったっていう話よく聞くし、そんなの絶対嫌だし!」

 

急に饒舌に喋り出す恵。

俺は気まぐれに、少しからかってみたくなった。

 

「俺と恵に限ってそんなことにはならないと思うけどな」

 

「そ、そうかもだけど...」

 

「本当は、恵がしたいだけなんじゃないか?」

 

「なっそ、そんなわけないでしょ...」

 

「したくないなら、無理にしなくてもいいな。一応学校にバレたら大問題だし、しないに越したことはない」

 

「え、いや、したくない訳じゃない、というか、その......」

 

「ちゃんと言葉にして言ってくれ。俺も、恵がしたくないことを無理にしたくはないんだ」

 

「.............たいわよ.....」

 

「すまないよく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

 

「だから!.....したいって......」

 

「何を?誰と?」

 

「きよたかと!..................え.....えっち、したいの...//////ああもぅ恥ずかしい!今日のきよたかなんかすごい意地悪....」

 

「すまない。恵から誘ってくれるのは初めてだから、嬉しかったんだ」

 

「う、さ、誘うとか言わないで...エッチな子みたいじゃん...」

 

「違うのか?」

 

「そ.......そうなの、かも...んっ」

 

俺は我慢できず、唇を奪いつつ、恵をベッドに押し倒した。

制服にシワがつくといけないので、片手間に制服のボタンを外していく。

ただでさえ最近は自分でも抑えが効かないというのに、適度な疲労感も相まって、歯止めが効かなかった。

しかし、俺の中にわずかに残った理性がある事に気づき、動きを止める。

 

『え、ちょ、え、おぬし本気かっ!?わらわここ、ここにおるんじゃぞっ!?人の目の前でおっ始めるってどんな神経しておるんじゃお主!?』

 

そういえば、祥子がいたんだったな。

幽霊は気配がないので、完全に忘れていた。

祥子はベッドで重なり合う俺たちを見て、腰を抜かしながら両手で顔を覆っている。

それでも目が離せないのか、顔を真っ赤にしながらも指の間からしっかり俺たちを見ていた。

ていうかこの幽霊、1000年生きてるのにこういうのを見るの初めてなのか。

さっきまでの態度から、てっきり慣れていると思っていたんだが。

まあどうでもいいか。

少女に見られながらするというのは少し問題な気もしなくはないが、相手は幽霊なのでいないのと同じだろう。

それにこれから長く一緒にいることを考えると、いちいち気にしているだけ損だ。

 

「きよたか....どうしたの?」

 

「いや、なんでもない。服、全部脱がせていいよな」

 

「うん......明日も学校だから、服に皺ついてたら勘いい子なら気づきそうだし......」

 

『狂っておる!こやつ狂っておる!こ、今度の憑依先はとんでもない奴に、え、そこをそんなに...!?はわわわわあ!?!?』

 

まあそれだけで確定はできないだろうが、疑われるのは避けるべきだろう。

もし堀北あたりに勘づかれたら、なんというか、死ぬほど恥ずかしい。

 

そうして俺たちは、幽霊少女の眼前で愛し合った。

俺は、日々増していく性欲のすべてを恵にぶつけた。




前回からかなり空いてしまいました...。
そのお詫びに二話分あるのでお許しください。(説明回で長くなっただけだけど)
今回は説明回でしたが、この二次創作のテーマは”ちょうどいいエロさ”なので、これからもそこを重視で書いていきたいと思います。ただたま〜に、僕自身の原作考察も含めて書いていくかもしれません。

はいということで、実はここまでがあらすじに書いてある内容でした。
序章という位置付けです。
本当なら次回から修学旅行編ですが、ちょっともう一話修学旅行前にやりたい話があるので、第一部がもう一話続きます。原作でも先が気になる”あの子”の話です。

ちなみに幽霊少女の祥子は、化物語の忍野忍を意識して書いてみました。
綾小路×幼女の組み合わせは新しいかなと。まあ中身は1000歳のおばあちゃんですが。


※『人外キャラ』を登場させた理由

よう実のいいところは、キャラクターの行動の多くが合理的である点です。その良さが、よう実の二次創作をするにあたって一番の障害でした。出てくるキャラ出てくるキャラみんな頭良すぎて、基本的にミスをしないんですよね。そこにどうやって、ToLoveるのようなばかな展開を起こすか考えた結果、自分勝手に何の意味もないバカな事をするキャラが必要だという結論に至りました。そのキャラは人間では絶対に務まりません。人間である時点で、綾小路たちと絡ませるとただのよう実の一部になってしまいます。綾小路たちのいう実力という尺度では決して測れない、いわば神様のような存在をぶち込む必要がありました。
やっぱり二次創作はこうでなくちゃね!
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