AI: ソムニウム ファイル THE futurity Decker 作:ガンダムラザーニャ
俺と簪ちゃんは今ある家に向かっていた。
俺たちの知り合いの家だ。
「こんにちは」
「お邪魔します」
ドアを開けて入ると、一人の少年がこたつに入りながら機械を弄っていた。
最初は気付いていないようだったけど。
「…んっ、あぁこんにちは二人とも」
と、俺たちに気付いて挨拶してくれた。
彼は宴田祥磨くん。
機械を作るのが趣味で、実際にロボットを作ってることもあるんだ。
それで、最初はロボットが好きな簪ちゃんと意気投合して、俺も最近になって仲良くなってこうして遊びに来てるんだ。
見た目は小学生だけど、実は簪ちゃんよりも年上で18歳だ。
「祥磨くん、それ何作ってるの?」
「これ?
一輪ロボを改良するためのアップデート版だよ。
これが完成すればより安定して動かせるはずなんだ」
そう言って見せてくれたのはパソコンと繋いだ大きなモニターみたいなもの。
画面にはロボットの設計図のようなものが表示されていた。
「…………へぇ~、すごいね!」
俺は感心したように声を上げた。
確かに、こんな風に改良されればもっと安全になるかもしれない。
にしても、ここまでできるなんて本当にすごいと思った。
「まぁね! でもまだ未完成だからさ。
これからも研究を続けるつもりだよ」
祥磨くんは照れたように笑った。
それからもしばらく3人で楽しく話し合った。
それでふと気になったことを聞いた。
「そう言えば祥磨くん、いつもここには一人でいるみたいだけど、他に家族さんいないの?」
「んっ?
いるよ?
父さんがお笑い芸人をやってるんだ。
…まぁあまり売れてないけどね」
「確かアンデス米治さんだよね?
私はとても面白いと思うんだけどな」
「…っ、父さんのお笑いでそう言ってくれたの、初めてだよ……。
ありがとう……」
祥磨くんは少し嬉しそうな顔をしていた。
そして続けて言った。
「あと、姉ちゃんも時々に家に来てくれるんだ。
親が離婚して苗字変わっちゃったから、言わないと誰にもわからないんだけどね」
「そうなの?」
「うん、二人はサンフィッシュポケットって喫茶店行ったことあるかな?
姉ちゃんそこでアルバイトしてるんだ」
「あぁ……、そこなら前に一度友達と一緒に行ったことがあるよ」
俺はその時のことを思い出した。
あの時は本当に楽しかったな。
また行きたいくらいだし。
「そっか、よかったら行ってみてよ。
きっと気に入ってくれるはずだから」
「…ねぇ祥磨くん、お姉ちゃんってどんな人なの?」
と、簪ちゃんが少し暗い顔になりながら聞いてきた。
「どうって、優しくて面倒見が良くて賢い自慢の姉ちゃんだよ」
「……そ、そうなんだ」
「そう言えば、簪ちゃんにも兄弟か姉妹っているの?」
と、今度は俺が聞くことにした。
「…うん、いるよ。
けど、話しててもあまり気持ちの良い話じゃないよ?」
「俺は大丈夫だよ。
祥磨くんは?」
「うん、僕も大丈夫だよ。
友達の話だから、ちゃんと聞いてあげたいんだ」
「…わかった。
私にもね、お姉ちゃんがいるの。
頭が良くて、いつも私のことを助けてくれた、優しくて自慢のお姉ちゃんが。
でも、お姉ちゃんは私と違って何でもできるから、いつも周りから比較されて、それでもいつも庇ってくれたの。
でも、そんなお姉ちゃんに私はいつしか劣等感を抱くようになっちゃったんだ。
お姉ちゃんが賢くて何でもできるせいで、私はいつも周りから比較されるんだって。
…うん、わかってるよ、お姉ちゃんは何も悪くない。
ただ、私が勝手に思い込んでしまっただけなんだ。
なのに、それを理解できずにお姉ちゃんを恨んでしまったことが何度もあったの。
八つ当たりもして、酷いこともたくさん言ってしまった……。
その度にお姉ちゃんは悲しそうな顔でごめんねって、謝ってきたの。
謝らなきゃいけないのは、私の方だったのに……。
何度も謝りたいと思っても、話し掛けづらくて、そんな日々が続いたんだ。
それでね、ある時、お姉ちゃんが優しく微笑みながらこう言ってきたの」
「…何て?」
「あなたはこれからずっと、無能なままでいなさいな。
私が何があっても守ってあげるからって」
「えっ?」
「それを聞いた瞬間のことは、私もよく覚えてないの。
気が付けば、着替えと荷物を持って家を出ていた。
そしてそのまま、友達の家に居候させてもらってるんだ」
「そう、だったのか……」
俺には想像することしかできないけど、とても辛いことだったんだろうなと思った。
「あんなことを言われてから、どうして出ていったのかわからない。
でもいくつかわかることがあるの。
出ていったのは私の意思だってこと、その理由は私の中の優しいお姉ちゃんの幻想を壊されたくなかったからだと思う。
だから、もし今会ったとしても私はきっとお姉ちゃんの顔を見ることはできない。
それが、今の私が出した答えなんだよ」
「……」
俺は何と言えばいいかわからず黙ることしかできなかった。
俺は記憶喪失で、家族との思い出がない。だから家族の愛というものを知らない。
でも、それでも家族を大切に思う気持ちは知っているつもりだ。
だから、家族であるはずの妹に対して、そんなことを言う姉の気持ちはやっぱりよくわからなかった。
でも、この話をしてくれたのはきっと、彼女の本音なんだろうと思った。
と、祥磨くんが口を開いた。
「……あのさ、僕には君の姉ちゃんが、そんなことを本気で言ってるようには思えないんだ」
「…え?」
「だって、話を聞いてる限りだと簪ちゃんの姉ちゃんってずっと君のことを大切に思ってるみたいじゃないか。
だからそんな人がそんなこと言うってことは、何か訳があるんだと思うんだ」
「……祥磨くん」
「…そうだな。
祥磨くんの言うとおりだよ、君のお姉ちゃんは、何か訳があって敢えてそう言ったんだよきっと。
…けど、簪ちゃんもあまり一人で背負わないでくれ。
俺たちがいるんだからな」
「彼方さん…」
「……ありがとう二人とも。
そう言ってもらえると嬉しいよ」
そう言って彼女は少し涙ぐんでいた。
それからしばらくして、祥磨くんは作業を再開した。
俺たちも家を出て、帰ることにした。
すると、簪ちゃんが話し掛けてきた。
「か、彼方さん、今日はその、ありがとう。
私の話を聞いてくれて」
「俺にはそれくらいしかできることがないからな。それに、大切な友達のことなんだから当然だろ?」
「友達……、そっか、私たち友達だよね!」
「あぁ、もちろんだ」
「……ふふっ、そっか、友達か」
嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に、俺は改めて友達になってよかったと思った。
「ねぇ、明日シャルモンに言っても良いかな? もっと、いっぱいお喋りしたいな」
「おう! じゃあまた明日にな」
「うん、また明日!」
こうして、俺は簪ちゃんと別れ、帰路についた。
帰路につきながら、俺は考える。
なぜあんなにも仲良しな二人がそんな風になってしまったのか。
なぜ簪ちゃんのお姉ちゃんの刀奈ちゃんはそんなことを言ったのか。
そこには何か訳があるに違いない。
でもいったいどんな理由が……。
うーん、わかんないな。
結局何もわからず、その日はシャルモンに帰って寝ることにした。