AI: ソムニウム ファイル THE futurity Decker 作:ガンダムラザーニャ
俺は今、伊久米神社に来ていた。
この間のテラフェイザーのことで怪我をした簪ちゃんのお見舞いのためだ。
「あっ、こんにちは~カナカナ〜♪」
と、神社の家からゆるふわな印象のある一人の少女がやってきた。
「あぁこんにちはのほほんちゃん。
簪ちゃんは元気にしてるかな?」
「うん、まだ傷は治ってないけど、元気にしてるよ〜。
ほら、かんちゃんもカナカナ来るの楽しみにしてたから入って入って〜」
そういって俺の手を引いて家の中へと招き入れてくれた。
彼女はのほほんちゃん、本名は布仏本音。
のほほんって言うのは本人がそう呼んでくれと言っていたからだ。
この神社の娘で、簪ちゃんの幼馴染なんだ。
それで、家出をしてる簪ちゃんをこの家に匿ってくれてるんだ。
のほほんちゃんに家に上げてもらい、部屋へ行くと、上体を起こした上でアニメ関係の資料を見てる簪ちゃんがいた。
頭に包帯を巻いていたり、頬に湿布を張ってあったりと、痛々しいことこの上ないが、本人は至って元気そうだ。
「…?
あっ、彼方さん!こんにちは!」
「おう簪ちゃん、調子はどうだ?」
「うん、まだ痛いけど、もうちょっとしたら完治するかな」
「そっか、それはよかった」
まぁあれだけの大怪我だったし、後遺症とかなくて良かったぜ。
「はい、これお見舞いね」
俺は手に持っていた紙袋を渡した。
「これは……?」
「前に食べたいって言ってただろ、ケーキだよ」
「えっ!?いいの!?」
「ああ、もちろんさ。
だから早く良くなってまた一緒に遊ぼうな」
「うん!!ありがとう!!」
嬉しそうな顔をしながら俺が渡したケーキを受け取った。
「えへへ〜良かったねかんちゃん♪
」
「う?!本当に嬉しい!」
その笑顔を見て俺も自然と笑みがこぼれた。
それからしばらく雑談をし、俺らは帰ることにした。
すると、チャイム音が鳴った。
「あれ、家にお客さんかな?
ちょっと見てくるね〜」
のほほんちゃんが玄関に向かうと、何やら急に騒がしくなり、部屋の前までお仕掛けてきたようだ。
「やめてっ、かんちゃんを連れてかないでっ!」
「そうは行きません。
これもお嬢様の命令ですので」
聞こえてきた会話を聞いて急いで駆けつけると、のほほんちゃんと黒服が揉めていた。
「おいあんたら何やってるんだ!」
「カナカナ助けて!
この人がかんちゃんを無理やり連れて行こうとするの!」
「私は楯無様より妹様を連れ戻すように言われた者です。
さぁ、そこをどいてください」
「待ってくれ、簪ちゃんは今怪我をしてるんだ!
まだ外に出れるような状態じゃないんだよ!」
「そんなことは関係ありません。
それに、あなたには関係ないことでしょう」
くそっ、なんて自分勝手な奴だ! 俺は腹を立てながら睨むと、向こうもこちらを見つめ返してきた。
「抵抗すると言うのなら、それ相応の覚悟を持って「待ちなさい、手荒な真似はやめるようにと、いつも言ってるのでしょう?」…っ、た、楯無様…!」
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
簪ちゃんと同じく水色の髪をした少女だが、髪が外側にはねている。
手に持った扇子を開くと、【喧嘩厳禁!】と書かれていた。
そんな少女を見て、簪ちゃんがギョッとしていた。
「お姉、ちゃん…」
「久しぶりね簪ちゃん、元気にしてたかしら?」
「…お姉ちゃんには、関係ない」
「あらあら、反抗期かしら? でも残念だけど今日は引き下がるわけには行かないわ。
さあ、帰るわよ」
「嫌!私はまだここにいる!」
「わがまま言わないの。
せっかく迎えに来てあげたというのに、困ったものねぇ……」
「私が家を出ていったあと何もしなかった癖にっ、今更何の用なの!?」
「それは違うわよ。
あなたのことを心配してわざわざ迎えに来たのよ。
それがわからないのかしら?」
「嘘つき!! 私のことなんかほっとけばいいでしょ! 私のことを無能のままいればいいって言った癖にっ!もう放っておいてよ!!」
「……それは」
「君が、簪ちゃんのお姉ちゃんなのか?」
「…っ、えぇそうよ。
私が簪ちゃんのお姉ちゃんの更識楯無よ。
あなたが明日見彼方よね?」
「そ、そうだけど、どうして俺の名前を」
「更識組は対暴力団用暗部よ?
そのくらい調べはついてるわ。
…と、せっかくだし少し話をしないかしら?
簪ちゃんのことは、その時に決めればいいし」
と、楯無ちゃんは黒服を出て行かせ、のほほんちゃんも空気を読んだのか同じく部屋を出て行った。
部屋には俺と簪ちゃんと楯無ちゃんの三人だ。
「…それで彼方さん、あなたは私に、何か聞きたいことがあるんじゃないの?」
「そうだけど、のほほんちゃんも君のこと知ってるのか?」
「知ってるも何も、私たちは昔一緒に遊んでた仲ですもの。
当然、私の本当の名前も知ってるわ」
「…じゃあ、君が刀奈ちゃんってことか」
「そういうこと。
改めて自己紹介するわ、私は更識楯無、更識組の現当主よ。
簪ちゃんがお世話になってるわね」
「まぁ…どうも。
それで単刀直入に聞くけど、何で今になって簪ちゃんを連れ戻そうとしたんだ?
聞いた話だと、出ていったあとで一度も連れ戻そうとしなかったみたいだが?」
「それは…、簪ちゃんを巻き込みたくなかったのよ。
私のそばにいたら、簪ちゃんも狙われるかもしれないと思ったから」
「…それって、スフィアのことか?
更識組は、そのスフィアを動かしてるやつらと戦ってるって聞いたんだが」
「えぇ…、その通りよ。
だからそれに巻き込まないためにも、簪ちゃんがどこか行くように、わざとあんなことを「…意味わからない」…っ!」
すると、簪ちゃんがぷるぷると震え、そしてそのまま刀奈ちゃんの胸倉を掴んだ。
「そんな意味わからないことのために、私のことを無能って言ったの!?
巻き込まないために、出て行かせるためにあんなことを言った?
笑わせないでよ!
出て行っても、怪獣とスフィアに襲われてる時点でとっくに巻き込まれてるよ私なんて!
それとも何?本気で私のことが嫌いだから、怪獣たちに巻き込まれるのを知ってて出て行かせたって言うの!?」
「そ、そんなことない!私はあなたを嫌いになったことなんて一度だって無い! あの時は、ただあなたを守りたかっただけなの!」
「嘘だっ! 私のことを嫌ってたから、本気で私のこと無能って言って突き放したんだ! そんなの信じられない! お姉ちゃんはいつもそうだ! 自分の都合の良いことばかり押し付けて! もううんざりだよ! お姉ちゃんの顔なんて見たくもない!!」
「……っ!」
涙目になりながら叫ぶと、刀奈ちゃんはショックを受けたような顔をする。
それから悲しそうな顔をしながら、ゆっくりと手を離した。
「ごめんなさい……。
あなたを守る為とはいえ、傷つけるつもりはなかったの。
本当に、ごめんなさい……っ。
もう、あなたの前に顔も見せないからっ」
顔を俯かせ、そのまま立ち上がる刀奈ちゃん。
「…ここに来たのは、あなたが大怪我を負ったって聞いたから、あなたを連れて、怪獣やスフィアが来ないようなどこか遠い所に連れて行って、そこで幸せに暮らして欲しかったけど、ごめんねっ」
最後の辺りで声が震え、そのまま出て行ってしまった。
一方簪ちゃんは泣きじゃくりながら。
「ごめんなさい彼方さんっ、しばらく、一人にしてっ」
と言っていたので、俺は刀奈ちゃんを追い掛けた。
「待ってくれ!刀奈ちゃん!」
玄関で靴を履いている途中で追い付き、腕を掴む。
「……放して」
「嫌だ、放さない」
「……お願いだから、放してっ」
「俺はまだ、ちゃんと君から話を聞けてない」
「……何の話かしら?」
「君がどうしてここに来たのかってことだ。
さっきの言い方だと、まるで自分が犠牲になればいいと思ってるような感じだったが」
「……えぇ、そうよ。
私は更識組の当主として、更識組も簪ちゃんもこの街も、守らなきゃならないの。
それに、当主になってから、私は世界中の闇を見てきたわ。
だから、大好きなあの子には、そんなこと一切知らないで、幸せに暮らして欲しかったから」
「だから、無能のままでいてくれって、言ったのか」
「…そうよ。
元々、私たち姉妹はいつも周りから比べられて、頼んでもないのに私ばかりが持ち上げられてたわ。
そのせいで簪ちゃんが私よりも下だって、皆から後ろ指差されるようになって、見下されてきたの。
だから簪ちゃんも、暗い性格になって、私のことを避けるようになった。
けど、それでもあの子のことを守りたかったから、敢えて突き放すつもりで、あんなことを言ったのよ」
「……じゃあ、君は本当に、簪ちゃんのことが嫌いじゃないのか?」
「……そんなわけないじゃない。
大好きに決まってるわ。
けど、私のせいであの子が苦しんでるのは事実よ。
だから、これ以上迷惑をかけないためにも、私がいない方が、良いのよ。
今になって、あの子を連れ戻そうとしたのも、あの子が大怪我したって聞いたから、あの子を、怪獣もスフィアもいないどこか遠い場所に連れ出して、私が代わりに戦えば、それで済むと思ったからよ。
でも、やっぱりダメね。
結局は、あの子に嫌われちゃった」
「……刀奈ちゃん」
「……ごめんなさい、こんな話、あなたにしても仕方ないわよね?
……だから、お願い。
私の大切な妹を、お願い」
「おい待てよっ!
最後に、これだけは聞かせてくれ!
君はスフィアを動かしてる連中と戦ってるって聞いてるんだ。
そいつら一体、何者なんだ?」
すると刀奈ちゃんは、少し考えてから答えてくれた。
「……この世界を、スフィアで覆い尽くし、人類を解脱へと導こうとするカルト集団よ。
NAIXって言うのは聞いたことあるでしょ?」
「ああ……。
ネットでも都市伝説でやってるのはな。
この世はシミュレーションだって言ってる秘密結社だってな」
「えぇ、その通りよ。
でもその実態は、特殊な電波を使って、遥か彼方の宇宙から飛来する生命体・スフィアを呼び寄せ、地球そのものをスフィアで覆うことで、人類全てを解脱へと導こうとする組織なの。
そしてそれを阻止するために、私たち更識組はスフィアと戦えなくても、それを操るNAIXの動向を探り、阻止するために動いてるの。
それが私の役目。
だから私は、この命に掛けても、どんなに嫌われても、簪ちゃんを守るって決めたのよ」
「辛くは、ないのか?」
「ないわよ、後悔もしない。
あの子がスフィアとNAIXに狙われないためにも、私がどんなに傷ついても、それで死んだとしても、絶対にあの子を守るから」
即答だった、声は震え、背けた顔から涙を流すが、それでも刀奈ちゃんは一切迷わず、覚悟を決めた表情をしていた。
「……分かった。
なら俺からも一つだけ言わせてもらう。
俺は君に死んで欲しくない。
簪ちゃんとずっとこのまま仲違いしたままでいるのは嫌だ。
君の覚悟はよくわかったし、俺はそれを止めることはできないかもしれない。
でも、一人で背負い込まないでくれ。
この街には、ウルトラマンがいるのだから」
「…6年前とは別の姿をしたウルトラマンよね。
わかってるわよ。
私たちがNAIXの動向を探ってるときも、怪獣やスフィアと戦う彼の姿には、何度も心を打たれたし、励みにもなってる。
…けどそうね、あなたの言う通りかもしれない。
私はちょっと気負い過ぎてるのかもしれないわ。
気をつけないとね」
「…もう、行くのか?」
「えぇ、簪ちゃんにはあなたたちがいるもの。
もう私の付け入る隙もないし、それに、あの子を傷つけてしまった私なんかより、あなたたちといた方が幸せだもの。
さようなら、優しい簪ちゃんの友だち」
「……あぁ」
俺がそう答えると、彼女は振り返らずに、家を出て行った。
「……嘘つけよ。
守るために突き放して、そんでさっきみたいに罵られて、どっちも痛いだろ。
君も、簪ちゃんも」
俺は一人、拳を握りながらそう呟いた。