ロストメモリカル~記録無き転生者~ 作:ヘルメットのお兄さん
「これで……直ったのかな?」
意識が芽生えた直後に聞こえた音は小さな声だった、目は見えず体の感覚もないがただ音だけは聞こえた。少女の声だろうか? 少なくとも成人しているとは思えないほど幼い声だ、しかしその声に聞き覚えは無い……
「動かないなぁ……それじゃあこっちを接続して……」
それどころか自分の事も思い出せない、日本……地球という星に住みそこでの一般的な知識しか覚えていない。ここは東京なのだろうか、それとも京都? はたまた北海道? ……ともかく声を出さなければ状況の確認もできやしない。
「あ、これがカメラの接続プラグ?」
そう思い声を出そうとした直前に突如視界が接続された。
「ッ……!?」
突然の情報量に思わずレンズを塞ぐ、予期しないタイミングで光が入ってきたのだから当然だろう……レンズ?
徐々に素体の感覚が接続されていくにつれ自分の状況を理解していく、全長190cm、体重120kg、片方が破損し欠けた視界接続用カメラ……そして不具合だらけのプログラム……
「な……なんだこれ!?」
「わっ!?」
自分が何歳で男か女かもよくわからない、しかし一人の人間だったことだけはわかる。しかしどうやら自分の体は機械になっていたようだ……それも損壊寸前のオンボロイド……
「……びっくりした、あなた喋れるの?」
先程聞こえた少女の声だ、レンズを下に向けると黒髪が綺麗な120cmほどの小さな少女が居た。手には何やら工具箱を持っている、そして目の前の少女は素朴だが絵本から飛び出したような可愛らしい白いドレスを着ていた、しかし…失礼な言い方かもしれないが手に持った工具のせいで似合わないしあちこち泥だらけになっている。
ある程度冷静になってかろうじて動くレンズで周りを見てみるとこの場所は洞窟の様だ、しかしかなり狭く大人は屈まないと入るのも苦労するだろう。
「ねぇ、喋れるの? ……またエラーかな……」
「あ……あぁ、喋れるよ」
そう首元にあるスピーカーから答えると少女はまた驚いたような顔をした後それはそれは嬉しそうな笑顔を見せてきた。
「凄い凄い! 古代の魔道機械なんて初めて見たわ! しかも現存する賢人型!」
気になる単語が幾つか聞こえてきた、魔道機械に賢人型?
「ええと、幾つか質問をしてもいいか?」
「質問? いいわ、このネル・・ゴダートがなんでも答えてあげる!」
「それじゃあネル……? 魔道機械っていうのは何?」
「貴方の事よ? 機械の燃料問題を解決する為に模索された一つの答え、大気中にある魔力を吸収して燃料にする機械、それが魔道機械である貴方」
疑問が増えた、しかし今は後回しにしよう。
「それじゃあ次……賢人型というのは?」
「それも知らないって事は記憶媒体に不具合があるのかしら、後でもう一度修理させてくれない? それで賢人型っていうのは私達賢人族ヒューマンを元にした人型機械の事ね、他にも森人族エルフを元にした森人型とかあるらしいけれど……私は見たことが無いわ」
疑問は増え続ける、しかし最低限の情報だがわかったことがある。ここは地球ではない、エルフだの魔力だのを当たり前のように話すこの子が嘘をついている様子は無い、目の前の少女……ネルが狂人だったら話は変わってくるが雰囲気からその線は薄そうだ。
「質問はまだある? 無いなら貴方の修理を再開したいのだけど……」
「……とりあえず修理を先にお願いしてもいいか?」
「任せて! こんなにワクワクするのはお父様のプレゼント以来だもの、腕が鳴るわ!」
そう言って工具から大量の道具が取り出され俺の前に並べだす
「……本当に大丈夫なのか? こんな所で……」
「修理って言ったけどここだと応急処置しかできないの、とりあえず最低限動ける程度になってから改めて私のお家で直させてもらうわね」
「わかった……」
しばらくして何かが接続された音がすると突然全身に神経が通ったような感覚がした。
「があッ……あ? 痛っ!」
思わず痛みのような不快感に立ち上がると天井に頭部をぶつけた、痛みというよりは不快感だが反射的に声が出てしまう。
「あっ! 大丈夫? ……動けるようにはなったみたいね、それじゃあ私の家に行きましょう? 正直貴方の中身がボロボロだからそっちを綺麗にしたいの」
……このままネルについていく以外の方法はあるにはあるのだろうが仮にそんな事をしても遠く無いうちに自壊してしまうだろう、自分の事は自分でわかるなんて言うが今の自分は誰が見ても壊れる寸前だとわかる。
「ここから遠いのか?」
「そんなに遠くないわ、お父様の領地内だから近道もわかるし」
「それならお言葉に甘えようかな」
「任せて! ……そういえば貴方名前はあるの? ずっと貴方じゃ窮屈だわ」
「……覚えていない、自分が何者なのかもさっぱりだ」
「うーん……それじゃあ私が名前をあげる、それでどう?」
「是非とも」
「えっと、それじゃあ……うーん……オルドス、オルドスはどう?」
「随分早く決まったがどういう意味合いなんだ?」
「古い伝説にある神様の名前よ、かっこいいでしょ?」
「……ああ、いい名前だと思う」
そう言うとネルは嬉しそうに頷いてくる。
「でしょ! さ、今度こそ行くわよオルドス! 貴方を完璧に修理してあげる!」
意気揚々と出口らしき方向に歩いていくネル、俺は今自分の事はほとんど記憶にないがこの世界に来て、この機械の体になったのは何か意味があるのだろうか。オルドスと名付けられたこの体には記憶……メモリーとでも言えばいいか、それも一切無い。しかし彼女についていけば何か得られると思い俺は屈んだまま彼女を追いかけた。