ロストメモリカル~記録無き転生者~ 作:ヘルメットのお兄さん
リランド、オルドスがグラオザームと交えた頃、館内はひと騒ぎが起きていた。
「侵入者め、どこに行った!」
「まだ報告を受けていないものに伝えろ! 赤い髪の執事と旅装束のガキを捕まえろ!」
「……いなくなった?」
「ええ、ひとまず大丈夫です」
ネルを背負ったヴァレットが小さな倉庫から顔を出すと息を吐く。
「しかし……妹様まで陽動に出なくてもよかったのでは? 貴女に怪我をされたら旦那様に細切れにされてしまいます」
「じゃあ私だけ宿で休んでいろって言うの? 皆があの子を助けようとしているのに何もしないのは耐えられないわ」
そう言うとネルは少し顔に陰が差す。
「……何もしないのは嫌だけど、何もできなかったのも辛いわね。魔術も使えない、剣も握れない私は邪魔だったでしょ?」
「……そんな事ありませんよ、妹様は自分が何をできるか、できないかをしっかり把握しています。そして先程館の間取りを教えてくれたように出来る事を最大限活かしてくれました邪魔どころか大活躍でしたよ」
「そう……そうかしら、えへへ……」
嬉しそうにネルが顔を綻ばせると館が大きく揺れ何かが崩れる音がする。
「……オルドス殿とリランドさんは無事でしょうか」
「大丈夫よ、オルドスもリランドのおじいちゃんも強いんだから」
「……ええ、そうでしたね。彼らを信じましょう」
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リランドはグラオザームを前に膝をついていた、幾度となく襲い掛かる三本の魔術で作られた剣を捌いたが一つ一つの技術が予想より高く徐々に切り傷が増えていた。
「老人がよく持ちこたえたものだ……何故あの骨董品と老いぼれが私の相手かと思ったが、最善の選択だったのだろうな……もっとも半分は外れだが」
グラオザームはオルドスが吹き飛ばされた方を見る。
「あいつは頑丈でよ……あれぐらいじゃ壊れねぇよ……」
「まだ喋る元気があったか、若い頃は相当名を馳せていたな? この剣には各国の優れた剣士の動きを模倣させたがそれをその程度の傷に抑えたのは健闘したという他ないな」
「はっ……あれで優れた剣技か……? ガキのチャンバラごっこかと思ったぜ……」
「貴様からしたらそうなのかもしれないな、だが余計に謎だ。何故それほどの者がたかが一人の奴隷の為に動く?」
「あ? ……決まってんだろ……」
リランドは鎖に捕らえられたままのヴァイスを見ると立ち上がる。
「民を守る立場の貴族がその力を私利私欲の為に、まして悪事に使ってんなら! それを諫めるのが騎士の役目だろうが!!!」
その時グラオザームは自らに漂わせている三本の剣に、周囲の感覚に違和感を感じた。
「(今、一瞬だが魔力が大きく減った気がした。気のせいか?)」
「そうか、それなら老い先短い老騎士が貴様の言う悪人を止められるか見せてもらおう」
三本の剣はリランドを取り囲むと三種の剣術で襲い掛かる。
一本はアルキミヤの優れた剣士が。
一本は東の国の卓越した武士が。
一本は北の豪然たる剣豪が。
一つ一つが一騎当千は容易いであろう剣術がリランドの命を絶たんと振るわれる。
しかしそれがどうした、相手が如何に優れた剣術であろうと所詮は真似事。幾ら筋力が落ちようと、寄る年波に負けようと、幾度となく磨かれてきた本物の剣には敵わない。
なけなしの魔力を剣に纏わせたリランドが咆哮をあげ剣を振るう。
一本を躱し樋から切り捨て。
一本をいなし切っ先を両断し。
一本を真正面から叩き潰した。
三本の剣はただの魔力となり霧散し、魔力を使い切ったのか全身で息を切らすリランドにヴァイスは呆然とし、グラオザームは初めて苦虫を嚙み潰したような表情を見せた。
「貴様……本当に何者だ……?」
「ただの……老いた鍛冶師だよ……元騎士のな……」
それを聞いたグラオザームはますます不快な顔をすると杖をリランドに向けた。
「もういい、貴様は華々しい騎士としてでも勇ましい鍛冶師としてでもなくただ一人の無力な老人としてつまらなく殺してやる」
リランドは剣を構えようとするがそのまま立っているだけがやっとで避ける事も出来なかった。
『地に堕ちた裁きの槍よ、闇を纏い、忌むべき敵人に無意味で空虚な死を与えよ!!』
ただ相手の命を奪うための、派手さも美しさもない機能のみを追求した死の魔術が唱えられた。
リランドが動けぬ体を必死に呼び起こそうとするが何もできず、リランドはグラオザームの魔術を睨むことしかできなかった。
「死ね!」
声をあげ魔術を行使した、リランドは死なず、ヴァイスはこの先起こるであろう悲惨な予想を外し、グラオザームは自身の魔術が不発したことに動揺を隠せなかった。
「な……に? 何が」
その時一瞬で冷静になったグラオザームは周囲の、それも屋敷全体の魔力がほとんど消え失せていた事に気づいた。その瞬間、ヴァイスを縛り付けていた魔術の鎖も魔力が無くなったのか消えてしまう。
「がっ……解放された……? 一体……」
思わず倒れこんだヴァイスの耳に今まで聞いたことのないような音が聞こえた。
ドドドドド
ドドドドド
酷くうるさく、近くで聞けば心臓を叩くような衝撃が鳴り響く。
その音が近づいてくる。
ヴァイスだけでなく、リランドも、グラオザームもその音に気づく。
グラオザームが音の方向を向く、その方向は
瞬間、グラオザームが音の正体に気づくより疾く分厚い腹を殴られ今度は自分が壁を瓦礫にした。
「オルドス……か?」
グラオザームを吹き飛ばした者をリランドが見ると、そこには先程吹き飛ばされたオルドスがいた。
ネルとリランドが作った両腕は所々が破損しており火花が飛び散っている、頭部は塗料が剥がれ素の色が剥き出しになり足は神経ケーブルが見えていた。
しかしそれよりも変わっているのは全身から異常な音が鳴り響き排熱の為なのか蒸気が噴き出している。
「あぁ、美味いとこだけ持ってってごめん」
「構わねぇが……なんでそんな音なってんだ……?」
「すぐに話すよ、その前にグラオザームを捕まえるからヴァイスを頼む」
「わ、わかった……後でぜってぇ教えろよ、ネルの譲ちゃんたちにもな!」
リランドがヴァイスを抱えその場を離れるとオルドスは吹き飛ばされたグラオザームの元へ動く。
「貴様……骨董品か? 一体私に何をした……」
「教えてどうする、お前に残された道は国に隠していたヴァイスと私財を公にされて牢獄に入れられるだけだ」
オルドスはグラオザームの胸ぐらを掴み上げるとその身を宙に浮かせる
「貴様の異音……そうか……魔力が枯渇したのは貴様のせいか……」
尚も口を開こうとするグラオザームを手放すと瓦礫に落下した衝撃で意識を手放した。
暫し動かずにいるとオルドスから響いていた異音は止み、蒸気も消えた。オルドスはグラオザームの杖を取り上げ拘束すると仲間の元に向かった。
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グラオザームはシェルム王国に突き出され様々な罪をヴァレット達に暴露された。二週間に及ぶ裁判の結果、辺境伯としての義務を怠り、違法に財を所持し古くから禁じられていた奴隷の烙印を傭兵であるヴァイスに施したとして忌むべき罪人として牢獄に入れられた。少なくとも生きているうちに出ることは叶わないだろう。
グラオザーム領は親族が彼以外におらず、また引き継ぐことの出来る者もいなかったため隣接された貴族が管理する事となった。
ヴァイスは傭兵証を取り返すことが出来、シェルム王国が抱える協会により烙印に施された魔力は消せたがその身に刻まれた焼印だけは残った、しかし彼女自身は過ぎたことと受け入れ、また傭兵として活動ができるようになった事を喜んだ。
そしてオルドス達は……
「いやぁ、正直あの館ぶっ壊しまくったし何か言われたらヤバイと思ったけど何も言われなくてよかったな!」
「そうね……グラオザームの悪事が相当国にとって衝撃的だったみたいだしうやむやになっちゃったわね」
「ヴァイスさんもまた傭兵として活動するんですよね? おめでとうございます」
「あぁ、本音を言うとまだ夢じゃないかと疑っている……ずっと家族と会えないかもしれないと思っていたからな……」
宿を借りヴァイスを招き入れ、小さな祝宴を開いていた。ヴァレットが用意した料理にネルもリランドも舌鼓を打っている。
「しかしグラオザームの野郎ぉ、相当上には信頼されていたみてぇだな。納税も規定通りに納めていて積極的に貴族同士の会合なんかにも参加して印象は上々だったらしいぜ」
「それだけに騙され、裏で不利益な相手を消していたという事に相当驚いていましたね」
「腹立たしいが奴はそれだけ優秀だったんだ、もしも真正面からお前たちが助けに来ず直接国に話しても信じてはくれなかったかもしれないな」
「えー? それってゴダート家の名前を出しても?」
ネルが呟くとヴァレットが予想を話す。
「恐らくは、隣国の一貴族でしかない私達がただグラオザームを訴えたとしても国への貢献と信頼が違うので良くて『ちょっと気になるから簡単な捜査だけしたけど何も見つからなかったから終わり。』だったかもしれません」
「あー止めだ止め! 病み上がりのジジイに難しい話はつれぇ! それよりさっさと教えてもらおうじゃねぇか、なぁオルドス!」
リランドがぐあー、と両腕をあげるとオルドスに注目を集めさせる。
「オメェのあの異音に蒸気…なんだったか教えてくれよ!」
「あぁ、そうだった……それじゃあ話すよ」
オルドスが椅子を正すと皆が静かになる。
「俺がグラオザームに吹き飛ばされた後、壁の先はあいつが貯めこんでた宝物庫だったんだ、すぐに戻ろうと思ったらその中に既視感のある腕輪があってな」
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「これは……リランドの持ってた首飾りと同じ模様だ……」
オルドスが手に取った腕輪、それについていた球体は不思議な模様が施されており淡い藍色に光っていた。オルドスがそれを弄ると球体は二つに割れメモリーカードが表れた。
「俺の……記憶の断片……」
今はそれどころじゃない、一刻も早くリランドの元へ戻らなければならないとわかっているはずなのにどうしてか記憶を求めずにはいられなかった。
メモリーカードを自らに差し込むと意識を手放し、誰かの夢を見た。
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そこは見事な屋敷だった、廊下には多くの使用人がせわしなく働いている。視点の主は自らより小さく美しい貴族のような衣装を纏う女性の後ろを歩いていた。
ふと女性が一室に入る、それに視点の主が続くとそこには黒いスーツを着たたくましい髭の生えた男が女性と視点の主の前に立っていた。
『■■■、エル、お前たちも──か』
『どうかしら、ブライド様。私達それらしく見えまして?』
『中々様になっているぞ? だが■■■は服に着られてるな』
『そうですの? 私は立派に見えますわよ?』
『ははっ、恋は盲目って言うからな』
髭の男が豪快に笑うがすぐにその表情は真剣になる。
『いいか、エル、■■■、お前たちはこれから何度も困難に見舞われ苦悩するだろう。だがお前たちは一人じゃない、自分たちだけで抱え込もうとせず助けてもらえ、声をあげればお前たちなら必ず誰かが助けてくれるさ』
ブライドと呼ばれた男の言葉に視点の主とエルと呼ばれた女性は頷くとブライドはすぐに笑顔になった。
『よぉし! この──が保証する! お前たちは──な──────』
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「それで目が覚めたら機能が増えた、稼働用の魔力を一気にフル稼働させて燃費と引き換えに全身の出力を一気に上げられるようになったんだ」
オルドスが語り終わると記憶への疑問、何故メモリーカードがあったのか、機能の解放……全員がそれぞれの理由で沈黙した。
「オルドスよ、だがあん時魔力が枯渇したのはなんでだ? 今言った機能と関係あるのか?」
「俺から大きな駆動音がしたろ、あれは出力を上げると同時に魔力を集めて燃料切れを防いでたんだよ」
「そいつぁ……魔術師にはとんでもなく有用かもしれねぇが…何時でも出来んのか?」
「微妙かな……稼働用の魔力を……ええと、折角だし名前をつけるか。……『オーバーロード』とかでいいかな、どう?いい?じゃあこれで。『オーバーロード』中じゃないとできないしあまりやりすぎると各部位に負担がかかりすぎて最悪自壊するかも」
それを聞いたネルが目を険しくさせると
「じゃあその『オーバーロード』は禁止! 使っちゃダメよ!」
「う……言われると思ったけど……わかったよ、基本使わない」
「基本じゃなくてもダメ!」
ネルに詰め寄られるオルドスが慌てているとヴァレットとヴァイスが口を開く。
「先程の話に出たブライドという男……どこかで聞いた覚えがします」
「どこかでって……何か手がかりでもあるの?」
「いえ……ブライドという名前自体は珍しくはありますが滅多に無い名前でもありませんし……しかし何か引っかかります」
「それにエルという女も気になるな、仮にその話が確実にオルドスの記憶だったとしたら恋人とか、かなり親しい相手だったのではないか?」
「恋人……」
その言葉にオルドスが俯く、もし本当に記憶の女性が恋人だとしたら……自分は記憶を無くし恋人の名前も忘れているという随分と酷い男ではないか?
「(……いや、待て……恋人? この世界のか……? そういえば見つかった記憶はこの世界の事で転生(?)前の記憶ではない。それに地球に関する言葉が未だない……もし、仮に、俺の生まれがこの世界だとしたら何故俺は)」
「だったらもっと記憶を探しましょう? エルって人が恋人にしろそうでなくてもきっと大切な人に変わりはないもの! 今も生きていても昔の記憶だとしても、それを知る権利がオルドスにはあるわ!」
ネルの言葉に引き戻される、オルドスは頭のもやを払うとネルに同意する。
「しかしよぉ、手がかりが名前だけじゃ探すにも探せねぇんじゃねぇか? ヴァレットが言うにはブライドもエルも珍しくねぇんだろ?」
「そうですね……エルは、この地域では聞きませんが何度か別人の同名の著者が書かれた本を読んだことがあります、そこまで珍しい名でもないかと」
ですが、とヴァレットが指を振ると
「一つ目の記憶の方はまだ手掛かりが残ってます、今度こそ鉱人族の元に行ってみましょう」
「あぁ……そうだったな! ごたごたしてて忘れてたぜ!」
リランドが立ち上がるとヴァイスも立ち上がる。
「私も同行して良いか?」
「ヴァイスもか?」
オルドスが聞くとヴァイスは頷いた。
「お前たちには随分と世話になった、幸い鉱人族についてはそれなりに交流があってな。お前の記憶を取り戻すのも手伝おう」
「それはありがたいですね、力強い銀狼族で、名の知れた傭兵のヴァイスさんがついてくれるとなると非常に心強いです」
ヴァレットが持ち上げるとヴァイスも悪くないのか
「これでも二年前までは有名な傭兵だったからな、銀狼族の誇りにかけて何があっても守って見せよう!」
「(あ、しっぽ揺れてる)」
「(すげぇ振ってんな)」
「(犬の尻尾って確か嬉しいと振るんだったか)」
「(嬉しそうですね)」
こうして銀狼の傭兵ヴァイスが同行する事になり祝宴は終わりを迎えた。
一方ゴダート家、
「旦那様、ローズ様とネル様からの伝書が届いています」
「お、渡してくれ」
「ローズ様はご壮健ですかね」
「ああ、学園での成績は上位を維持しているらしい。友達の話も出ているし元気にやっているようだ」
「良い事ですね、ネル様はどうでしょうか?」
「ふむ……おや、ヴァレットが代理で書いているじゃないか……………………」
「旦那様?」
「セバス……胃薬を持ってきてほしい」
「は……はい? わ、わかりました」
「一体……何があったらシェルム王国から我が家に褒章が送られる事になる……!? 一体何をしたんだネル……!!?」
グラオザームの裁判中、ゴダート家の名前が出た為ゴダート家がシェルム王国からの褒章を送られることになり嬉しさよりも先に不安が勝りロビンの好物が胃薬になった。