ドラえもん~ハルウララ育成記~   作:稗田之蛙

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side:Player(前編)

 

『――キングヘイローがまとめて撫で切った! 恐ろしい末脚! ついにG1に手が届きました!』

 

 ハルウララ達は昼食後に『タイムテレビ』というあらゆる場所の過去や未来を映し出すひみつ道具の画面を、食い入るように覗き込んでいた。

 映し出されているのは《高松宮記念》というG1レースのゴール場面。バ群の後方で走っていたはずのキングヘイローが、最終直線を凄まじい速さで駆け抜けて先頭集団を一気に追い抜いていく光景がそこにある。

「おーっほっほっほ! これこそが私の実力!! ……どう? のび太さんの記憶にもキングの名は刻み込まれたかしら?」

 得意げに胸を張る彼女の姿。何故かスネ夫が自慢している場面が思い起こされるが、それでもドラえもんものび太も「こんなに凄い女の子だったなんて……」と呆気に取られ、ウララはその映像をみてキラキラと目を輝かせている。

「キングちゃんってやっぱりすごいや!!! あ、あとねあとね。キングちゃんクラシック三大レースっていうのにも出たんだよ! えぇっと、たしか日本ダービーの日付は……」

「そ、それは置いておくとして、ウララさんのレースを見ましょうか」

 日本ダービーの話題になった途端、キングヘイローが何故か露骨に話題を変えた。三人ともその理由がよく分からないが、拒む話題でもないので静かに頷いた。

 

『――最後方、ぽつんとひとりハルウララ』

 

 レースの場面は《逃げ》作戦を実行した際のハルウララ。中盤局面で力尽き、追い抜かれる光景が映し出されている。

「のび太さん。ウマ娘のレースにおいて逃げ作戦の利点は分かる?」

「えぇっと……」

 ――そんな専門的な事、小学生のボクにわかるはずがない!!

 とはいえハルウララがキラキラと期待するような眼差しで見つめてくるから「わかんない」と言うのもはばかられる。

「強そうなやつと競うのを避けられる……?」

 語感からなんとなしに想像して回答を述べる。それが案外的外れでなかったのか、キングは機嫌のよさそうな態度で言葉を返した。

「競り合いになるのを嫌う子もいるから、そういう場合もあるけど。逃げ作戦の大きな利点はレースの主導権を握れる事。一番良い位置で走れるし、後続の子達も離されすぎないようにある程度のペースで追わざるを得なくなる。3000メートル近い長距離で逃げ作戦をやりのけて他者のスタミナを食い潰した化け物のような子もいるわ」

 食堂の方から「パクパクですわ!!」とか誰かさんの声が聞こえてきた気がしたが、それは気にしないでおくとして。

 キングヘイローはタイムテレビの時間指定を数十秒前に操作しながら解説を続ける。

「ただ欠点もある。このウララさんが走ってた時みたいに、他に同じ逃げ作戦を取るような子がいたら先頭を取る為の競り合いになる。そうするとどっちかが先頭を譲るか、あるいは……」

 ウララと競り合ったウマ娘はウララほどではないが、スタミナ切れを起こして結局先行策を取ったウマ娘に捉えられ負けていた。

「こういう風に潰し合う結果になる」

「はえー……先頭を走るのに必死でこういう事考えてなかったや……」

 ハルウララはキングの話を聞いて感心した素振りで目をキラキラと輝かせている。その態度に喜ぶべきか、嘆くべきか、キングヘイローは微妙な笑顔。

「ウララさんが今度出るレースでは逃げ作戦はおすすめしないわ。やったら最後、逃げ対抗が出た時点で終わりと思っていい」

 そういう状況で勝ち切るウマ娘も居るには居るが、今のハルウララにそれは無謀だ。

 キングヘイローはまた時間指定を変え、今度は模擬戦の様子を映し出す。

「……これ。1200mダートの模擬レース。ウララさんが一番成績良かったやつ」

 ゴール場面でスタミナ切れを起こしてない。それどころかちゃんと一着争いに加われている。

「居合わせた子の大半は格上よ。模擬レースだから全力を出してない子もいるかもしれないけれど、実戦でも通用する走り方である事は変わりない」

 ウララは自分が一着争いに加われた理由をまるで分かっていないようで、きょとんとした表情で小首を傾げている。

 その様子にキングヘイローは溜め息をつく。

「――この時みたいに、自分のぺースを保って《差し》で走るべきよ」

 

 差し。要は後方から虎視眈々と機会を窺って、終盤辺りで一気に本気を出して他の選手を追い抜く作戦。

 逃げ作戦と対極に位置するような作戦だが、ある程度自分のペースを保って走れる分、スタミナは温存出来る。

 そして要求される能力は末脚――つまり脚力のパワー。先手を譲っている分、最終局面でそれを取り返す為の加速力が重要視される。

 

「ウララさんがダートでトレーニングし続けてきた脚は、その能力を十二分に満たしてる」

 それがハルウララの事を見守ってきたキングヘイローというウマ娘の結論だった。

 ハルウララはキングの言葉目を白黒とさせてから、照れくさそうに頬を掻いて笑う。

「そっか…………わたし、勝てるんだ……えへへ、じゃあ。さっき見たキングちゃんのように勝てるように頑張るね!!」

「えぇ、私と一緒に訓練した日々を思い返すのよ! おーっほっほっほ!!」

 キングヘイローはその言葉に気取った素振りで高笑いしてみせた。

 ……だが、彼女の胸にハッキリとした懸念もある。キングは次に「宗石トレーナーが帰ってこない様子だから呼んできてほしい」とハルウララに言い、彼女もそれを快諾して宗石小春を探しに行く。

「さて……」

 ハルウララがその場を去った事を確認すると、キングヘイローはまたタイムテレビの時間指定を弄ってのび太とドラえもんにそれを見せる。

 

『どうしたハルウララ! 最終コーナーを回って好位置から失速! 念願初勝利離れる! 離れる!! 食らいつく先頭は――』

 

「……これは、未勝利戦?」

 画面を覗き込むのび太とドラえもんに対して、キングヘイローは険しい顔つきで告げる。

「――敗因は最終直線での失速。差しにとって致命的な症状。この癖が残ったままだと、どうあがいてもハルウララさんは絶対に勝てないわ」

 この癖は宗石トレーナーだって早い段階で気がついているはず。それなのに治っていないのはきっと根深い原因だ。

「……全力を出して負けるなら、宗石トレーナーも私も……彼女を応援してる皆だって諦めがつく。でも、何か他の要因で全力が出せずに、負け続けた記錄だけが残るだなんて悔やんでも悔やみきれないわ」

 その言葉に、のび太の胸がギクリと疼いた。秋川理事長に言った「別れるにしてもせめて、ちゃんと自分が立派なところを。『ドラえもんがいなくてもちゃんと出来るんだぞ!』って見せてからじゃないと……」という言葉が脳裏に浮かぶ。

 そういう事もあってのび太はキングヘイローにおそるおそる尋ねた。

「その、失速しちゃう癖の原因って……」

「たぶん体質的なものじゃない。精神的なものよ」

 それ以上はキングヘイローに断言出来るものがない。思い当たる事はあるが、それも憶測の域だ。

 

「………………」

 ――お願い。ウララさんの症状を治せるひみつ道具を出して。

 キングヘイローはそういう言葉が喉まで出かかって、ワナワナと震える。

 全力で勝負する為であって卑怯な事ではないと自分に言い聞かせはすれど、それで己を騙すのは容易い事ではない。

 しかし、それでもキングヘイローは自分の考えを抑え込み、ハルウララの為にもと口を開こうとする。

 そうやって覚悟を決めた矢先の事だった。

「よぉし! そういう事ならばこれで解決だ!」

 ドラえもんはお腹につけているポケットに腕を突っ込んで、何かを取り出した

 

 

「『正直太郎』~~っ!!」 ぱっぱらー♪

 

 

 ……以前の事件で捕らえそこねていた『ムードもりあげ楽団』がひみつ道具を取り出すのに合わせてファンファーレを鳴らした。

 

 

 ドラえもんはムードもりあげ楽団を自分のポケットに無理矢理押し込みつつ、ドラえもんの代わりに腹話術人形らしき物体をキングへ披露するのび太。

「これはお人形……?」

「これは、正直太郎と言ってね。持った人の――」

 のび太がキングヘイローに説明している最中、正直太郎と称されたお人形が喋り始めた。

『キングったら自分を自慢する時は得意げになっちゃうんだから。やっぱりスネ夫みたいだ』

 のび太もキングヘイローも虚を衝かれたような顔でぎょっとする。そして、歯を食いしばってワナワナと震えるキングヘイロー。

「……のび太さん?」

「ち、ちがう。ちがうんだ。ボクじゃなくてこの人形が」

 今すぐにでもまた喧嘩になりそうな雰囲気になりかけたが、正直太郎は構わずに喋り続けた。

『けど、やっぱり凄い女の子だ。他の子も速かったのに、そんな子全員を追い抜いちゃうだなんて……』

 鋭い眼光を発動していたキングヘイローだったが、この言葉に思わず視線を逸してしまい怒りのやり場を失する。

『それにウララちゃんの事をいつも気遣ってくれて、強気に振る舞ってるけど、まるで優しいお姉さ――』

「もういい! わかった! わかったわよ!!! どういう道具かよくわかったから!!!!」

 正直太郎の口を力ずくで塞いでいるキングヘイロー。のび太も気恥ずかしいやら申し訳ないやら、あまりの力強さに人形がへし折られないか心配やらで苦笑い。

 

 正直太郎。持ち手の思った事を正直に話してしまうひみつ道具。

 

「のび太くんは以前から、ウララちゃんやトレーナーさんが打ち明けなければいけない事がある時に渡そうって決めてたんだ」

「ドラえもんと一緒に考えたんだよね」

「出来るだけ強力な道具を使わないようにって注文だったから、のび太くんの要望には困ったもんだよまったくっ」

 そういうドラえもんの顔に怒りの感情は浮かんでいない。むしろ誇らしげにしている。

「心の事が原因なら、これを上手く使えば聞き出せるかもしれない!」

 キングヘイローは呆気に取られた。この子はずっと前から考えていてくれていたのだと気づいて、少し悔しくなる。

 ――小学生の子なんかに……。

「さぁ、ウララさんに持っていってあげて! ボク達が学園の中をうろついてると不審がられるだろうし」

 キングヘイローは俯いたまま人形を受け取る。

 

『ありがとう。のび太さん。ドラさん』

 

 正直太郎の口からそういう言葉が漏れ出て、キングヘイローは二人から顔を背けながら学内へと走り去っていった。

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