石を蹴る蹄鉄の音が、戞々として静けさを破る。
尾と鬣(たてがみ)を、長く風になびかせながら、ひづめに火花を散らして、まっしぐらに狂奔する。やがて彼女は走るのをやめて、あたりを見まわす。
その眼は鋭く輝き、面は怒りと復讐に震えている。
そこは一面の土砂で、足跡にまみれた荒涼とした場所に一着を勝ち取った優駿がいた。その名はホネカワメイオー……――
「ちょっとまってよ」
空き地に集まって月刊トゥインクル新聞の1月号を読みながら、のび太はまた口を挟んだ。
「何? まだまだ話したい事があるんだけど。もしかしてホネカワメイオーの事忘れちゃった? 仕方ないなぁ、彼女はあの12月でウララちゃんとの激戦があってから人気急増してさ。スネ吉兄さんも彼女に付き添って取材に大忙しで……」
「いや、そうじゃなくて。なんでウララちゃんじゃなくてメイオーって子が一面飾ってるの?」
それを聞いて静香ちゃんは首を傾げた。スネ夫も困ったように眉間にシワを寄せる。
「あのねぇ、ウララちゃんは12月号で一面飾っただろ。今月はボク達ホネカワが活躍したって事さ!」
「その割にニュースで見かけなかったぜ?」
ジャイアンが小馬鹿にするような声が聞こえてきたが、スネ夫がメゲる様子はまったくない。
「へへへ、レースに勝ったのは本当だもんね!」
鼻高々とした顔つきのスネ夫。新聞の内容をよくよく見れば、オープンレースに勝利した事が書かれていた。
「おーぷんれーす?」
のび太がそう聞くと、彼は待っていましたと言わんばかりに語り出した。
「オープンレースっていうのはね。簡単にいえばすべてのウマ娘が出走できる競走っていうんだよ。個別で条件があったりするけど」
「じゃあ未勝利戦っつーのと同じじゃんか」
ジャイアンが不思議そうにいうが、対するスネ夫は指を立てて「チッチッ」と気取った風に舌打ちをする。そして勿体ぶるように語り始めた。
「メイクデビューや未勝利戦っていうのは、いわば新人やまだ勝利してないウマ娘を保護するような条件さ。なんなら1勝クラスや2勝クラスだって、同じように強いウマ娘が出場出来ないようにする組分けでもあるっ!」
要するに重賞に出てくるような強いウマ娘が出場してきてもなんらおかしくないレース。その中でメイオーは一着を獲ったのだという。
「そりゃすごい」
不思議そうな顔をしたまま、素直にそう褒めるジャイアン。スネ夫はそれが嬉しかったようで、得意げになって鼻息を鳴らしていた。
「えっへん! ホネカワメイオーはウララちゃんとの激闘を繰り広げた後、オープンレースで見事一着を取ったんだ! それが注目されて、いまや未来のスター候補生って事さ!」
12月のメイオー敗戦以来、のび太はひそかにスネ夫達の事が心配だったのだが、この様子だとメイオー共々立ち直ったようだ。
「そ、し、て、ただいま話題沸騰中のホネカワメイオーとこれから遊びに行く、っていう予定が入ってるんだけどー……君たちも一緒に遊びにいくかい?」
静香ちゃんもジャイアンもその話題については乗り気だった。のび太はハルウララやキングヘイロー以外にはあまり関心がなかったが、どうやらホネカワメイオーというウマ娘の世間的な人気もなかなからしい。
「そういう事ならボクもいってみようかなぁ」
のび太の言葉にスネ夫がまたまた嬉しそうな顔になる。
「悪いねのび太。これから行く場所は四人まで――」
「坊っちゃん。アタシをダチからかうネタにするのは勘弁してくれ」
スネ夫の言葉を遮る声。現れたのはホネカワメイオー。彼女は呆れたような苦笑を浮かべながら、狼狽するスネ夫に詰め寄った。
「ひぇ!? ち、違うんだ! ぼ、ぼくはそんなつもりじゃなくって!」
スネ夫が必死に弁明しようとすると、ホネカワメイオーは軽くため息をつく。
「のび太くんっ!」
そんなやり取りのさなか突然、誰かがのび太の名前を呼んだ。のび太は自分の名前が呼ばれた事に驚きながらも、声の方に振り返ると、そこには見知った顔があった。
「ウララちゃんっ! どうしてここに……」
「この眼鏡坊主がウチの坊っちゃんと知り合いだってウララに話したらよー。休日に案内してくれって」
商店街へショッピングに向かう道中、ホネカワメイオーはハルウララが空き地までやってきた理由をカラカラと笑いながら打ち明けていた。
当のハルウララは先ほどからニコニコと楽しげな表情を崩さず、のび太と手を繋ぐ形で歩いている。
のび太としては、可愛い女の子の方から自分を尋ねてきてくれた上に、仲良く手をつなげるなんてまたと無い機会。……嬉しくないわけがない!!
(……うぅ、嬉しい……嬉しいけど……静香ちゃんの視線が痛い……)
ハルウララはすっかりご機嫌だ。尻尾は左右に揺れているし、時折鼻歌も漏れてくる始末。
対して、ウララの手を握るのび太の顔色は優れない。理由は単純明快、静香ちゃんの存在が気にかかって仕方がないのだ。
これはのび太の自意識過剰なのだといいたいところなのだが。
「あ~あ、のび太ったら羨ましいよなぁ。可愛い女の子に手繋いでもらってよーおー?」
「そうだねぇ~、羨ましいよねー。静香ちゃんはどう思う~?」
スネ夫とジャイアンがわざとらしく囃し立てているのだから、のび太としては気が気でない。
「そうね、ウララさんと仲良しだったなんて。私ものび太さんがうらやましいわ」
静香ちゃんとしては『ウマ娘アイドルと友達だったなんて、のび太さんが羨ましい』と嫉妬ではなく羨望といった意味合いだったのだが、のび太はそれを深読みしてしまった。
(静香ちゃん……ごめんよぉ……)
彼女の心中を慮るあまり、のび太は冷や汗が止まらない。ウララの柔らかい手の感触を楽しむ余裕もなかった。
そんなのび太の内心など知る由もなく、ウララは上機嫌で鼻歌を歌う。
ふわふわした気分。まるで夢心地のように幸せな時間。ハルウララの心中はそんな楽しい気持ちだった。
「よう、ウララ。やたら上機嫌じゃねぇか。そんなにこの眼鏡坊主が好きかい?」
そんなゴキゲンな彼女とのび太をみて、メイオーはスネ夫達と同じような顔つきでハルウララに耳打ちする。
「うん。ウララ、のび太くんの事は好きだよ!」
ウララがあまりに真正直に答えるものだから、メイオーは逆に面を食らったような顔になる。横にいたのび太達や静香ちゃん、スネ夫にジャイアンも聞こえたのか。同じような顔に。
それからウララがのび太に出会った経緯や、彼が手伝ってくれた事などをメイオーに話す。
血が出るような怪我をしたらすぐに治療をしてくれた事。いつも色々なお料理をご馳走してくれた事。トレーナーや自分の体調が悪くならないように休むタイミングが正確に分かる道具をくれたし、トレーナーが言いたくても言えない事を伝えられるように協力してくれた。
他にも細かい事は色々あるが、思い出せばキリがないくらいに、この短期間でウララはのび太と一緒にいて楽しい思い出がある。それに、今でも鮮明に残っているものも多かった。
「それにね。それにね。初めて出会った時ね! のび太くん、ウララが練習してるところを『すごく速い』って褒めてくれてたんだ!! あんな事言われたのわたし初めてでとっても嬉しくて……」
ウララは満面の笑みをのび太へ向けながら思い出を語る。それはもう本当に幸せそうな笑顔だ。そんなウララの様子を見て、ぽかんとしている一同をよそにメイオーは苦笑いを浮かべた。
「あー、わかった。うん、わかった。それにしてもなぁウララ。色気づくのは良いことだが、惚れるにしたってこんな年下の小学生相手に……」
「ほれる?」
…………。
「アタシが勘違いしてただけかよ」
メイオーは気恥ずかしそうに顔をそらす。
のび太はというと、頭の中で思考が目まぐるしく駆け巡っている。
「えっ、ウララちゃんってボクより年上なの!!?」
「何を今更大声で」
トレセン学園に所属しているウマ娘は中学生以上。ハルウララも中学生以上。一部例外もあるが。
……いや、しかしだ。メイオーとしてはのび太の驚きも分からなくもない。ハルウララが今着ている女児みたいな私服込みで、傍から見てこれが花盛の中学生とは思えぬ。しかも一般人込みでの知名度や人気ならばウマ娘界隈でもトップクラス。
「お前さんも人気者ならカレンチャン辺り見習ってちったぁ色気づけよ」
「?」
顰めッ面をするメイオーに対して、首を傾げるハルウララ。
源静香はのび太の浮いた話にほんの少し複雑な気持ちになりつつも、ハルウララが先に話した事を思い返した。
――ウララが血が出ちゃうような怪我をした時にね、のび太くんがすぐ治してくれたんだよ!
「ふふ、やっぱりのび太さんらしい」
「どうしたの静香ちゃん?」
「うぅん、なんでもない」
ちょっとだけ複雑な気持ちになりながらも……のび太の優しい一面を見て、静香は少し安堵したのであった。
今後も史実馬モデルをライバルに宛てるかどうか
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ウマ娘のネームドキャラ中心がいい
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史実モデル・ネームド両方ともバランスで
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史実モデル多めでもよい