商店街に辿り着いたのび太達はいきなり人だかりに取り囲まれていた。
「ウララちゃん! 根岸では頑張ったねぇ!」
「重賞で3着って凄いんだろ? あのウララちゃんがねぇ」
お魚屋さん、八百屋さん、スーパーの人にお洋服屋さん……そういったお店の店員さん達がハルウララの健闘を称える為に集まってきたのだ。ウララは驚きつつも、嬉しさのあまり耳をざわざわと震わせる。
「はわわ、みんなありがとう! わたしもすごく嬉しいよ!」
ハルウララがそれぞれと喜びを分かち合ってる内に、のび太達も一緒にもみくちゃにされている。
「おや、ウララちゃんのお友達かい? これおやつに持っていき」
「あ、ありがとうございます」
「ウマ娘のお姉ちゃんもおるんか。アンタもウララちゃんみたいに頑張んなよ!」
「アタシはオープン勝ったっつーの!!!」
メイオーの様子を見て苦笑いを浮かべるのび太達。少々不満そうに腕を組むスネ夫。
人だかりが出来ていたせいで、商店街に買い物に来ていた人も雪だるま方式でハルウララに一言声をかけに来る。
そうしてひとしきりもみくちゃにされてから、やっとの事で一息つく暇ができた。のび太は周囲を取り囲んでる人達を見て、少々おっかなびっくりとする。
「ウ、ウララちゃんって商店街の人にも人気なんだねぇ」
「うん! この人達の大半はね、私がレースで勝つ前から、ずっと応援してくれてて――」
そんな形でひとりひとり、ハルウララから彼らの紹介が始まった。こんなに大勢の人の名前を覚えているのも、彼女らしいといえば彼女らしい。
「――そして、この人はよくウララが手伝いに行く八百屋さん! ご褒美に美味しいにんじんくれるんだよ!」
「現役のウマ娘が八百屋の手伝いってなんだよ……」
とは言いつつも、美味しいにんじんと聞いて八百屋さんからの選別に目が行くメイオー。
そんな風に雑談を交えながら会話していると、ジャイアンの方から一同へ提案があった。
「なぁなぁ、ハルウララの歌ってる姿って見たくねーか?」
確かに。実物でもテレビ越しでも、ウイニングライブで見た彼女が歌う姿はのび太達の脳裏に焼き付いている。自分達と同じような年齢に見えるあどけない雰囲気にも関わらず、歌もダンスも上手い。
「うん、見たい!」
そう考えたのび太はジャイアンの提案に二つ返事で同意し、スネ夫や静香ちゃんも快く頷いた。
「メイオーさんやウララさんの歌声を聞けたら、私もステキだと思うわ」
「ふふん、ウチのウマ娘とどっちが上手いかなぁ」
そのように乗り気である。少しぽかんとした表情で顔を見合わせるメイオーとハルウララ。しかし、年下の子供達にそんな憧憬を向けられて二人とも悪い気分はしない。
そこからの話は簡単だ。商店街の一角にあるカラオケ屋に行こうという話になった。しかもその場に居合わせた店主のご好意で料金はタダ。曰く、ハルウララの重賞3着への祝いだという。
「アタシ、オープン勝ったのに……」
「なんだいなんだい、ウチのメイオーだって新聞載ったんだぞっ」
そんな風にメイオーとスネ夫ががしょげていると、そちらはそちらで店員がサプライズのケーキを部屋に持ってきてくれたので二人は機嫌を直してくれた。喜怒哀楽がはっきりしているから、ハルウララとは別方向で微笑ましくもある。
「えぇっと、じゃあはじめにウララがこの曲を歌うね! あんりみでっどいんぱくと、っと……」
まずハルウララが歌い始めた。曲名は《UNLIMITED IMPACT》。
『視界全部奪うような 打ち付けるスコールの中でも――』
メタリックなピアノとギターの演奏から始まりロックを感じさせるような曲だが、同時に歌詞には泥臭くも前向きな気持ちを感じられる。
『ぬかるんだ現状に足をとられて 陰鬱な空気が喉ふさいでも この声は絶やせないでしょう この足は止まらないでしょう いのちの限り』
普段はうららかなハルウララの姿と、歌声からクールな情緒を醸し出すハルウララのギャップにのび太達は聞き惚れた。
「ステキ……」
うっとりと聞き惚れる静香ちゃん。女の子なだけに、近しい年頃のアイドルが眼の前で歌ってくれているというだけで夢のようだった。
(静香ちゃんはどこかミーハーなところがあるからなぁ)
そう思うのび太も、正直彼女の歌声には息を呑んだ。それはもう感動した。歌が上手いというのもそうだが、この曲からハルウララの内面にある不屈の闘志を連想させられる。
メイオー推しのスネ夫や、ちょっと傲慢なジャイアンでさえも彼女の歌が終わると拍手喝采。特にジャイアンは思わず涙ぐんでしまうほどだった。
そんな風にみんなから褒められ、ハルウララも嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「今の歌はね。えっと、確かG1ダートを勝った時に歌う曲で……ウララはまだライブで歌った事はないんだけど、根岸と同じように三着までに入れば一着の人と一緒に歌えるんだ!」
「じゃあ、今度のフェブラリーステークスっていうレースでまた聞けるのね」
「あ、そういう事か! じゃあ、今日は予行演習なんだね!」
両手を合わせ嬉しそうにする源静香。のび太を筆頭に他のみんなも口々に期待の言葉をかけ、そんな様子にハルウララは満面の笑みを見せる。
その中でただ一人、メイオーだけは全く顔が笑ってなかった。
(…………夢多き小学生っていうのは、案外残酷なもんだな……)
メイオーがそう思った原因は先日、キングヘイローと話し合った事があるからだ。
「率直に聞く。アンタがフェブラリーステークスに出場したら勝てる見込みはあるか?」
キングヘイローはそう聞かれ、少し顔を歪める。キングヘイローは自分が勝利した高松宮記念の直前、フェブラリーステークスに出場した実績がある。
――13着。大観衆からの期待を一身に背負っての大敗。直後の高松宮記念勝利に比べて、芳しい結果とはいえなかった。
芝の足場に慣れ親しんだ彼女は、ダートの強者達に敵わない事を思い知らされた。
重賞勝利に意欲の強いメイオーの事だから、先駆者の苦い敗北はある程度知っているはずである。
この短い一ヶ月でお互いその程度の事が分かる間柄まで進んでいる。キングヘイローが何か言う前にメイオーが先に謝った。
「……ワリィ、アンタのそんな顔見たくて聞いたんじゃねぇよ」
「わかってるわ」
そんな謝罪に対し、キングヘイローはすぐに首を横に振った。そして王者として陰りを見せるわけにはいかないと、余裕をもって小さく笑う。
キングヘイローの態度にメイオーはガシガシと頭を掻いて、気を取り直すように言葉を発する。
「12月の試合でハルウララからアンタの走りを感じた。なんつーか、驚異的な差し脚っつーか……電撃……いや、煌めき……?」
遠回しに自分を褒めている形に聞こえ、また違う形でキングヘイローの表情が少し歪んだ。
「ウララさんとは一緒にトレーニングしている期間が長かったから。トレーナーさんが休んでいる間は、プランニングを編んであげようとした事もあったけど……」
「ハハハ、お得意の一流プランニングか? ありゃあ、ついてける時点でだいぶ……」
ともあれそこは話の本筋から外れるからお互いほどほどに言葉を切り上げ。メイオーは片手に持っていたスマートフォンで天気予報アプリを立ち上げる。西崎トレーナーが使っていたアプリと同じものだ。
「フェブラリーステークスの日程は晴天ナリ。晴天ナリ。……ハルウララは良バ場での戦績は正直なところどんくらいだ?」
キングヘイローに対して、メイオーは大真面目な顔で尋ねた。
「悪くない。重バ場の時はもっと良いけれど」
「フェブラリーステークスに出てくる予定のサンフォードシチーとノボトゥルーの戦績知ってるか?」
「…………」
稲麟号サンフォンドシチー。
次代のダート帝王候補と期待されるウマ娘。重賞掲示板入り常連かつG1《ジャパンダートダービー》で2着の結果を残した猛者で、1着を取った経験は多い。
その中の武蔵野ステークスでは、重賞三つを勝ち取っていたアグネスデジタルをくだした。
そんなたいそうなウマ娘だから、キングも噂は耳にしている。
「サンフォンドシチーは不良バ場でも良バ場でも結果を残す優等生タイプ。博打みたいな走り方もしねぇ。こりゃ引退間際まで掲示板に絡んでくるようなヤツだ」
「じゃあサンフォンドシチーがフェブラリーステークスで警戒すべき相手?」
「……いや、そいつに勝ったノボトゥルーの方だ」
メイオーは言い切ってから、スマートフォンの画面をキングヘイローに見せつけた。映っていたのはノボトゥルーのレース成績。
成績はサンフォンドシチーやアグネスデジタルほど鮮烈なものではない。しかし根岸ステークス以前で一着を取ったのはすべて良バ場……。
「こいつは道悪が得意ってヤツじゃねぇ。むしろ天気良いほどゴキゲンなヤツだぜ」
「…………」
キングヘイローはここで嫌な事を思い出さなければならなかった。そう、フェブラリーステークスに出た時の事。
――確か私が出場した時、一着を取った子が叩き出したタイムは『1分35秒』。
レース場やバ場の状態によって安易に一緒くたには出来ないが、それでもダート1600mとしてはかなり速い方だ。一着を取れたのも納得のいくタイムである。
それを踏まえた上で、キングヘイローはメイオーに対してこう尋ねた。
「ノボトゥルーっていう子が以前のダート1600mで出したタイムは?」
メイオーは重々しくキングヘイローの言葉に答えを返した。
「1分35秒」
正直なところ、そんな一着候補が相手だというのに今のハルウララに出来る事はレースの為に調子を整える為に休日を楽しむ事だけである。
そんな彼女達に対して「ハルウララはノボトゥルーには勝てない」なんて、キングヘイローが水を挿せるだろうか。いや、西崎や宗石、ハルウララを取り囲む周囲の優しい人間達やウマ娘達のみんながそうだ。
――………………。
メイオーの内心に苦々しいものが満ちる。それはただ負けて惨めな想いをするであろうウララに対する複雑な感情だった。
「ウララ、お前フェブラリーステークス辞退する気ねぇか」
ウララが少年少女達にフェブラリーステークスで良い結果を残す事を宣言している手前で、メイオーはそんな言葉をポッと出した。
「な、なにをいっているんだよメイオー! ウララちゃんが頑張ろうとしているのに酷いじゃないか!!」
のび太もスネ夫も、驚いた顔で一緒になってそんな事を言う。ジャイアンという男の子は次に歌おうとしていたマイクを落とし、静香とかいう女の子も困惑した表情を浮かべる。
――あぁ、酷いよな。やっぱ最低だよなアタシ。
これでハルウララと少年少女達に嫌われてしまったとメイオーは後悔する。
だが、ハルウララの目の前に立ちはだかった陰鬱な空気を誰かが明かしてやらねばならない。
それを諭すのはG1勝利者のキングヘイローか? 実績のある西崎トレーナーか? 野比のび太という冴えない少年か? ドラえもんという未来からきたロボットか? それとも宗石か? アリスブルーか? ノボトゥルー? サンフォンドシチー?
……そんな汚れ仕事を彼らのいずれかが引っ被らねばならない道理は?
否。その役割は粗忽者の自分が引き受けるべきものなのだとメイオーは理解した。
だから……ここでハッキリと言うべきだろう。
「G1のフェブラリーステークスは今のテメェじゃ勝てねぇ。今度は3着にも入れるかどうか怪しい」
ウララはその言葉に、ようやくびっくりしたような表情をする。そして、のび太は慌てふためきながら「何で!? そんなのおかしい!! ウララちゃんだって勝つって言っているんだぞ!!」と、叫ぶ。
それに追従するように「そうだそうだ!」とジャイアンやスネ夫も大声をあげた。しかし、そんな三人の反応すらメイオーは予想していたようで冷静に首を横に振る。
「いいか、ハルウララの実績から考えていきなりG1に挑むなんて分不相応だ。出走資格があるとか関係なく、落ちこぼれ風情が弁えやがれって言ってんだ!」
わざと刺々しい言い方をするのは、ハルウララに別の道があったからだ。
つまりはノボトゥルーやサンフォンドシチーとの対戦を回避して、またG3に挑む道。
重バ場ならその二人に善戦もしたのだから、G3なら一着を取れる可能性は大いにある。そこで勝てば見事に名バの仲間入り。ハルウララの重賞勝利への道はそこで完結。
だがG1となると全員が彼女達と同格に等しい強者達がひしめき合っているのだ。
勝利する経験を積まずしてその化け物達相手にG1の一着を取るなど、ハルウララというウマ娘にとってはパラレルワールドですら起きないであろう夢物語。メイオーはそう判断した。
――理詰めで考えりゃアタシの考えは何も間違っちゃいねぇだろう。これでいい。
これでハルウララにもG3の道を目指す選択肢が見えてくるはず。そう思っていた矢先だった。
ウララがいつものように微笑んでいる事にメイオーは気づいた。しかもそれはいつもの見せてくるほわ~んとした笑み。
「何笑ってんだ」
「ふふふ。だって、キングちゃんが言ってた通りだもん」
――何を。
メイオー含めた周囲の者達が、皆同様にそんな事を言いたげな顔をする。
「えっとね。メイオーちゃんが『フェブラリーステークスに出るのをやめろ』って言ってくるかもしれないけれど、『それはウララさんに別のレースに出る事を提案したいだけだろうから責めないであげて』って!」
メイオーの背中がビクッと震える。まさか自分のやる事を読まれるとは思っていなかった。
――オイオイ、あいつの『大局観』ってあだ名はそういう意味じゃねぇだろ……。
何はともあれ、自分の心遣いが余計なお節介に思えてきてメイオーはため息を吐いた。
「メイオーちゃん。ありがとう!」
「がはっ!!?」
ため息をついている最中に咳き込みかけて、変な呼吸が出た。メイオーの耳と尻尾がピンと立ち、目を見開いてウララを見る。
「フェブラリーステークスの事、心配してくれてたんだよね。すごく強い対戦相手がいっぱいいるG1じゃなくて、勝てそうだったG3に出た方がいいんじゃないか、って」
まるで自分の心の中を覗かれているかのような感覚。キングヘイローの入れ知恵かハルウララの当てずっぽうかはわからぬが、どちらにしてもメイオーは呼吸を整えながら必死に否定した。
「……ちげぇよバカッ!! マジで分不相応だからオープンやG3で経験積めって事だよ!!」
「あれ、それってキングちゃんやウララと言ってる事と同じじゃ……」
「ちげぇ!!」
そんなやり取りを見てのび太達はメイオーの思惑を理解したのか、全身から力が抜けたように席に体を預ける。
「はぁ~、よかった。メイオーったら突然そんな事言い出すんだもん……」
のび太とスネ夫はホッと胸を撫で下ろし、ジャイアンも腕を組んで納得したような顔を浮かべていた。
「オレ達だってのび太が高校生がやるような試験に挑戦しようとしてたら、他のに挑戦しろっていうもんな」
「のび太なら小学一年生のテストでちょうどいいんじゃないの~?」
「いえてるぜ。幼稚園児のお遊戯なら一等賞取れるかもなぁ」
ジャイアンとスネ夫はそんな風に笑い合う。のび太の怒りの矛先はメイオーからその二人へ。いつも通りの光景になってウフフと笑う源静香。
「でも、のび太さんがそんな事に挑戦するなら私は応援すると思うわ。もちろん、手伝いだってしてあげられる」
「ドラえもんの道具使ってズルしないようにオレ達で監視しなきゃな!」
「ホントホント」
「そんなぁ」
「ふふふ……」
これまたいつも通りのやり取り。ウララも皆に釣られて笑っていた。
――ったく、どいつもこいつもお人好しめ。
メイオーはそう思いながらも、そんなお人好し達に丸め込まれたのだから何も言えない。
ウララはひとしきり笑うと、少しばかり凛々しく取り繕った笑みでメイオーに向き直る。
「あんりみでっどいんぱくと!」
「?」
「歌の歌詞にある通り、『逆境なくらいで 絶望だとかマイナス先入観は似合わない! 劣勢ならあとは攻めるだけこの夢は揺らがないでしょう!』」
「あぁ……つまりは、玉砕覚悟で奴らに挑戦してみるわけか」
「うん! それでね、ウララは決めたの。あの日メイオーちゃんやアリスさんと一緒に見た夢を、ウララは叶えたい!」
12月のレースの事を持ち出され、メイオーは呆れたように頭を掻きむしり、ため息を吐いた。
あの日誓ったのは自分たちがいつかそれぞれの目標を成就するという夢物語。それに……。
『――もう一度、うぅん、何度でもメイオーちゃんと走りたい! だから、お友達になりたい!!』
――これ以上、アタシから何か言う方が無粋だろうな……。
「……そうかい」
メイオーはそれだけ呟いて、顔を伏せた。ハルウララの決意を聞いて、何故か涙が溢れてきた。
ハルウララは首を傾げるが、のび太は年上の子が泣いてるのに気づいてあわあわと慌て始める。
「ウララさん。おしぼり取ってきてもらえる?」
「うん。分かったよ!」
静香にそういわれて、快くおしぼりが置いてあるドリンクコーナーの方まで歩いていく。
ハルウララが去ってからメイオーの背中を撫で、慰めるスネ夫。
「ウララちゃんと同じレースに出走出来る日はまだ遠そうだね」
「……坊っちゃん。だからアタシは重賞出る為に必死でレース勝ってんだよ……」
メイオーは、自分に焦点を合わせた問題をハルウララが居ない内にここで吐露した。
「……なのにあいつと同じところまで追いつける気が、しねぇ……」
G3はオープンを勝ったウマ娘ならばそう遠くはない。しかしG1レースに出場出来る権利があるのは本当に一握りのウマ娘だけ。
ハルウララというウマ娘は、既にそんな領域にいる。今のメイオーが手が届かないところまで。
メイオーにはそれが、途方もなく遠い距離に思えた。そしてそれがどんなものか。彼女はこんな日常でさえそれを思い知らされたのであった。
「よし、きめた!」
「どうしたのジャイアン」
メイオーの様子を見て、ケツイを抱いたジャイアン。それを見て不思議そうにするのび太。
「オレがここで一発、メイオーに魂の応援歌を捧げる!!!」
のび太とスネ夫と静香の三人がジャイアンの凶行にざわついた。なんでざわついているか理解出来ず、泣きはらした顔をあげるメイオー。
「だからカラオケって時点で嫌な予感はしてたんだよぉ!!」
「嫌な予感ってなんだよってんだよ!?」
のび太達のざわつきも無視してジャイアンは立ち上がってマイクを天高く突き上げた。やる気満々。
(じょ、じょ、じょ、冗談じゃない!! ジャイアンの歌なんて聞いたらメイオーもウララちゃんも絶不調になるぞ!!)
汗まみれになりながら、この最大級の苦難にどうやって立ち向かうか考え始める三人。
「そ、そろそろゴールデンタイムだし他のお客様の為にボク達は帰った方が……」
「もう一曲歌ってもバチあたんねぇだろ! それにメイオーが泣きはらしてる顔のまま帰していいのか!?」
「わ、私。ウララさんが戻ってこないから様子を見に行……」
「うっらら~♪ おしぼりもってきたよー」
*何という悪夢だ!
「さぁ、メイオー。オレ様の歌声に酔いしれやがれぇ!!!」
「お、おう……?」
ハルウララから顔をそむけながらおしぼりで顔を拭いて、ようやく涙を止めるメイオー。
準備万端。スネ夫も静香ちゃんも覚悟を決めて眼を固く瞑り、歯を食いしばる。
のび太は「何かないか! 何かないか!」と隠し持っていたスペアポケットをしっちゃかめっちゃかにかき混ぜる。
『おそだアメーーー!!!』
ようやく目的の道具を手にしたのび太の絶叫がマイクに乗る。皆がびっくりしている間に、そそくさとジャイアンに近づいておそだアメなるものを差し出した。
「ジャ、ジャイアン。これのど飴。食べたら声の通りがよくなるよ!」
「おう! 気が利くじゃねぇか!」
のび太の心遣いを感謝し、そのアメを数個ほど口に含むとバリバリと景気よく食べるジャイアン。
(のど飴って舐めねぇとあんまり効果ねぇんだが……)
そんな風に眺めていたメイオー。カラオケの機会から曲が流れ始めると、ジャイアンは歌い始めた。
『――――――』
全くの無音。おかしい。機械の故障だろうか?
首を傾げるハルウララとメイオー。その様子に気が付かず気持ちよく歌い続けるジャイアン。
機械から流れる曲のメロディが終わると、涙ながらに安堵の表情を浮かべて一斉に拍手喝采を向けるのび太達。
「い、いやぁ。すばらしい歌声だったよジャイアン!!!!」
「ほ、ほんとほんと」
「ウララさんに負けてないほどステキだったわ……」
「――――」
どういう事だか分からない。メイオーは彼らに説明を求めようとしたが、それを遮る形でのび太がメイオーとウララの手を取った。
「さ、さぁ。早くここを出よう。さもないと恐ろしい事が起きちゃうから!!」
「……あ、あぁ。うん」
来た時と比べて情緒がない。が、それをいちいち指摘しているとなんだか大変な事に巻き込まれる気がする。
メイオーは深くは問わず、彼らの言う通りその場から退散する事にした。
数十分後。
「キョウモヒャクテントッチャウモンニ!」
カラオケ部屋にやってきた常連客のトウカイテイオー。
普段は一人カラオケで来ているのだが、今日はどうやらマックイーンも一緒に来ている様子。
「はぁ、どうしてテイオーと一緒にカラオケへきたのかしら……」
「とかいって。結構乗り気だったじゃん?」
「……否定はしませんわ」
様々な苦難を経てお互いの使命を全うした《名優マックイーン》。《不死鳥トウカイテイオー》。
西崎トレーナーの元、数多のレースで彼女達が活躍してきた事はここでは語るまでもあるまい。
そんな事があってから、たまにこうやって一緒に遊びに行く事がある。正直にいって、仲は良い方だ。
「だけど、レースでもカラオケ対決でもボクは負けないよ!」
「その挑戦、謹んでお受け致します」
こういう風に良きライバルを互いに意識し合う関係でもある。
そうして二人が手にマイクを取ったその時――
『おれはジャイアン ガキ大将ーー!!!』
耳をつんざくような大音量で流れ出す。
「ギャァァァー!?!!!」
「!?!?!?!?!?!?」
あまりの大音響に二人は思わずその場で尻もちをついて、耳を塞ぐ。
壁にヒビが入り、機械にはノイズが混じる。屋根裏に潜んでいたネズミが一目散に退散し、近隣でミィちゃんとデートしていたドラえもんが「ネズミこわーい!!」と泣き叫ぶ。
2分間に及ぶこの不協和音に、二人の少女は悶絶して床に倒れ伏す。
そして――ジャイアンリサイタルが終わり、再び静寂が訪れる。
未だに頭を抱えながら、トウカイテイオーはよろめきながら立ち上がる。
一方、メジロマックイーンはピクリとも動かない。
怪奇現象がおさまって、トウカイテイオーはおそるおそる相方の安否をうかがう。
「……ま、まっくいーん。ダイジョウブ?」
「……最強のウマ娘の座にいつづけなくては……そこでテイオーを待つんです……ずっと楽しみに……」
うわごとを漏らし始めるマックイーン。だめだ。なんか走馬灯に入っている。
「なのに……動かない……動かせない……もう、走れないの……あなたとの約束は……果たせないの……」
「マックイーン!!!!! もう足治ってるよ!! ダイジョウブだよ!!!! 既にその約束果たしたよッッ!!?」
「奇跡でも起きない限り、元のように駆けることは叶わない……あなたと、一緒……」
「マックイィィーン!!!!!!」
膝から崩れ落ちるテイオー。こんな事でマックイーンを失うとは思っていなかった彼女は、マックイーンの傍でワンワンと大声をあげて泣いた。
『おそだアメ』
食べた人の声が10分間遅れて聞こえるひみつ道具。食べた個数によって遅れてくる時間も増える。
なお、偶然隣の個室でドリンクを混ぜ合わせて遊んでいたゴールドシップが、マックイーンに大量の甘味を与えたら正気に戻った。
トウカイテイオーのやる気が下がった。
トウカイテイオーは『不眠症』になった。
マックイーンの体力が30回復した。
マックイーンは『太り気味』になった。
ゴールドシップのやる気が上がった。
ゴールドシップは『超遊び癖』になった。
今後も史実馬モデルをライバルに宛てるかどうか
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ウマ娘のネームドキャラ中心がいい
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史実モデル・ネームド両方ともバランスで
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史実モデル多めでもよい