はじまりは『もしも』から
草原には青空と白雲が広がり、野が果てしなく、情に任せた馬が走っていた。
このファームは広大な牧場面積を有し、その中で競走馬となるサラブレッド達がのびのびと豊かに暮らしている。
その中には、数ある重賞を制した馬や、ダービーを制した馬もいるのだ。
その一匹に栗毛の美しい牝馬がいた。その馬の名前はホネカワメイオー……
「ちょっとまってよ」
話を聞いていたのび太が口をはさんだ。
「何? まだ続きがあるんだけど。ホネカワメイオーをご存知ない? 仕方がないなあ、僕が説明するね。ホネカワメイオーは、ボクの従兄弟が馬主になったサラブレッドで……」
「いやそうじゃなくて。女なのにホネカワメイオーっていう名前なの? まるで男の名前みたいで」
それを隣で聞いていた静香ちゃんもクスリと笑う。のび太の無知さ加減にやれやれと顔を顰めるスネ夫。
「あのねぇ。競走馬の名前なんてそういうもんなの。エアグルーヴ、ウオッカ。知ってる? 知らないだろ」
エアグルーヴ? ウォッカ? のび太にはどちらも聞いたことのない名前だった。そんな様子ののび太をみてスネ夫は得意げに続ける。
「ふふん、ホネカワメイオーはね。そんな偉大な馬達の親戚なんだ。つまり将来を約束されたエリート中のエリート。その名の通り美しい
「まぁ、スネ夫さんったら」
「でも確かにかっこいいよな。サラブレッドって。きっとすごい速いんだろうぜ!」
スネ夫の自慢話もそこそこに、ジャイアンも感心したように言った。
「ふふふ、それでね。馬主のスネ吉兄さんが牧場に遊びに来いって誘ってくれたんだ。おとなしい馬だから乗馬だって出来るよ! でーもー、一人で行くのもなんだから、ぜひ理解ある君たちに……」
「馬に乗せてくれるの? 行ってみたいなぁ」
のび太の言葉にスネ夫が嬉しそうな顔になる。
「悪いねのび太。スネ吉兄さんの車は四人乗りなんだ」
「ドラえもーーーーん!!!!」
「いつもの事だからわかってただろうに」
のび太が家に帰ってくるなり泣きついてきて経緯を説明する。呆れたような声でなだめるドラえもん。
「僕だけ置いてきぼりだよ~! ひどいよぉ!」
「落ち着いてよのび太くん。運動神経が悪いキミが乗馬したって、振り落とされて頭打っちゃうのがオチだ」
「うぅっ、それはそうだけど……」
しょんぼりとするのび太。しかしすぐに何か思いついたようで、 目を輝かせながら勢いよく顔を上げる。
ドラえもんからしてみれば彼の考えは手に取るように分かる。どうせまたしょうもない思いつきなんだろう。
「今すぐ馬を手に入れる道具出してぇ」
「ない」
一刀両断である。のび太は絶望的な表情を浮かべた。ドラえもんはそれをみてため息をつく。
「あのねぇ、生き物を飼うのだって簡単じゃないんだ。キミもピー助を飼った時にそれは重々理解したと思っていたんだけど……」
そう、のび太はドラえもんの協力を得て恐竜(フタバスズキリュウ)のピー助を飼った事があるのだが、結局は自分の家で飼えないほど大きくなり、本来あるべき白亜紀に帰す事になった。
そこからまた大きなひと悶着あったのだが、今は割愛するとして……。
とにかく、馬を諦めさせる為にドラえもんはのび太を説得しなければならない。
ところがこの少年は、ドラえもんの想像を超えてしつこかった。
涙目になりながらも食い下がる。
「お願いだよぉ、ドラえもん~! なんでもするから~!」
「だめったらだめ。ボクはこれからミィちゃんとデートがあるから、この話はおしまい」
ドラえもんはそそくさとタケコプターを頭につけて、すがりつくのび太を押しのけて窓から飛び立ってしまう。
「あああっ、待ってぇ……!!」
そのままのび太を置き去りにして、ドラえもんは空の彼方へと消えてしまった。
「うわああん!! 見捨てられた~!!」
取り残されたのび太は、一人寂しく泣き崩れる。しばらく大げさに泣いてみせてから、彼もそそくさとドラえもんの寝床である押入れを開けて、そこにあるスペアポケットに手を突っ込んだ。そして目当てのひみつ道具を取り出すと、のび太はニタリと笑った。
「生き物を飼うのが簡単じゃないのは分かってるよ。でも、飼うんじゃなくて“馬自身”がある程度自分の世話を自分で出来るようになれば……」
ひみつ道具――もしもボックス。使い手の望んだパラレルワールドを創り出す、あるいは並行移動するこの道具によってのび太はもう一つの世界へと飛んだ。
「もしも競走馬が人間みたいに生活している世界だったら」
そこは彼が望むような、『競走馬が人間に飼われるような立場』ではなく人間と対等な関係にある……すなわちウマ娘の世界であった。
ドラえもん
のび太のウマ娘プリティーダービー ハルウララ育成記