《黄金世代》
外国からの挑戦者モンジュー。それを迎え討った日本総大将スペシャルウィークを筆頭に、この時期のレースを担った世代の者達を称える形でファンの者達からそう呼ばれている。
その中にはキングヘイローが含まれている事はここで語るまでもないだろう。
そんな彼女達と一緒に走りたい、あるいは勝ちたい。そんな想いを持ったウマ娘とトレーナーは熱気のような高揚感に包まれていた。
芝が盛り上がる一方でダート環境がそんな熱気に包まれていたかといえば、決してそうではなかったと言える。
「ダートは芝の格下」
ウマ娘に関わる者なら、たぶん誰しもがそんな言葉を一度くらいは聞いた事がある。
彼女達の走るレースに貴賤はない。皆がそんな綺麗事をいえど、一つの事実としてこの時期の芝・砂の観客動員数の比較数値は圧倒的であった。
芝を走るスペシャルウィーク達が黄金の輝きを放つ一方で、砂影の中に飲み込まれかけていた者達。
ウイングアローは黄金世代の一人に数えられながら、先行きの見えぬダートの環境に身をおいた一人だった。
そんな中で、芝の環境からキングヘイローがフェブラリーステークスというダート環境に挑戦を仕掛けてきたのだ。彼女の存在は、他の選手からすればまさに青天の霹靂とも言える存在。
長距離で活躍した母親とは違う道、その一流であろうと必死に藻掻いていた時期。砂をひっかぶっても構わないという泥臭い覚悟。
――結果はキングヘイローの惨敗。
しかしウイングアローにとって、彼女の姿は鮮烈に映った。
黄金世代の一人として持て囃される事に甘んじず、かといって自分達ダートで走る者達を見下すような事も決してない。「親の七光」と心無い言葉で嗤われても諦める事をせず、その堂々とした立ち振る舞いは彼女こそが『王者』と呼ばれるにふさわしいウマ娘だと実感させた。
(彼女は、きっと別の場所でG1に勝つ……)
その時のウイングアローの目に狂いはなかったのだと、その一ヶ月後の《高松宮記念》で証明される。
ウイングアローは、キングヘイローと再会してしみじみとその事を思い返していた。
「……なぁに。顔に何かついてる?」
対面の相手が食事中ずっとニコニコと笑いながらじっと顔を見つめてくるものだから、怪訝そうな顔をするキングヘイロー。
「相変わらず綺麗だなぁ、って」
そんな歯の浮くような台詞をさらりと言ってのける。キングヘイローはその言葉に照れるでもなく、怒るでもなく。
「当然よ。私はキングなのですから」
と、テレビで見せてくれるような自信満々な態度で返してくれた。その様子にウイングアローも嬉しそうに笑う。
ウイングアローにとって彼女は相変わらず鮮烈な印象を抱かせる相手であるし、キングヘイローにとっても彼女に悪い印象はなかった。
そんな関係だからか。フェブラリーステークスから一年ぶりでも、お互いの健闘を称え合った。
何気ない休日の一幕。二人とも気持ちが晴れやかな気分でお茶菓子を楽しみながら、その場で別れる。
(……案外、一人でも行ってみるものね)
そんな事を思いながら、帰路を歩いていると。
「ねずみこわーい!!!!!」
129.3kg、129.3馬力の物体――もといドラえもんが大声をあげてキングヘイローめがけて突進してきた。
まるで交通事故のように突っ込んできたドラえもんをキングヘイローは避けきれずに衝突。
キングヘイローはそのまま道端へと倒れ込む。
「い、たた……」
腰を押さえつつ、上体を起こすキングヘイロー。一方のドラえもんは、コンクリートの壁に衝突してようやく停止。
いくらか痛みにのたうち回った後、ハッとしたようにキングヘイローの方を心配そうに見た。
「ご、ごめんなさいキングさん!!」
「えぇ、いいわよ。怪我はしてな、いっ……」
一応怪我してないか確認すると――足や手にいくらか擦り傷ができていた。
それを視認した瞬間、大慌てで絆創膏らしきものをいくつか取り出すドラえもん。
「こ、これはボクの責任だからひみつ道具で治させていただきますっ!」
キングヘイローがどうこう言う暇もなく、パッと貼って、パッと剥がす。するとどうだ。痛みも傷も消え失せる。
「ウララさんから聞いていた通りなのね。今更だけれど」
「え、えへへ……」
未来のひみつ道具の効力に呆れた表情をするキングヘイロー。そんな彼女に申し訳なさそうに笑うドラえもん。
この絆創膏はお医者さんカバンなどと同じく、未来で開発されたひみつ道具。
「ボクらの時代の科学では、なおせない病気なんてないんです」
公園のベンチに二人……それとミィちゃんという猫一匹で座りながら、ドラえもんはキングヘイローに向けて自慢げに語る。
その話を聞いて、キングヘイロー感心するように頷く。
「それはとても良い未来ね。怪我や病気で悩まされる事もないなんて」
未来における治療技術の発展という素直に嬉しい事を告げられて感心するキングヘイロー。ドラえもんはその感心を受けて「えっへん」と胸を張っている。
「もちろんミィちゃんみたいな動物だって怪我や病気も治してあげられるし、ウマ娘の皆も健康で元気に走り回れるんです。ケガだってすぐ治せちゃいます」
ドラえもんの膝で丸まっているミィちゃんは、ドラえもんに向かって「なぁお♪」と甘い声を向ける。その態度からおそらく、彼女自身か仲の良い猫の病気を治療してもらった直後なのだろう。
「あぁあ~~ミーちゃん~~。人前でそんな風に褒めなくたってもぉぉお~~~♡」
……なんかミィちゃんの鳴き声を聞いて、ドラえもんがやたらくねくね悶えている。
そんな様子も含めて、意外と子供っぽいところがあるドラえもんにキングヘイローは思わず笑みを浮かべてしまう。
「そして貴方がそんな明るい未来からきたロボット、ってわけね。本当に、夢でも見てるんじゃないかって気分よ」
実際、こうして目の前に現れて話をしてもキングヘイローは未だに夢心地だった。
未来から現れたロボットに、なんでも治せるひみつ道具。それにいつどこだって、未来過去関係なく鑑賞出来る不思議なテレビ。
「ねぇ、ドラさん。聞きたい事があるのだけれど、いいかしら?」
ドラえもんの照れ悶えがひと段落ついた後、キングヘイローがそう切り出した。
「はい、なんでも!」
それを聞いたドラえもんは彼女の方を向いてキリッとした顔を見せる。ミィちゃんの手前だから格好良いところを見せたいらしい。
キングヘイローは静かに微笑みながら、目の前の未来からきたロボットに尋ねた。
「……ウララさんがフェブラリーステークスに勝つことができたのか教えてくれる?」
ドラえもんは一瞬の間を置いて、質問の意図を理解した。今現在では未来の出来事でも、ドラえもんならばタイムテレビで調べる事は可能だろう。だがしかしそれを教えるのは……。
深々と思い悩んで汗を掻いているドラえもんを見て、しばらくの間を置いてキングヘイローはフッと笑う。
「なんて、冗談よ」
「え!?」
「ドラさんがウララさんに何かの拍子で伝えないか試しただけ。その様子だと杞憂だったみたいだけど」
緊張を解いてホッと息をつくドラえもんに、キングヘイローは「悪かったわね」と小さく笑いながら謝った。
そんなドラえもんの他人思いな部分に寄りかかる形で、キングヘイローは自分の感情を吐露するように口を開く。
「今日ね、久しぶりに会えた子がいるの」
「昔のクラスメイトとかですか?」
「フェブラリーステークス前年度優勝者」
キングヘイローが「聞いて驚け」と冗談めかした態度でそんな事をいうものだから、ドラえもんも目を丸くする。
「私ね。前年のフェブラリーステークスに出場したけれど、その子と戦って負けちゃったの。13位」
「キングさんみたいに速い人が!?」
キングヘイローがツワモノ達を薙ぎ切った高松宮記念の光景を見たドラえもんにとって、彼女が大敗を喫すというのは易易と想像出来ない。
ドラえもんのそんな態度に、キングヘイローは少し嬉しそうな表情で続ける。
「もちろん、そのレースで負けた事はとても悔しかったけれど……」
そこでキングヘイローは、一度言葉を区切る。今一度、自問。だが、やはり自分の答えは変わらなかった。
「私は『フェブラリーステークスなんて出なければよかった!』――って思った事は一度も無いの」
その言葉がハルウララの現状と重なって、ドラえもんは思わず息を飲む。
「どれだけ悔しくても、どれだけバカにされても、今回の一戦はきっと最後にはウララさんの糧になる。だから、たとえ彼女がフェブラリーステークスで勝つとしても負けるとしても、余計なお節介は厳禁。わかった?」
そう語るキングヘイローの顔はどこかスッキリしていて、後悔など一切ないといった様子だ。
そんな彼女に対して、ドラえもんも大きく頷いて何も異を唱えなかった。
「あぁ、のび太くんもあんな風になってくれたらなぁ」
あの後もキングヘイローの話をいくらか聞いて、思った以上に泥臭い道を歩んできた彼女にドラえもんは一種の感銘を受けた。
高松宮記念の勝利までG1に敗北する事、計10回。その挑戦がたとえ嘲笑されようが、最後には最高の名誉と栄光に辿り着いた。
『屈服させられた数が違う。笑われた数が違う。バカにされてきた数が違う。一流であると謳ったがゆえに、誰よりも地を舐め、その度に自分を変えて、立ち上がってきた。どんなどん底でも、希望を疑わない! それこそが、このキングが永遠の一流である理由よ!』
……そんな彼女の姿勢に感化されたウマ娘も少なくないと取り巻きの子から自慢された事もある。ハルウララと同じダート環境を征くアグネスデジタルという有名なウマ娘もそうだとか。
成る程、彼女達が付き従うのはおこぼれ目的でなくキングヘイローの人柄であるわけだ。
(そういう人好かれし易い部分は、ウララちゃんとキングさんって似たもの同士なのかも)
ドラえもんは心の中でそう呟きながら、すっかり日が暮れて暗くなってきた空を見上げる。
もうすぐ門限の時間。ミィちゃんも送り届けたし、そろそろ家に戻った方がいいだろう。
そう思ってどこでもドアを取り出そうとポケットに手を入れた時、不意に背後から気配を感じた。
ドラえもんは咄嵯に振り返り、そこにいた人物を見る。見知らぬ、翼のアクセサリーを髪に着けた鹿毛のウマ娘。
それが何者なのかドラえもんにはわからない。しかし、彼女の方からは敵意や害意は感じられなかった。
むしろ、好奇心に満ちた目つき。ひみつ道具やドラえもん自身を見て興味が湧いたのだろうか?
不思議そうに見つめ返すドラえもんを見て、鹿毛のウマ娘はクスッと笑う。
そして、ドラえもんにヒラヒラと手を振っていってから去っていく。
ドラえもんはその背中を、ただ首を傾げて見送ることしかできなかった。
「ドラえも~~~ん!!! ジャイアンの歌をどうにかするひみつ道具出してよぉぉ!!!」
家に帰って早々。ドラえもんはのび太から大声で泣きつかれる。
「どうしたんだいそんな藪から棒に」
「カラオケで歌おうとするジャイアンにおそだアメを与えたら、安心したみんなで褒めちぎる事になって……」
そこから「そんなに感動したならまた明日学校の帰りに聞かせてやる!!」という話になったそうだ。
ドラえもんは頭を抱えて溜息をついた。のび太が泣くのも無理はない。
「おそだアメをまた食べさせればいいじゃあ、ないか」
「ジャイアンがぜんぶ食べちゃったんだよぉぉ~!!!」
呆れたものだ。
「確かに、余計なお節介は厳禁かもなぁ…………」
「うわぁぁあん、そんな薄情な事言わないでよドラえもぉぉ~~~ん!!!」
《あとがき》
フェブラリーステークス以降も2000~2001年代の史実モデルにスポットライトを当てるか、ウマ娘ネームドキャラにのみスポットライトを当てるかのアンケートにご協力いただければ幸いです。
今後も史実馬モデルをライバルに宛てるかどうか
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ウマ娘のネームドキャラ中心がいい
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史実モデル・ネームド両方ともバランスで
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史実モデル多めでもよい