「なんだってのび太くんはよくてボクは外で待ってなきゃいけないんだ!」
ハルウララとノボジャックに引き連れられ、校庭のベンチで待たされる事になった猫型ロボットドラえもん。
道行くウマ娘の生徒達が不思議そうに横目で見ていたり、初対面でない生徒は「ドラちゃんこんにちはー」と軽く挨拶をかけて通り過ぎていく。
「……なんですかこの青狸」
ドラえもんの隣に座っているノボジャックは、怪しげなモノを見る目で彼を見下ろしていた。
「ボクは狸じゃない!! 猫型ロボット!!!」
ドラえもんが声を荒げながら反論するが、ノボジャックはますます怪訝そうに表情を固めるだけ。
啀み合う二人を見かねて、「たはは……」と笑うハルウララは話題を変えるように割って入った。
「それにしても、なんで二人が理事長室に居たの? あんな風にかくれんぼしながら!」
「あぁ、うーん、それは小春さんが契約解除されないかどうか、一応確認を……」
結局のところはのび太のパパの言う通り杞憂だったのだが、姿が見えなくなる秘密道具を使っているのに見つかるとは思っていなかった。
「……そりゃあ、姿が見えなくてもあんな風にヒソヒソと話してれば気が付きますよ」
と、耳をピンと動かすノボジャック。最後まで気づかなかったのは結局は宗石小春だけらしい。
「……音もシャットアウトするヤツをレンタルしてくればよかったなぁ。でも高機能だから高いんだよなぁ、ソッチのバージョン……」
ドラえもんはその指摘に何かぶつくさと呟いていたが、ノボジャックはそれらについて追求を始めた。
「一体何者なんですか貴方。ステルス迷彩だとか猫型ロボットだとか、現実じゃ聞いた事も見た事もありませんよ」
ノボジャックが怪訝そうにするのも無理はない。ドラえもんのひみつ道具は基本的にこの世界に存在しないものばかりなのだから。
彼女が怪訝そうにするのも「それもそうか」とドラえもんは納得し、自信ありげな笑顔で自己紹介を始める。
「ボクドラえもん! 22世紀からやってきた猫型ロボットです」
高らかに名乗る彼の言葉に、ノボジャックは呆気に取られてポカンとした。
「……今日エイプリルフールでしたっけ? それともテレビ番組のドッキリか何か?」
そんな風に訝しげに周囲を見回している内に、ノボジャックとハルウララの肩を馴れ馴れしくポンと叩く人物がいた。
二人とも後ろを振り向く。
「やぁやぁおそろいでノボジャック! ハルウララ!」
先日のフェブラリーステークスで二着を取ったウイングアロー。
「ど、どうも……」
「あ、アローちゃんだ!」
彼女はまるで親友に接するようなフランクな態度で彼女達に話しかけてきた。
ノボジャックは少しばかり警戒し、ハルウララは逆にキラキラとした瞳を向ける。
そんな二人の様子を知ってか知らずか、ウイングアローは上機嫌な口調でドラえもんにも挨拶を向けた。
「そして、こんにちはドラえもんくん」
ドラえもんは目をぱちくりとさせた。先日、キングヘイローと歓談した折に見かけたウマ娘であるが、こうして面と向かって話した事はなかった。
彼女が何か要件がある素振りである事に疑問を抱くドラえもんに、ハルウララは今思い出したかのように口を開く。
「そうだ! あのね、アローちゃん、ドラちゃんの落とし物拾ってくれたんだって!!」
「ん? あぁ、そうだとも。ドラえもんくんの落し物を返しに来たわけだ」
ドラえもんは一瞬頭の上にハテナを浮かべていたものの、思い当たるがあったのか猛烈に慌て始めた。
「あぁ!! もしかしてこの前無くした……!」
しかしハルウララとノボジャックの手前だからか、顔を赤くして口をつむぐ。
その様子を見てウイングアローは内心で首を傾げながらも、自然な態度で話題を変えた。
「時にハルウララ。キミは左足に怪我をしているね?」
「えぇ! どうしてわかったの!?」
ハルウララは驚いた表情で声を上げた。その態度に、ウイングアローは満足げにうんうんと頷く。
「フェブラリーステークスで一緒に走っててすぐ分かったさ。それも大きな怪我じゃない。たぶんちょっと血が出るくらいの爪割れか、ちょっとした打撲とか、その辺りだろう?」
彼女の言葉に、ハルウララだけではなくノボジャックも目を見開いた。
――レース中にそんな軽傷を把握するなんて、どれだけ他人を観察しているんだこの子は……。
ウイングアローの指摘に、ハルウララは左足の靴下と靴を脱いで怪我を示す。
「レース走ってる途中にね。ちょっと親指の爪が割れちゃってたみたいなんだ。ウララは、ウイニングライブの後で気づいたんだけど……」
よくよく見てみると左足親指のサイドウォールの部分が少し浮き、血が固まってカサブタが出来ていた。
既に治りかけであるが、ドラえもんはいつものように『なんでもキズバン』を使って彼女の怪我を治療する。
「はい、これで治った」
「ありがとう。ドラちゃん。近頃しょちゅう割れちゃうんだー」
嬉しそうに微笑みながらお礼を言うハルウララ。ノボジャックは、絆創膏を張って剥がす数秒の内にツメの浮きやカサブタが治ったのを目撃して心底から驚いた。
(22世紀のロボットって、本当なの……?)
ノボジャックの表情が思わず引き攣る。ウイングアローはそれを確認したように視線を動かした。
「ところで……さっきの落とし物の件なんだけどね。教室の方にあるからついてきてくれないかい?」
「は、はい。わかりました」
ドラえもんに対して同行を呼びかけるウイングアロー。ハルウララやノボジャックもそれについていこうとしたが、ウイングアローはそれを制止した。
「いいやいいや、見たところ誰かと待ち合わせしていたんだろう? すぐ戻ってくるから、二人はここで待っていてくれたまえ。行き違えになると面倒だしね?」
「そっか、うん。わかった!」
理事長との相談が終わったのび太が迷子になるといけない。ウイングアローの提案には素直に従う事にしたハルウララであった。
「あのぅ、教室ってこっちじゃないはずじゃあ」
ドラえもんは校舎裏まで連れられてくると、不安げに周囲をキョロキョロと見回しながら呟いた。
「確かに……あれは他人には見せられない落とし物だけど……」
ドラえもんの態度に、これみよがしに首を傾げるウイングアロー。
「なんのことだい? 落とし物を拾ったなんてデタラメだよ」
「えぇ!! じゃあボクとミーちゃんのツーショット写真はどこにあるんだ!!!?」
「知らないよ。押入れにでもあるんじゃないかい」
それを聞いて、からかわれたのだと感じてぷんすかと怒り出すドラえもん。
しかしウイングアローの態度は相変わらず飄々としている。その眼差しは紳士的だ。
「頼みがあるんだ」
不意に彼女は真剣な口調で言った。
その言葉に、ドラえもんは怪訝そうにしながらも耳を傾ける。
本当に他人が困っているのなら、ドラえもんも手助けはやぶさかではない。
「本来あるべき力を出せずに弱っているウマ娘の為に、力を貸して欲しい」
ウイングアローがドラえもんに向けた頼み事は、実に切実なものだった。
一方でドラえもんに助けを乞いたい者は他にもいた。野比のび太だ。
ドラえもんが退室していく中で、彼はそのまま理事長室に在室を願われ、当人にとっては軟禁されている気分だった。
「……のび太さん。やよいさんと何の相談したの……?」
小春としては、なぜゆえに何の変哲もない小学生男子の野比のび太が呼び止められているのかよく分からぬ。
彼女からそんな風にヒソヒソと耳打ちされるが、のび太はそれに応える余裕もない。緊張で口から心臓が出そうなくらいにバクバクと胸の鼓動が高鳴っていた。
ノボトゥルーや駿川たづなといった年上達から逃げ出さないように囲まれている形だから致し方ないかもしれない。
「さて、と」
秋川理事長はニコニコと満面の笑みでのび太に話を向けた。
「ハルウララと小春トレーナーに話した黒船賞の招聘はのび太くんも聞いていた事だろう! ゆえにッ! 契約解除などと心配する必要はない!」
理事長室に忍び込んでいた理由も既に見抜かれてた。のび太は安心してよいやら、焦ってよいやら、冷や汗を掻く。
「そ、それは、よかったです……」
「しかァし! 理事長室にあぁいう形で忍び込むのは今後厳禁ッ!!」
ついでに釘を刺された。盗み聞きするような真似は、普通ならば失礼極まりない行為だからこれは致し方ない。
「……私だって女の子だぞ?」
やよいにニコニコしながら意味ありげに言われ、のび太はますます申し訳なくなって顔を赤らめた。
のび太が反省したのを確認してから、秋川理事長は真剣な顔で小春に話題を向けた。
「『何故一ヶ月も早く現地に行かねばならないのか』と、そう思っているな?」
「は、はい!」
いきなり確信を突かれて小春は驚いた。レース一ヶ月前といえば、出走者がまだ確定しないであろう時期だ。
ウマ娘の調子が合わなくて参加を見送る事もあるし、確定直前で優先権があるウマ娘に出走枠から蹴り出される事もある。
前者は打診された小春とハルウララが要請に応じてるから、ひとまず問題はない。
だが後者の問題があるゆえに、早い時期から出発するのは不自然だと言わざるを得ない。
秋川理事長はそれも見越した形で話しを続けた。
「確かに! 出走登録の期限はレース前の一週間、あるいは二週間前! 本来の考えなら出走枠が確定してからか、あるいは前日に高知に向かえばいい!」
「……はい。ハルウララさんが蹴り出されたら無駄足です。今回は特例で推薦出走枠を設けてくれるのですか?」
秋川理事長は首を振った。
「その必要無し!」
小春も顔にハテナが浮かんだ。ますます一ヶ月前に出発する理由がわからぬ。
駿川たづなが説明を引き継ぐ形で、口を開く。
「小春さん。レース出走枠の優先条件はご存知ですか?」
「もちろん。レースによって違いますけど、おおまかにはえぇっと確か……」
壱:レース条件に見合った戦歴を持つ。(G1ならG1を勝利したウマ娘など)
弐:獲得ファン数の多い順
参:関連する特定のレースで勝利
「………宝塚記念や有マ記念だとファン投票とかで決まるとか、そんなのもありますけど……」
のび太は小春の話を聞いて「へぇ~」と感心していた。小学生から尊敬の眼差しを向けられて、ふんすと胸を張る小春。たづなも小さくパチパチと拍手をした。
「えぇ、今回の出走する為の要点は二番目の『獲得ファン数の多い順』です」
つまりはファン数が多ければ黒船賞に出場を果たせる。G1出場出来るウマ娘以上にファン数が多いウマ娘なれば、かなり限られてくる。
「でも、ウララさんより多いウマ娘は居ますよ。ほら、ここにいるノボトゥルーさんとか」
フェブラリーステークス一着を取ったノボトゥルー。今朝の新聞の一面を飾って、世間の知名度はうなぎのぼりだ。さすがのハルウララも彼女には勝てまいと。
「私は出ません」
ノボトゥルーはそこで初めて言葉を発した。
「え、じゃあなんで居合わせて……」
「ジャックが出ます」
小春が疑問を口にすると、ノボトゥルーはさらりと言い切った。
その発言を受けて、小春はポカンとした表情になった。
――……じゃあなんでやよいさん、ドラさんの付き添いでジャックさん退出させたの?
小春は秋川理事長に視線を向けると、彼女はニカッと笑みを浮かべた。まだその心意を尋ねるには性急らしい。
「小春トレーナー。中央からG3ダートに出走出来るウマ娘、何人くらい居るか知ってますか?」
「えぇ、いやぁ、G1ならともかくG3は結構な数が……芝よりは少ないだろうけど……」
新人である小春でさえ、顔ぶれはいくらでも思い浮かぶ。
駿川たづなは困ったように笑う。
「トレーナー同士で、『オレは担当をこのレースに出す』なんて話をしている場面、見た事ありません?」
「あぁ、ありますね。みんな闘争心旺盛だなぁ、って……」
そこまで言って、小春はようやくハッと理解した。
「え、あのやり取りって『談合』だったんですか?!! カルテルじゃん!!」
「こ、子供の手前なのに危ない言い方はだめです……」
たづなが指でバッテンを作って小春に注意する傍らで、秋川理事長は苦笑いを浮かべた。
「やよいちゃん。かるたや団子って危ないの?」
のび太が呑気にたずねてくるので、ますます苦笑い。
「談合といえば聞こえは悪いが、同じ環境で走っているウマ娘を担当するトレーナー同士で出走レースを意思表示するのは一つの手段! 無論ッ! それはウマ娘が出走枠から蹴り出される機会を少しでも少なくする為!」
小春にもなんとなく話が見えてきた。
「えぇっと、つまりは……ウララさんよりもファン数が多いウマ娘は、黒船賞へ参加しないと意思表示済みと……」
その理由はローテーションが見合わない、黒船賞に興味がない、ウマ娘によって個人個人で様々なのだろう。
トレセンが教育機関である事も考慮すれば、トレーナー同士で潰し合わないように配慮するというのも、また納得のいく話ではある。話し合っておけば、また違うレースに向けて体調や日程の調整もスムーズに執り行えるというものだ。
もっとも、ウマ娘やトレーナーが出走意思を直前まで隠していたり最終的に我を通したりするのも、それはそれで批難される行為では全くない事は大前提だが。
「……というか。小春トレーナーよ、今までそういう事はやってなかったのか?」
「ハイ、マッタク」
トレーナー付き合いしている相手なんて、しょっちゅう気にかけてくれた西崎トレーナーやそのライバルの東条トレーナーくらいだし。その二人の担当とレースでかち合う事がなかった。
「理解したようだな! ノボジャックの出走についても同じような形だ!」
ようやく小春が合点したのをみて、やよいは愉快そうにバッと扇を開いた。
「ノボジャックも明後日発ってもらう手筈だ!」
「あぁ、つまり私達と同時に出発って事ですね」
だからノボジャックやその相方のノボトゥルーが同席していたのか。たぶん、自分やハルウララよりも先に理事長からその話を聞いていたのだろう。
「少しいいですか」
ひとまず話が落ち着いたのをみて、ノボトゥルーが話を切り出す。
――なんかこの子……妙に堂々としてるわねぇ……。
小春は彼女に注目して、改めてそう思った。
体格は小柄だというのに見た目も雰囲気も大人びている。理知的な優等生。黒寄りの鹿毛もあいまって、ハルウララと真逆の印象を抱かせられる。
小春はノボトゥルーが何を言うつもりなのか予測できず、耳を傾けた。
ノボトゥルーは秋川理事長と駿川たづなでもなく、小春に向けて頼みを告げた。
「ジャックの事、小春トレーナーにもお願いしていいですか」
……小春は目をぱちくりとさせた。
話を聞くに、フェブラリーステークスの敗北以来ノボジャックは休養する事を拒絶しているらしい。
彼女のトレーナーが休憩するように命じても、郊外を走って自主トレーニングしていたという始末だ。
理想値より体重が激減している状態だから今はそれを戻さなければならないのだが、ノボトゥルーやトレーナーがそれを諭しても理解してもらえない。
むしろ、ノボジャックは今まで仲が良かったはずのノボトゥルーに対して露骨に敬遠しているという。
――まぁ、競り合いで負けた相手を敬遠するってのはよく聞く話ね……。
小春はノボジャックやノボトゥルー両者の気持ちをなんとなく理解したし、そのトレーナーの事情も理解した。ノボジャックを退出させた理由もそれだろう。
遠征には仲の良いウマ娘が同伴するのは定番だ。だが今回はノボトゥルーとノボジャックの間に溝がある。
「ノボトゥルーさん。貴方は黒船賞に出場するの?」
一応聞いてみた。ノボトゥルーは首を横に振る。
「私は、ゴドルフィンに出場します」
「……ごどる、ふぃん……?」
聞いた事がない。そんなダートレースあったっけか。
小春がポカンとしているのを感じ取って、こっそりと耳打ちするたづな。
「……アラブの方で執り行われる重賞です……」
「あ、あぁ。外国遠征ね! 凄いじゃない! じゃあ、その時期は日本に居ないのね……」
たづなの説明を聞いて、小春は思わずたじろいだ。外国重賞に挑戦するなんて、それこそG1挑戦するより珍しいかもしれない。
小春の賞賛を受けて、ノボトゥルーは感謝の意かニコリと笑う。
二つ目には、ノボジャックに療養が必要だという事実だ。
その為にも遠征という体でトレーニング環境から距離を置き、高知を観光するなりで休養してもらう。無茶な自主トレーニングなんてしでかさないように、トレーナーの方から見張る。
それを徹底すれば、黒船賞まで故障するという可能性は低くなる。
宗石小春は、一緒に遠征する形でノボジャックとそのトレーナーをフォローする。ノボトゥルーから頼まれていたのはそういう事だ。
小春としても、他人の助けになるのはやぶさかでもない。だがノボジャックの面倒まで見る余裕は……。
「……一ヶ月前に発って欲しい理由はもう一つあるんです」
駿川たづなが付け加えるように小春へ申し出る。
今度はなんだろうと首を傾げる小春に対し、たづなは慎重に言葉を選んだ。
「ウララさん……近頃、爪割れが頻発していません? よく保健室に来ているみたいですが……」
「あ、はい。入院以来、時々爪が割れるみたいです。ドラさんやのび太さんもちょくちょく治療してくれてるみたいで……」
陸上アスリートにとって、爪割れ自体は特に珍しい事ではない。足に負荷の掛かる競技なのだから、こればかりは致し方ない。
「それって、いつも同じ位置じゃありませんか?」
言われてみれば、確かにそうだ。左足の親指。
――……慢性化?
小春は、たづなの話を受けて少し恐ろしくなった。
「……小春トレーナー。人間だったら足の爪が割れてもしばらく不自由するだけかもしれません。ですが、走る事が生きがいのウマ娘達にとって爪割れ(裂蹄)は、『その生きがいを奪われる事に直結する』かもしれないんです」
たづなの表情は至極真剣だ。小春は、その言葉がタチの悪い冗談でもなんでもない事を悟る。
新米トレーナーに対する、純然たる警告だ。
「だから、ジャックさんと同じように、ウララさんを休む事に専念させてあげてください。お願いします」
真っ直ぐとした眼差しで見つめてくる駿川たづなに、小春はただ頷くしかなかった。
ノボジャックのフォローは実際に高知に行ってから考えるとして、遠征の体でハルウララを休ませる事については了承すべきだろう。
「黒船賞の打診、承りました。ジャックさんについても、私からも出来る限りの事はしてみます」
「それではノボジャック、ならびハルウララも黒船賞へ向けて遠征する事に決定! 理事長からは以上ッ!」
秋川理事長がそう締め括ると、ノボトゥルーも頭を下げて足早に理事長から退出していく。ノボジャックが心配なのだろう。
小春も、ハルウララが心配である為か同じように頭を下げて理事長室を退出した。
「ボクも帰るかぁ……」
理事長室に残されたのは野比のび太。小春とハルウララの契約解除というのは単なる杞憂であったから、理事長室にいる理由も特にない。
いつものようにハルウララの様子を見に校庭の方へ向かおうとして、やよいに呼び止められた。
「少し待ちたまえ」
「どうしたのやよいちゃん?」
自分に用事があるとは思わず、のび太は少し驚きながら聞き返す。
「キミは度々、ハルウララの怪我を治していると聞く。それも、不思議な道具を使って一瞬で」
先程までとは違い、やよいの口調はどこか畏怖すら感じさせるものだった。
のび太は少し身震いをしながらも、悪い事はしてない自信があるのでやよいに言い返す。
「す、すりきず程度の怪我はね? 放っておいたらかわいそうだから……」
その威圧感に気圧されながらものび太は反論するが、やよいの瞳からは感情が判別出来ない。
怒っているのか、感謝しているのか、そのどちらでもないのか。
「びょ、病院に入院するような怪我だったらボクもひみつ道具を使って治したりしないよ! それは卑怯だってボクにもわかる!」
のび太は更に言葉を重ねた。それがどこか言い訳じみた口調になってしまったのは、きっとのび太の気のせいではない。
やよいの雰囲気に変化はなかった。そして、彼女はゆっくりと口を開く。
「ならばハルウララが二度と走れない大怪我をしたとして、キミは手を出さない自信はあるのか?」
「……っ!!」
やよいの言葉に、のび太は大きく目を見開く。そのまま、怒って部屋を飛び出してしまった。
駿川たづなは心配そうにのび太を見送る。続けて、秋川やよいの方にも同じ視線を向けた。
「いずれ向き合わなければならない事だ」
秋川やよいはぽつりと呟く。
その言葉は誰に向けられたものなのかは分からなかった。
ノボジャックのトレーナーは
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男性
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女性