ハルウララとノボジャックの遠征が決まって二日後。
「疲れた疲れたァ~~!! もうやだぁー!!」
野比のび太は自室の机に突っ伏して泣き喚いていた。
0点のテスト束を白状してからというもの、夜になるとパパとママが毎日入れ替わりで宿題の面倒を見に来る。
苦手な宿題をやらなきゃいけない上に、答えを書く度に「違う!」と叱られて何度も書き直させられるハメになっている。
「ドラえもん助けてよぉ~~!!」
畳の上でゴロゴロと寝転んでいたドラえもんは、あくびをしながらのび太の助けに言葉を返した。
「あのねぇ、元はといえばのび太くんが0点なんて取ってくるからいけないんだよ。もうすぐ学年も変わるっていうのに、宿題をちゃんと覚えず、酷い時はほったらかしにして遊んだりして。そんなんじゃ立派な大人になれないって皆が思ってる。パパやママだって、忙しいのにも関わらずキミの面倒を……」
「うわぁ~~~ん!!」
そんな説教が聞きたかったんじゃない! と言わんばかりに、のび太は大声で泣き叫ぶ。
まったくもって情けない。ウララちゃんと交友を持ってのび太くんも成長したかと思いきや、やっぱり全然成長していないじゃないか。
ドラえもんは渋い顔でそんな事を考えていると、のび太はすっと泣き止んで名案を閃いた顔をする。
――うわぁ、これはまた厄介な事を思いついた流れだぞ。
ドラえもんがそう警戒していると、予想通りのび太素っ頓狂な事を言い始めた。
「キングヘイローに宿題解いてもらおう」
「ハァ!!?」
「だって、キングヘイローってボクよりも年上でしょ? だったら小学生の問題だってワケないし、案外優しいからお願いしたらきっと受け入れてくれるよ~」
……絶対に追い返される。ドラえもんにはそういう確信があった。
ただ、まぁ、キングヘイローから叱ってもらえば良い薬になるかもしれない。女の子に幻滅されれば、さすがのぐうたらのび太くんでも堪えるものがあるだろうし。
「ドラえも~ん。そういう事だから、どこでもドアを出して~」
「はいはい……」
ニヘニヘと笑うのび太を見て、ドラえもんはやれやれと思いながら『どこでもドア』を出してあげた。
「それにしてもどこでもドアって便利だよねぇ」
今更ではあるが、しみじみとひみつ道具の便利さに思い耽る。
「そうだねぇ、行きたい場所を思い浮かべるだけでその場所に行ける」
「うん、それじゃあ、キングヘイローの元へレッツゴー!」
のび太がどこでもドアを勢い良く開く。のび太とドラえもんの耳へ真っ先に聞こえてきたのは、「ちゃぽん」と雫が水が垂れる音。それはくぐもっているように感じた。
あたたかい湯気がのび太の眼鏡を覆って、少し曇る。
目の前に広がっていたのは、寮のお風呂場らしき場所。
そして、湯船に浸かっているウマ娘と目が合った。
鹿毛の長髪が艶やかに輝き、その表情は上気してほんのりと赤く染まっている。
二人はようやく事態を把握して色々な意味で言葉を失った。
湯船につかっている為に肩の部分までしか見えなかったが、それでものび太とドラえもんはアワアワと慌てふためく。
対面するキングヘイローものび太達の姿を見るや瞳を丸くし、口をパクパクさせて顔を真っ赤にした後、プラスチックの湯桶を手に掴んだ。
「こンの……へっぽこォーッッ!!」
そして全力投球。人間と身体能力段違いであるウマ娘の剛速球を額に受けて、のび太はそのまま気絶した。
「まったく……訪ねにきてもいいけど、ちゃんと玄関から来なさい」
のび太の額に出来たタンコブになんでもキズバンを貼ってやりながら、キングヘイローは不機嫌そうに諭した。
場所はキングヘイローの部屋に移り、のび太の治療を終えた彼女はお茶を用意しに席を立つ。
のび太とドラえもんは彼女の指示に従って正座して待機していた。なんとも不名誉な事故であった。
「……まったく、のび太くんがスケベなせいでボクまで巻き込まれて……」
「ち、違うやい。本当にキングヘイローのところへ行こうと思ってただけなんだって……」
「ソレ、静香ちゃんの前で同じコト言えるかい? 静香ちゃんのお風呂覗いたりするのなんて、日常茶飯事じゃないか」
静香ちゃんに対してのソレは複数回の余罪があるから、ドラえもんの言葉にはっきりと反論出来ない。
のび太が誤魔化すように目を泳がせると、部屋の家具にいくらか目についた。
複数飾られた色違いのトロフィー。賞状。そして額縁に入った写真――キングヘイロー含めた五人のウマ娘が一緒に撮られている――。
それらがキングヘイローの功績を示すものなのだと、のび太もなんとなく理解した。
「キングヘイローってやっぱり、レースに何度も出てるんだねぇ」
そんな呟きが自然と口から漏れていた。ドラえもんはそれに頷く。
「のび太くんとは比べ物にならないよ。まったく、そんな人に宿題代わりに解いてもらうだって? バカも休み休み言え!」
「なんだとぉ!?」
やぶ蛇だった。そんなこんなで口喧嘩している最中に、キングヘイローからお叱りの声。
「仲良くしなさい! 他人の部屋に上がり込んでまで喧嘩する事はないでしょう?」
「ごめんなさい……」
しゅん、と大人しくなって、二人は同時に謝った。
戻ってきたキングヘイローから出されたお茶を二人で飲んで一息つく。
「それで、用事があるんでしょう? 何か困り事?」
二人の向かいに座り、彼女が訊ねた。のび太はニヘニヘと笑いながら正直に打ち明ける。
「ボクの宿題を解いてもらおうと思って~」
悪びれもせずそういうのび太をしり目に、ドラえもんは頭が痛そうに手を額に当てていた。
ドラえもんの態度を見て、おおよそを把握したキングヘイローは微笑むような表情でのび太の要求に答えを返す。
「いいわよ」
「え、ホント!!?」
「えぇ、教えるのはこう見えても得意なの」
――……え、教える?
「いや、答え書いてくれるだけでいいんだけど……」
「あら、それはダメよ。ちゃんと自分で考えて解くからこそ意味があるんだもの」
つまりは、パパとママに教えてもらう状況と大差ない。
それを理解したのび太の顔が固まった。対照的に、ドラえもんはパァッと明るい笑みを浮かべる。
「ドラえも~~ん!!」
「ほら、見ろ。のび太くん。キングさんもこう言ってるじゃないか」
ドラえもんも援護射撃。いよいよ逃げられなくなった。
いつもならここでのび太の悪知恵によるトラブルは帰着するのだが、今回はどうやら違っていた。
部屋の扉をドンドンと、勢い良く叩く音。誰かが訪ねにきたらしい。
「……あら、誰かしら?」
キングヘイローは立ち上がって、そのノックの主の元へ向かった。のび太とドラえもんもそれに続く。
ノックしていたのは宗石小春。彼女はドアを開けてすぐにキングヘイローの姿を確認すると、慌てた様子で問いかけてきた。
「き、キングさん! ウララさんが何処にいるか知りませんか!?」
「……え? 2時間前に出発したけど、そっちと合流してないの? 新幹線に乗る予定でしょ?」
質問に、キングヘイローは困惑した表情を見せた。
小春は焦燥した顔のまま続ける。彼女の瞳には、今まさに絶望を垣間見たかのような光が灯っていた。
「……ジャックさんと、ウララさんがどこにいるかわからないんです……!!」
ノボジャックのトレーナーは
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男性
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女性