ドラえもん~ハルウララ育成記~   作:稗田之蛙

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クラシック未勝利編
出会い


 日本ウマ娘トレーニングセンター学園――通称トレセン。

 その学園に所属するハルウララは、次のレースに向けて日々努力を重ねていた。

 彼女は走ることが大好きで、いつか自分もレースで一等になる事を夢見ている。

「えっほ、えっほ……!」

 学園のトラックを元気いっぱいに駆けるハルウララ。後ろから走ってきた他のウマ娘達に追い抜かれても、彼女の姿はどこか楽しげに見える。

「みんなはやいなぁ~。よーし、私も負けないぞー!」

 一方で観客席の方で、メガネをかけた少年が色めきだった様子でウマ娘の練習をじっと見つめている。

「すごくはやいなぁ。一番後ろの子だってボクとなんか比べ物にならないや」

 その少年は野比のび太。ウマ娘という存在を初めて目にするのび太は興奮していた。

 彼の言う通り、最後尾の平均スピードでさえ人間の世界最速記録を上回っている。

 そんな彼女達に乗っかるなんて危ない真似は出来そうにないが、運動神経が悪いのび太にとってそれは好都合。落馬するなんてお約束をやらずに済む。

 しかしのび太は困っていた。近くでサラブレッドが居そうな場所にやってきたのはいいものの、馬主という存在にどうすればなれるのかよく分からない。

「元々の世界だとお金をたくさん出せばなれるらしいけど、ボクにはそんなの無理だしなぁ……」

 

 のび太がうんうんと唸って困り果てていると、最後尾で走っていた女の子が練習を止めて心配そうに観客席の方へ近寄ってきた。

「ねぇきみ、具合悪いの?」

 他の女の子と比べて背丈の低い幼い印象のサラブレッド選手――ハルウララ。のび太は近づいてきた彼女に「ボクと同い年くらいの子も走ってるんだなぁ」と感心しながら気さくに答える。

「ええっと、ちょっと悩み事があってね」

「そうなの? うーん、じゃあ一緒に考えてみよう! うーん、うーん……」

 内容に言う前から大真面目に悩み込むハルウララをみて、のび太は思わず目を丸くした。

(そっちまで真剣に考え込まなくても……)

 とはいえ、一緒になって考えてくれるというのはありがたい。のび太は早速話を切り出した。

「走ってる子達の馬主さんになる為にはどうすればいいのかなぁって一生懸命考えてたんだ」

「ばぬし? ……トレーナーの事かな」

 ハルウララものび太も一緒に首を傾げる。

「トレーナーって、わたし達が走るのを教えてくれたりする人の事。たぶん免許とか必要だった気がするよ?」

「そっか! じゃあ、このひみつ道具を」

 のび太は持ち出してきたスペアポケットから『なりきりプレート』というひみつ道具を探し始めた。

 それはなりたいものを書いて、首からさげれば何にでもなりきれることができる代物だ。

 

「のび太くん!!!!!」

 

 その時、のび太の背後から怒声が聞こえてきた。振り向くとそこには眉間にシワを寄せているドラえもんの姿があった。傍らにはミィちゃんが不安そうに様子を窺っている。どうやらデート先で偶然鉢合わせてしまったらしい。

「まったく。ゆだんもすきもあったもんじゃない……ひみつ道具を勝手に扱っちゃダメだっていつも言ってるよね!?」

「ド、ドラえもん。これにはふかぁ~~~いワケが……」

 ちらりと近くにいるサラブレッド選手の方へ助けを乞うような視線をやる。ハルウララをよくよくみれば、膝付近にいくらか真新しい擦り傷があった。あんなに走り込みしているものだから、転んで怪我をしてしまうのも日常茶飯事なのだろう。

 のび太はとっさに機転(悪知恵)を利かせ、外傷を治療する『なんでもキズバン』をスペアポケットから取り出した。

「この子が怪我をしていたから、ほうっておけなくて……」

 そそくさ、ハルウララの傷口になんでもキズバンを貼りつけた。青いロボットと少年のやり取りを不思議そうに眺めていたハルウララだったが、すぐに驚きの表情を浮かべる。

「わぁ、傷が痛くなくなったよ!?」

 キズバンをゆっくりと剥がしてみると、擦り傷は綺麗さっぱり治っていた。なんでもキズバンはすぐに傷を治すひみつ道具。骨折でもたんこぶでも一瞬で治療出来る優れもの。

「うわー! すごいねこれ!」

 ハルウララはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。のび太もそれを横目に満面の笑み――で、汗をダラダラ掻いてドラえもんの顔色をうかがう。

「……のび太くん」

「は、はい」

「えらいっ、きみが他人の怪我を進んで治療するなんて!!!」

 ドラえもんが感動のあまり半泣きになりながら、まんまるなお手々でヒシッと両手を握ってきた。安堵しているミィちゃん共々、その場しのぎのウソを丸々信じ込んでしまったらしい。

(ふぅ、助かったぁ……)

 のび太は額の冷や汗を拭いながら胸を撫で下ろす。

「のび太くん、だっけ? それに青いたぬきさんもどうもありがとう!! あ。わたし、ハルウララっていうんだ!」

「ボクはたぬきじゃない!! 猫型ロボットのドラえもん!!」

 ハルウララから狸呼ばわりされて必死に否定するドラえもん。ハルウララが「ごめんごめん」と謝りながらも、改まった様子で二人に話を続けた。

「ねぇ、このすっごいばんそーこーって風邪とかも治せたりするのかな?」

「こほん……なんでもキズバンは怪我を治せたりするけど、他の選手さんが病気に罹ってるの?」

 22世紀の子守用ロボットたる手前、人助けとあらばドラえもんもやぶさかではない。

 病気方面の治療に使える『お医者さんかばん』を準備しつつ、ハルウララに返した。

 しかしその問いに対し、ハルウララは何とも言えない微妙な顔つきを見せる。

「んーっとね、ウマ娘の子達じゃなくて、人間のちりょーなんだけどー……」

 

 

 場所は変わってトレセン付近の総合病院。ドラえもんとのび太はハルウララの案内で病室まで向かう事になるが、当の患者はぐっすりと眠っていた。

「あらら、真っ昼間だっていうのに」

 少し呆れたようにいうのび太。

 普段から昼寝が得意だというのにどの口がいう。ドラえもんはそんな視線を投げかけながらも、お医者さんかばんを静かに使ってベッドで寝ている患者を診察した。

『カロウデスネ』

 お医者さんかばんは側面の液晶画面を通してこの患者は過労による入院だと見立て、瓶入りの栄養剤をポンッと打ち出した。

 未来においてこのひみつ道具は子供のお医者さんごっこに使われる代物なのだが、それでも22世紀のひみつ道具。その効果はお墨付きだ。

「これを飲ませればトレーナーの病気は治るんだね!」

「よかったねぇ、ウララちゃん」

 栄養剤を受け取って大喜びするハルウララと、その様子をみて微笑ましくなっているのび太。

 ……そして微妙に不安そうな顔をするドラえもん。

「ねぇウララちゃん。この人はなんで過労になったんだろう。原因は知ってる?」

「んっと。あのね、トレーナーはわたしのトレーナーで、トレーニングとかレースの事とかをたくさん手配してくれて――」

 

 ドラえもんはしばらくハルウララの話を聞いた。

 この患者は最近トレセンに所属したばかりの新米のトレーナーで、ハルウララの専属トレーナーらしい。

 ハルウララはレースに出走を続けてそのひたむきな姿勢から固定ファンを多く獲得したはいいものの、鳴かず飛ばず。未だ一着を取った事がない。取らせた事がない。

「きっかしょー? だっけ。大きなレースにも出走しようとしたんだけど、あはは。その手続きの時にトレーナーが倒れちゃってー……」

 菊花賞。クラシック三冠競走の一つであり最終戦。G1レースの一つであり、その勝利はウマ娘にとって目指すべき最高の栄誉。

 もちろんそれを補佐するトレーナーの精神的にも肉体的にもプレッシャーは相当のものだ。

 それまでの全戦全敗の積み重ねもあってか、トレーナーが過労で倒れてしまい、ハルウララも出走を断念した様子だった。

「あ、でもそのことでトレーナーに怒ったりしてないよ! 今までたくさん、たっくさん手伝ってもらったからね。むしろ、レースに勝って恩返ししなきゃって」

 だからこそのび太達が居合わせた時のように膝が傷だらけになりながらも自主トレーニングを重ねていたのだろう。

 さすがののび太も、その話を聞いて黙り込んでしまう。彼女を悪巧みに協力させようとも思った事を内心で恥じた。

 そうしてドラえもんはいくらか考え込んでから、ハルウララに対して思った事を正直に打ち明ける。

「これを飲んでもたぶんだめだよ」

「え?」

「同じような事を繰り返してまた倒れちゃうと思う」

 のび太やハルウララは「そっかー」と残念そうにするだけだが、ドラえもんが言外に滲ませている事は非常に残酷だ。

 ドラえもんからしてみれば、このトレーナーが狸寝入りをしてない事を願うばかりである。

 

「一応、あの栄養剤は渡しておいてあげたんだね」

「うん」

 ぶんぶんと手を振るハルウララの見送りを背に、タケコプターで帰路につくドラえもんとのび太。

 保護者の視点も備えたドラえもんとしては、あのような境遇は見ていて心苦しいものがある。

「トレセン選手って一回も勝たずに続けられるものなの?」

 のび太の問いかけに「どうだろうねぇ」とトボける事しか出来ない。おそらく、のび太が考えているほど気楽な世界ではないだろう。

 ドラえもんは病院で配布されていた古新聞のスポーツ面を眺める。

 

『…………5番ハルウララ。【-△△--】《直後退》ご存知全戦全敗ウマ娘。レースの終盤になると途端に【あきらめ癖】が――』

 

 ……どうにも他人事とは思えない。のび太を横目にしながら、ドラえもんはふぅっと息を吐いた。

「いい事を思いついた!!」

 のび太に至近距離にて大声で叫ばれ、思わず空中で体勢を崩しかけるドラえもん。

「いきなりどうしたの?!」

「ボク達がウララちゃんを手伝ってあげればいいんだよ! ひみつ道具でちょちょいの、ちょいってさ!」

 のび太の提案を聞いて苦い顔をするドラえもん。21世紀のアスリート達の真剣勝負に、22世紀のひみつ道具を全面的に持ち出していいものか。

「そ、それはいけな」

「今回みたいに、怪我をしたらなんでもキズバンを届けてあげたりさ。あとはグルメかけテーブルとかでご馳走を振る舞ったり……あれ、そんな顔してどうしたの、ドラえもん?」

 ……のび太の発想の小規模さに思わず面を食らうドラえもん。

 てっきり身体能力を底上げするひみつ道具を彼女へ貸せと言い出すのかと身構えていたのだが……。

「のび太くんらしいというかなんというか」

「なんだよ。バカにしてるのか!」

 ぷりぷりと怒り出し、空中殺法めいた身振り手振りで怒り表現する野比のび太。今回ばかりはドラえもんの方が反省しなければいけないかもしれない。

「うん、まぁ、それくらいならいいんじゃないかな……」

「やったー! やっぱりドラえもんってたよりになる!」

 のび太の無邪気で単純な喜び方が、ハルウララの純粋無垢と重なってドラえもんはますますため息をつく。

「まったく。きみは本当に調子がいいんだから」

「じゃあ家に帰って計画を立てよ! ボク、なんだかすっごく楽しみだ!」

 のび太は勢いよく前のめり。家への帰宅を早める。ドラえもんは彼の後ろ姿を見てやれやれと呆れながらもその姿を見守るのだった。

 

 

「……そういう理由だから、スペアポケットは借り続けたままでいいよね!」

「あ、だめ! 返しなさい! 返せー!!!!」

 

 

 やっぱりウララちゃんほどのび太くんは純粋な子じゃないかもしれない。(ドラえもん談)

4話の方向性

  • ウマ娘側視点(雰囲気重め)
  • ドラえもん側視点(雰囲気軽め)
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