ドラえもんは、トレーニング施設の裏に回って、寂しそうに頬杖でまん丸な頭を支えていた。
「やぁ、ドラえもん。こんなところにいたのかね。みんな、キミが居ないもんだから心配していたよ」
そういって汗を掻きながらドラえもんの傍に近寄ってくる榛原トレーナー。おそらく、走り回って探してくれていたのだろう。
「……ボクのひみつ道具のせいで、みんなに迷惑かけちゃった……」
そう言って、ドラえもんはしゅんとする。ハルウララが居なくなりかけたのだから、そう思う気持ちは分からなくもない。
「みんなキミを責めてはいないさ。ありゃ事故だったんだ」
ドラえもんはそれを聞いて、悲しそうに首を振る。
「……こんな事、一回や二回じゃないんです。のび太くんにひみつ道具を貸したら、いっつも裏目に出ちゃうし、それにひみつ道具を使って過去や別の世界に冒険へいったら、誰かが危険な目に遭ったり……」
ジャングルへ大冒険に行った時だとか、『ピー助』を助ける為に白亜紀時代へ向かった時だとか、そんな記憶がドラえもんの中でよみがえる。
「……ボクがネジ一本抜けてて、ポンコツで、落ちこぼれだから……本来あるはずの耳もついてない……」
榛原は白髪を掻き分けるようにして「まいったなぁ」と苦笑しながらどっこいしょと、ドラえもんの横に座る。
「ボクもね。子供の頃にキミのような超常的な存在に憧れてたんだ。――スパイダーマンや鉄腕アトム。知ってる?」
それくらいなら、のび太くんの買った中古漫画にあったりするからドラえもんも読んだ事がある。こくりと頷いた。
彼は自分の思い出話を語り始める。
「よくよく考えたら彼らだって完全無欠の完璧超人じゃない。漫画をよく読み返してみれば失敗だってたくさんしてるし、他人を危険な目に遭わせてる事だってさえある」
榛原は昔を懐かしむように、空を見上げる。それに対してドラえもんは俯いた。
「でも、彼らは『フィクションの存在』だからそれはある意味で許されるんです。ボクの場合、ひみつ道具に甘えさせるあまり、のび太くんを甘えん坊で、ずる賢くて、不出来なままにしちゃってるし……現実に皆を危険に巻き込んでる……だから……」
――未来に、帰った方がいいのかなぁ。
ドラえもんは声に出さず、心の中でぽつりとそう呟く。
その様子を見て、榛原はため息を吐いた。
(善意でやった事だけに、あれは相当応えているんだろうな)
彼の事を何でもやってのける『
「少し昔話をしようか」
そういって榛原は煙草を一本取り出し、火をつけて口に咥える。
「ボクは小さい頃、スパイダーマンや鉄腕アトムみたいな人を助けるヒーローになりたかったんだ。警察官になるか迷ったけど、より子供達の助けになれるトレーナーの方を選んだ」
ふぅっと白い煙を吐き出してから、彼は語り出す。
「……この年になるまで、子供達の力になるのに何度も失敗したよ。それが『取り返しのつかない結果』になった事さえある」
ドラえもんは真剣な表情で、榛原トレーナーの話を聞いた。その瞳はまっすぐで、澄んでいるが悲しげだ。
「誰だって、現実で生きていれば善意で人を傷つけてしまう事は何度だってある。……でもね。私はその責任をほっぽり出して逃げた事だなんて一度もない。それはハッキリ自信を持って言える」
そう言って、彼はドラえもんの頭をグシグシと磨くように撫でた。
しわくちゃの手のひらは大きくて分厚くてゴツゴツしていて。どこか安心感がある。そして、優しく温かい手だった。
「
榛原の言葉を聞いたドラえもんは、ピー助を助けた時も、その他の冒険の時の事も思い返して、静かに頷いた。