「あぁ、見つかったよ」
榛原トレーナーがドラえもんを連れ戻し、今回の騒動も事なきを得る。
「みんな、ごめんね。心配させて」
「ドラえもんったら、いっつもボクに心配掛けさせるなー、って言うクセにー」
「あはは、ボクものび太くんの事笑えないねぇ」
ドラえもんはそう笑いしながら頭をポリポリと掻く。その笑いは何処か気持ちが晴れたように思える。
「ともかく、ごめんなさい。泉の中は深いから、転ばないようにボクも傍についておくべきだったよ」
「だいじょうぶだよドラちゃん! 私は今も、こうしてピンピンしてるし!」
「傍についておくべきという意味では、ドラさんよりも私みたいな大人がちゃんと見張っておくべきでした」
頭を深々と下げるドラえもんに、そういって宥めるハルウララと宗石小春。榛原清允も、小春と同意見とばかりに頷いた。
「ともあれ、皆で一緒に機具を元の位置に戻そうか。早くしないと他のウマ娘がやってきちゃうぞー!」
快活に笑ってみせる榛原トレーナー。なんだか、この人が一同の中でトレーニング機具が新しくなった事を一番喜んでるような……。
(まぁ、トレーナーってそういう人種ですからね)
自分もなんとなくその気持ちが分かって、小春トレーナーは苦笑する。
「でぇ、ぜぇ……」
「がんばれ、がんばれのび太くん」
のび太は持てる範疇で最大の機具を、必死になって運んでいる。それを応援するドラえもん。
「ドラえもん。129.3馬力もあるんだから持ってくれたっていいじゃなぁーい」
「だめだめ。それじゃあ、他人にやらせるクセがついちゃう。ほら見てよ。スネ夫やジャイアンだって、やれる範疇でお手伝いしてるんだよ?」
余所の作業を見れば、確かに彼らも手伝っている。女の子に良いところ見せたいという動機がほとんどだろうが、やってる事は純然たる人助けだからなんとも言えない。
まぁそれは良いとして、のび太としては一つ心配な事があった。
「ドラえもん。今回の事が原因で、ウララちゃんの手助けをやめようなんて言わないよね?」
「…………」
ドラえもんは「のび太くんってそういうところだけは、ずいぶんと鋭いなぁ」と内心で思った。
「実はそう考えてた」
「えぇー!!? この薄情ものォー!!」
のび太はドラえもんに対して大声で批難する。しかしドラえもんは落ち着いた様子で、「違う違う」と身振り手振りで相手をなだめる。
「そう考えてた。……でも、やっぱり最後まで手伝う事にしたんだ」
ドラえもんは何処か真剣な表情で話し始める。
その表情を見て、のび太は何かを感じ取ったのか口を閉ざす。
「ボク達って、誰かが本当に大変な目に遭ってる時に、逃げ出した事なんて案外一度もなかったでしょ」
そりゃそうだ。と、のび太は当然のように頷く。魔界を大冒険した時だって、死んでもおかしくない状況から自分達は逃げられるのに逃げなかった。それは自分達以外の誰かが大変な目に遭ってたからだ。
「だから、今回も、ね? その代わりに、やり方は慎重に考えるって決めたんだ。のび太くんと、それにみんなとも一緒にキチンと考えたりね」
「……! うんっ、みんなで一緒に話し合って、またひみつ道具を使って一緒にウララちゃんを手助けしようね!」
ドラえもんとのび太は、そういう風にニコニコと笑い合った。
そんな二人が笑い合う光景を遠目に眺めて、キングヘイローは自分もやるべき事をやらねばならぬと背中を押される。
「ウララさん」
どこかぼーっとしている様子のハルウララ。彼女は呼びかけられると、ビクッとしたように驚いた。
「な、なぁに? どうしたのキングちゃん」
ハルウララの様子に、キングヘイローは難しい顔をして口籠る。
そもそもの話、こうなっている原因がよく分からぬ。自分の胸の内を正直に明かすとしても、何を話せばいいというのだ。
(メイオーさんったら。まさか適当に誤魔化したってわけじゃないでしょうね……)
そんな感じに悩んでいる間に、先にウララの方から話しかけてきた。
「どうしたの……? 何か、心配事?」
彼女はとても不安そうな面持ちをしていた。まるで自分が不甲斐ないから、相手に負担を掛けてしまっているのだと申し訳なさそうに。
(…………ウララさんの事になると、いつもこういう顔なってたのね。私……)
メイオーの指摘ごもっとも。そう理解して「はぁ~」と長いため息を吐いた。
「……近頃、ウララさんが突然居なくなっちゃうんじゃないかって心配になってるの」
真剣な顔で、ハルウララを見つめる。その表情はいつもの優しく心配してくれるキングヘイローのソレではない。スペシャルウィーク達のような、自分と対等な者に向けるような真っ直ぐな視線だ。
「あはは。どうしてそんな」
キングヘイローの心配を笑って流そうとするが、つい先ほどまでその心配の通りの事をしでかしかけていたのだと思い出す。
『――じゃあ、それでもう、いいかな。』
他人が喜んでくれるからと、そんな風に自分の命を差し出して、自分を納得させていた。
ハルウララの胸の内に、チクリと痛みが走る。
「……そんな事ぜんぜん心配しなくていいよ!! この前みたいに列車で迷子になっちゃう事はあるかもしれないけれど、ドラちゃんやのび太くんがいれば、平気へっちゃら!」
でも、その痛みに耐えて、誤魔化すように明るい笑顔を浮かべて冗談ぶった事を言う。
そんな彼女を、キングヘイローは真っ直ぐな表情のまま、両手を回して抱きしめた。
突然の出来事に、ハルウララは目を白黒させる。
周囲に人もいるから「キングちゃん、恥ずかしいよー」とでもいって遠慮しようとした。
――トクン、トクン、トクン……。
彼女の大きくて柔らかい胸に耳が当たって、心臓の鼓動が伝わってくる。それがとても力強くて……力強いのに優しい音だ。
――温かい。
温かくて心地よい感触。
――……なんだろう。すごく落ち着く。
不思議と心が落ち着くような、ずっとこのままでいたいと思える感覚。
ハルウララの目が細まり、何も言えずにいると、キングヘイローは諭すように語りかけた。
「……“あなた”は“ここ”にいてもいいのよ…………そうじゃなきゃ、誰も喜ばないし、悲しい顔をして泣いてしまうわ……」
それが具体的に何を指しているのか、発言したキングヘイローにさえ理解出来ていない。
ただ、漠然と、直感的に思った言葉が口から勝手に出てしまった。それだけなのだ。
それでも、今のハルウララにとって、“ここ”に居たいという気持ちを繋ぎ止めるにはそれで十分だった。
彼女達の心の内に一つの小さな、それでいて純朴な『ワガママ』が生まれる。
「……ずっと、ここに居て、いいのよ……いいえ、居なさい……」
――いつまで続くか分からないけど、“私”は“私”の夢を見てみたい。皆に、キングちゃんに見せてあげたい……。
……キングヘイローとハルウララは、皆を不安がらせないように、二人だけに分かる形で、少しだけ涙を流した。
史実馬モデルウマ娘の描写についての評価
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