ドラえもん~ハルウララ育成記~   作:稗田之蛙

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PLAN-B

『勝ったのは黒い帽子のノボジャック!! 相方のノボトゥルーに見事一歩近づいたっ!!』

 

 ウイニングランの途中、実況がノボジャックを褒め称え、観客がそれに合わせて大歓声をあげる。

 彼女はそれに腕を振って応えながら、強烈な違和感を覚えていた。 

 ――おかしい。

 自分があの夢に見てきた通りの実力を出せた感動。ハルウララが落ちこぼれなどではなく、やはり秀才や天才にも迫り来る存在であった事が証明された事の嬉しさ。

 それらは素直に受け止められる。榛原トレーナーに面目が立つというものだし、今すぐにでも小春トレーナーと一緒になって「あの位置から追い上げたウララは凄かった」とハルウララを褒めてあげたいくらいだ。

 ――夢に見た光景と同じなら、ここから私は数々の重賞を駆け抜ける。歴史に名が残るくらいの連勝をする。札幌ではレコードだって叩き出せる。

 だからこそ“夢と同じであったはずの箇所に浮かび上がってきた、明らかな相違点”にノボジャックは尋常ならざるが鮮明ではない、曖昧な畏怖を抱いた。

 

 

『夢の中でウォーターダグはあんな位置に居なかった。あんな恐ろしい追い上げ方はしてこなかった』

 

 

 ……その原因がなんであるか、今の彼女には到底分からない。分かるはずもなかった。

 

 黒船賞で決着がついたのとほぼ同時刻。

 アグネスタキオンというウマ娘は学園に度々現れる不思議な青狸の噂を耳にして、興奮冷めやらぬ様相で相部屋のウマ娘に雑談を持ちかけていた。

「実に興味深い! 人間と同じくらい感情豊かに話せるロボットというだけでも大したものなのに、人間があんな小さな竹とんぼで自由自在に空を飛び、一瞬でウマ娘の怪我を治療する絆創膏とは……!!」

 特に『なんでもキズバン』なるありとあらゆる外傷を治すひみつ道具が彼女にとっては鮮烈であった。

 そもそもこのアグネスタキオンというウマ娘、『最強最速のウマ娘』と世間から呼ばれているにも関わらず、走れない。

 だからトレセン学園の『サポート科』と呼ばれるクラスに編入され、将来はウマ娘のサポートに携わるスタッフとなるべく勉強をしている。であるがゆえに、そんなひみつ道具が世に出回ればアグネスタキオンの将来は暇になってしまう。それだけでも無視出来る存在ではないが、様々なウマ娘達の大怪我や大病を取り除けるであろう事も見逃せない。

「ぜひとも、サンプルを入手したいものだ!! 量産化に成功すれば、我々の手によって全ウマ娘達が怪我や病気を克服したも同然だろう!?」

 そういう話を自分の後ろにいるウマ娘に向けた。

 

「そ、そんな都合良くいきますかねタキオンしゃん……」

 

 聞き役に徹していたウマ娘が、困ったような声を返す。アグネスタキオンは「ふぅん」と考え込んだ後、そのウマ娘にこういった。

「キミだって、便利な道具があれば、あれこれ妄想したりしないかい。自分がウマ娘の中で最強になるだとか」

「あたしは、一緒に走るウマ娘ちゃんに失礼だから、そんな道具を使うなんて考える事もできません……」

「じゃあ脳内で思い描いた想像をそのまま絵として出力してくれるひみつ道具とか」

「うぐっ、そ、それは欲しいかも……」

 相手を言い負かせて満足するように笑みを浮かべた後、アグネスタキオンは青狸についての話を続ける。

「ともあれ、飢餓に苦しむ国に無尽蔵の栗饅頭を与えるとか。あるいは死んでしまった大切な飼い犬を生き返らせようとするだとか。『こういう道具があれば、あんな事が出来るのに』だなんて考えは誰だって抱いておくべきだ。それは、決して悪い事でもバカにされるべきでもない。なんたって人類とウマ娘達はその幼心から文化や科学を発展させてきたに等しいのだからね」

 その理屈は正論のように思えるし、実際に大怪我が治るのならそれ自体がウマ娘にとって悪ではないのかもしれない。

 特に、アグネスタキオンがそう言うならば。

 

「手に入ったら、自分に使うつもりですか?」

 そのウマ娘は複雑な表情をしながら、青狸の情報を他のウマ娘から仕入れる為にもアグネスタキオンが乗っかる車椅子をゆっくりと押していく。

「いいや、それは面倒だからやめておこう。治ってしまえば、きっとレースに出場してくれと外野が煩がる」

 そう言ってアグネスタキオンは自分の脚をペチンと叩いた。その脚は枯れ枝のように痩せ細っている。

「私はね。純粋に、ウマ娘の誰かが大怪我をして苦しんだり、あるいは死んでしまうのが見ていられないだけだよ。だからこそのサポーター科に転入するという《プランB》だ」

 アグネスタキオンは、自分の脚に目を向けながら続ける。そこには後悔や悲哀の色は含まれていない。

 あくまで淡々と、ただ事実を語るように。

 

「その点においては、自身のサブトレーナーの事はもっと信頼してくれたっていいんじゃないかね。デジタルくん――いや、『アグネスデジタル』」

 

 車椅子を押すウマ娘の名を、まるで「そろそろキミの出番だ」と言わんばかりに口にした。

シニア重賞《黒船》編の内容の評価について

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