ドラえもん~ハルウララ育成記~   作:稗田之蛙

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シニア重賞《東京スプリント》編
『インスタントコピー機』


「ウララ、お元気で。また会いましょう」

 ハルウララ達が高知から発つ日、春休みの時期だというにも拘わらず、見送り会を開いてもらう事になった。

 黒船賞で関わったウマ娘達はもちろん、他のウマ娘だとか、高知の職員だとか、とにかく大勢の者が見送りに来ていた。

 そしてその中にはウォーターダグの姿もあった。彼女は当然ジャックにも別れの一言。

「ジャック! お前にはいつかまた黒船賞で勝たせてもらうからな!」

 そういって、挑戦状を叩きつける。ノボジャックは微妙な笑みを浮かべる。

(その時も、この子が夢の中で見た時より強くなってたらどうしようかなぁ……)

 この子とはこれからも黒船賞で何度も戦う事になる気がする。その時にまたこの子に勝てるかどうかは、もはや分からない。

 本心では自分の正夢が崩れるのではないかと、曖昧な恐れを抱いてもいるが……。

「……私だって負けないつもりで戦うよ」

 それと同時に、アスリート選手としては心に燃えるものがある。楽しい気持ちがある。前向きな気持ちが、恐怖を最小限に抑えてくれる。

 そうやって笑顔を向けるジャックにダグも応えるように笑顔を返す。

 ウララの周囲に集まるものは、自然と笑顔になっていた。だから、今回の別れも涙を落とすものは誰も居ない。

「わー、うららちゃんだー!」

 そんなこんなでそれぞれが別れの挨拶をしていると、校門の方から幼き大声がウララに向けられる。どうやら小学生達と保護者の集団がいるらしい。

 複数人の年長者ウマ娘と職員達がそれらを引率するように先頭に立って学園の案内をしている。

「小春トレーナー、榛原トレーナー。あれって?」

 ハルウララがトレーナーに尋ねると、彼らはヤケに微笑ましそうな顔を浮かべて答えてくれた。

「あぁ、一種の体験入学……みたいですね。小学生のウマ娘に、『トレセン学園はこういう場所ですよー』って予め慣れさせる為の」

「一週間後に入学してくる子の為なのはもちろん、トレセンに入学するか迷ってる高学年の小学生への判断材料や、年長組や卒業する生徒の思い出作りも兼ねてるね。まぁ卒業生は自主参加だろうけど」

 トレーナー二人は嬉しそうに語る。職員である彼らにとってはある種の神聖的な儀礼だから、その光景がとても眩しく見えた。

「そっか! 私もちょっと挨拶してきていいかな?」

 キラキラとした顔で高知トレセンの職員に確認を取る。小学生達に負けないくらいの輝きを放つ瞳だ。

 これではどちらが幼いのか分からない。職員は苦笑しながらも、快く承諾してくれた。

「やったー!」

 ハルウララはウキウキ気分で、大げさなスキップしながらそちらへ向かう。

 その姿はまるで、無邪気な幼子のようだ。ハルウララが集団の方へ行くと、まるでアニメのヒーローがそのままやってきたみたいにきゃあきゃあと黄色い声が子供達から湧き上がった。保護者達も似たような声をあげている。

 ……いや、まぁ、よくよく考えてみればそりゃそうだろう。ファン数で考えればハルウララはウマ娘の中でもトップアイドル。しかも今までの戦歴からして高知が主戦場なのだから、現地人からしてみれば地元を代表するマスコットみたいなものだ。あの反応も致し方がないのかもしれない。

「うららちゃーん!!」

「ファンです! サイン下さい!」

 ハルウララは予想以上の歓迎に、照れながらもニコニコ顔で手を振っていたりサインに応じたりしている。

 そんな事をしていると、集団の中でも特に年少組のウマ娘がこちらに駆け寄ってくる。その小さなウマ娘は興奮気味に話しかけてきた。

「あくしゅしてくださいっ」

「うん、いいよ! お名前は?」

「ぐらんしゅばりえ! しょうらい、おねえちゃんみたいなにんきもののウマむすめになるの!」

 グランシュバリエというウマ娘が羨望と尊敬の眼差しで握手を求めると、ハルウララも快く笑顔を浮かべて握手に応じる。

「バリエちゃん、ウララお姉ちゃんもその夢、応援してるねっ!」

 そういう風にぎゅっと握手を交わす。グランシュバリエの瞳がキラキラと輝いた。

 ノボジャックは「あぁいう市民からの人気については勝てないなぁ」と、ハルウララの様子に苦笑いする。

「ジャック。お前も混ざってくるか?」

 そんな彼女に榛原トレーナーが声をかける。高知から発つべき時間までまだまだ余裕はある。

 彼女は小さく頷き、高知から出発する前の思い出作りとして集団に混ざっていった。

 

「ねぇねぇ、ハルウララお姉ちゃん達と走りたい!」

 そういう声があがったのは、ハルウララとノボジャックがその集団に混ざってからしばらくの事である。

「わたし、一緒にジャックのお姉ちゃんとウイニングライブもしてみたいわ」

「わたしも! 卒業していくお姉ちゃん達だって、どれくらい速いのか知りたいわ!」

 さらに別の少女達がそんな事を言い出す。どうやら彼女達は、先輩のウマ娘達と共に同じ舞台に立ちたいという願望を持っているらしい。

「確かに、練習場所で体験レースを開く事になっていますが、ライブですか……」

 高知トレセン職員は子供達が和気藹々とそう言い出したのを受けて、ちょっと困ったような顔をする。ハルウララやノボジャックを疲れさせるのもそうだが、テレビで見られるような派手なライブは提供出来ない。幼心をがっかりさせてしまうかもしれない。

「……私は構いません」

「そうね。せっかくの思い出作りだし」

 ノボジャックと卒業生は、小学生達が参加する体験レースへの協力はかなり乗り気である。ハルウララも、何度もしきりに頷いていた。

 と、なれば問題はライブの方だ。今から舞台を用意するとしても、皆が普段練習で使うようなこじんまりとしたセットしか用意出来ないだろう。

 職員がそんな風に悩んでいると、ハルウララとノボジャックは顔を見合わせた。

「……うってつけなのがいましたね」

「うん、またドラちゃん達を頼ろう!」

 

 

 視点はドラえもんとのび太の方に移る。 

「ドラえもん、春休みが長くなる道具だしてよぉぉ!! 勉強勉強ばっかで気が狂っちゃうよぉぉ!!!」

「…………」

 ドラえもんは呆れてものも言えない。成長したかといえば、またこんな素っ頓狂な事を言ってくる。

 いや、しかしドラえもんが呆然としているのはのび太が情けないからだけではない。

 ジャイアンやスネ夫、静香ちゃんといった普段の顔ぶれから、安雄、はる夫……そういったクラスメイトが十数人も大挙して押し寄せてきたからだ。

「なんだなんだ。もしかして、みんなも春休みを長くしてほしいってか!?」

 ドラえもんがそういって驚くと、皆は一様に頷いた。

「かあちゃん、春休みの間はオレに店番押し付けてまったく遊ぶ暇なかったんだぜ!」

「ボクだってパパが忙しいからって何処にも連れて行ってもらえなかったんだよッ!!」

「わたしも、ピアノのお稽古がみっちり……」

 クラスメイトが各々の不満を漏らす。春休みは他の長期休みと比べて、期間が短い。その上、時期が時期なだけに大人達も大忙し。静香ちゃんやのび太のように、新学年に向けて勉学を保つ必要もある。

 仕方ない事とはいえ、それを子供達に「理解しろ、我慢しろ、ワガママだ」と言うのはかわいそうだ。

「ドラえもん! 皆がかわいそうだと思わないのか!? たった一日、一日でもいいんだ。ボク達に自由な時間をちょうだいっ!」

 のび太の懇願に続いて皆も同じように訴えかけてくる。ドラえもんも、今回ばかりはさすがに折れた。

「うぅん、それじゃあ……」

 

『インスタントコピー機~っ!!』

 

インスタントコピー機:コピーしたい人にレンズを向けてスイッチを押し、コピーしたい人数を設定すると、その数だけ本人そっくりなインスタントコピーロボットを作り出すことができる。

 

「はい、チーズどらやき」

 ドラえもんがのび太の写真を撮影すると、ひみつ道具によってのび太そっくりのコピーロボットが出来上がった。

「わぁ、ボクが二人になった」

『えぇ、ボクが勉強する側?!』

 自分の姿にびっくりするのび太と、代わりに勉強させられる事に辟易とするのび太。皆にひみつ道具の説明をするドラえもん。

「この道具はね。もう一人の分身を作る。戻し方も簡単だから、今日一日はもう一人の自分にお仕事やお勉強を頼んじゃおう」

 そういうと、皆も意気揚々と写真の被写体となっていく。

 そうして、一人、また一人と、コピーロボット達が増えていった。コピーロボット達は皆一様に不満げだが、本体が気晴らしにいくのだから致し方ないといった様子で受け入れている。

『……ボクが休む側じゃだめなの? 本体がお勉強してさぁ』

「イヤだいイヤだい! 今日だけは門限破ってでも遊ぶんだぁ!」

 それはどうかと思う。ドラえもんはそう思いつつも、皆の分身を生成し終えたところで、一階の方からドラえもんを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ドラちゃ~ん。キングヘイローさんからお電話よ~」

「あぁ、はいはい。そろそろ一緒に迎えに行く時間帯だね」

 皆がお互いの分身に頼み込んだり諭している中、ドラえもんは一階へと降りていく。

 電話を受け取り、ドラえもんは受話器に話しかける。

「もしもし、お電話かわりました。ボクドラえもんです」

『あ、ドラさん? キングよ。高知にどこでもドアで迎えに行こうかと思うんだけど、ちょっと相談したい事が……』

「はいはい? どうぞボクに出来る事ならば」

 キングヘイローならレースで卑怯な事を手助けしろと言わないだろうと、すでに一種の信頼が二人の間に築かれている。

 そんな関係性はドラえもんとキングヘイローは立場的に近いものがあったせいかもしれない。

『前に、地球はかいばくだんを映画仕立てで説明した時があるじゃない。あの時のひみつ道具をお借りしたいんだけど……』

「え、地球を破壊するんですか?!」

『違うわよ!? ……いえ、そうじゃなくて、万能舞台装置っていう名前のひみつ道具の事』

 映画仕立てで説明した時、映画館に写し出されるような光景を一瞬で作り上げた万能舞台装置。それらを高知トレセンの学生達の為に使いたいと、キングヘイローを経由してドラえもんに要請があったのだ。

「あと今までのお礼も兼ねて、小春トレーナーと榛原トレーナーがドラさんが好きなどら焼きをたくさん用意してくれててね」

「どら焼きっっ!!!!! ボクへのお礼にたくさんのどら焼き!!!?」

『……いえ、のび太さんへの分もあるわよ?』

 どら焼きも貰えるし、のび太くんのような年代やそれ以下の子供達の為にもなると聞けば……ドラえもんとしては特に断る理由もない。

「いきますいきます! すぐいかせていただきます!! キングさんと一緒に、高知トレセンの方に行けば、いいんですね!!」

『えぇ、宜しくお願いね。いつもありがとう、ドラさん。それじゃあ、また後で』

 そんなやり取りをして、ドラえもんも受話器を置く。ドラえもんの頭の中はどら焼きでいっぱいだった。

 ニコニコしながら後ろに振り返ると……のび太くん達一同がニヤニヤしたような、あるいは何か期待したような顔でドラえもんの背後に迫っていた。

「な、なんだい!! ボクのどら焼き奪おうったって、そうはいかないぞ!! どら焼きはボクのもんだ!!!」

 自分へのお礼が奪われると感じて、思わず声を荒げるドラえもん。

 だが、皆もその言葉に対して笑みを浮かべながらドラえもんの周りを取り囲んでいく。

 そして、皆が口々に言う。

「ドラえもん、ボク達も高知につれてってよ!」

ホネカワメイオーの作中内での役回り、及び描写

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