「わぁ、キングヘイローだ! 本物だ!」
「すげぇ、テレビで見たまんまだ」
わいのわいの。安雄、はる夫、その他のクラスメイトがトレセン学園の校門前で待っていたキングヘイローを取り囲んで、握手やサインをねだっている。
「はいはい、こちらに並んで。校門塞がない。わかった?」
「はーい!!!」
キングヘイローはもはやこういった騒ぎには慣れたものなのか、動揺する素振りもなく一人一人にファンサービスを執り行っていく。
「……おい、聞いてねぇぞ。坊ちゃん」
「えへへ、兄さんやパパやママには内緒ね?」
同じく待ち合わせていたホネカワメイオーはスネ夫が家出紛いの事をやらかそうとしていると分かって、顔を顰める。
スネ吉トレーナーに伝えた方がいいのかもしれないが、彼らの気持ちも正直分かる。何故なら春休みが短すぎるのは学生にとって共通認識だ。
だから彼らには一言忠告するだけに留めた。
「絶対危険な事しねぇで下さいよ。……他の奴らもだ! いいな!?」
「はーい」
キングヘイローとメイオーに対する態度の落差が激しい。メイオーは「チッ、可愛くねぇなぁ」と、また顔を顰めた。
とはいえ、その点においていちいちヘソを曲げていてはオトナゲない。こちらはこちらの準備を果たすべく、キングヘイローの方に向き直った。
「確か高知トレセンの新入生とかの為にライブを豪華にしたい、っつー事だったか?」
「えぇ、その為にドラさんを呼んだの」
メイオーは成る程と納得した。映画アルマゲドンばりの映像を即興で作ったりする道具があるのだから、自分達がウイニングライブをやる時のような豪華な演出はお手の物だろう。
「………………」
しかし、メイオーは「なんかズレてる」と感じた。これはまだ一流と呼ぶに程遠い中堅ウマ娘としての感覚だが……子供達は「キングヘイローやハルウララ、ノボジャックのような重賞を勝った事のあるスターと一緒に踊る事に憧れている」のであって、ステージの豪華さは二の次であるような気がする。もちろん、そうである事に越したことはないが。
例をあげれば、今まさに大スターのキングヘイローと会えて興奮している小学生達を見ていると、自分が好きな芸能人に会った時のような喜び方をしているのがわかる。子供達はそういう事については単純であり、純粋だ。
『ハルウララやキングヘイローのライブが生で見られそうだから』
そういう理由でドラえもんについてきたのがその証左だ。
(……それに問題はそれだけじゃあねぇんだよなぁ……)
持たざる者だからこそ分かってしまう部分もある。具体的には『そんな舞台では卒業生の立場が喰われる』。
体験入学でライブを開いたならば、その場は何の反対もなくセンターやその左右はハルウララやキングヘイロー、ノボジャックが独占するだろう。そしてそれを子供達は大いに喜ぶ。保護者や職員も拍手喝采だ。その喜びの感情は純粋なだけに、とても残酷だ。
そうやって子供達を含めたウマ娘達が、憧れの舞台に立つ事がどれほど難しいのかをも学ぶ。
「どうしたの、メイオーさん」
「何か困った事でもあった?」
キングヘイローとドラえもんが不思議そうにメイオーの顔を伺う。
メイオーは少し考え込んだ後、その感想を全て二人に正直に打ち明けた。ここまでの付き合いからして、彼らはそれを不快に思ったりしないだろうという信頼はあったから。
「……言われてみれば確かにその通りね」
キングヘイローもメイオーの言葉を聞いて、静かに頷いた。
「とはいえ、やめろって言ってるわけじゃねぇんだ。つーか、コレについちゃ明確な答えが出てたらアタシ達は普段からウイニングライブで『センターに立ちたい』だとか『バックダンサーに立つのは嫌だ』なんて悩んでねぇよ」
メイオーはそう言いながら頭を掻く。
キングヘイローもそれは痛いほど理解出来る。高松宮記念に勝つまでにも、何度も苦渋を味わってきた。
この点についてはドラえもんも一緒に悩んではくれるが、特に解決策に繋がるような事は思いつかない。結局のところ、そういう複雑な根源はウマ娘達やそのトレーナーくらいにしか解決出来ない問題なのだ。
キングヘイローは腕を組み、少しの間目を瞑って考える。
やがて目を開き、こう切り出した。
「《グランドライブ再建計画》」
メイオーがそれを聞いて驚く。まさか先の問題点について真っ向から解決しようとは思ってなかったからだ。
「ライトハローっつーヤツが提案したセンターやバックダンサーの概念を捨てた全員の為のライブだったか? だが、あの計画はまだ中途だから参考にするには……」
グランドライブ。今は主流となったURAが開催のウイニングライブとは違い、ウマ娘が自主的に開いていたライブ。
そこに勝者や敗者の概念はなく、ウマ娘一人一人が主役として観客達に感謝を伝えるものだったらしい。
様々な事情で今現在では廃れてしまったが、スマートファルコン、サイレンススズカ、ミホノブルボン、アグネスタキオンの四人の生徒が主導となってレースの傍らにライトハローというOBとの協力で再建計画が続いている。
「それでも、ライトハローさんにお話を聞いてみるべき案件だとは思うの」
「……まぁ、それにゃ同意するけど。ウララ迎えに行く時間までにライトハローやその四人の内の誰かが見つかるっつーのか?」
その問いにはキングヘイローは答えられなかった。春休みの時期なのもあって、いきなりライトハローへ相談する伝を見つけるのは少し難しいかもしれない。
そんな風にウマ娘二人が悩んでいると、話を聞いていた静香ちゃんやのび太の方から一つ提案があった。
「ねぇ、そのお話だとあの道具使えない? ドラちゃん」
「そう、あの。なんだっけ。七人の侍って名前の道具」
「名前ちょっと違うけどね。でも、二人がどの道具の事を言っているのかは分かったよ」
そういって四次元ポケットに手を突っ込むドラえもん。
七人の知り合い:この道具を頭に被ると、自分が望む人と知り合いになることができる。世界の人々は間にだいたい6人の知り合いをはさめばつながっているので、1人目が2人目を紹介し、2人目が3人目を紹介し……という感じで、7人目でたどりつくことができる。
「知り合いの人の、そのまた知り合いの人の、さらにそのまた知り合いの人の……と、人脈をたどっていくと、世界中のどんな人へも、7人以内でたどり着ける。これはそれを手助けする為の道具なのさ」
つまりは『六次の隔たり』という理論を現したひみつ道具らしい。
話に聞く限りは目的の人物と知り合いになる手助けをしてくれる機能もあるらしいし、まさに今回の悩みに打って付けの道具なのであるが……。
メイオーとキングヘイローは悩ましげに目を細めた。
「……チョンマゲ?」
「いや、まぁ名前からして元ネタに寄らせたのは分かるがよぅ……」
二人はハゲかつらにチョンマゲがついているひみつ道具を見つめた。時代劇かコント番組で出演者がつけるようなカツラのソレだ。
「でも誰かが装着しないと使えないよ」
ドラえもんがそう言うと、二人は渋々それを使う事を前向きに考え込んだ。
「まぁ、そうよね。出来る限り四人の内の誰かに近しい人が装着すべきね」
「そうだな。この中でウマ娘の知り合いが多いっていえば……」
この場にいる全員の視線がキングヘイローに集まる。
「……ちょっと。ちょっと冗談よね。私、こんなの装着したくないわ」
ちょんまげのついたハゲかつら。一流のフォルムには程遠い。というかキングじゃなくても女性が付けるべき代物ではないような気がする。
ホネカワメイオーは無言のまま、キングヘイローの後ろに回って羽交い締めにする。
「ちょっと! メイオーさん!? 六次の隔たりの理論なら貴女が付けたってライトハローさんに繋がるでしょ!!? のび太さんもそんなカツラ近づけないで! かぶせないで! ストップ!! ストップ!!!!!」
いやぁぁぁぁあ~~!!
……この日、キングヘイローの甲高い悲鳴が春休みのトレセン学園に響いたという。