ドラえもん~ハルウララ育成記~   作:稗田之蛙

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呼び出し

『今から校舎裏に来てくれたまえ』

 

 アグネスデジタルは、テイエムオペラオーからそんなショートメールを受け取った。

(……校舎裏って事はヤキ入れ? カツアゲ? いや、オペラオーさんはそんな事は絶対にしないだろうし……)

 デジタルは相手の人柄から何か用事があるのだと判断する。しかし、あんな芝路線最強と謳われるオペラオーから自分への用事など……。

(まさかレースで果たし合いの申込み? スポ根漫画でよく出てくるような)

 デジタルはそこにも想像を巡らせるが、それもいまいちしっくり来ない。「そういう役回りはあたしよりアヤベさんやドトウさんの方が……」と考え、その線も捨てた。

「どうしたんだい? デジタルくん」

 デジタルが押していた車椅子、それに乗っかっているタキオンが顔をあげた。

 車椅子の背もたれに体重を掛けながら、デジタルの顔を下から覗き込むような仕草をする。

「えぇっと、オペラオーさんから呼び出しが。校舎裏に行って参ります」

 彼女はデジタルの言葉を聞いて、無表情のまま「ふぅん」と呟いた。

 そのまましばらく黙ったままでいたが、やがてタキオンは唐突な言葉を投げる。

「ついていっていいかい?」

 タキオンはいつもよりも平淡な声で、しかし、どことなく別の感情を滲ませた眼で訊ねてきた。

 デジタルは普段とは違う様子に首を傾げたが、断る理由も特にない。

 そのままタキオンの車椅子を押しながら、校舎裏へ向かう。

「あたしなんかに何の用事なんでしょうねぇ」

 デジタルはそうぼやくと、タキオンはやはり平淡な口調で答える。

「果たし合いではないかね? デジタルくんはヤケに自己評価が低いが、キミはテイエムオペラオーに負けないくらい凄いウマ娘だと思うよ」

 デジタルはその褒め言葉に「あはは」と乾いた笑いが出た。

 ジュニアクラス最強最速と呼ばれたアグネスタキオンや、芝路線最強のテイエムオペラオー。それに追随する実力を持つメイショウドトウ。デジタルも真剣な時こそミーハーな性分はパージしているが、彼女達と同じくらいの実力があると普段から公言出来る胆力はまだない。

 彼女の乾いた笑いを聞いて、タキオンは何か考え事をするように腕を組んだ。

 そうして、彼女はぽつりと呟く。

「……じゃあやっぱりラブレターを渡したい、とか」

 タキオンはからかってるのか本気でそう考えているのか分からない声色で言葉を漏らした。

 それがデジたんの耳に入り、その足が止まって、車椅子も止まる。

「そ、それってつまり、あたしがオペラオーさんに告白されるって事ですかぁ?!!」

 デジたんは顔を真っ赤にして耳と尻尾をパタつかせ、タキオンは「さぁ?」と白々しく肩をすくめた。

「そ、そんな!! オペラオーさんも歴とした女の子ですし、あたしも女の子だから女の子同士でそんなワケ……」

「その倫理を理解した上で『尻尾の気持ち』を描き上げたのは関心に値するよ」

「うぐっっっ!!!」

 デジたんは痛いところを突かれたように胸を押さえて苦しむような仕草をした。

 尊いウマ娘ちゃん達がレースやトレーニングを通じて友情を深め合う物語。ナマモノ同人誌。ナマモノだけでも禁忌だというのに、その本に出てくるモデルはデジたんの学友たち。

「で、でも。あれはファンタジーというか! フィクションといいますかっ!! そもそもソッチ方面はおまけ程度に抑えたつもりで……」

 デジたんはゴニョゴニョと言い訳をするが、タキオンはその辺りについては聞き流してあげた。

 正直なところ、タキオンにとってデジタルを呼び寄せられた理由については大体の候補が絞れている。でなきゃわざわざついていこうとは思わない。デジタルかタキオンの助力が必要、かつ真面目な用件だろう。オペラオーという人物はあんな性格なだけに、その辺りは信用が置ける。

「……それに、女の子同士とか抜きにしても、ほら、あたしなんかよりもっと相応しい人がきっといるはずで……」

 デジタルはぶつくさと独り言を続けていた。頬を赤くしたまま、頭から湯気を出しそうな勢いだ。尻尾も風を巻き起こすくらいブンブンと振り回している。

 

 ――とはいえ、こんな風に舞い上がられると面白くはないけどねぇ。

 

 タキオンはそう思いながらも、口には出さなかった。

 

 

 デジタルが期待に眼を爛々させて校舎裏へ辿り着いてみれば、そこにいたのはオペラオーと大勢のウマ娘ちゃん。見知らぬ子供達。

 デジタルはオペラオーが集めた面子を見て、安堵した。彼女の目的が果たし合いやラブレターの類ではなさそうだから。

 ……いや、そんな事よりもデジタルにとって気になる事が。

「やぁ、よく来てくれたデジタルくん! キミに頼みたい事があるんだ!」

 そういって爽やかな笑顔を見せるオペラオーが、何故かチョンマゲのついたハゲカツラを装着している。しかも誇らしげに。正月の時に着ていた和装もセットで。

「コント風のカツラでも難なく着こなせるボク!」

「……実際そのままバラエティのゲストに出ても違和感ないわね」

 グラスワンダーやセイウンスカイとは違って、カツラが滑稽であろうとそれに怯まず名優として振る舞う覇王魂。堂々としすぎて逆に似合ってる。

 キングヘイローはその様子に肩を落としながらも、やってきてくれたデジタルとタキオンにこれまでの経緯を説明した。

「成る程、やはりついてきて正解だったね」

 グランドライブ再建計画について話を聞きたいと分かれば。タキオンは渡されたカツラをしたり顔で被りながら、ポケットから携帯を取り出してライトハローとの通話を始めた。ここまでくれば、あとはライトハローというOBの都合次第。ひとまず一件落着。

 その様子の横で、デジタルはちょっと安心したような笑みを浮かべた。

(あぁ、あたしじゃなくてタキオンさんに用事があったんだ……)

 周囲のウマ娘を見れば、デジタルからすれば眩しく見える程の名優揃いである。黄金世代と謳われる五人。テイエムオペラオー。

 十数人に及ぶ人間の子供達も、彼女達へ憧憬の視線を向けている。当然だ、彼女達は全員G1を勝ったウマ娘。

 デジタルはこの場にいるのが恐縮だとばかりに萎縮した。

 

 そんな風に顔を伏せっていると、突如後ろから羽交い締めにされる。

「おーい、コイツも連れて行くか?」

 ホネカワメイオー。小柄な体躯のウマ娘。デジタルよりもちょっと大きいくらいで、それでいてガラが悪い。

 そんな彼女にデジタルは人質のように拘束された。

「なんですかぁ……? ……ホントにヤキ入れだったんですかぁ……?」

 デジタルは見知らぬウマ娘ちゃんに急接近され目を丸くして慌てたが、メイオーは彼女の性分をよく知らないから気にしない。

「ちげぇよ。子供達の前でグランドライブみたいな事やるっつー話なら人数が必要だろ。アタシや高知の生徒込みでも足りねぇだろうし、お前が要る」

「あ、あの、その……」

 デジタルはどうして良いか分からず戸惑った。

「あ、あたしみたいな小市民が、スペシャルウィークさん達みたいな大物と一緒に踊っちゃっていいんですか!!?」

「ハァッ!?」

 デジタルが尻込みしてそんな事を言うと、それを聞いたメイオーは思わず彼女の正気を疑うような声を出した。

 その声にデジタルはびくりと体を震わせて耳としっぽを逆立てる。

 メイオーは彼女の態度にバツが悪そうな顔をして、羽交い締めを解くなりキングヘイローの方をアグネスデジタルの体を向けさせた。

 キングヘイローもそれを受けて、去年の夏合宿*1を思い返して肩を竦める。

「デジタルさん。……相変わらず、おばかね」

「え……?」

「この一流のキングヘイローにG1で勝った事があるのだから、貴方も既に一流のウマ娘なのよ? そんな貴方が小市民を気取るだなんて、そっちの方がおこがましいわ」

 そう言ってキングヘイローは呆れたような、微笑むような、そんな微妙な表情でデジタルを叱る。

 フェブラリーステークスの時にメイオーと話した作戦会議を引き合いに出せば、確かにアグネスデジタルはG3でサンフォードシチーに負けた。

 しかしその負けた直後に、G1《マイルCS》でキングヘイローと競い合って一着を取った。キングヘイローからしてみれば、そのレースは紛れもなく自分と渡り合った素晴らしいものなのだ。あれが一流の走りでなければ、同じレースを走った者達は何するものぞ。

 オペラオーを含めたウマ娘の皆も、それに同意するように首肯する。

「う、うぅぅ~、恐悦至極にござりますっ……!!」

「ちょ、ちょっと」

 まるでキングヘイローを女神様か、それとも仏様の如く崇め奉るかのような仕草でデジタルは拝んだ。尊いウマ娘ちゃん達が勢揃い。ありがたい言葉も頂いて、どんなお願いだろうと聞かない訳にはいかない。

「あたしが、体験ライブとはいえあたしが皆さんと一緒の舞台にっ!! あぁぁぁぁあああ! どうしよう、今から想像しただけで尊すぎて心臓が破裂してしまいそうです!」

 デジタルはその場で嬉しさのあまりぴょんぴょん跳ねた。ハルウララと同じように見えて、違う方向性の喜びの表現。それはデジタルらしいとも言える。その様子に、周囲のウマ娘はそれぞれ笑う。

「……通話終わったよ。ちょうどいつもの練習場所にいるから、すぐこっちに来るって」

 そしてタキオンは見事ライトハローというOBとの約束を取り付けてくれたようだ。デジタルはその言葉に更に歓喜の声を上げる。

 スペシャルウィーク達はその様子に笑いながら、これからの段取りを話し合い始める。

 彼女達の話とはまるで独立するようにして、タキオンは車椅子の車輪に手をかけて十数人の子供達の方へ近づいていく。いや、その集団というよりも、その中の一人……一体に対してだ。

 

「初めまして。ドラえもん」

 

 トレセン学園で目撃される、不思議なひみつ道具を使いこなす青いロボット。

 その正体が目の前に居る事で、タキオンの瞳には好奇の色が妖しいくらいに爛々と輝いていた。

*1
アプリ版のアグネスデジタル育成の二年目夏合宿を参照のこと

作中描写において読者が求める関係性や描写の調査(R-15未満前提)

  • ニシ×ウンみたいなノリの軽く明るい関係性
  • タキ×デジみたいなシリアス重バ場な関係性
  • 小春orキン×ウラのスポ根よろしく師弟愛
  • ドラえもんorのび太絡みの純粋な友情描写
  • のび太×ウマ娘ネームドの恋愛絡み
  • ウマ娘ネームド×ウマ娘ネームドの恋愛絡み
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