ウイングアロー。それがそのウマ娘の名前。
彼女は新幹線を使い、東京から高知へやってきた。春休みを休暇に使う目的なのはもちろんなのだが、彼女にはそれ以上にどうしても会っておきたい人物がいた。
(ノボジャック、見事に調子を取り戻したみたいだ)
自身のスマートフォンでその相手が出場している《黒船賞》の録画を何度も見返す。それはノボジャックが初めての重賞を獲得したレースで、ウイングアローがある意味で最も気にしていたレースだった。結果としては、ノボジャックが格上を相手に余力を残して1バ身差の勝利。
(あぁ、やっぱりボクの見込んだ通りだ! この子もダートの次代を担う一人になってくれる!)
ウイングアローの目から見たら、そのレースの内容はノボジャックの強さを見せつけた理想的なレースだと言える。
ただ一つ残念だった事は、ハルウララがそのまま2着3着にあがって来なかった事だ。
後方群のせいか、その走り方は実況のカメラにもよく映っていない。ただ7バ身離されて絶望的な状況から、終盤で一気に巻き返してカメラに入り込んでいた場面が鮮明に刻まれている。
(……“アキツテイオー”*1)
ハルウララが本領を発揮する場面を見て、ウイングアローはとあるウマ娘の名が自然と思い浮かんだ。秋の天皇賞、マイルCS、安田記念を制覇したウマ娘。引退試合の宝塚記念ですらタマモクロスと1着2着の覇を競い合った伝説級の走者、アキツテイオー。
ハルウララの小柄な容姿や逃げを不得意とする脚質は、アキツテイオーとまるで正反対にある。しかし、このラストスパートだけは紛れもなく、アキツテイオーの走りに似た力強さと圧迫感を感じさせる代物だった。
(とはいえ、道中がなぁ……)
ハルウララの最大の強みは終盤の驚異的な速度にあるが、ウイングアローから言わせれば彼女はそれだけではカバーしきれないほど道中の駆け引きが下手だ。もっと言えば、レースの主導権を完全に他者へ委ねている。
だからレース展開か、あるいはバ場がハルウララに有利へ働かないとその真価を発揮出来ない。格上相手に好成績を出した1勝クラスと根岸の成績がその最たる例だ。
(ノボジャックは背中を押してあげるだけでよかったけど、ハルウララの場合は……そうだなぁ……)
ウイングアローはハルウララに会うのが今から楽しみだと心躍らせた。そういう形で高知トレセンに足を運ぶ。
「…………………」
いざ来てみれば、校門で子供達に囲まれていたノボジャックに凄い顔で睨まれた。
どうやらひみつ道具の事について怒っているらしい。
「あれぇ、おかしいねぇ。感謝されてもいいのにねぇ?」
ウイングアローはわざとらしく悪者ぶった笑みを浮かべると、ノボジャックはますます顔をしかめた。
そしてそのままの表情で、彼女は鞄から《SHYRA GUM》と印字されたガムをウイングアローに押し付けてくる。
「……返します」
「え、使わなかったの? 一枚も?」
その問いにノボジャックは小さくうなずいた。
ウイングアローは本心から意外そうな顔をしながら《SHYRA GUM》の袋を破いて、口に放り込む。
「この《SHYRA GUM》が、ただのガムだって気づいてた?」
「はい。わりと早い段階から」
ノボジャックは質問に対して首を縦に振って答えた。
『シャラガム』:ただのガム。ドラえもんは「このガムを噛むとガムシャラになる。やろうと思ったことは何でもやり遂げる力がつく」と説明して、このガムをのび太に食べさせた事がある。
「演技にも自信があったんだけどなぁ。ポケットやガムだってドラえもんからわざわざ借りたのにさ」
その言葉に対して、ノボジャックは見せつけるように大きなため息をついた。
「それ以上に、ドラえもんとウララの性格から考えてあの話は嘘臭いです。特にウララなんてあんなに分かりやすい性格をしているんですから」
ノボジャックはそんな事をハッキリと言いのけた。それを聞いて、ウイングアローは呆気に取られた顔をする。
「……あれぇ、ボクが誤解をといて仲直りさせるまでもなく? 既に二人と仲良くなっちゃってたりする?」
「仲良くなれたかどうかはともかく、その用件なら無駄足でしたね」
ウイングアローは乾いた笑いを浮かべ、冷や汗を流す。彼女の想定以上に、ノボジャックの頭はキレるようだし、ハルウララの愛嬌は噂以上らしい。
(参ったねぇ。まぁ、元々憎まれ役を覚悟の上でやったんだけど……)
ウイングアローは感謝される事を期待していたわけではないが、それでもノボジャックに恨まれ続けるのではないかと危惧した。
そんな困り顔の彼女をよそに、ノボジャックは表情を変えずに言った。
「……悪い事したって自覚があるなら貴方も混ざってくださいよ。人手が足りないんで」
そういって、彼女は子供達やハルウララへ声を掛けて呼び寄せた。
「アローちゃん!」
ハルウララの明るい声が校門に響く。そして彼女は駆け寄るなり、ウイングアローの手をぎゅっと握る。
同じくして子供達もわっと駆け寄って、あっという間にウイングアローを包囲した。
「黒船賞、ジャックちゃんが一着取ったんだよ! 私も5着! 掲示板入り!」
「ウイングアローだー!」
「アローちゃーん!!」
「えぇっと……」
ウイングアローは子供とハルウララに囲まれた状態でノボジャックに助けを求めるように視線を向けた。
ジャックは、したたかな笑みを浮かべて視線をそらす。
(……はぁ~、まぁ、これで許してもらえるなら、安いもんかな……)
こうして、ウイングアローの春休みは忙しく過ぎていく事が確定したのである。
作中描写において読者が求める関係性や描写の調査(R-15未満前提)
-
ニシ×ウンみたいなノリの軽く明るい関係性
-
タキ×デジみたいなシリアス重バ場な関係性
-
小春orキン×ウラのスポ根よろしく師弟愛
-
ドラえもんorのび太絡みの純粋な友情描写
-
のび太×ウマ娘ネームドの恋愛絡み
-
ウマ娘ネームド×ウマ娘ネームドの恋愛絡み