――ウララさんがジュニア期だった頃のお話です。スペシャルウィークさん達がまさに『黄金世代』と呼ばれるに相応しい、華々しい活躍を見せ始めていた時期の事。
「スペちゃんはいいなぁ、あんな風に大きなレースで勝てて……」
スペシャルウィークさんが大舞台で勝つ姿をテレビで眺めて、ウララさんは羨ましそうにポツリと呟きました。
それは当時の彼女にとって、憧憬というよりも嫉妬や羨望に近い感情だったのかもしれません。ウララさんのトレーナーである私は「いつかウララさんも大舞台で勝てる日が来ますよ」と励ましの言葉をかけたのを覚えています。
「……でも、私はダート路線だもん。スペちゃんやキングちゃん達と一緒に踊れないよ……」
ウララさんの口ぶりから、彼女も学友達とライブで一緒に踊りたいという気持ちがあったのでしょう。
どうにかしたくとも、どうしようもないジレンマ。芝や両路線を走れる子と違い、ダートを走らざるを得ない彼女にはどうしても埋める事の出来ない差。それを理解していたからこそ、憧れよりも羨む気持ちが強かったのかもしれません。
……スペシャルウィークさんのような学友達と一緒にライブで躍る事。それがウララさんの一つの夢でありました。
「本当に高知なんですか此処!? ドア抜けただけですよ!!」「わたし、寮から教室まで毎日これ使おうかなぁ……」「スカイさん、それだと先生に叱られちゃいますよ?」「これなら海外旅行に行く時も飛行機疲れしませーん!!」「遠征に行く時は確かに便利かも……」「はぁ、まったく……相変わらずみんな呑気ね」「ひょえええ……未来を担うウマ娘ちゃん達がこんなにたくさん……」「さぁさぁ諸君! ボク達と共に走り、おおいに踊ろうではないか!」
――
どこでもドアで校門前まで抜けてやってきたウマ娘達の姿を目の前にして、宗石小春の微笑んでいた顔が少し引き攣った。
――あれ、今日って有マ記念の開催日だっけ? なんで黄金世代の五人や芝の覇王がいるの? ニシノさんや、可愛い方のアグネスさんと格好良い方のアグネスさんもいるし。さっきやってきたウイングアローさん含めたら黄金世代が六人?
そんな風にたじろいでいると、身なりの整った大人のウマ娘が小春に声を掛けてきた。
「はじめまして、ウララさんのトレーナーさん。私、ライトハローといいます」
「あ、はい……私は宗石小春と申しま」
【宗石小春:中山レース場✗】
「スゥゥゥー……」
急勾配を目の前に、小春の口からゆっくりと息が漏れた。
ライトハロー=サン、そのバストは豊満であった。
小春とそこまで年齢は離れていないだろうに、その高低差は札幌レース場と中山レース場ほどに大きい。
「あの……どうなされました?」
呆気に取られた小春に対して、ライトハローは背の低めな彼女に目線を合わせるように少し屈んでそう問いかけた。胸が強調するように寄せられた事で、大きな谷間に目が行く。
――これが噂に聞いていた、『
小春は自分の頬を両手で力強く叩いて、己の邪念を払う。
「いえ、なんでもありません。ちょっと、貧血気味で」
「大丈夫ですか? もし気分が悪いようでしたら、保健室へ……」
「ご心配なく。もう治りました。血色良くなったでしょう?」
小春はほっぺを赤く腫らし、眩しいくらいの笑顔を浮かべてそう言った。ライトハローもホッとした様子で胸を撫で下ろす。そうして、ここまでの仔細を小春やその他の職員に伝えた。
「バックダンサーやセンターの概念を取り払ったライブ……」
「はい、今回はその形式の方がよいかもしれません」
ライトハローと小春を含めた職員はグランドライブの内容について話し合っていた。
小春も噂だけは聞いた事がある。自分がトレーナーになるよりも前は、ウマ娘達が自主的に開いていたライブがあると聞いた事がある。
「……とはいえ、部外者の意見になってしまいますが」
ライトハローが申し訳なさそうにしながらも、職員達の態度を窺うような視線を投げかける。
「まぁ高知トレセンの在校生、特に卒業生をバックダンサーに押しのけちゃあな……」
榛原トレーナーが、「それはあまりにも酷だ」と言わんばかりにライトハローの意見に賛同した。
そもそも、今回は高知トレセンの卒業生の最後の想い出作りの部分もあるのだ。体験ライブが子供達から要望された突発的なものとはいえ、バックダンサーで終わらせるのは後味が悪い。
「とはいえ、グランドライブについては資料が……それに使えそうなダンスや楽曲だって無いよなぁ?」
榛原トレーナーがわざとらしく勿体ぶるように言えば、ライトハローはそれを待ってましたと言わんばかりに鞄に入れていた資料を職員やウマ娘達に手渡していく。
「……まだダンスも歌も仮組みの段階ですが。ドラえもんという不思議な子の道具を使えば、体験ライブの開催ならば可能ではないでしょうか?!」
ライトハローはそういって大人達に力説し、タキオンはそのやり取りを横目にほくそ笑んだ。
――何も無い空間からドアが現れて二十人以上の人数がそこから出現するだの、中央にいるはずの有名なウマ娘達が自分達の目の前に瞬間移動だの。普通ではありえない事を目の当たりにすれば、一般人からすれば超常的なものを感じざるを得ないだろう!!
タキオンは妖しい笑みが込み上がりそうになるのを必死に抑えた。中央トレセンでもそうであるように、高知トレセンにおいてもドラえもんという超常的な存在は既に一定の認知を得ているようである。保護者達はスペシャルウィーク達が現れた事にこそ驚いてはいるが、その一方で高知の職員やウマ娘達の驚きは思いの外少ない。トレセン見学に来ていた子供達なぞ、もはや幼児向けのヒーローが現れた時のようにドラえもんをペタペタと触りに来ているではないか。
「わー、たぬきさんだー!」
「チャック何処にあるのかな?」
「たぬきじゃない!!!! チャックもないよ!! ボクは猫型ロボット!!」
タキオンは猫型ロボットが子供達にも狸扱いされる事に笑みを堪えきれずに、ニヤニヤと頬を緩ませた。
――あぁ、やはり噂に聞いていた通り情緒豊かだ。小学生の子守を出来るほどの思考力も富んでいるらしいし、実に興味深い。
ともあれ、ドラえもんの事については後回しだ。アグネスタキオンとしてはグランドライブへの協力も大事な使命であり、研究内容だ。中央トレセンでは未だ賛否両論の状態にあるグランドライブ再建計画。道半ばの段階ではあるが、高知トレセンの実験結果が得られればそれは明瞭になる。
アグネスタキオンやライトハローにとって重要な事は、それぞれのウマ娘達がグランドライブという概念にどういう反応を返すかという事。必要な工程の大部分はドラえもんという不思議なロボットが賄ってくれるというのだから、これを利用しない手は無い。
発破を掛ける意味合いで卒業生達にこう言ってやった。
「無論、従来の方式を取って卒業生や子供達にセンターやサイドを任せるのも一つの手段だ。時間の余裕があるなら複数回に別けてもいいかもしれない。どうだろう?」
「あー……」
卒業生達は少し迷った。自身のエゴが、最期にセンターで華を飾りたいと囁く。そして
「……そのグランドライブっていうので、スペシャルウィークさん達と一緒の立場で踊ってみたいかな」
「うん、私も」
誰かがポツリと呟いた。すると、その意見に釣られるように周囲の生徒達が口々に同じような言葉を述べ始める。
「実は、ずっとグラスワンダーさんと一緒の踊ってるとこ映りたいなーって。誰か写真撮ってくれる?」
「あ、私はオペラオーさんと!」
その様子はまるで、子供達がハルウララを歓迎している様子と大差ない。流刑地と称された高知トレセンであるが、そこに所属するウマ娘の本質は中央とほとんど変わらぬ。強いウマ娘を相手にレースで正々堂々と競い合いたいし、勝ちたい。そんな環境をくぐり抜け輝かしい実績を挙げた勝者に向けられるのは、憧憬か嫉妬のどちらかだ。
高知トレセンの生徒達の態度は、前者のソレだ。無論、後者に傾くという可能性ももちろんあったが……。
――これだけ大勢の純真無垢な子供達を目の前にすれば、年長者は嫉妬を爆発させる気も削がれるというものだ。
アグネスタキオンはそれを理解した上で発破を掛けたのだから、したたかな女性であった。これはライトハローや他の協力者三人にはない要素である。
――……まぁ再建計画全体を通して考えれば、協力者の一人たりとも欠けてしまっては成功の見込みもないというものだが。
アグネスタキオンは内心で独りごち、そしてその事を頭の隅に追いやった。今は目の前の者達に向き合うべきだ。
「職員、ウマ娘、そして見学者の保護者や子供達。皆の意見は相違無いようだ。で、あるならば!」
タキオンは大仰に腕を広げ、声を張り上げ、そしてゆっくりとドラえもんの方へ顔を向ける。
ドラえもんはタキオンのアイコンタクトにコクリと一つだけ小さくうなずき、そしてポケットから出したひみつ道具を高々と掲げた。
ドラえもんは声を張り上げる。かくして、舞台の準備は整った。
作中描写において読者が求める関係性や描写の調査(R-15未満前提)
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ニシ×ウンみたいなノリの軽く明るい関係性
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タキ×デジみたいなシリアス重バ場な関係性
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ドラえもんorのび太絡みの純粋な友情描写
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のび太×ウマ娘ネームドの恋愛絡み
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ウマ娘ネームド×ウマ娘ネームドの恋愛絡み