《ハルウララ》
体力⇒■■■■
調子⇒■■■■
《宗石 小春》
体力⇒■■■
調子⇒■■■■
「二人ともずいぶんと調子を取り戻したわね」
「えへへ~」
ハルウララとそのトレーナーが休暇を十二分に過ごしてからの夜、寮部屋に戻ったキングヘイローとハルウララの二人は『正確グラフ』を眺めながら、にんまりと笑っていた。
この調子ならお互いの体調を気遣えるし、オーバーワークをするといった事はなさそうだ。
「キングちゃんやドラちゃんに、のび太くんのおかげだよ~」
ハルウララは元気いっぱいの様子。彼女の頭の上でウマ耳がピョコピョコ揺れる。「明日からなんのトレーニングなのかなぁ……」と彼女がニコニコと想像に耽っている内に、キングヘイローはカレンダーを確認する。
(必要な事だったとはいえ、休息に日数を使ったのはウララさんにとって痛手ね……)
――そうして時は12月。野比家は師走にてんやわんや。
年賀状の準備や大掃除など年末は何かとやる事が多く、パパやママも大忙しだ。
「のび太。タンスを動かすの手伝って」
「えぇぇ!!? ボクこんな大きなの動かせないよぉ!!」
のび太は困り果てた。二人でいくら引っ張ってもビクともしない。パパを呼びに行くべきか
するとのび太の悲鳴を聞きつけたドラえもんが現れた。
「ふんぐっぐぐぐぐぐ!!」
「あらドラちゃん、ありがとう。助かるわ~」
……ドラえもん一人でタンスを背に抱えて運んでいる。そういえば129.3馬力もパワーあったっけ。
さすがに一人でやらせるのは可哀想に思えたので、のび太がドラえもんの後ろから支えてやった。
こうしてどうにかこうにかタンスは部屋の隅に移動され、ようやく一息つく事が出来たのだ。
「掃除が終わったら元に戻す時にもお願いねー」
ママの言葉にのび太とドラえもんはため息をついた。
「サンタさんへ今年こそテレビゲームをください……っと」
「またやってるのか」
大掃除の手伝いを休憩し、二階にドラえもんと一緒に避難したのび太はクリスマスの願い事の手紙を書いていた。
「だって、えらい人の本や学習ゲームなんてもらってもちっとも嬉しくないもん。今年こそお願い通りにしてもらわなきゃ!!」
のび太は口を尖らせてそう言った。のび太の言う通り、クリスマスプレゼントはサンタさんからそういうものばかりもらう。毎年同じようなものを貰うので嫌気がさしてしまったようだ。
あぁいうのってテレビゲームより高いのだが。親の心、子知らず。子の心、親知らず。
「子供にも分かりやすいようになってるから、案外面白いかもしれないよ? ウマッホ、ウマクロワ、レオナルド・ダ・ヒンチとか……」
なんかウマ娘の世界へ転移したせいで芸術家偉人の名前まで変わっているような気がするが、どうせ芸術の世界なんて興味が無いからのび太はどうでもよかった。画家を志していたパパはのび太の姿勢を知ったらきっと嘆くだろう。
「ドラちゃ~ん。もう一つ運んでほしいものがあるんだけど……」
「あ、はーい。まったく、ロボ使いが荒いったらありゃしないっ」
ぶつくさ言いながらもドラえもんは階段の方へと向かう。
「こりゃあ、家に居続けても楽しい事なさそうだなぁ……大掃除の手伝いはドラえもんにまかせて、ウララちゃんの様子でも見に行くか」
12月らしく、外は雪景色。積もり積もった新雪を踏みしめながらのび太はトレセン学園へ入っていく。
「やぁやぁ寒い中ご苦労サマ」
校門に屈強なトレセン職員がいるにも関わらず、堂々と校内に踏み入っていく野比のび太。しかもその職員どころか他の者達もまったく不審がる事はない。
見ればのび太の腕につけられているのは一定時間なりたい職業になれるひみつ道具『職業テスト腕章』に《トレセンのりじちょう》と書き込んでいる……相変わらず他人の支援以外には機転(悪知恵)が利いた事をしているようだ。
「野比理事長!」
のび太に声をかけたのはこの駿川たづなであった。のび太は大声で呼び止められた事に驚きつつも、相手がやたらに美人なので顔が少しデレデレとしかけた。
「おっほん! なんだね。なんでもこのりじちょうに相談したまえ」
今現在トレセン学園で一番偉い立場なのもあって、のび太はちょっと調子に乗り始めた。のび太の態度をみてますます呆れたような顔をするたづな。
「何を呑気な事を仰ってるんです! 早く理事長室へ来てくださいっ!!」
たづなの剣幕に思わず後退りするのび太。しかし逃げようとするのび太を易易と抱きかかえて、理事長室の方へ連れ去っていく。
――あれ、この女の人ってやたら力強くない? いくらボクが小学生だからって30キロ以上はあるはずなのに。
のび太は目を丸くして驚いている内に、事長室に連れ込まれてしまった。
「奇怪ッ!! なにゆえに私以外のトレセン学園の理事長が存在するのか皆目見当がつかぬ……」
野比のび太と同じく理事長を自称するのは、秋川やよい。下手すればのび太と同年代のように見える彼女だが、たづなという人の対応からこの人は本当にトレセン学園の理事長らしい。そんな秋川理事長に対してたづなは優しく諭す。
「秋川理事長ったら。理事長代理がいるのだから、理事長が二人いても不思議じゃないでしょう?」
「……それもそうか?」
秋川は首を傾げながらも深く考えないように。のび太は「ひみつ道具を使ったせいでややこしい状況になってしまった……」と青ざめながら冷や汗を掻き、何とも言えない表情を浮かべている。
「窮状! たづなよ。前にも言った通り、《例の一件》に対しては私はながーい目で見る事に決めたのであるッ!!」
「いいえ。それではダメです。これは生徒のためでもあるのですから」
どうやら何か重大な事を決めなければならないようだ。たづなは厳しい視線で睨みつけるようにやよいとのび太を見る。
「おや、野比理事長。もしや《例の一件》が何の事か分からないのか?」
たづなの鋭い視線から逃れたいのか、わざわざのび太の方に話題を振ってくる秋川理事長。
「えっと……何のことでしょうか? ボク、最近ここに引っ越してきたばかりで、まだ何も聞いてないんですよねぇ……」
のび太は引きつった笑みで誤魔化し始める。
たづなはそのなすりつけあいを見て「この理事長達って……」と頭を抱えた。
致し方なし。たづなは一つ咳払いをして、二人に対して子供を叱りつけるような口調で事態の説明を始める。
「宗石小春トレーナーとウララさんについての件ですよ。まさか、全く考えてないだなんて事はないですよねお二人とも?」
秋川は「あー……」と間延びした声をあげながら、明後日の方向に目を逸している。どうやら話題を避けたいようだ。
対して、野比のび太は全くなんの事か分からなかった。今日から理事長を始めたのだから当たり前といえば当たり前だが。
「え? ウララちゃんがどうかしたんですか?」
「…………二人とも……」
たづなは呆れとも悲しみともつかぬ、なんとも微妙な表情を見せてから小さくため息をつく。
「契約解除の件ですよ」
「誰の? もしかしてこの人かボクの?」
「な、ななな、理事長を解雇ッ!!? たづなよ! 私達を見捨てないでおくれ~~~っ!!」
理事長達のやたら息の合ったおふざけ(?)にたづなは困惑してたじろぎつつも、彼女は主導権を譲らず至ってシリアスに務める。
「……宗石小春トレーナーとハルウララさんの、専属契約解除について議題にあげたいのです」
のび太はたづなの説明を聞いて、ようやく納得がいって胸のつっかえが取れたような笑顔。
「へー、ウララちゃんとトレーナーさんの契約解除…………」
「契約解除ッッ!!!!!!!!??」
寝耳に水。青天の霹靂。ドラえもんにネズミ。のび太は驚きのあまり、たづなや秋川がひっくり返らんばかりの大声をあげる。
たづなはズレかけた帽子を手直ししつつ、「はい」とのび太の言葉を肯定した。
「ど、どうしてそんなことを……っ! せっかく二人とも退院したのに……」
のび太が思わず前のめりになって尋ねると、たづなは少し困ったような顔になる。
「それには私が答えよう」
野比理事長の動揺っぷりをみて、さすがに話題を避け続けるのが辛くなったのか秋川理事長が真剣な顔つきで口を開いた。
「……野比理事長。ハルウララが一度も勝利した事がないのはご存知かな?」
「えっと、うん。世間でもニュースにもなってるっていうくらいは知ってるけど……」
「なら話が早い。契約解除の理由はそれだ」
「え、え、え、え……で、でもウララちゃんには1万人以上ファンがいるってニュースで言ってたよ!? 今朝のニュースにだって、ニュースキャスターの人も凄い凄いって上機嫌で褒めてて、G1レースにも出場出来る資格があるって……」
野比理事長のたどたどしい反応をみて、たづなも秋川理事長も心苦しそうに顔を伏せた。
「うむ、確かにG1レースの多くは1万人といった大勢のファンが支持してくれている事が参加条件になっている。が、しかしッ!」
秋川理事長は意を決したように、バッと扇を広げる。同い年くらいの見た目なのに、それだけで気圧されるのび太。
「G1レースはおろか、ほとんどのレースというのは未勝利の状態だと出場出来ないのだ!! 本来、1勝するよりも1万人のファンを稼ぐ方が断然難しいというのにッッ!」
「まぁ、ウララさんの状態はある種のイレギュラーだから世間ではあまり認知されてませんよね……」
また小さくため息をつくたづな。彼女としてもウララや小春を追い詰めるのが本意ではないと見受けられる。
「憂慮ッ! ハルウララのクラシック期が終わろうかというこの日まで未勝利! その上、ハルウララや宗石小春トレーナーが体調管理を怠り二人共々過労で入院する事態ッ!! 理事長としては、即刻彼女達の契約解除を命じるべきなのだがっっ……!!」
「命じてないんですよね」
たづながピシャリというと、秋川理事長は縮こまりながら「うむ」と頷いた。
「……正直な話、どうするのがハルウララにとって一番なのか私も判断しかねてもいる。ハルウララが1万人を超える支持を得ているのは事実なのだっ!」
だからこそたづなさんに叱られても話題を避けていたのかと思い、のび太はこの理事長の人柄がなんとなく理解できた。
(いや、しかし……まずい事になったぞ。ヒジョーにまずい……)
のび太は、ハルウララと小春トレーナーを契約解除させない為に、ドラえもんやキングヘイローの助けを借りず目の前の二人をどうやって説き伏せるか……今から考えなければならなかった……。
ドラえもん<ハルウララ育成記>で好きな主要キャラ
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のび太
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ドラえもん
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ハルウララ
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キングヘイロー
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トレーナー