起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
なお思いつきで書いてるので後付け設定やら独自解釈やらでカオス化しそうな上に不定期更新ですよしなに。
その朝はいつもと景色が違っていた。
いや、違っていたのは世の中ではなく自分なのかもしれなかったが、とにかく
知らない天井が、そこにあった。
手を思わずその方向に伸ばすと、身に掛かっている感覚がまるで無かった布団が視野を掠めると同時、頭上から差し込む淡い光に照らされて白い手が現れた。
他人の手にしか見えないそれは、しかし持ち上げている感覚は確かに自分のもので。
「細い指だな……」
思わず呟いた声。その声は確かに自分が発したものだったが、聞き慣れたはずのゴロゴロと低く唸る音ではなかった。
どうも何かがおかしい。
仰向けのまま顔を左右に向けて様子を窺う。左側は壁、そしてその反対側には自分の寝ているものとは別のベッドがもう一つ。ベッドには誰かが眠っているのか掛け布団がこんもりと盛り上がっていて、そのまま頭のあるはずの方へ視線を這わせると、そこには白っぽい髪が横たわっていた。
(……誰かいる……というかここ、ホテルか何かか? いやその割に調度品が多いような。それに、髪の色……あれは白髪か?)
隣に眠る誰かを起こしてしまわないよう慎重に視線を配る。目はすっかり覚めきってしまっていた。
ベッドの間の壁にはカーテンの掛かった窓。その前にはチェストが三つ並べてあって、真ん中一つは白いドア。向かいのベッドのヘッドボードから遙か上には小窓が一つ。先ほど自分の手を照らしていた光はこのカーテンのない小窓から入っていたようで、上目遣いにあごを突き出せば、自分のベッドの方にも同じ小窓。
でも首を上げたそのとき、自分の頭のてっぺんで今まで感じたことのない強い圧迫感を感じると同時、ゴソゴソと大きい衣擦れのような音が耳を満たした。その慣れない感覚に対して反射的に耳に力が入ってさらに響く衣擦れに、自分は堪らず撥ね飛ぶように上体を起こす。
バッ!
上体を起こした勢いで、掛け布団が派手に音を立てて吹っ飛ぶ。そのまま正面のドアに当たってバサリと床に落ちた。
隣のベッドでも衣擦れが立つ。今の音で同居人(?)が動き出す気配がした。
「ん~~~? ドーロちゃん、どうしました?」
まだ眠気のたっぷり残る顔がこちらを窺っていた。隣で眠っていたのはごく淡く白色と見まがうほど薄い水色の髪を伸ばした少女。今、その彼女に『ドーロちゃん』と呼ばれたが、それが俺の名前なのか。
しかしそんな事より
起き上がった少女の頭の上には尖ったケモ耳があった。思わず目を見張り、俺の視点はそこから外せなくなった。ケモ耳は髪の毛と同色の短い毛で覆われて、付け根が少し絞られている。猫耳だとか狐耳とは違う形、それになんか肉厚な感じがある。
「あの。なんだか、目が怖いですよう?」
「え? あ? え?」
怯えと訝しさの混ざる瞳が俺に刺さる。取り繕おうと出した俺の声はやっぱり男のそれではなく、澄んだ響き。
状況が全然把握できないが、ともかく隣人を起こしてしまったことだけは確かだった。
「悪い夢でも見ました?」
「い、いえ。そんなことは」
「そう。よかったあ」
その一言を境にして、瞳に温かさが灯る。
「ドーロちゃん、昨日も頑張ってたですものねえ。最近ちょっと頑張りすぎてるんじゃないかって、心配してたんですよ?」
なんとなくおっとりした口調と慈しみすら感じる柔らかな表情。
なんだかこの人(?)にならいろいろと打ち明け話をしても大丈夫な気がした。尋ねてみたいことはいっぱいある。ここはどこなのか、今はいつなのか、あなたは誰で、俺は何者か、二人同じ部屋で寝泊まりしているのはどういうことか、等々。
そんなことを考えながらいたせいか、また俺の目つきは険しくなっていたらしい。
「ほーら、またドーロちゃん目つきが怖くなってます。どうしました? なにか悩み事とか?」
どうやって尋ねたものかと考えていたら、彼女の方から話を振ってきた。心配そうな表情で少し首を傾げた様子は、言外に頼りにして欲しいオーラを纏っているかのようだ。
「……その、こんな事話すと引かれちゃうかも知れないんですけど……」
「ううん、ドーロちゃんのことだから大丈夫ですよ。悩み事ならわたしがなんでも聴いてあげますから」
「実は、お……じゃなかった、私って何者なんでしょう?」
なんでも聴いてあげると言った手前彼女はなんとか平静を保っているようだが、さすがにインパクトが強かったのか次の言葉が出るまで数秒かかった。
再起動した彼女はさらに困った表情になって、口を開く。
「えーと。ドーロちゃんはドーロちゃんですよね?」
「私の名前はドーロって言うんですか。それってフルネーム?」
「あ、フルネームはヴェントドーロですね。というか、ドーロちゃん自分の名前忘れちゃったんですね」
「名前だけじゃないです。あなたのお名前も分からないし、ここがどこで、今はいつで、どうして二人で同じ部屋に寝泊まりしてるのかさえ」
「ええ? それって記憶喪失とかです?」
「分かりません。起きて気がついたらこの部屋で目覚めて。その前はどうしていたのかもさっぱり分からないし」
「なにか覚えていることとかないです?」
「んんー、なんだろう。きんばらはやてって言葉は浮かぶんですけど」
「なにか、それ男の方のお名前みたいですねえ。ドーロちゃんのお知り合いとかなにか?」
「そうじゃないと思うんですけど」
「うううん。困りましたね」
早朝でまだ薄暗い部屋の中、少女が二人ベッドに座って差し向かう。
人差し指を柔らかそうなほっぺたに押し当てて小首を傾げている目の前の薄青い髪の少女。頭の天辺からピコピコ動く紡錘型の耳を生やして、そして背中の後ろではなにやら長い髪が時折左右に揺れていた。
良く見るとそれは髪ではなく、腰の下から生えているようだった。
「あの。さっきからお尻の方で揺れてる長い髪みたいなのって……」
「え?」
短い返事とともに、その髪のようなものがくるりと彼女のお腹の前に回ってきた。
「自由に動くんですね。それに頭の上の尖ったの、それって耳ですよね。本物?」
「えええ? ウマ娘ですからウマ耳とウマ尻尾は……ありますよね?
というかあ、ドーロちゃんにもあるじゃないですか。ウマ耳とウマ尻尾」
「えっ?」
彼女はそこまで言うと、ベッドサイドの棚から手鏡を取り出して俺に向ける。
鏡の中には金髪にそのウマ耳とやらを生やした美少女がいた。恐る恐る耳に手を伸ばすと鏡の中の少女も手を伸ばす。耳に手が触れると自分の意志とは関係なく不意に動いた。身体をひねって背中を覗き込むと、これまたきれいな金色の長いしっぽがベッドの上でウエーブを描く。
驚きで目を見開いたままゆっくりと彼女の方に向き直ると、彼女は口元に指を当てナイショのポーズを取りながら、コクコクと頷き返してきた。
(口調の調整ほか若干の修正をしました。物語に影響はありません)