起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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実際のところあの音に驚かず前に出られるのってすごいなーって思うわけですよ。


ゲート難出遅れステークス

 

 組分けは今まさに行われようとしている。しかし俺は自身がどちらの組だったのかを知らない。周りに聞くか教官に尋ねるかしなければと逡巡していると、教官から声が上がる。

 

「それじゃ分かってるとは思うけど名前を読み上げるわよ。呼ばれた者はA組。ゲート横に集合して」

 

 それに応じて、ハイと元気よく揃う生徒の声が響く。そして順番に呼ばれていく中にドーロの名があった。リーゾアラチェートと呼ばれた黒髪の彼女の名も。

 ゲートと呼ばれた檻に近づく。見れば見るほど恐怖感が湧き上がる。なんとか抑えてはいるが、一人でこの場に立っていたなら堪らず逃げ出していただろう。しかしドーロはA組、ゲートを難なくこなせていたはず。ならば俺はどうしてこんなにゲートを怖がるのか。それは俺自身の問題なのか、それともドーロが隠し持っていた何かなのか。

 次の瞬間、総毛が立った。

 

 ダッシャアァン!

 

 前触れなくゲートが全て開いた。金属同士を打ち付けるけたたましい音が耳に刺さる刹那、俺の耳は引き絞られ尻尾が巻き込まれた。

 

「ドーロちゃん。

 ドーロちゃん!? だいじょうぶ?」

 

 黒髪の彼女、リーゾの声で現実に引き戻される。

 

「すごい怯えてたけど。わ、目が真っ赤だよ本当に平気?」

「え、ああ……大丈夫……です。ちょっと驚いただけ……で」

 

 冗談でなくあれは心の底からの恐怖。現実に引き戻されてみれば、そこにあるのは単に開閉するだけの檻、なのだが。

 リーゾが心配げに、俺の様子を上から下まで見ている。

 

「もしかして、まだ体調悪いとか?」

「いえ、それはもうないです。本当に」

「……なら、いいんだけど」

 

 そして、俺のゲート入りする順番がやって来た。

 

 ゲートを見て怖気立(おぞけだ)ってからずっと気が乗らない。正直言えばこんな練習止めておきたいが、模範を見せるA組というドーロの立場では逃げるわけにもいかなかった。やれるだけやってダメなら言い訳も付くかと諦めの気持ちが興る、それにその方が今は良いのかも知れない。俺にはドーロと同じようには走れない現実がある。だがドーロ(彼女)の走りを取り戻さなければ俺に未来はない。常軌を逸した俺の食欲を満たすためにはレースに勝ちまくり、賞金を稼がねば。

 

 両手で頬を叩いて気合いを入れた。周りに居た何人かの生徒がその音に驚いていたが構いやしない。俺は開いたゲート()を睨みつけ、一歩また一歩と押し進む。

 

 ゲート()の内側。とにかく狭い。いや、ウマ娘の体格からしたら余裕はある空間だが、取り囲まれている感覚が大変な重圧で、さらに何かデカい生き物に『食われた』ような錯覚すら感じる。自分の心音が檻に反射し騒々しくて仕方がない。そんな中でも耳が辛うじて捉えた『用意』の合図でスタートを構えた。次の瞬間

 

 ゲートオープンの騒音と同時に足が(すく)んだ。

 

 半呼吸で周りから完全に置いて行かれる。黒髪の彼女(リーゾ)が前に出て、その艶めく黒い尻尾を揺らす。俺は、蹴り足を前に出して、そして、次の足が追いつかず

 

 朝に引き続き盛大に顔から地面に突っ込んだ。

 

「ヴェントドーロ!」

「ウソでしょ、顔から行った!?」

「早く助け起こせ!」

「とりあえずテントへ!」

 

 気がつくと俺はテントの下で簡易ベッドに寝かされていた。左右に目を配ると、横にはリーゾが付いてくれているのが見えた。

 

「ああ、ドーロちゃん気がつきましたかあ」

 

 そしてなぜかルジェさんの声が聞こえた。声の聞こえてきたのは頭の上からだった。上目遣いに顔を上げると彼女の銀髪が目に入った。

 

「え? あ? ルジェ、さん? どうして?」

「トラックの方でチームの併走をしていたんですよ、そうしたら内フィールドが急に騒がしくなるじゃないですか。そこで気がついたんです、ドーロちゃんの授業だったなって。

 それで目を配ったらドーロちゃんが抱えられて運ばれているじゃありませんかあ。大慌てで駆けつけたんですよ」

 

 ルジェさんの瞳で光が揺れる。泣きそうになるくらい心配してくれていたのか。

 

「どうしちゃったんでしょうか、ドーロちゃんは……今朝からやっぱり変ですよ」

 

「……その、ゲートが怖くて、ですね。足が、竦みました」

 

 横から黙って見守っていたリーゾの表情が驚きに変わる。対するルジェさんは眉根を顰めてとても困ったような表情を見せた。

 

「ドーロちゃん、ゲート得意だったよね? どうして?」

 

 声を上げたのはリーゾ。

 

「分からない、です。とにかくゲートを目にした時から怖くて怖くて、仕方がなくて。自分の意識とは違うところから、湧いて出てくる恐怖と、いうか。

 あの檻みたいな形もそうですし、開く時の音も怖くて堪らなくて」

 

 そうやって話をしている間にもゲートの中での記憶が蘇ってくる。再びの恐慌に飲まれそうになるその時、反射的に起きた俺の上体がやさしく受け止められた。鼻をくすぐる甘い香りが意識を現実に引き戻す。

 リーゾの黒髪が眼前を覆っていた。少しくぐもって聞こえる声が胸元から発せられる。

 

「大丈夫だって、言ってたよね。だから安心してたんだよ。

 ねえドーロちゃん、朝から何が起こってるの? 態度もよそよそしいし、言葉遣いも変に丁寧だし。先輩も変だって言うし。

 ……リズにも聞かせて欲しいな。リズにもドーロちゃんの苦しみを分けて欲しいよ。一緒に悩むから……一緒に、ね?」

 

 リズと名乗った黒髪の彼女。その香りが俺の心をすっかりと和らげた。

 後ろから両肩をそっと手が支えてきて、力んでいたものが抜ける。ルジェさんの柔らかな手だ。

 

「……ありがとう、ございます。リズちゃんもルジェさんも。

 授業が終わったらお話ししたいと思います。でも、私もまだ分からないことが多すぎてですね。それでも良いでしょうか?」

 

 黒髪に覆われた長めの耳が揺れた。

 




次回、衆人環視。
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