起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません   作:裏白いきつね

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顔から行っちゃうと実際の話、ほんとに目から火花が散るんです。ダメージ自体はあんまりなかったりするんだけど。


ふえるお世話焼き

 

 残りの授業、俺は見学になって、リズちゃんは練習に戻った。

 彼女は名残惜しそうだったが、俺の意識が戻ってしまった上にルジェさんまで付き添っていたのでは、このまま俺のそばにいる理由がなかった。というかルジェさん、ずっとここにいても大丈夫なんですか? チームの方はお咎めないんですか?

 

 簡易ベッドに腰掛けたまま授業の行方を見守った。リズちゃんがショートトラックを周回しながらスタートダッシュの練習を続けている。時折俺の方をちらりちらり気にしてくるが、なんとなく視線が厳しいような気がした。一方でB組の方はゲート練習を続けている。ゲートオープンの金属音が響くたび、俺の耳は後ろにぎゅっと引き絞られ身体がこわばる。それを見かねてルジェさんがそのたびにそーっと耳元を撫でてくれるのだが、そうすると緊張がほぐれて耳はゆっくりと元に戻るを繰り返す。

 結局授業の時間中、俺とルジェさんは終始そんな感じで過ごしていた。だんだんと心に平静さが戻ってきたせいか、端から見ればどう考えてもカップルにしか見えないよなこれ、とか考えるくらいの余裕が授業終わりの方にはできてくるようになった。というか本当にルジェさん、チーム練習行かなくて大丈夫なんですか?

 そんな風にこちら二人が和やかな雰囲気になっていくのとは対照的に、リズちゃんの方は表情がだんだん険しくなっていったのだが。

 

 授業終わりの合図があって全員が集合。ルジェさんを置いて俺も列の方に混ざったが、横に並んできたリズちゃんが大層恨めしげだ。「ドーロちゃんはいちゃいちゃを見せつけすぎだと思うの。みんな引いてたよ」なんて言われてしまった。いや、それは俺のせいじゃないと思うし。

 

 授業終了の礼があって、テントの下で教官に呼ばれた。ルジェさんとリズちゃんが俺の斜め後ろ左右に別れて、三人立ったまま話を聞く。

 

「ヴェントドーロさん、早朝の自主練で転んだと聞いていたけど、医務室のドクターからは授業復帰のOKが出ていたのよね?」

「はい、そうです。走るのに支障はなく、ケガも手のひらをすりむいたぐらいだと」

「ゲートで転んだのは何が起きたのか、分かる範囲で良いので教えてもらえるかしら」

 

 その問いにどう答えるべきかちょっとためらう。俺が後ろに控えるルジェさんに少し目配せをすると、彼女は小さく頷いた。

 

「……突然ゲートの存在が怖くなって仕方がなくなりました。一旦は落ち着いたのですが、何か心の奥の方から湧く恐怖感に再び抗えなくなりました……。それからスタート直後に転んだのは脚が思うように出なかったせいです」

「そうなのね。ゲートの方は心理的なものとしても、今まであなたは難なくクリアできていたはずなのだし急にそんなことになるなんて……」

「それであの、教官にこんなお話をするのは持って行き場が違うのかもしれませんけれど……」

「何かしら? いいわよ、なんでも話してちょうだい」

「……そうですか。

 実は……今朝起きた時から昨日以前の記憶がないんです。同室のルジェ……オンダルジェント先輩の名前はおろか、自分の名前すら忘れていましたし、それに自分がウマ娘で、トレセン学園に在籍していてレースの訓練をしていることも」

 

 そんな突飛な話は誰もが想定外だったろう。教官は目を丸くしたまま二の句が継げずにいる。振り返るとリズちゃんも心配そうにこちらを見つめていた。

 

「走り方も、実は忘れてしまっていました。脚の出し方、蹴り方、なにもかもです。……だからゲート練習の時も足が出ずに転んでしまったんです。

 今朝、ルジェ先輩にそのことを伝えたら一緒に練習してくれていたのですが……医務室に運ばれたのはそのときも転んだせいで」

「……そんな事が起こっていたとはね。その話、他の人には?」

「知っていたのはルジェ先輩だけです。あとは今ここで教官と、リズちゃんですね」

「分かったわ。この件、他の教職員と共有して対処します。ヴェントドーロさん、あなたは走ることをどうか諦めないで」

「……はい。私もそれは諦めたくありません。絶対に」

 

 引退後の食費のため、とはさすがに続けることはできなかったが、この会話でレースを走れるようになるための道筋を掴むきっかけはできたと俺としては感じた。

 

 教官との話が終わって、三人並んで寮に向かう。

 

「長い一日がようやく終わりますねえ」

「朝からあれこれ巻き込んでしまってすみません。ルジェさん」

「気にしなくても良いんですよう。ドーロちゃんのお世話、割と楽しいんですから」

「うえ?」

「リズもドーロちゃんのお世話なら任せて欲しいな。

 先輩の手が回らない時も、リズはそばにいるよ」

「ありがとうございますリズちゃん。助かります」

「寮での生活もトレーニングも、わたしがしっかりお世話しますからねえ。なんと言ったって一年先輩ですからわたしは。だからなんでも頼って下さいねドーロちゃん」

「寮でのお世話ならリズも負けないよ。なんでも頼ってねドーロちゃん」

「ちょ、ちょっと競り合うのやめて下さいお二人とも。というかリズちゃんはもしかして美浦寮なんですか?」

「そうだよ。

 ……ドーロちゃんそういうことも全部忘れちゃったんだね。これはますますお世話がんばらないと……うん」

「あの、お二人ともほどほどにでお願いします。本当に」

 




次回、走れないウマ娘がこの先生きのこるには。
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