起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
おかげさまで前話更新前後一気にPVが伸びまして、これを書いている時点では二次創作新作日間ランクで28位に浮上しました。ウマ娘のジャンル別ですと日間総合評価で6位。週間で30位まで急浮上。本当にありがとうございます。
読み専期間が半年以上あってルーキー条件に掛からなかったので出足が非常に鈍くて、もうダメかなと思っていたんですけれどね、嬉しいです。
「それじゃ、またあとでね」
リズちゃんは同じ美浦寮所属といっても俺たち二人とは別棟だった。寮の昇降口で別れて、俺とルジェさんは連れ立って自室に向かう。
自室はお昼に探し物をしたそのままで、俺の学習机の周りを中心に散らかっていた。とりあえず手に持っていたコンビニ袋から制服を取り出して丁寧にハンガーに掛けると、その勢いのまま机周りを片付ける。続けて教科書やノートなんかを一冊一冊手にとってざっと目を通しておく。ドーロがこれまでの高等部生活でどんなことをやって来たのか、少しでも知っておきたいと思った。
ルジェさんはといえばいつの間にか制服に着替え終わっていて、ベッドに腰掛けて俺をじーっと見つめていた。
「あの、ルジェさん?」
視線がどうしても気になってしまった。
「はい♪ どうしましたかドーロちゃん?」
「さっきからじーっと見つめてますけれど、私に何かおかしな所でもあります?」
「いいえ~♪」
「すごく上機嫌のように見えるんですけど、何か良いことでもありました?」
「ドーロちゃんとまた二人きりになれましたのでえ。それが良いことですねえ」
にっこにっこと満面の笑みを湛えてストレートに来ましたありがとうございます。
どうしてかは分からないが、ルジェさんの俺に対する好きの感情はやや過大なように感じる。リズちゃんが現れてから余計に酷くなったようで、対するリズちゃんもルジェさんに対して対抗心を隠そうとはしていない。このまま俺を巡る二人の争いが激化していったら、そのうち俺は手ひどい仕打ちを受けてしまいそうな予感がする。誰から仕打ちを受けることになるか、までは分からないが。
ルジェさんについては俺の方からどうこうできないので、再びノート類のチェックに戻った。しかしこの教科書の数とノートの内容だ、トレセン学園高等部の学習は科目数内容ともに普通科進学校並にあるのではなかろうか。いや、俺が一般進学校の内容を覚えている訳はなく、ざっと目を通した上での印象に過ぎないが。
そんな事をしていたら、ドアをノックする音が響いた。
「リズだよ。おじゃまするねドーロちゃん」
こっちの返事も聞かないうちにドアが開いてリズちゃんが入ってきた。こちらも満面の笑みだ。間違いなく俺がいるからなんだろうな、というのは彼女に聞かずとも察することができた。そして彼女はこちらに顔を向けたまま器用に部屋の中を横断して、俺のベッドにちょこんと腰掛けた。
左右のベッドでにっこにっこと笑みを満開にした美少女が二人。何も知らなければ非常に絵になるシーンだと思うが、その笑みはこの場にいる三人目、つまり俺のみに100%向けられているのが異常事態だ。どうしてこうなった。
しばらくそのままの態勢で三人動きがなかったが、俺はふと思いついてデスクチェアに座り直した。そして
「ちょうど良い具合に三人が部屋に揃ったことですし、今後のことについて打合せとかどうでしょう?
お二人に聞きたいこともいっぱいありますし。私からのちょっとしたお願いもありますし」
そんな風に話を振ってみた。
「ドーロちゃんがわたしたちに聞きたい事ってなんでしょうか……。なんでも答えますよう」
「ドーロちゃんのお願いなら、リズなんでも聞いてあげるね」
断られる心配はなかったが、二人とも前のめり過ぎるのが逆に心配かもしれなかった。
「とりあえずですね、今後のことです。
ご存じの通り私は上手く走れません。このままでは困りますから、どういう風にトレーニングして走れるようにしたら良いのでしょうかと」
「まずは正しいフォームを身に着けるところからだと思いますよう? 今朝も見させていただきましたけれど、付け焼き刃ではダメなのではないかと」
「リズはドーロちゃんの走るフォーム見てないんだけど……そんなにひどいの?」
「幼稚園児でもあそこまで動けないのはなかなかないと思いますねえ。
デビューのこととかを考えると今から1カ月以内には人並みのフォームにできないと……ドーロちゃんには厳しいかもしれませんけれど、そのう……」
「選抜レースにも出られないから、どんどんデビューが遅れて行っちゃうね。
でもそんな基礎の基礎から親身に見てくれるコーチって、いるかな?」
「このトレセン学園でも聞いたことはありませんよねえ……私が時間をやりくりして教えるのは吝かではないのですけどお……、やっぱり限度が……。ドーロちゃんのがんばりに賭けるしかないとは思うんですけど、いつ頃物になりますかは……」
「リズもできるだけ練習見てあげるね。リズもまだまだこれからだから、一緒にトレーニングがんばろう」
「ありがとうございます二人とも。早く追いつけるように努力しますよ」
二人の話をまとめると、この年齢でここまで基礎からない状態はウマ娘としては考えられない状況だそうだ。普通は小さい頃から勝手に走り始めるし、周りの友達や大人の走りを見てある程度自然に走り方の基礎が身についていくものらしい。ヒトのようにいつまでも走るのが下手で遅いという風にはならないのがウマ娘という存在なのだとか。だから指導でどうにかするのは難しいかもというのが二人の一致した意見でもあった。
そうなると、助言を受けながら自らの理解力と勘、そしてドーロの身体が元々持っているポテンシャルを信じて、半ば独学でフォームを作らなければならないのかも知れなかった。
「今朝もお伝えしたことですけれど、ドーロちゃんの走り方ってヒトのそれにとてもよく似ているんですよねえ。ウマ娘はパワーがヒトとは全然違うのでえ、あのフォームでは脚が空回りしちゃいますよねって思ったのですよ」
「それであのワンポイント指導だったわけですね」
「そうなんですが、そうしたら今度は脚の回転が追いつかなくなったじゃないですかあ。回転さえ上げることができれば次の段階に上がれるんじゃないかと思えるんですけれど」
「そこでフォームが崩れちゃうと厳しいよね……やっぱりきちんとチェックしながらじゃないと」
「本当にお二人にはなんとお礼をしたものか……」
「ドーロちゃんのお力になれるのならわたしは全然かまわないのですよう」
「リズもね、ドーロちゃんの事ならなんだってお手伝いできるから。
……そうだ。ルジェ先輩、先輩とリズで同盟結ぶと良いかもしれないね。ドーロちゃん支援同盟とか、どうかな?」
「そのアイデア、悪くはないですねえ。これからお互いドーロちゃんのことで協調しなくちゃいけないでしょうし。LANEの交換もしておきましょうかあ」
ついさっきまでなんとなく敵対ムードもあったルジェさんとリズちゃんだったが、急展開で仲良くなってしまった。うむむ……これが、女子力なのか? 俺にはとても真似できそうにないムーヴではあった。
そんな感じで話がまとまったところ、タイミング良くドアがノックされる。顔を見せたのはイソノルーブル寮長。夕食の調理を手伝って欲しいとルジェさんを呼びに来たらしい。ここで今日の会合は一旦終わりを迎え、リズちゃんも自室へと戻っていった。
そして夕食と聞いた俺の腹の虫は、まだその時間までかなりあるはずというのに早くも目を覚ましたらしく、獲物を求めて腹の底で動き始めた。本当にこの胃袋、これからどう付き合っていけば良いのだろうか。
次回、今北産業。