起きたら金髪ケモ耳美少女だったんだが自分の記憶がとんとありません 作:裏白いきつね
多少のストックはありますけれど、基本的に思いつき執筆なので更新は不定期です。
現実に頭が追いつかない。目の前の彼女は自らをウマ娘だと言った。そしてウマ耳とウマ尻尾があるのは当然で、さらに俺にもその両方があった。
つまり俺もウマ娘、ということで良いのだろうか。というか、そもそもウマ娘とはなんなのか。
「あの、ウマ娘って、ナニモノなんですか」
「ウマ娘はウマ娘ですよねえ」
答えになって、いなかった。ウマ娘 is ウマ娘、ということであれば、それは特別な存在というわけではないということか。しかし俺のおぼろげな記憶の中にウマ娘なる生き物は存在しない。しかし『ウマ』という言葉には記憶がある。それは四本足で立つ動物。人間よりも大きく、走れば人間よりもずっと速い。ちょうどウマ耳のような耳を持ち、ウマ尻尾のような尻尾も……。
そこまで来て、俺はハッと気がついた。ウマ娘の『ウマ』とは、記憶にある動物、すなわち『馬』のことではないかと。
「あの、馬という動物は知っていますか?」
「ウマですか? ウマと言えばウマ娘の事ですよね?
ウマ娘は人間ですよねえ、動物ではないですよ。ウマというだけの動物というのは見たことも聞いたこともありませんねえ。
むしろウマっていう動物って、どういう生き物なんでしょう?」
馬がいない割に、「ウマ」という言葉はウマ娘として存在する。そしてその容姿に特徴的な耳と尻尾をもった生き物がウマ娘という人間として存在する。
俺はウマ娘の正体になんとなく気づいてしまった。
「馬というのはちょうどウマ娘みたいな耳と尻尾を持った生き物で、四本足で立って、走るとすごく速いんです。体は人間よりずっと大きくて、背中に人間を乗せることができる。
でも、ここにはいないと言うのならそれは別の世界の生き物というか、そんな感じなのかも知れませんね」
「ウマっていうのはそんななんですね。ウマ娘と同じ耳と尻尾……、ウマ娘も走るとすごく速いんですよ? ヒトとは比べものにならないくらい」
「その、さっきからヒトって言いますけど、ウマ娘とはどう違うんでしょう? ヒトも人間なんですよね?」
「そうですよお。ヒトも人間ですけれど、ウマ耳やウマ尻尾がなくてウマ娘ほど力のない人間のことですよね。もちろん走るのもとても遅いし」
これでようやく飲み込めた。ウマ娘とは記憶にある馬の事。しかしこの世界(?)ではそれは人間の一種として言葉を喋り、手を使い、二本足で歩く。おまけに力もヒトよりあるとなれば、言い方を変えればヒトよりも優れた種族ということになるのだろう。
「なるほど、ウマ娘ってすごいんですね。自分もそんな存在なんだって分かると、なにやら誇らしいです」
「そんな大げさに考えるほどのものでもないですよ?
それにしても、ドーロちゃんはいったいどうしてしまったんでしょうか。まるで人が変わってしまったみたいです」
彼女はそう言うと耳を下げてしゅんと落ち込んでしまった。
そんな様子を見て、俺もいたたまれない気持ちになる。しかし俺自身もどうしてウマ娘になってしまったのかわからないし、元に戻るやり方も分からない。
この姿のまま、ヴェントドーロというウマ娘として生きていくしか術がないのは明らかだった。いつまでこの状態が続くのかも分からないが。
「……悲しませてしまったみたいですみません。私も急にこういう事になったので、どうしたら良いか分からないんですよね」
「それじゃあなたはドーロちゃんではないと」
「自分がヴェントドーロだと確証できる記憶がないんですよね。もちろん先ほどの『きんばらはやて』が自分の名前だという確証もないですし。
つまり相変わらず私が誰なのか、私自身全く分からないということで」
「ドーロちゃんであった記憶もなければ、他の誰かだった記憶もないというのなら、少なくともあなたがドーロちゃんじゃないとは確定しないとも考えられませんか」
「……ややこしいですね」
「つまり、やっぱりあなたはドーロちゃんで合っているんじゃないかと。単に記憶喪失なだけではないでしょうか」
「……そうなんでしょうか」
「……そういうことに、しときませんか?」
確かに。
俺の体は今ヴェントドーロの姿形であって、俺が元々何者であったのかの記憶がない。もちろんドーロの記憶もないけれど、ドーロ以外の誰かなんだと強弁する根拠がないわけで。
「……その方が、良さそうですね」
そう伝えると、彼女は明るく微笑んでくれた。その様子は俺の心にとてもよく刺さった。やはり美少女の笑顔というのは色々と効く。
「それでですね、あなたのことはどう呼べば良いんでしょう?」
「わたしですか? わたしの名前はオンダルジェントといいます。そうですねえ、ドーロちゃんにはルジェって呼んで欲しいかな」
「ルジェさんですか」
「この際だから呼び捨てはダメですか?」
「ちょっとそれはまだ心が耐えられないので……ルジェさんで勘弁して下さい」
「わかりました。仕方がないですねえ」
なんだか一気に距離を詰められた気配がした。ルジェさんとドーロ、元々の関係がどんなだったか今は知る由もないが、たぶん呼び捨てで呼び合うほど深い関係でなかったことだけは確かだ。うーんルジェさんこれかなりドーロのことが好きだったのだろうか。さすがにそこを突っ込んで問う度胸は俺にはないが。
そういえば、さっきから日本語で喋っているけどお互い名前は横文字のようだ。どうしてなのか少し気になった。
「ウマ娘の名前はその魂の持つ名前、と言われているんです。魂は別の世界からやって来てわたしたちウマ娘に定着すると。だからヒトの名前とは体系が違っていて、それが当たり前とも聞きますねえ。
ちなみにわたしの名前、オンダルジェントは日本語に訳すと『銀の波』という意味なのだそうですよ」
「私の名前の意味はご存じですか?」
「ドーロちゃんのお名前の意味は……えーと、えーと。確か最初の頃に伺ったんだけどー……
あ、思い出しましたあ。ヴェントドーロは『金の風』という意味でした。わたしとドーロちゃんが今年の春、初めてこのお部屋で出会った時に教えてくれたんですよ」
「……すみません、そんな大切なことまで忘れてしまっていて」
「いえいえ。仕方がないですよう。むしろドーロちゃんの方が急にこんな事になってしまって心細いでしょう?
でもわたしがいつだって付いていますから。安心して頼って下さいねえ」
そう言って何度目かのニッコリが俺の目の前で炸裂する。
そんな彼女のゆったりした雰囲気と、よく見ると銀色にも見える髪は、なるほど銀の波と呼ばれるにふさわしく感じた。
それから、今いる場所のことについて尋ねてみた。
「ここはトレセン学園と言いますね。正式名称はあ、えーっと。なんでしたっけ。
誰も正式名称で普段呼ばないから思い出せません。トレセン学園で通じるから良いと思うのだけど」
「そのトレセン学園って、どういう学校なんです?」
「それはあ、レースをするウマ娘を育成する学校ですね。中学生と高校生の年齢のウマ娘を集めて、レースの訓練をするんですよ」
「レースというとどんな感じなんです?」
「この近くだと東京レース場っていう場所があるんですけど、大きな楕円形のコースで、一周は大体2000メートルくらいありますね」
「大きいですね」
「そうですねえ。それで、レースで上位に入ったらそのあとライブをするんです」
「ライブですか?」
「歌って踊るんですよ。G1だと数万人はいる観客の前で」
思っていたよりも大規模かつ予想外のイベントだ。レースは分かる、けれどその後に控えるライブとはなんだろう。上位入着者がライブをするということは、ウマ娘はただ走るだけじゃダメと言うことか。歌って踊るとか、俺がそんな器用なことをできるとは到底思えないのだが。
「ドーロちゃんはまだデビュー前だったから、まだまだこれからです。だいじょうぶ、わたしでもできたんですから、ドーロちゃんならもっと上手くやれるはずです」
「いや、私そもそも走れるかどうかすら分かりませんよ?」
「そんな事はないでしょう。ドーロちゃん、模擬レースではいつも連対してたじゃないですか」
「あの、『れんたい』ってなんですか?」
「1着か2着に入るって事ですよお」
それを聞いて軽く驚いた。もしルジェさんの言うことが本当ならば、ドーロは結構有力なウマ娘の一人だったと言うことだ。
だが今の俺にそんな真似が本当にできるのか?
「そうですねえ。それじゃ今からちょっと走ってみませんか?」
「はい?」
突然のお誘いに、俺は目を丸くすることしかできなかった。